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「次世代自動運転・コネクテッドカー・カンファレンス 2018」でトヨタの鯉渕部長が講演

「事故の可能性をどう判断し、社会が受け入れるかも課題」と鯉渕部長

2018年2月22日 開催

2月22日に名古屋で開催された「次世代自動運転・コネクテッドカー・カンファレンス 2018」。3月6日に東京でも開催される

 愛知県 名古屋市のJPタワー 名古屋ホール&カンファレンスで2月22日、「次世代自動運転・コネクテッドカー・カンファレンス 2018」が開催され、トヨタ自動車 先進技術開発カンパニー 常務理事 先進安全先行開発部の鯉渕健部長が「全ての人に移動の自由を~トヨタの自動運転技術への取り組み~」をテーマに講演を行なった。

 講演では、トヨタの高度運転支援システムや自動運転に対する考え方や、それを支える技術のほか、自動運転技術の実用化に向けた社会コンセンサスやルールづくりの課題などにも触れる内容になった。

トヨタ自動車株式会社 先進技術開発カンパニー 常務理事 先進安全先行開発部の鯉渕健部長

 講演の冒頭に鯉渕部長は、1939年にゼネラルモーターズが米ニューヨークで開催された展示会の会場で自動運転のコンセプトを発表したことや、約30年前にはトヨタが、道路の中央に引かれた赤いラインをカメラで認識し、自動運転ができるようにした試作車の例などに触れながら、「自動運転は多くの人たちが描いていたものであり、1939年時点では『20年後に自動運転が実用化される』とさえ言われていた。だが、コンピュータやセンサーに優れたものがなかったこともあり、長年実用化されなかった。トヨタも渋滞追従や白線認識などの第1期の取り組みに続き、第2期としてインフラを利用して、愛知万博や淡路島でバスを走らせるといった取り組みも行なってきた。そして、1990年後半から、第3期として自律化を目指し、ロボットカーのプロジェクトを開始したり、北米にTRI(トヨタリサーチインスティチュート)を設立し、自動運転の研究を進化させてきた」と述べ、「近年では技術が進化し、社会のニーズも高まって自動運転の開発を促す『波』が訪れている。高解像度化および高感度化したカメラ、3Dイメージスキャナーなどのセンサー性能の向上、GPUやFPGAなどによるハードウェア処理能力の向上、自動運転基本アルゴリズムや機械学習などによる認識ロジック性能の向上といったソフトウェアの進化が、自律型自動運転に対する期待が高まる理由になっている」とした。

トヨタでも約30年前から自動運転の開発を続けているが、近年の技術革新で実用化の期待が高まってきた

 そして、「自動運転の意義はそれぞれにある」とし、自動ブレーキの高知能化、体調不調時のバックアップ、逆走防止などの交通ルール遵守サポートといった「安全」、移動タスクの快適化や移動時間に作業を行なったり、公共交通の未発達地域における新たな移動手段の提案、高齢者のラストワンマイルの移動手段といった「自由な移動」、人手不足となっているトラックドライバー対策、物流の夜間活用によるトータル輸送力の向上などの「物流」、パーソナル交通機関への採用や、カーシェアなどにおける無人回送による利便性向上、自動運転車から集まる情報を用いた新サービスの創出といった「新規ビジネス」という4つの観点に触れ、「自動運転技術は、モビリティを大きく変える可能性を秘めている」と述べた。

 続いて鯉渕部長は、トヨタが目指す社会や自動運転に対する基本的な考え方について触れ、「トヨタは、全ての人が安全、スムーズ、自由に移動できる社会の実現に取り組んでいる。極端な言い方をすれば、死ぬ直前まで移動して、好きな人に会って、好きなことを楽しむことを支援する」と語り、「自動運転になると、走る喜びがなくなるのではないかとも言われるが、トヨタは、オーナーカーは運転を楽しむことが大切だと考えている。その上で、人とクルマが同じ目的を目指し、あるときは見守り、あるときは助け合う、気持ちが通った仲間の関係を築く必要がある。それが、当社が掲げる『Mobility Teammate Concept』である」と位置付けた。

自動運転にはモビリティを大きく変える可能性があり、トヨタでは「Mobility Teammate Concept」の考え方で推進しているという

 自動運転技術開発のアプローチは、2つの観点から見ることができるという。それは、移動サービスをターゲットとした完全自動運転を目指す取り組みと、オーナーカーへの搭載を見据えた技術開発だ。

「トヨタはオーナーカーを販売して収益を得ている。これをより魅力的なものにして、顧客に提供することを考える必要がある。ここではコストを意識しなければならないため、段階的に技術搭載が進んでいくことになるだろう。一方で、Googleなどは、エリアが限られていても、コストが高くても、移動サービスなどでいち早く自動運転を活用するという取り組みを行なっている。天候がわるいときには人が運転すればいいという発想を持ち、実用化を急いでいる。移動サービスでの自動運転の場合には、クルマのシステムコストが高くなっても、ドライバーの人件費削減によってコストを相殺できる。オーナーカーと移動サービスでは、求められる技術やコストのレベルが違う。両方の技術開発を並行して取り組んでいかなければならないと考えている」と語った。

