深田昌之のホンダ「N-VAN」で幸せになろう

第20回:N-VANでの仕事や車中泊で便利! テールゲートを室内から開くためのスイッチを付けてみた

+STYLE COOLと+STYLE FUNは集中ロック式なのでテールゲートのロック機構は電気式。その他のグレードはワイヤーで引く構造。今回の話は電気式のロック機構が題材

 N-VANには室内側からテールゲートを開くためのノブやスイッチがない。そのため室内で荷物整理をしているときなどにテールゲートを開けたくなったときにはいったんクルマの外に出なければならないのだが、これには少々不便を感じることもある。それに車中泊のときも室内からテールゲートが開けられたほうが便利なはず。そんなことから筆者のN-VANに室内からテールゲートのロックが解除できるようにするためのスイッチを付けてみたので今回はその作業内容の紹介をしていこう。

 さて、作業の紹介をする前に触れておきたいのが「なぜ室内からテールゲートが開けられないのか?」ということに関してだ。N-VANは仕事で活躍するクルマだから、使い勝手を向上する装備はいろいろと盛りこまれているし、実際のところ室内で作業してそのままテールゲートをガバッと開けて外へ、という需要もあると思う。それなのに「テールゲートを室内から開ける」機能がないのは解せない。となると付けていない理由があるはず……ということで、まずはこの点を本田技研工業の広報部に問い合わせてみた。

 テールゲートが室内から開けられないようにしていることにはいくつかの理由があった。1つ目が「積載物がテールゲート開閉操作部品に接触して開いてしまうことを避けるため」である。

 N-VANは工場出荷時の設定で車速が15km/h以上になるとテールゲートを含めてすべてのドアが施錠されるオートドアロック機能があるが、走り始めの15km/h以下では効かないし、カスタマイズ操作をすればオートドアロック機能をOFFにすることもできるのでそういう面からの配慮だ。また、開閉操作部を設けることでの荷室容量への影響が出ることを避けたというのも理由の1つだそうだ。

 そしてもう1つ「外の状況が掴めていない状態でテールゲートを開けると障害物などにぶつけてしまったり、車外にいる作業者、通行者などにダメージを与える可能性があるため」ということも付けなかった理由であるそうだ。

 これらは聞けばなるほどと思うものだが、それならば「開閉操作部を付けなかった理由を考慮した場所にスイッチを設ければいい」ということ。そこで筆者は積載物が当たるような場所にロック解除スイッチ付けないこととスイッチ操作の際に後方の状況が自然な感じで確認できることをテーマにスイッチを取り付けることにした。

仕事だけでなく車中泊をしているときも室内からテールゲートを開けたいシーンは多いだろう
大型のテールゲートなので後方確認なしで開けると車外の人や構造物などにゲートを当ててしまうこともある。それを防ぐことを含めて室内から開けられないようにしているとのこと

 N-VANのテールゲートは貨物車らしく塗装済の鋼板が剥き出しになっていて、化粧用のボードが付いているのはゲートの一部のみ。ほかはというとゲート上部にあるリアワイパーの取り付け部に樹脂製のカバーが付いているだけだ。
 テールゲート開閉スイッチ本体は外側のボタン(ナンバー上のガーニッシュ裏にある)のちょうど裏側にあるので、室内側に付いているボードを外せばスイッチに行く配線やカプラーが見える。その配線も「集中ロック用」「通常開閉のロック解除用」「アース」の3本とシンプルだし、スイッチを新設した際にアースを落とせるちょうどいいボルトもあるので、このボードのどこかにスイッチを付けるのなら作業はかなりシンプルに済むはずだ。

 だけどこのボードが覆う範囲はどこも床からの高さがないので積載物とスイッチが干渉する怖れが高い。また、ボード自体が薄板なので強度が頼りなく操作の際にボードごとペコペコと動いてしまいそうだ。そしてもう1つ、ボード表面は薄い布で覆ってあるのだけど、こうした仕上げのボードは布をきれいに切ること、切ったあとの処理の面倒さを過去に経験しているので、自分的には苦手意識があった。それゆえにここへの取り付けは避けたい。

