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アウディが9月から全国の販売店に配置する「e-tron セールスコンサルタント」とは何か? トレーニング担当者に聞いた

フォルクスワーゲン ジャパン株式会社 ネットワーク開発部 トレーニングマネージャーの平井孝昌氏に、「e-tron資格認定制度」について聞いた

 BEV(バッテリ電気自動車)のe-tronシリーズの積極的な導入を進めるアウディ ジャパンでは、e-tronの購入を検討するユーザーに対してe-tronの特徴やメリットなどを分かりやすく詳しく解説するためのスペシャリストの育成に力を入れている。そのための社内制度として「e-tron資格認定制度」を導入した。

 e-tron資格認定制度については関連記事でも紹介しているが、今回はフォルクスワーゲン ジャパンの平井孝昌氏にe-tron資格認定制度を設定した理由や、トレーニング内容などについて聞く機会を得たのでその内容を紹介する。

これからの時代に必要なのは、BEVの知識を持つセールススタッフ

 アウディ ジャパンは、2020年9月にブランドとして日本初導入となるBEV「e-tron スポーツバック」を発売。輸入車インポーターとしては比較的早い段階からBEVを日本に導入していたが、たった2年前とはいえ当時は現在ほどBEVへの興味が世間からあったわけではなかったという。そのためe-tronに興味を持つユーザーはそもそもBEVの知識を持っている人が多い傾向だった。

 しかしBEVがクルマ社会に浸透していくスピードはとても早く、もはや一部の人だけが興味を示すものではなくなっている。新たに免許を取得した人がクルマを購入する際にBEVを候補にしたり、ガソリンやディーゼルエンジン搭載車に乗っていた人が代替え時にBEVを選んだりすることは普通になりつつある。

 そうした状況のなか、今秋に日本導入されるのが大型SUVの「e-tron」および「e-tron スポーツバック」、スポーティな4ドアグランツーリスモ「e-tron GT」に続くBEV第3弾となるコンパクトSUVの「Q4 e-tron」。スタイリッシュなエクステリアデザインに、システム電圧400Vのテクノロジを使用した総容量82kWh(実容量77kWh)の駆動用バッテリを前後アクスル間の床下に搭載し、リアアクスルには最高出力150kW、最大トルク310Nmを発揮する1基の駆動用電気モーターを搭載。そして価格は599万円~716万円という注目モデルだ。

今秋の発売が予定されているQ4 e-tron

 このようにラインアップを拡充していくとe-tronのセールス機会も増えるわけだが、とはいえほとんどの人にとってBEVは初めて買うクルマとなるだろう。そして動力にモーターを使用するBEVはひとくちにクルマと言っても従来のエンジン車とは異なる。そのためユーザーは期待や興味とともに、航続距離や充電環境などへの疑問や不安も持っているし、BEVについてそもそもの理解度に大きく差があったりする。そうした状況であってもe-tronのことをキチンと検討してほしいということから必要とされたのが、セールススタッフの知識を高める「e-tron資格認定制度」であった。

e-tron
e-tron スポーツバック
e-tron GT

取得まで4~5か月のトレーニング期間を費やすe-tron資格認定制度

 アウディ ジャパンでは販売面の体制として、新車セールススタッフからショールームで来客対応するカスタマーアシスタントなどいくつかの職種に分かれているが、どの職種であっても「e-tron資格認定制度」を受験することができる。また、経験年数やセールス成績による区別もない。ただ、新車セールススタッフに関しては「試験を受けてください」というスタンスだ。

 e-tron資格認定制度へ参加すると、まず3日間のオンライントレーニングを受けることになる。また、それ以外にもタブレットを使った自己学習ツールが渡されるので、それらを通じてBEVの基本を学ぶことからはじめる。

 この内容は動力の仕組みなどを含むかなり専門的なものということなので、オンライントレーニングの内容を一度見ただけでは覚えきれるものではない。そのため初回講義後、2週間程度アーカイブ配信をしているので、受講者はそれを見て復習をするという具合。

 初回のオンライントレーニング期間が終わると「1次試験」があり、こちらは配信と自己学習ツールで学んだ学科試験。設問は40あり、制限時間は60分、正解率が90%以上でないと合格できないというシビアさ。それだけに1回でクリアできないケースもあるので試験のチャンスは3回設けてある。

