トピック

高性能+安全性というレイズの最新 VOLK RACING ホイールの今を知る(後編)

鍛造スポーツホイールの開発製造現場の最先端を聞いた

VOLK RACINGホイールの設計を行なうレイズR&Dで、ホイール製造の最先端をみせてもらった

メイド イン ジャパンのホイールメーカー「レイズ」

「クルマが趣味」というのは、何も“走り”を楽しむことだけではない。“クルマそのもの”や“パーツ”などの機械的な魅力に惹かれるのもまたクルマの趣味の1つ。「作り手のこだわり」や「作るための技術」を知って感心・共感することも、とても楽しいことだ。

 だからクルマ好きの人はクルマの性能や機能にこだわるし、クルマにいい変化を与えることができるアクセサリーやカスタマイズパーツにはおおいに興味を示す。Car Watch読者にもカスタマイズ好きが多いのではないだろうか。

 そこで日本のホイールメーカー「レイズ」の協力を得て、製品開発に関する取材ができることになった。レイズはF1やWEC、SUPER GTのホイールから市販ホイールまで、すべての設計から製造までを自社グループ内で完結できるところだけに、とても興味深い内容が聞けたので、ぜひご一読いただきたい。

前編ではGRスープラが装着する「GT090」と、スタイリッシュな鍛造スポーツホイールである「G025」を紹介した
話を聞いたのは株式会社レイズ VOLK RACING企画開発部長の山口浩司氏
レイズR&Dで解説をしてもらった株式会社レイズエンジニアリング 設計開発部 部長の伊藤和則氏
レイズのVOLK RACING 2021年春モデルに注目! 高性能な新世代鍛造ホイールの今を知る(前編)

https://car.watch.impress.co.jp/docs/topic/special/1298340.html

ホイールの強度と剛性について

 まずはホイールの記事に必ず出てくる「剛性」という用語の説明をしておきたい。似た言葉として「強度」があり剛性とイコールと思われがちだがこれはまるで違うものだ。

 では、剛性とは何を示すのかというと「曲げ」や「ねじれ」に耐える力のことでモノの固さを表すもの。ホイールでは剛性が高いほどたわみや衝撃に対して強くなる。

 対して強度は重さに対して耐える(壊れない)値で、例えばミニバンなどにも付いているシートバックの簡易テーブルに「耐荷重5kg」と書いてあればそれが強度。5kgの重さまでのモノであれば載せても「壊れない」ことを示している。強度という名前から固さと混同しがちだが、これらはまったく違うものなのだ。

 そしてもう1つ必ず出てくる「鍛造(たんぞう)」と「鋳造(ちゅうぞう)」という言葉。これは製造方法を示しているが、同じアルミ素材でも性質的に剛性が高いのは鍛造。そのためJWLのように試験内容を揃えた安全基準でホイールを作ると、鍛造ホイールのほうが肉厚を抑えたり、スポークをスリムにすることが可能だ。そういった理由からスポーツホイールでは鍛造製法が多く使われている。

鍛造ホイールは剛性が高いので鋳造ホイールよりも安全基準をキープした状態でホイール各所の肉厚を薄くすることが可能。ここがいちばんの特徴

最新のシミュレーション解析を駆使して作るVOLK RACINGホイール

 さて、ここからがホイール作りの本題。レイズはホイール製造をグループ内で完結できる組織になっているが、その中で研究開発を受け持つのがレイズエンジニアリングのレイズR&Dという部門だ。

 レイズが新しいホイールを企画したり既存ホイールのサイズ展開を広げる場合は、レイズR&Dに対象車種、コンセプトやデザイン、そしてサイズ展開などの情報を伝える。するとレイズR&Dは要件をもとに3Dデータを作成するのだが、3Dデータを作るソフトはデザインを立体的に見るだけでなく、ホイールが回転している状態で負荷(衝撃など)をさまざまな角度からデータ上のホイールに加えることが可能という。負荷がホイールにどう影響を与えるのか? どこが構造的に弱い部分になるのか? といった詳細な解析を行なえるということだ。ちなみにこの3Dソフトはレイズ独自のモノだという。

レイズR&Dでは独自の解析ソフトを用いてホイールの設計を行なっていて、最初は山口氏から渡される要件とデザイナーが描いたデザイン画から、叩き台となる3Dデータを作るという

 取材現場では解析データを見せてもらったが、これがとても興味深い。データ上で力が集中する部分が色分けして表示されているのだけれど、スポークの付け根など負担を受けやすそうな箇所が弱い部分になるのかと思いきやそうではなかった。

 形状的にとくに細くない箇所が弱いと表示されたり、加わった力の向きとも関連性がなさそうな部分に強い負荷が掛かっているケースもあった。

 また、応力が掛かるとホイールがどのように変形するかを、視覚的に分かるようにアニメーション表示もできるので、これらの機能を使うことで、剛性を高めるにはどこをどう改良すればいいのかハッキリ見えてくるのだ。そして問題があった点の手直しをしたあと改めて解析を行なうという行程を繰り返していくという。

公開してもらった解析画面の一部。3方向から入力を入れコーナリング剛性を見ているものだ。変形度合いは見やすくするために実際の歪みより大きな動きで再現している
実際の動きではないが、それでも強い力が掛かるとホイールには変形が生じる。その傾向と度合いをデータでチェックすることで効果的なデザイン修正を可能としている
これはインナーリムの変形をシミュレーションしたもの。ここも変形の度合いを見やすくするため実際より動きを大きく表示している