黒っぽい部分が化粧用のボード。クリップで固定されている
クリップ外しツールは必須なので作業する際は用意しておこう
折れたりしなければクリップは再利用する
ボードを外した状態。真ん中にあるのがテールゲート開閉スイッチに行く配線
テールゲート開閉スイッチ配線部のアップ。白いカプラーだ。ここには「集中ロック線」「ロック解除線」「アース線」の3本が来ていている
ロック機構はテールゲートのいちばん下にある。集中ロックがないグレードはワイヤーで引く構造になっている
バッテリー上がりなどでゲートが開かなくなった際はサービスホールのフタを外し、開いた穴にマイナスドライバーを刺すとロック機構を手動で解除できる
この機構を使えばスイッチは不要とも思ったが、頻繁に使うとロック機構側の差し込み部が痛んで(材質が柔らかい)操作できなくなりそうだったのでやめておいた

 対してテールゲート上部にあるリアワイパーカバー部はルーフに近いので、荷物がスイッチに当たるという可能性はかなり低い。また、カバーは硬度のある樹脂成型品なのでスイッチを付けるにあたっての強度面でも問題がなさそう。

 そしてさらに、この部分にスイッチを付けるとスイッチの操作時にはリアウインド越しに外を見るような姿勢になるため自然な感じで後方確認が行なえるのだ。そんなことから筆者のN-VANでのスイッチ取り付け場所はリアワイパーカバー部に決定した。

配線通しに予想外の苦戦をする

 テールゲート開閉スイッチから解除スイッチまでの配線引き回しには2つの方法がある。1つは配線を隠さず室内から見える形でテールゲートに沿って引き回す方法。これがいちばん簡単だけど見栄えはよくないし積載物が配線に引っかかる恐れもある。もう1つはリアワイパー用純正配線などと同様にテールゲートの中を通していく方法だ。これなら見栄えもいいし配線が引っかかることもないので今回はこちらの方法でいくことにしたのだけど、ここで予想外の苦戦を強いられてしまった。

 テールゲートはインナーとアウター(という呼び名かは不明)の2枚のプレス鋼板を合わせて構成されているけど、鋼板同士はピッタリ合わせてあるのではなく、内部は袋状になっていて強度を出すために要所にガゼットプレートが入っているという構造だ。そしてそのプレートには肉抜きの穴が開いているので解除スイッチの配線はそこを通すことになる。

構造を調べてはいないが中心に写っているようなガゼットプレートが数カ所入っていると思われる
プレートが入っているような形跡はスポット溶接あとでなんとなく分かる

 ここで用意したのが荷物をまとめるときに使うPP(ポリプロピレン)の梱包バンド。適度な固さがあって自由に曲がる性質なので梱包バンドに通したい配線を留めて隙間に送り込むことで袋状の内部を通過する……、はずだったけどいっこうに通る気配がない。どうやら材質が柔らかすぎて障害物にあたったときにすぐ折れてしまうので先に進めないようだ。

 そこでもう少し固さのあるアルミ線を使ってみたけどこれもダメ。こちらも通っているかの手応えが分かりにくいため、どこかに引っかかっていてもグイグイ押し込んでしまいがちになった。しかも押し込んだぶんが内部で不規則に丸まってしまい「玉」のようになる。そのため引き抜く際に差し込んだ部分の細いスペースを通らず、抜くのが大変なことになったりもした。

失敗例その1。PP梱包バンドは通る気配がなかった
失敗例その2。アルミ線もダメだった。こちらは袋の中で丸まってしまい、引き抜くのに苦労した。細めのステンワイヤーも買ったけどこちらは使用せず

 この作業で数時間費やしてしまったので初日はとりあえずここまでとした。そして対策を考えたところ見つけたのが建築工事の際、壁の中に配線を通すときに使用する「通線ワイヤー」という4mm程度の太さのステンレスワイヤーだ。

