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「ベンをもう一度走らせたい!」アウディ ジャパンの思いが実現したブノワ・トレルイエ選手のSUPER GT×DTM特別交流戦参戦

ドイツ ノイブルグにあるアウディ スポーツの本拠地の建屋

 アウディは、今週末の11月23日~24日に富士スピードウェイ(静岡県駿東郡小山町)で行なわれる「AUTOBACS 45th Anniversary presents SUPER GT×DTM 特別交流戦」に、4台のDTM車両「Audi RS 5 DTM」を参戦させる。

 DTMのレギュラーシーズンを戦うドライバーから、2019年のDTMチャンピオンとなったレネ・ラスト選手をはじめ、マイク・ロッケンフェラー選手、ロイック・デュバル選手の3人に加えて、SUPER GTやフォーミュラ・ニッポン(スーパーフォーミュラの前身)でチャンピオンに輝き、その後はアウディからWEC(FIA世界耐久選手権)などに参戦して日本でもおなじみのブノワ・トレルイエ選手も参戦する。

 トレルイエ選手の参戦は、実は日本サイドの強いプッシュがあって実現したとアウディ・モータースポーツ 責任者 ディーター・ガス氏が説明したことは以前の記事でも触れたが、そうした体制を整えた日本側の責任者となるアウディ ジャパン マーケティング本部 マーケティングコミュニケーション部 ブランドエクスペリエンス/アウディスポーツスペシャリスト 中原英貴氏に、アウディの本社があるインゴルシュタット近くにあるアウディ スポーツの本社でインタビューしたので、その内容を紹介する。

スポーツカーとモータースポーツの2つの側面を持つアウディ スポーツ

元アウディ カスタマーレーシング 責任者 ロモロ・リピシェン氏(左)、アウディ ジャパン株式会社 マーケティング本部 マーケティングコミュニケーション部 ブランドエクスペリエンス/アウディスポーツスペシャリスト 中原英貴氏(右)

 アウディのスポーツブランドである「アウディ スポーツ(Audi Sports)」は、「R8」などの「Rシリーズ」、「RS 5」などの「RSシリーズ」などのスポーツカーラインアップのブランドとして本誌の読者にはおなじみのブランドだろう。アウディ スポーツはそういったアウディのスポーツカーのブランドという側面に加え、モータースポーツのブランドとしても使われており、DTMやSUPER GTなどにアウディ自身やそのカスタマーが参戦する際のブランドとなっている。

 アウディ ジャパン マーケティング本部 マーケティングコミュニケーション部 ブランドエクスペリエンス/アウディスポーツスペシャリスト 中原英貴氏は「アウディのモータースポーツには2つの顔がある。1つはDTMのように本社が主導しているファクトリーレーシング。そしてもう1つは、アウディが直接参戦しているわけではないが、パートナーとなるレーシングチームに車両を供給して参戦するカスタマーレーシング。日本の一ツ山レーシングによるSUPER GT GT300クラスへの参戦などがこれに該当する」と説明する。

ノイブルグにあるアウディ スポーツの本拠地。入口にはアウディのモータースポーツヒストリーが表示されている

 スポーツカーとモータースポーツの両輪というアウディ スポーツを象徴する施設が、独アウディAGの本社があるドイツ インゴルシュタット郊外のアウディ スポーツの本拠地だ。アウディ スポーツの本拠地があるノイブルグ(Neuburg)には、大きく分けて2つの施設がある。

 1つ目がアウディ スポーツのモータースポーツ活動を支えるファクトリーだ。このファクトリーはDTMやフォーミュラEなど、アウディがワークス参戦しているレーシングカーの製造と開発、FIA-GT3などのカスタマーレーシングカーに供給するパーツを備蓄して、世界中のレーシングチームからのオーダーに答えるといった施設になっている。

 内部を撮影することはできなかったが、筆者が訪問したDTMの最終戦直後には、新しいシーズンの開幕を控えたフォーミュラEの車両整備などが行なわれていた。といっても、この施設は研究開発とワンオフのレーシングカーの製造がメインで、日常的な整備などは、DTMであればDTMのチーム、フォーミュラEであれば「Audi Sport ABT Schaeffler」などのチームのファクトリーで行なわれている。とくにフォーミュラEではパワートレーンの開発が許されていることもあり、筆者の訪問時にもフォーミュラE向けのパワートレーン開発、さらにはセブンポストリグといった最新シミュレータなどを利用した開発などが行なわれていた。

日本の「チーム郷」が2004年に「Audi R8」でル・マン24時間レースを制覇した時のモデルカーを発見!
ル・マン24時間の優勝を示すトロフィなどがお出迎え
カスタマーレーシングの倉庫。ここからFIA-GT3マシンのパーツなどが世界中の顧客に向けて出荷されていく
入り口の前にはFIA-GT3のレーシングカーも展示されている

 なお、今回アウディ スポーツの施設内を案内してくれたのはロモロ・リピシェン氏。すでに定年を迎えて嘱託としてアウディ スポーツで働いているリピシェン氏は、現役時代にはカスタマーレーシングの責任者を務めており、SUPER GTのGT300クラスでFIA-GT3の規定を導入する時に来日し、SUPER GTを運営するGTアソシエイションの坂東正明代表と採用に向けた話し合いを行なったという。

「Audi driving experience」という常設の体験施設を設置

Audi driving experienceの常設施設

 そしてノイブルグにあるもう1つの施設が「Audi driving experience」という施設。アウディのスーパースポーツカーであるR8などを自社コースで運転できる体験型の施設だ。アウディ ジャパンでも日本のサーキットで行なうイベントとしてAudi driving experienceを年に1回行なっているが、ノイブルグにある施設は常設で、アウディ ジャパン経由で予約をすれば、誰でも体験することができる。

