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【インタビュー】アウディ・モータースポーツの責任者であるディーター・ガス氏にDTM&SUPER GT交流戦について聞く

「日本のモータースポーツ文化をアウディはリスペクトしている」とテクニカルリーダー アンドレアス・ルース氏

Audi RS 5 DTMのステアリング。デザインにこだわるアウディらしくステアリングも美しい

 日本のSUPER GTに相当するドイツのDTM(ドイツ ツーリングカー選手権)では、10月4日~6日にドイツ ホッケンハイムリンクで2019年シーズンの最終戦が行なわれ、土曜日に行なわれたレース1で今シーズンのDTM王者となったレネ・ラスト選手、レース2でシーズンランキング2位となったニコ・ミューラー選手が優勝。いずれもアウディのドライバーが勝利を飾り、アウディの圧勝となった今シーズンを象徴するレースとなった。

 そうしたアウディチームを率いた2人のトップ、アウディ・モータースポーツ 責任者 ディーター・ガス氏、アウディ スポーツ DTMテクニカルリーダー アンドレアス・ルース氏のお2人にインタビューする機会を得たので、その模様をお伝えする。

DTMとフォーミュラEがアウディのファクトリーレーシング活動の中心に

アウディ・モータースポーツ 責任者 ディーター・ガス氏

 アウディ・モータースポーツ 責任者 ディーター・ガス氏は、前任者のウォルフガング・ウルリッヒ氏が定年退職したことを受けて現職に昇格した人物。それまではウルリッヒ氏の元で、2013年からDTMプロジェクトの責任者としてアウディの活動を統括し、その後にアウディのモータースポーツ全体の責任者となった。

アウディのファクトリーレーシングの2つ柱の1つとなるDTM向け車両のAudi RS 5 DTM

 ガス氏は「現在、アウディのモータースポーツ活動は大きく言うと2種類がある。1つはファクトリーレーシングで、DTMやフォーミュラEがこれに該当する。そしてもう1つがカスタマーレーシングで、FIA-GT3やWTCRなどのレーシングカーをカスタマーに販売し、アウディはそのサポートを行なうというものだ」と説明。以前はここにLMP1ベースのWEC(FIA 世界耐久選手権)も入っていたのだが、アウディは2016年末を持ってそのプログラムを終了しており、現在はファクトリーレーシングのDTMとフォーミュラE、それにカスタマーレーシングを中心とした活動を行なっている。

 フォーミュラEに関しては、アウディのワークスチームとなるTeam Audi Sport ABT Schaeffler(チーム アウディ スポーツ アプト シェフラー)からワークスカーを参戦させているほか、カスタマーチームとなるEnvision Virgin Racing(エンヴィジョン ヴァージン レーシング)にパワートレーンを供給している。現在のフォーミュラEのルールでは車体はほとんど手を入れることができず、モーターなどのパワートレーンが競争領域になっており、その部分を開発してチームに供給する形で参戦している。

 アウディのワークスチームであるTeam Audi Sport ABT Schaefflerは毎年結果を出しており、ここ2シーズン(2018/19シーズン、2017/18シーズン)はそれぞれチームタイトルで2位と優勝を獲得していることに加え、2016/17シーズンには所属ドライバーのルーカス・ディ・グラッシ選手がドライバーズタイトルを獲得している。

 ガス氏は「今後も中期的には伝統的な内燃機関を利用したレースを続いていくと思う。しかし、今度はEVが増えていくというトレンドに合わせて、モータースポーツも徐々にEVへと移行していくだろう。『音が』とか『コンピュータゲームみたいだ』と既存のファンが不満に感じていることは承知しているが、若いファンはあまり気にしていない」と述べ、アウディとしては将来のモータースポーツのあるべき姿を見据えてフォーミュラEへの投資を行なっていると説明した。

実力あるレースチームが予算を確保して臨めば、SUPER GTのGT500クラスにアウディのカスタマーカーを出す可能性はある

Audi RS 5 DTMのリアウイング

 DTMに関しては「コストとのバランスが取れたシリーズになっている。WECのように参戦コストが高過ぎではない」と述べ、DTMやフォーミュラEのように費用対効果の高いシリーズに参戦するのがアウディの哲学であり、現時点ではそれらのシリーズに比べてコストが高いと考えられているWECのHyper Car規定には興味がないと述べた。

 そのDTMに日本のSUPER GTの車両が参加することについては「日本の車両がDTMに参戦してくれることをうれしく思う。ドライタイヤに関してはよかったが、ウェットでは難しそうだった。現在のタイヤに関してはわれわれも研究してきたので、使い方に優位性はあると思っている。しかし、彼らはわれわれの予想より早くキャッチアップしている」と語り、日本のSUPER GT勢がハンコックのワンメイクタイヤに苦労していることは認めつつも、まずはDTMとSUPER GTが同じ土俵で戦えたことを歓迎していると述べた。

 そして、富士スピードウェイでの交流戦に関しては「まだ『DRS』や『プッシュトゥーパス』の扱いは、ドイツではDTMの選手権の1戦ということで通常のシリーズと同じように私たちのクルマには装着され、日本メーカーさんのクルマにはそれがないという特別ルールで行なわれることになった。富士のレースに関してはまだ決まっていないし、今後話し合う課題だが、個人的にはDTM車両が富士でDRSやプッシュトゥーパスを使うことはいいことだと思っていない。お互い同じように戦うべきだと思っている」と述べ、ガス氏個人としては、富士ではDRSやプッシュトゥーパスを使用せずにレースをした方がいいが、それについてはゲルハルト・ベルガー氏をはじめとしてITR(DTMの主催者)と話をしなければいけないとも述べ、DTM側には異なる意見があることも示唆した。

