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トヨタ、水素吸蔵合金で液体水素カローラのボイルオフ対策 吸蔵合金はマツダも利用した日本重化学工業製

液体水素のボイルオフガスを回収する水素吸蔵合金が収まったタンク。圧力を上げなくても大量の水素を吸蔵できる

液体水素のボイルオフガス問題に一つの回答

 トヨタ自動車は、未来のカーボンニュートラル社会のためにマイナス253℃の液体水素を燃料とする液体水素カローラ(液水カローラ)でスーパー耐久ST-Qクラスに参戦しているが、第3戦オートポリスでは液体水素のネガティブポイントとされるボイルオフ対策への取り組みを開始する。

 液体水素は気体水素に比べ、エネルギー体積密度が1/800となることから水素の貯蔵に向いており、ロケット燃料に使われる水素など液体水素の状態で保存や輸送が行なわれている。マイナス253℃となることから、魔法瓶などと同じ真空二重槽で保存が行なわれている。

水素吸蔵合金の実物。産業技術総合研究所と清水建設が開発し、日本重化学工業が製造している

 しかしながら温度差からボイルオフは起きるもので、水素エンジンがかかっているときはアイドリング時を含めて触媒で水になり、エンジンオフの場合はサービスモードとなり、一般的な水素ステーションと同様、法律に従って大気へ開放されている。

水素吸蔵合金について
ボイルオフガスの活用例
系統図

 その状況をボイルオフと言い、ある意味せっかく液化した水素燃料が少しずつではあるもののムダになっている状態が存在した。

 オートポリス戦では、この自然発生的に起きてしまうボイルオフの水素活用に水素吸蔵合金を利用する試みを開始する。水素吸蔵合金は、水素を吸着する特殊な合金で、今回使用する水素吸蔵合金(Metal Hydride)は産業技術総合研究所と清水建設が開発。製造は日本重化学工業製のものとなり、プラントとしては清水建設が手がける。

トヨタ自動車株式会社 水素エンジンプロジェクト統括 主査 伊東直昭氏

 水素吸蔵合金による水素タンクと言えば、マツダの水素ロータリーエンジン車「HR-X」を思い出す人もいるだろう。日本重化学工業はまさにその水素吸蔵合金を開発していたメーカーで、ホンダの燃料電池車「FCX-V1」やトヨタの燃料電池車「FCHV-3」にも採用されていた。

 トヨタの伊東氏は、日本重化学工業製の水素吸蔵合金を選択した理由について、「実証試験をたくさんされている」とその実績を評価。水素吸蔵合金を手がけているメーカーとしても大きなシェアあるという。

日本重化学工業株式会社 技術開発本部 水素イノベーションセンター長 布浦達也氏、同水素イノベーションセンター 後藤芳幸氏、清水建設株式会社 NOVARE イノベーションセンター 本間康雄氏、同 NOVARE イノベーションセンター 主任研究員 下田英介氏

 実際に出るボイルオフ量は、一晩図ったところ2.5kg~3kg。14MPaのカードル1本で500gほどの水素となっており、水素カードル5本分といったところだろうか。

 今回の水素吸蔵合金はかつてのものとは組成が異なり、サイズは200Lで重量は500kg。水素は最大6.8kg(75Nm3)を貯蔵できるため、一晩でボイルオフした水素をすべて吸蔵したとのこと。

 その吸蔵した水素を、昼間は気体水素として30~40Nl/min程度取り出し、小型FC(燃料電池)スタック2基で発電。約2kW×15時間の電力を取り出すことで、レースで必要なスポットクーラーや、電動工具を駆動していく。基本的にはデイタイムの1日発電が可能とのことだ。

 このように水素吸蔵合金を用いることで、むだなく液体水素を活用でき、水素の蓄電池として活用できる。

 これまで液体水素カローラの記者会見では、ボイルオフガスをどうするのかといった質問が出ることもあったが、トヨタはそこに一つの回答を実際のレースにおいて示した形になる。

 また、水素吸蔵合金は水素をためられることから前述のようにかつては水素燃料タンクとして用いられてきた。液体水素カローラにおいて水素吸蔵合金を燃料タンク代わりに搭載することについて、GRカンパニープレジデント 高橋智也氏は、「水素吸蔵合金をクルマに乗せるというのは将来的にもないと思います。やはり合金なので重量のハンデは必ずありますので。せっかくカーボンニュートラルへ向けていくのに重くする方向はないと思います。一方、今後液体水素のクルマが普及するときに、ボイルオフの問題は物理的に避けられません。そのため、駐車中・停車中に水素エネルギーをロスしないことが大事だと思います」と語り、ボイルオフの解決策として地上施設の水素吸蔵合金の可能性を語る。

 トヨタは液体水素車が街中を走る未来を想定し、インフラの解決策もレースで構築し始めている。

TOYOTA GAZOO Racing カンパニー プレジデント 高橋智也氏(中央)、同 GR車両開発部 先行開発室長 三好達也氏(右)、同 水素エンジンプロジェクト統括 主査 伊東直昭氏(左)

【お詫びと訂正】記事初出時、産業技術総合研究所を産業総合研究所と記しておりました。お詫びして訂正させていただきます。