 走行体験は有料で、ドイツ本社のサイトによれば、R8 Coupeを利用するコースで1人1400ユーロ、2人2000ユーロとなっている。現地で直接予約するほか、アウディ ジャパン経由で予約することも可能とのこと。

Audi driving experienceの看板
内部にはアウディのショールームもある
R8を使ったコース走行も体験できる

 専用コースでは一般来場者の走行に加え、アウディ スポーツのレーシングカー開発でもシェイクダウン程度であれば利用されているそうだ。ただ、近隣に対する騒音の配慮もあり、このコースでは開発テストまでは行なわれていないということだった。

ノイブルグのコース

 なお、中原氏によれば、こうした取り組みは日本でも常設ではないが行なわれており、前述のAudi driving experienceのほか、今回のDTMとSUPER GTの特別交流戦に平行して「アウディ スポーツデイズ」というイベントを行なう予定とのこと。土日に行なわれるレースを2日間観戦し、レース終了後の月曜日に富士スピードウェイの本コースを走れるという。こちらは一般向けというよりは、アウディオーナー向けのイベントということで、大々的な告知をしていないのだが、インタビュー時点(10月上旬)ですでに枠がいっぱいになりつつある人気のイベントになっていると説明された。

“ベン”をもう1度DTMで、日本のサーキットで走らせたい!

ブノワ・トレルイエ選手

 そんなアウディ スポーツのモータースポーツ活動だが、日本ではファクトリーレーシング(ワークスチーム)としての活動は行なわれておらず、SUPER GTやスーパー耐久シリーズに参戦するプライベートチームのサポートという形で活動している。

 SUPER GTに関しては、2019年シーズンは一ツ山レーシングの21号車 Hitotsuyama Audi R8 LMS(リチャード・ライアン/富田竜一郎組 横浜ゴム)がレースに参戦している。昨シーズンはチーム・タイサンと2台体制だったが、チーム・タイサンがレース活動を休止したこともあり、今シーズンは1台のみでの参戦になった。これに関して中原氏は「複数台走っている方が存在感が出ることもあり、メーカーとしては台数が多い方がいいのは事実。来シーズンに向けてチャンスがあれば(台数増を)検討していきたい」と語った。

 そして今シーズン、日本で唯一のファクトリーレーシング活動となるのが今週末の特別交流戦とあって、アウディでも非常に力を入れている。前述のとおり、アウディ スポーツデイズというアウディオーナー向けのイベントを開催するほか、ドイツから4台のDTM車両を持ち込んでの参戦と力が入っている。DTMで直接のライバルとなっているBMWの参戦車両は3台となっているので、やはりアウディが力を入れていることが分かる。

 中原氏によれば、実はアウディでも当初はBMWと同じ3台の参戦だったという。しかし、アウディ ジャパンがもう1台出せないかと本社に掛け合った結果、同じDTMのチームでも「アウディ スポーツ・チーム・ロズベルグ」「アウディ スポーツ・チーム・アプト・スポーツライン」「アウディ スポーツ・チーム・フェニックス」といったファクトリーチームは難しいが、プライベートチームであれば可能との結論となり、DTMにプライベートチームとして参戦している「WRT・チーム・アウディ スポーツ」(見分け方は、アウディ スポーツの名称がチーム名の先に付くのはファクトリーチーム、後ろにつく場合はサポートチームとなる)が車両を提供。SUPER GTにも参戦している一ツ山レーシングとのコラボレーションという形式で出場する手はずを整えたのだという。

 そして、そのコラボレーションチームのドライバーとして迎えられたのがブノワ・トレルイエ選手だ。2006年にはフォーミュラ・ニッポンで、2008年にはSUPER GT GT500クラスでチャンピオンを獲得した経験もあるトレルイエ選手は、その後にアウディのル・マン24時間レースのドライバーに起用され、2011年と2012年のル・マン24時間レースで優勝も果たしている。現在はDTMとフォーミュラEに参戦するアウディ陣営のリザーブドライバーの1人を務めており、レースには出場していない。

 中原氏によれば、2018年に富士スピードウェイで「アウディ e-tron ビジョン グランツーリスモ」の実車にタレントの篠田麻里子さんを乗せて走らせた時のドライバーがトレルイエ選手で、「ぜひもう1度、日本でDTMマシンを走らせたいんだ」という熱いアピールがあったという。そこで中原氏をはじめとしたアウディ スポーツの関係者が本社に掛け合い、WRTであればなんとかなるかもしれないということで話が進んだという。

「当初は予算の問題もあったが、プロジェクトを本社に持っていくと、そういうことなら予算もなんとかしようと本社も協力してくれて話が進んだ。一ツ山さんとお話しをさせていただいてコラボが決まり、ベン(トレルイエ選手の愛称)に乗れるか聞くと『レディだよ』ということで進めることになった」(中原氏)ということで、日本側の熱い思いに本社が応じてくれた結果、日本にゆかりの深いトレルイエ選手がドライバーとして日本に来ることになった。

 こうした経緯からWRTと一ツ山レーシングのコラボ車両に乗ることになったトレルイエ選手は、10月初旬のDTM最終戦で話を聞いた時に「再び日本にレースをしに行くのが本当に楽しみだ。とくに日本のファンとの再会は待ちきれないよ」と期待感を語ってくれた。交流戦ではそんなアウディとトレルイエ選手の活躍にも要注目だ。