 自動運転技術は、認知、判断、操作という人の運転プロセスを機械が代行するものであり、それに向けて、知能化が重要な取り組みであると定義。「運転の知能化」「人とクルマの協調のための知能化」「つながる知能化」の3つが大切だとした。

「運転の知能化では、当初は、網羅的認識をしていたため、安全に走行するための判断がもたつき、もう少しキビキビと走ってもらいたいと感じるレベルだった。続いて予測ベースで判断し、運転することで、よりスムーズに走行するようになったが、初めての事象には対処できないという課題がある。これが次のステップでは、自己学習して賢くなる。初めての事象にも学習や経験を踏まえて適切に対処し、さらに知識を積み上げることで、全ての道路で自動走行できるようになる。だが、現時点では、走りながら振る舞いを変える技術は開発されていない。多くのメーカーがそれに取り組んでいるところだ」とした。

自動運転では「運転の知能化」「人とクルマの協調のための知能化」「つながる知能化」の3つが大切

 ここではディープラーニングについても言及。「大量のデータを元に学習することで、クルマがどのタイミングで走るクルマの車列に入っていくのが最適であるかを学習できるようになる。今後の自動運転は、この新たな技術を使わなければならないのは明らかだ。そしてディープラーニングの開発では、クルマの開発時に行なうことと、クルマに実装するものとがあり、それも見極めなければならない。開発のキーとなる技術はアルゴリズム、学習データ、学習環境と、実装することである。いかにいい学習データを大量に集めるかが大切である」と述べた。トヨタでは、ディープラーニングの活用においてデンソー、PreFerred Networks、NVIDIAと連携していることも紹介した。

ディープラーニングを開発で利用し、車両に実装するために、トヨタはデンソー、PreFerred Networks、NVIDIAと連携している

 また、「人とクルマの協調の知能化では、人とクルマが気持ちの通った関係を築くことが大切であり、例えば自動運転と手動運転の切り替え時において、ドライバーの状況を把握したり、システムに状況を提示したりといったことがスムーズに行なわれる必要がある。運転知能が先回りして、ここで手動運転に変えてもらう理由には、この先の道路が自動運転には適していないことを的確に知らせる必要がある」とした。トヨタではドライビングシミュレータを利用して、ドライバーをモニタリングしながら自動運転への切り替えを提案するといったことにも取り組んでいるという。

「オーナーカーが自動運転車になっても、手動運転にした場合には、自動運転システムがドライバーを後ろからしっかりと見守ることが必要である。トヨタはドライビングシミュレータを使って、運転スキルや年齢、さまざまなシーンなどで支援できるようにするほか、どうやって短時間に、スムーズに切り替えて情報を受け渡すかといったことも検証している」とした。

 さらに、「つながる知能化では、クルマに自律センサーを搭載する一方で、クラウドと連携して、遠い場所の状況や隠れている場所の情報を補完するといった使い方が必要である。また、クルマ同士が情報を共有することで、カメラで撮影した情報を元に、地図を自動で作っていくことができるようにもなる。地図と実際の道路が違うという情報が多数のクルマから上がれば、それを元に修正して差分配信したり、落下物や渋滞情報も共有することができる。そして制御ソフトウェアも更新され、新たな機能も追加されるようになる」と説明した。

クルマが乗員の状態を検知したり、必要な情報を乗員に伝える技術なども開発している
コネクテッド技術で最新情報を手に入れたり、地図情報のアップデートなども行なっていく

 続いて触れたのが、将来に向けたトヨタの自動運転技術の開発シナリオだ。現在、トヨタではレクサス車向けに高度運転支援技術である「Lexus CoDrive」を提供。ドライバーの意図と協調した操舵制御や、カーブが多い自動車専用道路での連続した運転支援などを実現している。「レクサス『LS』に搭載したこの機能は、トヨタでは自動運転とは呼んでいないが、レベル2を実現する技術として、今後の自動運転につながる高度運転支援技術に位置付けている。世界初のプレクラッシュセーフティ機能のほか、レーンディパーチャーアラート、レーンチェンジアシスト、レーントレーシングアシストなどによって運転を支援することになる。ドライバー異常時停車支援機能も搭載しており、先進の安全技術を実現することになる」とした。

 続いて、2020年を目標に、自動車専用道路での自動運転を実現する「Highway Teammate」により、高速道路に入って出るところまでを自動運転化することになるという。「ETCゲートを通過してから退出するまでの自動運転を実現するものであり、IC(インターチェンジ)から高速道路本線への合流、高速道路本線の走行、JCT(ジャンクション)における分流、本線からICへの分流を自動運転化することになる」という。

 さらに、2020年代前半には、自動車専用道路での完全自動運転と、一般道で自動運転を行なう「Urban Teammate」の世界が訪れ、その先には全ての道路を対象にした完全自動運転の世界が到来することになるという。