 ただし、試験内容が同じにならないよう問題は200以上用意されていて、試験ごとにシステムがランダムで設問を選ぶ仕組みになっているので、最初の試験の内容を覚えていても参考にならない。また、当然のことながら試験期間はアーカイブ配信がクローズされている。

 1次試験をパスすると次に「2次試験」がある。こちらでは45分の時間内に5つの事例が用意されている。形式は評価をするアセッサーが顧客役となり、その顧客に間違わず、漏れなく説明していく。もちろん顧客からの質問もあるので、その返答も同様に完璧であることが求められる。それを各問5~6分ごとの時間で対応していくというものだ。

 この2次試験に合格すると資格認定され、有資格者が名乗れる「e-tron セールスコンサルタント」の肩書きが得られるのだ。

e-tron セールスコンサルタントから聞けること

e-tron セールスコンサルタントからは車両以外のBEVにまつわるさまざまなことが聞ける

 e-tronを購入する際は、クルマの商談と同時に充電設備や充電インフラ利用の方法などの説明も必要となるが、e-tron セールスコンサルタントであれば充電器の設置方法や工事の内容、充電器の種類、それにコスト面でのアドバイスも可能だ(工事業者の斡旋は行なわないという)。また、マンションなどに住んでいて駐車場に充電環境がない場合は、どういった充電方法があるかを考えてそれを提案してくれる。外部の充電設備利用時に必要な充電カードの特徴なども説明する。

 さらに国や自治体から設定される補助金に関して説明できるのもe-tron セールスコンサルタントの大事な面だ。この補助金は自治体によって内容が違うので、受講者は自分の地域の補助金制度を把握しているし、補助金は財源がなくなり次第終了となるので、納車時期と照らし合わせつつ状況をチェックしてその内容を伝えることも行なう。補助金の額が大きいだけに、この点は実はかなり重要といえるかもしれない。

 また、現在は充電インフラも増えているが、普通充電器と急速充電器のどちらを使うかで行動パターンは変わるので、その選び方の説明もしてくれる。この点はロングドライブをするときに知っておきたい部分なので、出発前の基礎充電から途中で行なう急速充電など、BEVならではの乗り方、考え方についても教えてもらえるのだ。

 もう1つ、e-tron セールスコンサルタントはトレーニングの段階で環境保護などの知識も勉強する。これはアウディがなぜBEVに移行するかという根本的なことでもある。そして、e-tronを検討するユーザーもその多くが環境について興味を持っていることが多いのだが、そういう意識を持って販売店に来たのなら対応する相手にも同様の意識を求めるだろう。そういったことに対してもe-tron セールスコンサルタントは対応できる。性能や特徴だけでなく、環境についての説明力が格段に高いのは安心感につながるのだ。

 このe-tron資格認定制度は2022年5月から本格スタートしたので、取材段階(2022年7月)はまだ教育期間の真っ最中。8月末には第1期の有資格者が誕生する予定だ。

 なお、e-tron セールスコンサルタントの導入に加えてサービススタッフにも高圧電力が扱える「ハイボルテージテクニシャン」という資格制度がある。こちらは全国のe-tron店に2名以上配置する体制を進めているという。

 以上がアウディ ジャパンが取り組む「e-tron資格認定制度」の概要。近いうちにe-tron セールスコンサルタントが誕生するが、上位には「e-tron スペシャリスト」という資格も用意されている。e-tronスペシャリストはe-tron セールスコンサルタント有資格者を対象とした有期限資格で、BEVの専門家として、また業界・制度などの最新情報を常に把握するスペシャリストとして、各アウディ e-tron店舗内で「e-tron セールスコンサルタント」に対する指導役も担う。

 こうした資格を持つスタッフが増えることで、アウディのBEVへの対応は充実したものになるだろう。BEVに興味を持たれている方は、ぜひアウディ e-tron店舗に訪れてみてほしい。

e-tronに期待と興味を持って販売店を訪れるユーザーを迎えるために必要な専門知識を持ち、ユーザーの不安や疑問にキチンと応えられるスキルを持った人材を育てるために設定されたのが「e-tron資格認定制度」という