インプレッション

日産オールラインアップ雪上試乗(長野県女神湖)

「セレナ」と「ノート」が販売好調

 飛ぶ鳥を落とす勢いで売れている日産自動車「セレナ」と「ノート」。1月の販売台数ではノートが1位、そしてセレナが2位となった。ユーザーに支持される理由は、セレナが運転支援技術である「プロパイロット」、そしてノートがシリーズハイブリッド方式を採用した「e-POWER」だ。

 プロパイロットはACCである「アダプティブクルーズコントロール」と、65km/h以下でも機能する「車線中央維持支援機能」の組み合わせであり、分かりやすい運転支援内容から販売台数の56%(2017年3月1日発表)がこのプロパイロット装着車だ。もっとも、組み合わせ装備との関係からプロパイロット装着車の販売比率が自ずと高くなることも事実だが、いずれにしろミニバンとしての使いやすさが高く評価された。

 ノートはTV-CMなどで紹介されているとおり、電気自動車(EV)である「リーフ」とイメージボディカラーをだぶらせたり(ともに鮮やかなオレンジメタリック系)、効果音にモーターが発する高周波音を組み合わせたりすることで、電動車両であることを全面に押し出したことが功を奏した。実際、シリーズハイブリッドであるためタイヤをまわす駆動力はモーターだけで生み出しているため、加速フィールはリーフそのものといってもいい。しかも、リーフから駆動用バッテリーを減らしているため車両重量は軽量化(両車中間グレードの「X」で比較すると最大で250kgノートが軽い)されており、コンパクトカークラストップと言える加速性能を持ち合わせている。

 今回はそのセレナ S-HYBRIDに待望の4WDモデル(オートコントロール4WDシステム)が加わったこと、そしてe-POWER登場後、初のウインターシーズンということもあり、氷上および雪上試乗会が開催された。氷上の舞台となったのは長野県の女神湖で、雪上はその周辺の一般道路を走行した。

季節を問わずロングドライブ派におすすめしたいセレナ S-HYBRID初の4WD

 まずはセレナ S-HYBRIDの4WDから。後輪へはシンプルで駆動ロスの少ない電磁式のカップリングを介して駆動力が伝わるのだが、安定感たっぷりの走行性能には少しばかり驚いた。これなら多人数乗車が多くなる雪上での登坂路でもしっかりとした駆動力をドライバーは感じながら、乗員全員が安心して体を預けることができる。

 気になる点を挙げるとすればセレナに与えられたCVTの特性だ。2016年9月にCar Watchに掲載した筆者の試乗レポートにあるように、アクセルの踏み込み量が少ない場合の加速度が意図的に弱めである。4WDになってもこの特性は引き継がれていて、たとえば極端に滑りやすい状況ではタイヤの空転と、それを抑えようとするトラクションコントロール機能によって、結果的にアスファルト路面で感じた以上に、意図した加速度から弱くなってしまうことがある。

直列4気筒DOHC 2.0リッター直噴エンジンにモーター(SM24)を組み合わせるセレナ ハイウェイスター(4WD)。エンジンは最高出力110kW(150PS)/6000rpm、最大トルク200Nm(20.4kgm)/4400rpmを、モ―ターは最高出力1.9kW(2.6PS)、最大トルク48Nm(4.9kgm)を発生し、JC08モード燃費は15.8km/L。4WD車のボディサイズは4770×1740×1875mm(全長×全幅×全高)

 解決策は至極簡単。こうした場面では、予めいつもより多めにアクセルをじんわり踏み込んでいけばいい。オーナーとしても、そうした特性は次第に受け入れられるものだろうから、意識するのは最初のうちだけではないか。また、数回繰り返していけば滑りやすい路面でのアクセルワークも身についてくるだろうから、アクセルの踏み込み過ぎによる燃費数値の悪化も最小限に留めることができるはずだ。それよりも、セレナ 4WDは前述した走行安定性の効果がとても大きく、春夏秋冬ロングドライブの回数が多いユーザーには積極的にお勧めしたい。

ノート e-POWERは駆動力のコントロールが容易

 次にノートだ。e-POWERには2つの特徴があると考えている。1つ目が駆動力のコントロールが容易に行なえることだ。これは電動車両であるリーフに初めて乗った際にも感じていたことだが、これが滑りやすい路面になるとそのコントロールの幅が2倍以上となり、後述する氷上では3倍以上になると筆者には感じられた。簡単にいえば、タイヤを空転させないように行なう、ゆっくりとしたアクセルコントロールがとても簡単なのだ。

