深田昌之のホンダ「N-VAN」で幸せになろう

第23回:MTBタイプのe-bikeを積んで林道へ行き、そしてヘバってきた

N-VANにeBikeを積んで林道を走ってきたのだ

 今年の4月、N-VANにe-bikeを積んで山間部へ行き、現地で降ろして山道をe-bikeで走るという内容の記事を紹介した。自転車を運ぶというN-VANの使い方や、交通量が少なく自然が豊富な場所をe-bikeで走るなど、以前からやってみたいと思っていたので、かなり楽しくやらせてもらった取材だった。

 それになにより、ふだんスポーツやトレーニングをまったくしていない身体なのに、約10kmの登り坂コースをそれほど苦労することなく走り切れたことについては予想外、かなりの驚きだった。そして相応の体力がないとやれないと思っていた自転車趣味も、e-bikeなら大丈夫いうことが分かったことは、目の前が開けたというか、楽しみの幅が広がる思いがした。

 とはいえe-bikeは総じて値段が高めなのでなかなか手は出せない。そんなこんなで4月以来、e-bikeに乗る機会がなかったのだけれど、今回、総合自転車メーカーであるホダカさんから「NESTO X-VALLEY E6180(ネスト クロスバレーE6180)」というe-bikeを借りることになった。そこで今回のN-VAN連載はN-VANとクロスバレーE6180で行ってきた山道ツーリングの模様をお伝えしたい。

NESTO X-VALLEY E6180(ネスト クロスバレーE6180)

総合自転車メーカーのホダカ株式会社が展開する「NESTO」というスポーツバイクブランドのMTBタイプのe-bikeが「X-VALLAY E6180」
16インチと18インチを設定。価格は29万9000円。MTBのe-bikeとしてはリーズナブルな価格

 では、まずクロスバレーE6180についてだが、これは同社のプレミアムモデル「TRAIZE PLUS」をベースに新設計したMTBタイプのe-bike。

 サスペンションはフロントに装備し、フレームはアルミ製でスムースウェルド工法という溶接技術が使われる。また、機械での溶接作業後、手作業にて仕上げを行なうことで、応力集中からの強度不足発生原因になる溶接部の肉厚の変化を除去している。

 使用している電動ユニットはシマノ製の「STEP E6180」というモデルで、アシスト力はハンドル左に付くセレクタースイッチ操作により3段階で切り替えが可能。航続距離はエコが105km、ノーマルが85km、ハイが70kmと公表されている。変速機もシマノ製で10速仕様だ。

 バリエーションは18インチと16インチの2タイプで、今回借りたのは18インチモデルである。フレームカラーはコヨーテブラウンが設定される。

ドライブユニットはシマノ製。STEPS E6180を使用する。日本の法規に合わせて24km/hまでアシストが入る設定で、それ以降は通常のMTBと同じ脚力のみの走行。走り始めのトルクはスムーズに立ち上がり、速度が上がると徐々にアシスト力を減らしていく。筆者の印象では15km/h前後のペースがアシストと漕ぐ力とのバランスがいい感じだった
バッテリー容量は36V/11.6Ah。走行距離はエコモードで105km、ノーマルモードで85km、ハイモードで70kmとどのモードでもたっぷり走れる(走行距離は走行条件によって変動する)
ブレーキはシマノ製の前後油圧ディスクブレーキ。クロスバレーE6180の18インチモデルで車重が21.3kgあって、乗り手をあわせると約90kgの重量になったが、効きは十分すぎるほどのものだった

 今回借りたクロスバレーE6180はMTB。フロントサスも付いているし、タイヤも未舗装路用なので、舗装された山道を走るというだけではなくて未舗装路もコースに入れたい。

 そこで選んだのが、クルマで行ったことがある東京都あきる野市の林道だ。この道は奥に行くとキャンプ場や鍾乳洞といった観光スポットがあるので大部分は舗装されているが、それでも一部区間は未舗装路。本格的にMTBに乗っている方にはもの足りなさを感じるコースだろうが、こちらは身体作りもしていない初心者なので「一部未舗装路」というくらいがちょうどいい。それに人にあまり会うことのなさそうな林道というのもいまの状況的に具合がよかったりする。

フロントサス装備&ダート用タイヤなので今回の試乗には未舗装路もコースに入れた。本格MTBのクロスバレーE6180は装着されているハンドル幅が600mmを超えるため、自転車走行可の歩道を含むすべての歩道通行は法律で禁止されている
事前に調べたところ、林道の入口付近にクルマを駐めておける場所がなかったけど、数km離れた山沿いの裏道、こんなところに? と思える予約制の有料駐車場を発見。見てのとおりの場所なので駐車条件は軽自動車限定になっていた。渓流釣りや山歩きの方が利用するのだろうか。目的地までの距離もちょうどよかったのでこちらを予約した
アシストはエコ、ノーマル、ハイの3段階から選べる。脚力に自信のない筆者は最初からアシスト力の強いハイを選択

