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大分県、NTTドコモやオートバックスなどと5Gを使った日本初の総合実証実験

東九州自動車道の濃霧対策として、高速バス向けの運転補助システム確立を目指す

2020年2月12日 実施

昭和電工ドーム大分で5Gを使った日本初の実証実験を実施

 大分県とエヌ・ティ・ティ・コミュニケーションズ、オートバックスセブン、大分交通、NTTドコモ九州支社は2月12日、濃霧の中でも安全に走行するための5Gを活用した運転補助システムの確立に向けて、昭和電工ドーム大分で日本初となる実証実験を実施した。

 これは、大分県が持つ、霧による通行止めという交通インフラに関する地域課題の解消を目指すもの。現在大分空港と大分市方面を結ぶ主な移動手段は高速バスとなっているが、そこをつなぐ東九州自動車道の日出JCT(ジャンクション)付近では濃霧が頻繁に発生しており、霧による通行止めになることもよくあるという。実際、取材当日も高速道路には濃い霧が立ちこめていて、通行止めにこそならなかったものの速度規制が行なわれていた。高速バスが空港との接続の大部分を担う状況において、高速道路が頻繁に通行止めになることは交通・観光面で大きな課題となっているという。

取材当日の東九州自動車道。この日はあいにくの雨だったが、それ以上に濃い霧で前方視界がわるい状態だった

 そこで5Gを活用することで、濃霧の高速道路でも安全に走行できる運転補助システムを高速バスに装備できれば、安定した交通インフラを確立できる。

 その仕組みはというと、高速、大容量で低遅延という5Gの特徴を生かして、車両に搭載されたカメラ(サーマルカメラ/4Kカメラ)で撮影された画像を5Gを用いてドコモオープンイノベーションクラウドへ送信。クラウドに実装されたドコモの画像認識エンジンを使って、送られてきた画像から前方を走行する車両や、道路の白線、ガードレールを認識し、その結果を車両のHUD(ヘッドアップディスプレイ)に表示させることで運転補助を行なうというもの。クラウド上の画像認識エンジンを使うことで、濃霧の中を走行中の映像であっても、障害物を正確に認識することができるという。

 今回の実証実験では、5Gの環境が整えられた昭和電工ドームの中で、2台のカートが連なって走行する。先行するカートにはスモークを発生させる装置がつけられていて濃霧を再現し、後方を走るカートの視界を妨げる仕組みに。一方の後方のカートにはサーマルカメラや4Kカメラ、HUD、5G通信用のルーターなどが装備されており、サーマルカメラで撮影した前方の映像を5G経由でクラウドに転送。クラウド上で解析した画像をHUDにリアルタイムで表示させることで、前方のカートの存在を知らせ、濃霧(スモーク)の中での運転をサポートする。すでにLTEを使った実験は行なっているが、5Gを用いた実証実験は今回が初となる。

今回の実験の概要

 カメラはサーマルカメラと4Kカメラを搭載しているが、今回の実証実験ではサーマルカメラを利用。また、検知の仕方についても、車両や白線を大枠として検知し、四角い枠で表示する単純検知と、個別に検知し、その形状に合わせて表示するセグメンテーション検知があるが、今回は単純検知で行なわれた。実際には車両は赤、白線は青、ガードレールは緑といった色分けがなされるが、今回は昭和電工ドームの通路で行なわれたため先行車両のみの検知となる。

2台のカートを使って実験を行なう
前を走るカート
後部にスモーク発生装置を搭載
後方を走るシステムを搭載したカート
ルーフにはFLIR製のサーマルカメラ
こちらはロジクールの4Kカメラ。今回の実験では使われなかった
運転席にはHUDが付く
HUDにはクラウド上で解析された運転支援映像が映し出される。今回は単純検知のため先行車が四角い枠で囲われる形だ
屋根には5G通信用のルーターが2つ付く。これは同時に2種類の実験を行なうためで、今回は1基のみ使う

 実際に試乗してHUDに表示された映像を見ると、サーマルカメラの映像ということでスモークの影響もなく、前方のカートや周囲のスタッフの姿が映し出される。走り始めると前方のカートが赤い枠で囲まれて、認識できていることが確認できた。ただし、表示速度については、リアルタイムの映像というよりは数秒ごとに画像が切り替わるような状況であった(スタッフの話によれば、テストの時はもう少しよく動いたという話も)。また、見慣れないサーマル映像というのもあり、初見だと状況が認識しづらいと感じた。ただ、利用を想定しているのは高速バスであり、地域も限定されるので、今後5Gの環境が整い、表示方法の熟成が進めば、濃霧時の運転のサポートとして大きな役割を担えるようになりそうだ。

実際の実証実験の模様
目視では見えにくい先行車両もHUDにはしっかりと映し出される
HUDの画面。熱で認識しているため、周囲の報道陣をクルマと認識してしまうこともあった
5Gを活用した濃霧の中での運転補助 実証実験(40秒)

 なお、今回の実証実験の前の1月28日には、東九州自動車道において、LTE回線を使っての高速バスでの実験も行なっており、その時の映像も公開されていた。

東九州自動車道において行なった、高速バスでのLTE回線を使っての実験の映像(1分11秒)
LTE回線を使って実際の高速道路でも実験を実施。その時の映像がこちらで、セグメンテーション処理のため、四角い枠ではなく、対象物の形に合わせて色が塗られる。先行車両は赤、白線は青、ガードレールは緑で表示されている

大分県は5G利活用先進県を目指す

 実証実験に出席した大分県 商工観光労働部 情報政策課の武藤祐治氏によると、今回の取り組みは「昨年度、地域課題解決のための5G利活用アイデアコンテストがあり、県として霧対策として応募したもの」だと言い、「霧による通行止めは観光やビジネス、県民生活に影響が非常に大きいことから、本実証を踏まえて技術的な課題を明確にして具体的なサービス化につながるよう取り組んでいきたい」と意気込みを語った。

 また、県内での5Gサービスエリア拡大を加速するため、5Gの利用ニーズを創出するとともに、「県内事業者が5Gを利用する側だけでなく、サービスを創出する側になれるよう、来年度以降も昭和電工ドーム大分を5Gの実証フィールドとして提供することで、5G利活用先進県を目指していきたい」と抱負を述べた。

大分県 商工観光労働部 情報政策課の武藤祐治氏
5G環境を構築した昭和電工ドーム大分を5Gの実証フィールドとして提供していきたいという