 このような過程を経て承認された3Dデータができ上がると、次の行程が金型の製作になるのだが、この金型もレイズR&Dが設計、製作しているから驚きだ。

 VOLK RACINGは、サイズや設定車種ごとに同一ホイールであってもディスク面の形状を変えている。理由はクルマに装着した際のスタイリングをよりカッコよく見えるようにするためだが、こうしたルックスを実現する凝ったデザインにするには、鍛造工程で一方向から押すだけでは実現できない。しかし、VOLK RACINGホイールでは形状が複雑であってもパートごとに分けた金型を設計して対応しているという。

 また、鍛造成型後に機械加工で削りや穴開けを行なうホイールもあるが「TE037」や「G025」のように正面から切削刃が入れられないデザインの場合は専用の工作機械までレイズR&Dが作っているという。鍛造の金型や機材まで自社製となればVOLK RACING製品と似たデザインの鍛造ホイールは他社では絶対に作れないということでもある。

レイズR&Dは鍛造ホイールの設計のほかに鍛造工程に使用する「金型」の設計、製造まで受け持つので、提示された特徴的なエッセンスや表現などの要望を実現するための金型をどうやって作ればいいのかまで検討し、具現化している
レイズは業界が定める安全基準の遥か上をいく独自の品質規格である「JWL+R SPEC2」を定めているが、これもシミュレーション解析を使用するからこそ実現できるという
負荷の掛かり方や変形の仕方などを確認しつつデザインを修正していくため、GT090やTE037のスポーク側面のウェイトレスホールという貫通孔を入れたデザインや、G025のような細いスポークを持つ形状が成立するということだ。画像はGT090
画像はG025。スポークが非常に細く、スポーク付け根部分などには軽量化とデザイン性アップのための削りこみ&穴開け加工も施される。一見すると強度、剛性的に無茶な作りに見えるが、最新の解析によって「安全」が保証されたデザイン
アルミ素材は製造方法や添加剤のチューニングによって性質が決まるので、レイズでは自社の基準に合うアルミ素材を用意して「安全であること」を確実なものとした後に、カッコよさや軽さなどを求めて開発を進めるという
これはSUPER GT用のホイールの剛性を解析したシミュレーション画面。変形率は見やすいように極端に表現している
2018年モデルと2020年モデルの比較。設計をアップデートしているので、2018年モデルよりも2020年モデルのほうが歪みが少なくなっている。開発中の最も新しいホイールは、さらに別の角度からも解析を進めているとのことで、より剛性が高く「勝てるホイール」になるという

次の時代に向けた鍛造スポーツホイールを作る

 レイズR&Dで設計現場を見せてもらったあとはレイズのVOLK RACING企画開発部長の山口氏からあるホイールの紹介を受けた。それが2021年1月に発売された「TE37 SAGA S-plus」というモデルだ。

これがTE37 SAGA S-Plus。次の時代のハイパフォーマンスカーを見据えた剛性を持つホイール。鍛造スポーツホイールの代表格であるTE37シリーズはまさに進化と呼べる道を辿っている

 VOLK RACINGの代表的な銘柄は1996年に登場したTE37である。この時代はスカイラインGT-R、スープラ、シビック、ランサーエボリューション、インプレッサWRXなどスポーツ走行向けのクルマが数多く登場した頃で、チューニングやサーキットスポーツ走行ともに盛り上がっていた。そしてTE37はそういったクルマに乗るオーナーに支持され、TE37の名前はスポーツ走行用ホイールの代名詞となった。

 しかしクルマとチューニングは年々進化をしていくため、TE37にもクルマなどと同様に進化が求められるようになってきた。そこで2016年に新規の設計、新規の金型を用いて「TE37 SAGA」をスポーツ走行シーンへ投入。サーキットを走るユーザーの期待に応えたのだ。

 現在もSAGAはサーキットにおける一線級のホイールなのだが、クルマの進化は止まることなく進んでいるし、今後はエンジンに加えてモーターや、トランスアクスルとモーターとインバーターなどが1つになった駆動モジュールなど、次世代のパワーユニットを積むクルマも出てくる。そういった流れから2016年と同じく「次のSAGA」が必要になってくるのだという。

 そこでレイズはTE37 SAGAに改良を加え、持久耐力を17%、剛性数値を7%という性能向上を行なったマイナーチェンジモデル「TE37 SAGA S-Plus」を作りだしたのだ。

TE37 SAGA S-Plusを装着したスバル WRX STI

 そのTE37SAGA S-Plusに施されたアップデートについてレイズの山口氏は「方法としてはSUPER GTマシン用のホイールを開発しているのとまったく一緒ですし、性能面も安全性という面でも飛び抜けています。だからTE37 SAGA S-Plusはスポーツホイールながらレーシングホイールに近い存在といえるものです」と語った。

 先の時代を読む新作アルミホイールという点もこれまで聞いたことないものだし、アルミホイールの新製品において「剛性が何%向上した」とハッキリ語るモデルは多くないだろう。しかし、前出のレイズR&Dでのシミュレーション解析という技術とホイール作りのこだわりを知ったあとなら、レイズが「正確な数値を提示する」ことはとても納得できる。

 このような過程を経て製造されているVOLK RACINGのホイール。剛性の高さや軽さについてなど、スポーツ走行の必要な性能を出すために並々ならぬこだわりを持って追求していることが伝わってきたかと思う。もし、近々愛車用のアルミホイール交換を予定しているなら、その候補にVOLK RACINGのホイールも入れてみてはどうだろうか。