N-VANにクロスバレーE6180を搭載

 N-VANにはフロントに4箇所、リアに4箇所のフックが付いているのでタイダウンベルトが非常に使いやすい。クロスバレーE6180を積むときは前側2本、後ろ側1本の計3本のタイダウンベルトを使用した。

 なお、バイクや自転車を直立させた状態で積載する場合は、フロントタイヤの向きを固定するスタンドが必須。これがないと振動等でハンドルが切れてしまうためいくら縛り上げても車内で倒れてしまうのだ。今回使用したのは汎用のスタンド。リアタイヤを乗せるのが一般的な使い方だがフロント固定用としても十分使えた。

バイクの積み降ろし時はラダーが必要だけど、e-bikeならヒョイと持ち上げて載せられるので楽。出かける準備の手間が少ないと「行こう」という気になることも増えると思うので、積み降ろしが楽というのは大事な部分
左寄せに積むので右にはスペースがあるのでソロキャンプ道具なども余裕で入る。右2列目シートを出すことも可能だ
このようなしっかりしたフックが8箇所に付いている。バイクや自転車を積む場合は、倒したシート裏やラゲッジ床を痛めないようフロアボードを敷くことを勧める
フロントは片側2箇所のフックを使いハンドルを下に引っ張る感じで締め上げていく
筆者のベルトの使い方はフロントを張ったあと、リアホイールにベルトを掛けて後ろに引く。軽量なe-bikeならガッチリ固定できる。車重があってリアサスもあるバイクではリアも左右別々のベルトで張るようになる
ラチェット部分。レバーを操作して巻きあげる。レバーを完全に開くとロックが外れてベルトを引き出せる

 N-VANからクロスバレーE6180を降ろし、水筒やカメラなどをバッグに入れて出発。乗りにいったのは8月の初旬だったので日差しはそれなりに強く気温も30℃は超えていた。前回乗ったときは4月なので暑さは感じず楽だったが、今回はバッチリ暑いので体力のない身体にどう影響するかが心配ではあった。

 でも走り始めてみるとそこはe-bike、ダラダラと続く登り坂を15km/hくらい(サイクルメーターの表示)で登っていくぶんには問題なさそう。ギヤも重め(リアの小さい方)のままで走っていける。

 前回もそうだったが、風景の写真を撮ったり眺めたりするときは坂道の途中で何回も停車するのだけど、e-bikeはとにかく坂道発進でその強みを実感する。人力オンリーでは「よいしょぉ!」と漕ぎ出さないとスタートできない勾配でも、サドルに座ったままでグッとペダルを踏めばトルクが出て「スイ」と動き出してくれるのだ。

ダラダラの登り坂。楽に走れるとは言わないがe-bikeなら足付きなしで登っていける。ちなみにモーターのアシストは24km/hまで効く仕様で、全域一定トルクではなく低速ほど強く、車速が24km/hに近づくにつれてアシスト量が減っていく仕様。筆者の脚力では15km/h前後のペースが安定する
沢に沿って登っていく道なので空気はヒンヤリで気持ちいい。たまに止まって風景を眺めるが、坂道での再スタートが容易なe-bikeだから止まろうという気になれるのだ
前回のe-bike試乗の時にヘルメットの必要性を感じたので、今回はヘルメットとグローブも装備していった

 ちなみに、坂道発進するときはe-bikeを停める前にギヤを軽いほうへ変えておくこと。理由は言うまでもなく再スタートに備えるため。アシストがあるといってもやはりギヤは軽いほうが踏み込みは楽なのだ。と、書いておきながら、実は最初のウチは停まってから「あ……」ということを何度かやってしまった。しかし、そんなときでもアシストのおかげでなんとかなるのである。

 なお、クロスバレーE6180に使っているシマノ製のユニットは停車時にペダルに足を載せたくらいでは反応しないので自然に静止していられるし、ペダルを踏んでクランクが少しまわったところから効くアシストもトルクの出方がスムーズなので不自然に進むこともなかった。

自然の厳しいところほど信仰心が強いと知り合いの神社の宮司さんから聞いたことがある。たしかに登っていくほど祠や神社が増える感じだ
林道の入口に着いた。舗装されている部分が多いが路面は荒れている。また、未舗装区間もあるのでロードバイクは登っていかないようだった
熊はいないと思うが鹿や猪、猿はいるので獣避けのため熊鈴を付けていった。これは黒い部分を引っ張ると「玉」が固定されて音が鳴らない状態をキープできる。車載しているときにチリンチリン鳴らないので便利

 林道に入って感じるのは木陰と沢からの冷たい空気。夏らしく暑い日だったのでこの環境はとても気持ちいい。

 序盤は登り勾配のきつさをあまり感じないので12~13km/hくらいのペースでのんびり上がっていくが、勾配がだんだんきつくなってきたのか、ギヤを徐々にロー側へ切り替えることになり、同時に息切れもしてきた。しかし、その状態でも足がキツイという感覚はないので止まろうという気にはならない。

