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広島マツダがレースやチューニングパーツに力を入れる理由とは? 松田哲也CEOとレイズ 執行役員 山口浩司氏に聞く
- 提供:
- 株式会社レイズ
2021年7月26日 08:00
オリジナルブランド「HM RACERS」を展開する広島マツダ
広島のマツダ本社からほど近い場所にある広島マツダは、ディーラーという枠組みにとらわれることなく活動を進めている類稀なるちょっと面白い存在だ。現在はスーパー耐久シリーズに参戦するほか、「HM RACERS」というオリジナルブランドのチューニングパーツを開発・販売しており、マツダ車をとことん楽しめる環境を構築している。
商品群はあらゆる領域に広がっていて、車高調整式サスペンションから対向ブレーキキャリパー&ローターセット、マフラー、エアロといったものまで幅広い。さらにホイールに関してはアフターパーツとしては世界的に信頼を得ているレイズとタッグを組み、ユーザーへ向けて新製品をいち早く提供できる体制を整えており、マツダ車に対してのマッチングノウハウは相当に積み上げている。
チューニングパーツメーカーのアンテナショップかと見まがうほどの販売、装着体制がここには存在する。いちディーラー網がここまで積極的に走りに対して真摯に向き合うことができた理由は何か? 広島マツダの代表取締役会長兼 CEOである松田哲也氏、そしてHM RACERSをサポートするレイズの執行役員であり、鍛造事業戦略推進室 室長の山口浩司氏にその経緯を聞いた。
みんながレースやクルマに夢中になり、いい研修の場に
「私たちの広島マツダは1933年からマツダ車を販売していますが、レースやチューニングに関わり出したのはまだ数年前のことなんです。きっかけはGLOBAL MX-5 CUPというレースで、そこに参戦することがきっかけでした。長年われわれのディーラーを支えてきてくれた定年間際の熟練サービスメカニックがトライしたいと言い出しまして。その人は広島マツダの大功労者だったし、少しでも恩返ししたかった。そんな気持ちから始めたんです。でも、関わってみたらレースはとても奥が深く、短期的に結果が出る勝負はやっぱり面白いんですよ。普段は販売台数を積み上げて結果を出していくという長期的なものなので、勝負している感覚が薄いんです。初めは正直に言って興味は薄かったのですが、いつもの世界とは全く違う環境に関われば関わるほど、どんどんのめり込んでいったというのが始まりですね」
松田氏はその後、GLOBAL MX-5 CUPが終了したことをきっかけに、今度はスーパー耐久(ST-5クラス)にデミオで参戦。「身近なマツダ車がどこまで戦えるのか?」という命題に社員全員が熱中していくことになる。
「われわれのチームは1年間、同じ体制で編成していくような通常のレーシングチームとは異なり、20店舗ある広島マツダのディーラーメカニックがその都度選ばれ、サーキットへと派遣されていくスタイルなんです。ゼロベースからレースの世界に飛び込まされることで苦労もあったかと思いますが、参戦を続けていくにつれて2巡目、3巡目になるメカニックも増えてきました。最近では少しでも早くクルマを整備したり、直したりというモチベーションも高まっているように感じます。レースが社員研修の場になるというのは後付けの言い訳だったんですが、今ではみんながレースやクルマに夢中になり、いい研修の場となっていることはたしかですね」。
デミオをレース仕様にするとなれば、やはりあらゆる部分の改造が必要になってくるもの。ボディや足まわりの改造に始まり、耐久性を確保するための対策など多岐にわたることは周知の事実。なかでもその根幹を支えるホイールについては、たしかな製品を選びたいとレイズの門をたたくことになる。その当時のことをレイズの山口氏はこう振り返った。
「レースに参戦するディーラーさんはいろいろありますが、広島マツダさんはとても真摯にレースに対して向き合っている印象が残っていますね。GLOBAL MX-5 CUPに参戦されていたことも存じ上げていましたし、そこからスーパー耐久への参戦となった段階ではあえてデミオを選ぶなど、いきなり上のレースに行こうとせず、着実にスキルを積み重ねていくスタイルに好感を持ちました。また、HM RACERSというブランドを立ち上げ、今年になってからチューニングパーツをラインアップしはじめ、2022年の東京オートサロンへの出展も視野に入れるなど、これからの展開が楽しみなところもある。いま注目のブランドでありレーシングチームですよ」。
現在、広島マツダ 大州本店のショールーム2階には自動車ディーラーとして異質な光景が広がっている。ドレスアップやチューニングが施されたストリートカーやレースカーがところ狭しと並べられている一方で、チューニングパーツやホイールの展示、そしてレーシングシミュレーターまでもが準備されている。見ているだけでもワクワクでき、これからどうクルマをチューニングしていくかが考えられ、さらにドライビングまで学べてしまう環境が整えられているのだ。
広島マツダ、そしてHM RACERSがそれだけ本気で走りの世界を見つめているのかを肌で感じられるその空間は、クルマに対する夢が確実に広がっていきそうだ。レースだけでなくオリジナルブランドを造ってまでこの体制を構築した理由は何か? 再び松田氏にうかがう。
「レースの世界ではまだ1回優勝を手にしたくらいで、誇れるような戦績も経験も少ないのですが、この取り組みを積み重ねて信頼を得られるように努力したいと思います。決して撤退せず継続するつもりです。その上でレースもチューニングカーも面白いんだよってことを少しでも多くの人に伝えたいのです。メーカーから出てくるクルマをそのまま乗っていることでも十分に楽しいのですが、自分流にアレンジしたらもっと面白い世界が広がっているということをね。そのための空間がここなのです」
レイズの山口氏がそれに付け加える。
「レイズのホイールは、おかげさまであらゆるモータースポーツで採用され、例えばル・マン24時間では3連覇を達成することができました。しかし、レースで好成績を残せたからといっても売り上げが倍増するようなことは残念ながらありません。けれども、長年レース活動を継続していると『レイズってなんかいいんだよね』と言ってもらえることが増えていくんですよ。広島マツダのHM RACERSも、きっと同じ道を歩むブランドだと信じています」。
2人の話を聞いて感じたのは、広島マツダ、レイズともに自動車文化やレースの発展に少しでも貢献できればという思いだ。それはデミオというわれわれに身近なクルマでどこまで頑張れるのかというチャレンジ精神からも感じ取れるし、レースという特殊な場で鍛えられることで広島マツダのメカニックが着実に成長していることからもうかがえる。この場で得た知識や技術は着実にわれわれが普段乗るクルマに反映されるし、HM RACERSがリリースするオリジナルパーツの開発に大いに役立っているに違いない。ディーラー発のレーシングチームとチューニングブランドが今後どう飛躍して行くのか? 「HM RACERS」のこれからに注目したい。
Photo:清水良太郎