 たとえば、取材日の女神湖周辺は雪上路面が主体で、摩擦係数にして概ね0.3程度であった。電動駆動ではない通常のエンジン車の場合、発進時に意識せずにいつも通りにアクセルを開けるとすぐさまトラクションコントロールが介入する、そんな滑りやすい路面だ。トラクションコントロールは、空転を検出するとエンジン出力を絞り、空転が収まるとエンジン出力を復活させる機能。しかし、理屈の上ではそうなるのだが、なにせ相手が燃焼行程を持つエンジンであるため、瞬時に出力を絞ったり復活させたりすることが苦手である。厳密には、シリンダー内部での燃焼こそ緻密に行なっているものの、それが駆動力の段階となると構造上のタイムラグが発生してしまう。

直列3気筒DOHC 1.2リッターエンジンにモーター(EM57)を組み合わせるノート e-POWER X(2WD)。エンジンは最高出力58kW(79PS)/5400rpm、最大トルク103Nm(10.5kgm)/3600-5200rpmを、モ―ターは最高出力80kW(109PS)/3008-10000rpm、最大トルク254Nm(25.9kgm)/0-3008rpmを発生し、JC08モード燃費は34.0km/L。ボディサイズは4100×1695×1520mm(全長×全幅×全高)

 こんな場面、e-POWERならどうなるのかだが、これが呆気にとられるくらい電動駆動ならではの緻密なモーターコントロールによって、モーター回転を絞ったり復活させたりすることがいとも簡単に行なえてしまう。今回のような雪上路面では内燃機関の10倍以上(筆者のイメージ比!)、自分の右足の裏で緻密な駆動力制御が行なえているような感覚だ。実際には路面の傾斜も加わってくるので、どんな場面でも10倍以上の感覚を得られるわけではないが、滑りやすい路面+前輪駆動というスムーズな発進加速がむずかしい場面でもすんなりこなせてしまう。これは大きな魅力であることが再確認できた。

 アクセルペダルを戻すだけで、わりと強めの回生ブレーキが立ち上がるのがe-POWERの2つ目の特徴。開発陣曰く「たとえば、より強い回生ブレーキが働く『e-POWER Drive』の『Sモード』の場合、自車速度やSOC(充電率)にもよりますがアクセルペダルをパッと戻した際に最大で0.2程度の減速度を生み出せます」とのこと。この状況、反対にじんわりとペダルを戻せば回生ブレーキも弱まるため、加減速のコントロールがアクセルペダルだけで行ないやすい。これが「ワンペダルドライブ」と呼ばれる所以だ。

 このワンペダルドライブの効果は雪上路面でもてきめんで、ブレーキペダルへと踏みかえることが極端に減少するので、その分、ステアリング操作に集中できる。初めての雪山や、部分的に凍結していそうな路面での安心感は絶大だ。これに先の緻密な駆動力制御が加わるため、4WDとは言い過ぎだが雪道での日常的な走行シーンではじつに心強い。

 しかし、e-POWERとてタイヤの摩擦円の限界には勝てない。アクセルペダルを離すとしっかりとした減速度が常に発生しているため(例:「e-POWER Drive」の「Sモード」)、予め減速度方向に一定の摩擦力を使っているわけだ。よって、残されているタイヤのグリップ力は、ATやCVTなどトランスミッションを持つ内燃機関と比べて単純計算でいけば少なくなる(Dレンジの場合)。アスファルトであれば路面の摩擦係数が高いためタイヤの摩擦円そのものが大きく、ほとんど問題にならないが、これが氷上路面(摩擦係数0.1程度)となると無視できないレベルになる。

 さらに下り坂ともなれば前輪にかかる負担は大きくなるため、一層曲がるためのグリップ力の確保がむずかしくなる。よって、そんなシチュエーションでは回生ブレーキが弱めとなるモード(たとえば「NORMALモード」)などを使いつつ、加速しないギリギリの領域を保持するアクセルワークが肝になる。