 そんな状態をしばらく続けていたところ、足より先に体力的な辛さを感じてクロスバレーE6180を木陰に駐めて降りた途端、ドッと息苦しさを感じた。自分でも「疲れているよな」とは感じていたけど、降車後の身体はそんな気楽なモノでなくて、マラソン後に感じるような心肺が「バクバク、ハーハー」というけっこうヘビーな状態になっていた。

 そんな状態なのでとりあえず地面に座り込んでみたけど、それでもどうにもキツイ。そこでいよいよ地面に寝転んでしまう。大きめの石がゴロゴロしていたので背中は痛いけど「それどころじゃない」と痛さを無視して寝転んだままバクバクが収まるのを待った。自転車なので足の疲れが先に来ると思っていたのだけど、そうなる前に体力がここまで削られていたことに自分ごとながらかなり驚いた。

序盤は気持ちいい山道。木陰と沢からの冷たい空気が気持ちいい
未舗装区間にはこんなトンネルもある。写真の向きは登った先からのもの
体力的にきつくなり1度目の小休止。この段階ではまだ多少の余裕があった

 想像以上の体力消耗に驚いたけど、少し休むと復活してきた。林道の終点まではあと少しなので水分を補給して再スタート……とここでやらかしてしまった。アシストユニットは一定時間入力がないと自動でOFFになるのだが、それを忘れていてアシストなしで坂道をこぎ出してしまう。よろよろと走り出したときに「あ!」と気がついたけど時すでに遅し。漕いだのはホンの少しの距離だが、それでも復活した体力と気力を使い果たしてしまったようで本気で限界を感じた。とはいえ、止まったのがとくに目印になるモノがない中途半端な場所だったので、再び休憩したあと、名所になっている滝までは登って、今回はここをゴールとした。

 林道の終点まであとちょっとだったので、気持ちとしてはかなり悔しい。でも、息が整ってくると「やるだけやった」という達成感もこみ上げてきて、まんざら悪い気分ではなかった。

小休止の間にアシストが切れていた。それに気づかずスタートしたので残っていた体力を使ってしまう
気がつくとギヤもいちばん軽い位置になっていた。勾配が急にきつくなったわけではないので、それだけ体力が厳しかったということか
林道終点近くにある小滝という場所をゴールとした。この時点では疲れもあって写真を撮るのも大変。しかし、体力不足を痛感した
下りの帰りは余裕があるのでルートの途中にある「大岳鍾乳洞」へ寄ってみる。中を歩くほどの体力はないので受付の方に話を聞いた
大岳鍾乳洞内部は12~13℃の気温とのことで、厚意で鍾乳洞入口まで行かせてもらったが、洞の奥から吹く風はほぼ冷気。すごく気持ちいい場所だった。次回行くときは鍾乳洞内を見学したい
大岳鍾乳洞には駐車場もあるのでクルマで行くことも可能。上流ではキャンプ場も経営している
下りの未舗装路。フロントショックとダート向けのタイヤのおかげでスピードが載った状態でも安定して走れた。ただ、ブレーキの効きがいいので未舗装路では慎重に操作しないとロックさせやすい
下りは森や沢からの冷たい空気を切って走れるので本当に気持ちがいい
都道まで出て川に沿って下る。学校は夏休みに入っている期間だったが、人にはあまり出くわさない日だった

 今回は予想以上にキツイ思いもしたけれど、終わったあとは爽快な気分。序盤の坂道から林道と、アシスト付きとは言え自分の足で漕いで登ったことの満足感や運動したあと独特の気持ちよさをたっぷり味わうことができた。まぁ、途中でヘバったことに悔しい気持ちもあったけれど、そこから「ちょっと体力付けようか」みたいなやる気も湧いてきたのでこれも大きな収穫だ。

 とにかくN-VANにクロスバレーE6180を積んで山道に来たことは自分にとっていい刺激になったことは確か。キツイ思いをした甲斐は十分にあったと思っているし、悪路走破性がありモーターのアシストもあるクロスバレーE6180でなければこの経験もできなかったので、貸して頂いたホダカさんには感謝である。

 ということで、N-VANを使って何か運動をしてみたいと思っている方がいたらe-bikeの積載をお勧めしたい。そういう筆者も……現状、e-bikeがかなり欲しい気持ちになっている。

無事にN-VANまで戻ってこられた。林道で疲れたぶんは帰り道の下り坂ですっかり復活。もう少し周辺を走ってみようと思ったが、調子に乗るときっといいことはないのでやめておいた。ちなみにこの取材以降、体力付けはホントに始めていているので同じコースをリベンジしたら今度はヘバらず登れるはず!?
N-VANは軽貨物の中でも荷室の床が低床、それに冒頭で書いたようにフックの数が多いので積むのが楽。e-bikeに限らず、遊び道具の積み降ろしに手間が掛からないのは、継続してその遊びをやっていくうえでけっこう大事なところだと思う
ぜひN-VANにe-bikeを搭載して遊んでみてください

深田昌之