 使い方はまず通線ワイヤーのみを通したあと、先端に引きたい配線をセット。そして通線ワイヤーを引き抜くと配線が付いてくるという具合。建築現場で使うくらいのものだけにこれは期待できそうだ。

 通線ワイヤーは1500円くらいで手に入るけど、筆者は知り合いの建築屋さんから借りてきた。そして作業2日目、ゴニョゴニョやってみところ「スルッ」と通った。始めてから5分くらいだったろう、最初からこれを使っていればよかった。

これが通線ワイヤー。ネット通販では約1500円くらい。筆者と同じ作業をしようと考えている方は用意しておいたほうがいいと思う
先端は配線を通せるようになっている
リアワイパーモーターのカバーを外し純正配線が通っている側へ通線ワイヤーを入れていく。逆の方向はさらに通りにくい感触だった
ワイヤーの先端位置を変えるように押し込んでいると、あるとき「するっ」と通った。思わず「おぉ!」と声が出ました
通った先端に配線を付けて通線ワイヤーを引き抜く
ようやく配線が通った。ここまでくればあとは楽

スイッチを絶妙な位置に付けてみた

 次はスイッチについてだ。テールゲートのロック解除スイッチは「自動戻り」というボタンやレバーがロックされずに操作している間だけONになる(手を離せばOFFになる)タイプを使うので、用意したのがエーモン工業製のホーンスイッチ。なお、自動戻りのスイッチにはボタン式もあって、こちらを使うほうが見た目スッキリするのだけど、スイッチを選んでいる際に「ある使用法」を思いついたのでそれに合うようホーンスイッチにしたのだ。「ある使用法」については最後に紹介しよう。

カバーはクリップで固定されている。クリップの位置は写真を参照
カバーを外した状態。プレートがあったのは予想外。スイッチ用の奥行きが取れないと思ったけど、カバーの膨らみとプレートまでの間には約3cmの隙間があったのでひと安心
右側にはワイパーモーター用の配線があるのでこちらに配線を通すことにした。逆も配線通しを試したが、右側よりも通りにくい感触だったので途中で諦めた。ただ、内部構造を確認したわけではないので実際に通りにくいかは不明
用意したのがエーモン工業製のホーンスイッチ
スイッチを取り付けに必要な穴径は12φ
配線はテールゲート開閉スイッチから引くための細線(0.2sq)とアース用(0.5sq)を用意した
位置決めのための仮置き。プレートをよける部分に収まりそうなのでここに付けることにした
クリップの位置ともチェック。ここならカバーの平面部分の穴開けが可能
場所が決まったので余分な配線を切って長さを合わせてギボシを付けておく
テールゲート内側の作業は開いた状態で行なうが、全開状態では腕を上げているのがツライ。そこで写真のようにロープで少し閉じた状態で固定した。これで少しは楽になる

 つぎはテールゲート開閉スイッチからの配線だ。カプラーへ行っている純正配線は0.2sqくらいの細線で保護テープとコルゲートチューブが巻かれていた。そこで配線をちゃんと確認するためテープとコルゲートチューブの一部切ってみたところ、3本の配線が軽く縒ってあり、分岐用のエレクトロタップは使いにくそうな印象。でも、だからといって純正配線を切って分岐させることには気が引けるのだ。

 この点をどうしようかと考えつつ、とりあえず動作チェックをするためアースを取り、カプラーの裏から狙いの配線の差し込み部に解除スイッチの配線を押し込んでロック解除ができるかチェック……、というところで「ん? この結線方法でいいのでは」とひらめく。半田付けもできないしギボシも使えないので引っぱればすぐ抜けるけど、他の配線にテープなどで固定すればとりあえずの抜け対策になる。それに抜けたとしても「差し直せばいいだけ」とDIYっぽい理屈を立ててこれでOKとした。まあ、他人様のクルマにはできない内容だけど純正配線を傷つけずに済んだのは自分的に満足だ。