フェアレディZ、GT-R、スカイライン。走りの楽しさを追求したクルマづくりは健在

 雪上路面に続いての試乗コースは女神湖だ。天候にも恵まれしっかりとした氷の張った女神湖の特設コースで、FR/FF/4WDでの乗り比べを行なった。もっとも楽しかったのはフェアレディZ(シンクロレブコントロール付6速MT)だ。今となっては古典的なスポーツカーだが、優れた重量配分や高いボディ剛性、さらには長めのサスペンションアームによってしっかりと挙動を制御する車両特性が得られ、グリップ走行からフルロックのドリフト走行まで簡単に行なうことができた。

 ドリフトといっても氷上であるためせいぜい30km/h程度であったが、コースの大部分をドリフト姿勢のまま走行できるなど、その柔軟性には改めて舌を巻く。また、難しいドリフト中のシフトダウンも、シフトダウン操作を行なうだけでエンジン回転数を自動的に合わせてくれる「シンクロレブコントロール」があるので、その分、正確なステアリング操作などに集中することができた。

V型6気筒DOHC 3.7リッターエンジンにシンクロレブコントロール付き6速MTを組み合わせるフェアレディZ。ボディカラーは2016年8月の一部仕様変更で復活したプレミアムアルティメイトイエロー。エンジンは最高出力247kW(336PS)/7000rpm、最大トルク365Nm(37.2kgm)/5200rpmを発生。ボディサイズは4260×1845×1315mm(全長×全幅×全高)

 ワイルドさではGT-Rだ。VDC-Rのセットアップスイッチを「R」モードにすれば、4つのタイヤが氷の上で暴れながら、車両姿勢としてはフェアレディZの挙動から明らかにカウンター量の少ない効率的な弱オーバーの姿勢でぐんぐんとコーナーを突き進む。コーナー手前で横方向の慣性を生み出せば、今度はそのままフェアレディZに負けないフルクロック状態でのドリフト走行状態も維持できる。

 このときの挙動は、安定した姿勢を保ちやすいという意味ではアテーサ E-TS(電子制御4WDシステム)の独壇場ながら、鼻先がスッと入っていくところや豪快なドリフトを決めやすいところなどは“調教されたFRマシン”のようにも感じられる。以前、雨の袖ヶ浦サーキットで感じた高い限界性能は、こうした路面の摩擦係数が極端に低い氷上路面でも健在であることが分かった。

V型6気筒DOHC 3.8リッターツインターボに6速DCTを組み合わせるGT-Rの2017年モデル。ボディカラーはアルティメイトシャイニーオレンジ。エンジンは最高出力419kW(570PS)/6800rpm、最大トルク637Nm(65.0kgm)/3300-5800rpmを発生。ボディサイズは4710×1895×1370mm(全長×全幅×全高)

 手を焼いたのはFRのスカイライン(200tのDASではないノーマルステアリング)だった。パイロン2本を立てて、その間を8の字旋回としてドリフトでつなげることがタスクであったのだが、2周程度はなかなかコツがつかめずスピンモードになってしまったものの、その後は速度こそゆっくりながら(歩くのも難儀なツルツル路面)ドリフトでつなげることができた。ダイムラー製の直列4気筒エンジンを搭載したとはいえ、素性のよさはやはりスカイラインだった。

ダイムラー製の直列4気筒DOHC 2.0リッター直噴ターボエンジンに7速ATを組み合わせるスカイライン。ボディカラーはHAGANEブルー。エンジンは最高出力155kW(211PS)/5500rpm、最大トルク350Nm(35.7kgm)/1250-3500rpmを発生。ボディサイズは4800×1820×1450mm(全長×全幅×全高)
女神湖では日産のラインアップ車に試乗できた

 このように、さまざまな駆動方式、ボディバリエーションを持つ日産だが、走りの楽しさを追求したクルマづくりは健在であることが手に取るように分かった。また、優れた電子デバイスを用いたとしても無理は禁物で、あくまでもタイヤと路面の関係をうまく感じとりながら運転していくことが安全につながるということも再確認することができた。

西村直人:NAC

1972年東京生まれ。交通コメンテーター。得意分野はパーソナルモビリティだが、広い視野をもつためWRカーやF1、さらには2輪界のF1であるMotoGPマシンの試乗をこなしつつ、4&2輪の草レースにも参戦。また、大型トラックやバス、トレーラーの公道試乗も行うほか、ハイブリッド路線バスやハイブリッド電車など、物流や環境に関する取材を多数担当。国土交通省「スマートウェイ検討委員会」、警察庁「UTMS懇談会」に出席。AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)理事、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。(財)全日本交通安全協会 東京二輪車安全運転推進委員会 指導員

Photo:高橋 学