自動運転の技術開発シナリオとして、すでにレベル2を実現する技術となる「Lexus CoDrive」をレクサス「LS」に搭載。「Highway Teammate」「Urban Teammate」に進化させていく計画だ
自動車専用道路では対応すべき要素が限定的だが、一般道では走行環境が複雑になり、技術難易度が高い

「自動車専用道路では走行レーンが明確であり、全てのクルマが同じ方向に走行し、動きは分合流やレーンチェンジ、工事箇所の回避などといった要素に限定される。だが、一般道では車線がなかったり、道が対向したり、信号があったりというように、走行環境が複雑である。場合によっては手信号に対応する必要もある。また、歩行者や自転車などさまざまな移動体が混在し、しかも進行方向がさまざまであり、路面状況もよくない場合がある。さらに、他の自動車の動きや歩行者の動きが複雑であり、さまざまなシーンへの総合的判断が必要となる。止まっているバスは追い越していいのか、それとも、その先は渋滞していて入れない状態なのかということも考えなければならない。一般道での自動運転には難しさがあり、1段階も2段階も進化させたシステムが必要である」とした。

 北米のTRIでは、一般道自動運転実験車「Platform 3.0」を持ち、4つの高解像度LiDARをはじめ、多種のセンサーを車両の全周囲に搭載しているという。「ショーファーモード」と呼ぶ完全自動運転機能では、前を走るトラックから荷物が落ちた際にも自動で回避して、走行レーンに戻ることができるという。「Platform 3.0は、サービスカーの領域まで含めた実験である。オーナーカーとして活用するには、センサーをどこまで減らすか、コストをどこまで下げるかが課題になってくるだろう」とした。なお、Platform 3.0では、高度運転支援を行なう「ガーディアンモード」も用意しているという。

北米のTRIが開発した一般道自動運転実験車「Platform 3.0」

 また、鯉渕部長は「新たなブレーキシステムなどでは100万kmレベルの走行実験を行なっているが、自動運転で安全性を担保するためには100億km以上の膨大な走行試験を行なわなければならないという課題がある」と指摘。「だが、これは現実的ではない。高度なシミュレーション技術を活用しなければならない。実走行データに加えて、既配車のデータやバーチャルデータも活用する必要がある。例えば、信号のある場所で逆光の環境を作り出すのは難しい。また、路面反射のなかで、対向車の光も反射するといった状況も作り出せることは希である。さらに、合流する部分での検証を実車で行なうと、何度も同じ場所に戻る必要があり、時間もかかる。悪条件や特定条件化でのシミュレーションのためには、CGで活用した検証を行なうことがより重要になってくる」と述べた。

自動運転で安全性を担保するために、実際の走行試験に加えてシミュレーションの活用が必要になる
特定条件の検証にはシミュレーションが有効

 一方で、自動運転における技術以外の課題として、「法規」「責任の所在」「社会受容性」の3点を挙げた。

 法規および責任の所在では、自動運転車で事故が発生した場合の民事責任、刑事責任、行政上の責任の3点があり、「とくに、刑事責任や行政上の責任をどうするのかが明確になっていない。これは産官学で検討開始しはじめたばかりである」としたほか、社会受容性では「事故がゼロにならないと自動運転車を世の中に出せないというのでは、出口がなくなり、自動運転はいつまでたっても実用化しない。また、アベレージドライバーと同じ水準で事故が起きるのでは当然実用化はできないが、10倍も安全であれば許容できるのか。それでもアベレージドライバーの10分の1の事故が起きる可能性があるということをどう判断し、どう社会が受け入れるのかも課題である」などとした。

車両の開発だけでなく、法規などの社会環境整備も大きな課題

 最後に鯉渕部長は、「高いレベルの自動化に向けて、クルマはどこまで安全でなければならないのかという議論は、これからますます重要になる。クルマはどこまで賢くなればいいのか、そしてその賢さをどう検証するのかといったことも課題である。また、運転以外の操作について、自動運転でどこまで担保するのかも考えていく必要がある。暗くなってきたときにライトを点けるのは、クルマとドライバーのどちらの責任か、ワイパーの稼働はどちらの責任かといったことがその例だ」。

「また、システムが進化するなかで、顧客への説明やトレーニングをどうするのかといったことも考える必要がある。さらに、歩行者や他のクルマとの共存も考えていかなければならない。歩行者が横断歩道を渡る場合、ドライバーの顔を見て渡るか渡らないかを決めるが、運転者がいない場合には、多くの人が渡るのをやめるといった状況になるようだ」とし、「どこまで法規でルール化すべきかといったことや、社会に受け入れるためにはどうするか、その中で自動運転をどう活用していくかを考えなければならない。システムに100%任せ、完全な安全だけを目指すと出口がなくなり、あるレベルより上にはいきにくくなるだろう」とも指摘した。

 鯉渕部長は「トヨタは、自動運転によって自立した生活や豊かな社会とともに、ファントゥドライブも実現していきたい」と語り、講演を締めくくった。