配線が見やすいようにビニールテープとコルゲートチューブを一部切ってみる。配線が細いのとねじってあるのがやっかい
筆者のN-VANではカプラーをコネクターに刺した状態で右端の白い線がロック解除線だった。配線の位置や色は変更される可能性もあるので、作業をする際は、N-VANを買った販売店のサービスフロントなどで配線図を確認することと、作業時はテスターで動作状況をチェックすること。これは必須
動作チェックのためにカプラー裏側から新設した配線を差し込むが、これなら純正配線を傷めずに配線できることに気がついた
そこで他の配線とテープや結束バンドで固定して抜けにくくする。もし抜けてもここなら直すのも楽。アースは横のボルトに落とす
アースはエーモン工業製のクワ型端子を使うが、袋を開けてビックリ。てっきり表の袋のみかと思っていたが製品は別で袋詰めされていた。さすがという感じ
新たに引いた配線にコルゲートチューブを巻いて保護したあと遊ばないよう固定

 作業はいよいよ大詰め、今度はリアワイパーカバーへのスイッチの取り付けだ。仮合わせでスイッチが付く位置をマークしたあと、電動ドリルを使ってある程度の穴を開ける。そのあとは棒ヤスリで拡大。途中途中でスイッチを穴に差し込んで大きさを確認しながら行なっていく。取り付け場所の横にちょうど補強用のリブがあったのでスイッチをそこに寄せることでスイッチの位置決めがしっかりした。これはラッキー。

穴を開ける位置を決める。ちなみにこのカバーの値段を調べたところ726円(5/26時点)だった
穴開けの位置をマジックでマーキング
まずはドリルで適当な穴を開ける
あとはスイッチを差し込みながら穴を広げていく。ここでは棒ヤスリを使った
縦のリブにピッタリ沿う位置に付いたのでスイッチが回転してしまうこともない
表側。上よりの絶妙な位置に付けることができた

 そしてスイッチを固定してカバーを戻すと……、いい位置にバッチリ付いた。ルーフライニングにかなり近いのでここなら積載物が当たることもないだろう。また、レバーは押し下げる向きで付けているのでなおさら誤操作が起こりにくいはずだし、ちょっと気になっていた見た目もわるくはない。

 さて、それではもったい付けていたレバー式のホーンスイッチにした理由を紹介しよう。それは車中泊などで床に座った状態や寝ている状態でもテールゲートを開けるようにするためだ。

 そのために用意したオプションパーツ(?)が写真のもの、洗濯ばさみと適当なひもである。使用法は見てのとおり、ひもを結んだ洗濯ばさみをホーンスイッチのレバーに挟んでひも垂らすだけだが、そのひもを引けばロースタイルのままでもスイッチ操作ができるというもの。超ローテクだけど機能的にはこれで十分に満足している。ただ、洗濯ばさみはちょっとカッコわるかったので、今後は見栄えのいいクリップを探してアップグレードしようと思っている。

 という具合のリアゲートロックの解除スイッチ。ホンダさんが懸念していた部分を(だいたい)クリアしつつ、希望の機能を持たせることができてきたと思う。さらに加工箇所もリアワイパーカバーのみに抑えているのでノーマルに戻すときは726円出して新品カバーを買うだけでOKという仕上げ……。今回はがんばった。

室内から見た感じ。ルーフライニングに近いので荷物が当たってスイッチを操作してしまうは起こりにくいと思うし、荷室容量にもほぼ影響がないだろう
この位置にスイッチがあると操作時の視界は自然にこうなるので後方確認もできる。これでホンダさんが懸念していた部分を考慮しつつのロック解除スイッチになった(と思っている)
スイッチをレバー式にしたのは操作部をクリップで挟めるようにするため。クリップにひもを付けて垂らしておけば、キャンプ場などでは床に座った姿勢でもロック解除ができるので便利なのだ。座ったり寝ていたりすると立っているときのような後方確認はできないが、キャンプ場などはクルマ周辺の状況が分かっているし、他人がサイト内に入ってくることもないだろうからまあよしとした

深田昌之