Audi RS 5 DTMの各部
ピットスペースに置かれた車両だけに、レース中は見ることができないような部分も撮影できた

 なお、現在アウディはDTMに3チームのワークスチームと1つのカスタマーチームを参戦させている。そのカスタマーチームはWRTで、アウディのワークスチームとは異なり、WRTが自分でスポンサーを見つけてきて、その予算でDTMに参戦している。それと同じように、アウディのクラス1規定の車両を利用して、2020年以降のSUPER GT GT500クラスにカスタマーチームが参戦することは可能なのだろうかという点についてガス氏に聞いたところ「もちろん可能だ。日本のメーカーやGTAとその可能性については常に話し合っている。しかし、課題は現実的に、どのようにそれを実現するのかという点にある。もちろん、われわれは日本でレースをしたいが、ファクトリーチームを送ることができるかと言えば、予算の面では現実的ではない。しかし、将来日本のレーシングチームが十分な予算を確保して、WRTのようにわれわれのカスタマーチームと同じレベルでレースができるのであれば、もちろん実現可能だ」と述べ、ファクトリーチームを日本に送るのは予算の都合上難しいが、カスタマーチームであれば予算の確保と力のあるレーシングチームがあれば実現可能だと述べた。

 そうした取り組みの第1歩となるのが、11月に行なわれるDTMとSUPER GTの交流戦である「AUTOBACS 45th Anniversary presents SUPER GT×DTM 特別交流戦」になるかもしれない。というのも、このレースにアウディは、2017年と2019年のDTM王者であるレネ・ラスト選手をはじめ、マイク・ロッケンフェラー選手、ロイック・デュバル選手という3人のレギュラードライバーと、2019年はDTM&フォーミュラEで控えのドライバーとなっていたブノア・トレルイエ選手を加えた4人のドライバーを送り込む。

 トレルイエ選手が参加することになった経緯についてガス氏は「ご存じのとおり、ベン(トレルイエ選手の愛称)はわれわれがWECから撤退を決めた後もアウディの一員として残ってくれた。今シーズンに関してはリザーブドライバーとして活躍してくれて、DTMの同乗走行のドライバーを務めてくれたりしている。ベンが日本でレースをするのは非常にユニークな理由からだ。というのも、それを決めることになったのはアウディ ジャパンがそのようにリクエストしたからだ。アウディ ジャパンがそれを望み、彼らが条件を整えてくれて実現した」と述べ、アウディ ジャパンが日本のファンのために最適なドライバーということでトレルイエ選手の参戦を望み、その努力の結果として今回の交流戦にトレルイエ選手の搭乗が実現したのだと説明した。

DTMでのアウディの優位はシーズンオフに新エンジンの課題を解決したから

アウディ スポーツ DTMテクニカルリーダー アンドレアス・ルース氏

 アウディ スポーツ DTMテクニカルリーダー アンドレアス・ルース氏は、アウディによるDTM参戦の技術面のリーダーで、今シーズンのアウディ独走劇を演出した1人でもある。

 今シーズンのアウディは、レネ・ラスト選手がドライバーチャンピオンとなり、ラスト選手の所属チームであるAudi Sport Team Rosbergがチームタイトルを手に入れて両タイトルを獲得。さらには最終戦のホッケンハイムでもレース1をラスト選手が、レース2をドライバー選手権で2位になったニコ・ミューラー選手が勝つなど、非常に力強いシーズンとなった。ライバルとなるBMW勢で対抗できたのはマルコ・ウィットマン選手のみという状況で、アウディ独走と言ってもいいシーズンだった。

アウディの直列4気筒 2.0リッター直噴ターボエンジン

 そんなシーズンになった理由についてルース氏は「今シーズンは2.0リッター4気筒直噴ターボエンジンになって初めての年だった。このため、エンジンだけでなく、エンジンのクーリングなどを含めたパッケージングが問われた年で、われわれはいくつか発生した問題をシーズンオフのテスト中に解決し、信頼性を確保することに成功した。最後まで激しい競争だったが、チャンピオンを獲得できたことは満足している」と述べ、ライバルのBMWに対して差をつけることができたのは、2019年から導入されたクラス1規定の2.0リッター4気筒直噴ターボエンジン(SUPER GTと同等の規定)や、シャシー全体のパッケージングで信頼性を確保したことが重要だったと説明した。

 なお、技術的な観点からSUPER GTとDTMの違いについて聞いてみると「クラス1規定になることで、2つのシリーズの車両のベースラインは同じになる。しかし、SUPER GTはセミ耐久、DTMはスプリントレースになっており、その点で相互に違いがある。例えば、DTMには給油やドライバー交代がないなどの違いがある。それ以外の部分、例えば空力などでは非常に近くなっている」と説明した。

 11月に富士スピードウェイで開催される交流戦に関しては「日本でレースをすることを楽しみにしている。日本のファンは本当に熱心だし、日本のモータースポーツ文化をアウディはリスペクトしている」と述べ、そうした日本のファンを前にDTMとSUPER GTが面白いレースを見せることができるようにしていきたいと説明した。