トピック

レイズが誇る数々の特許技術。ホイールに刻まれたブランド価値を高めるための技術に迫る

独自製作のマシニングセンターによる彫刻加工技術、クリア塗装にも独自のノウハウがあった

技術を別のかたちで表現するために生まれてきた彫刻加工

 ホイール老舗メーカーのレイズは、同社が所有するホイール表面処理に関わる特許および意匠知財についての説明会を、大阪府東大阪市にある本社にて開催した。出席者はレイズから代表取締役の三根茂留氏と執行役員 第一商品企画部 部長 加藤照幸氏、そしてグループ会社であるレイズエンジニアリングから設計開発部 部長の伊藤和則氏の3名。今回は新型コロナウイルス感染症の広がりが懸念される中での開催ということで、会場に入室する人数も制限された。また、登壇者同士の間隔も広く取るなどの対応が取られた。

左から株式会社レイズエンジニアリング 設計開発部 部長 伊藤和則氏、株式会社レイズ 代表取締役社長 三根茂留氏、同 執行役員 第一商品企画部 部長 加藤照幸氏

 レイズはアフターマーケット向けに嗜好性の高いアルミホイールを製造販売しているメーカー。また、昨今では自動車メーカーからの依頼で純正ホイールの開発、製造も行なっているが、幅広い車種用を作っているということではない。実名を挙げると日産自動車の「フェアレディZ」や「GT-R」など、高い品質と性能を求められる限られた車種用のみを手がけている。

 さらにモータースポーツの世界でも多くの実績を持っていて、代表的なところではル・マン24時間レースで1991年に優勝をしたマツダ787B、同じく2018年と2019年に優勝したTOYOTA GAZOO RacingのTS050ハイブリッド、そしてF1のウィリアムズチームへのホイール供給などを手がけた。国内のSUPER GTではGT500、GT300両クラスで使われており、2020年シーズンも日産のGT500マシンなどへ供給している。

日産 GT-R ニスモ用の20インチホイール
日産 GT-R 50th Anniversary用の20インチホイール
マツダ ロードスター 30th Anniversary Edition用の16インチホイール
レース用ホイールも数多く手がける。これはトヨタのWEC(FIA世界耐久選手権)マシン、TS050専用に製作したマグネシウム鍛造ホイール。SUPER GTにおいてもGT500マシンおよびGT300マシンにホイールを供給する
株式会社レイズ 代表取締役社長の三根茂留氏

 さて、日本のアフターマーケットにおけるアルミホイールだが、レイズの三根社長から「現在はほかの製造業と同様に多くの製品が中国の工場で生産されるようになった」と語られた。もちろんそのことがよくない訳ではないが、レイズは創業以来、メイドインジャパンであることを貫いている。そこで三根社長は「商品としての質の向上を図るなどの差別化が必要でした」と言う。そんな考えの中で誕生したのがレイズを代表するTE37シリーズなどである。

 このTE37シリーズもそうだが、レイズのホイールは「軽さ」や「高剛性」であることが特徴なのだが、三根社長はこれを「大変重要なものでありますが、軽さや剛性というのは目で見て分かるものではありません。そこでわれわれが持つ技術を別の形で表現することが必要と考えたのが、今回ご紹介させていただく表面処理技術です」と語った。

新しい文字入れ技術の「A.M.T.(特許番号 P6153437)」とは

株式会社レイズエンジニアリングの設計開発部 部長の伊藤和則氏

 では、その技術の紹介をしていこう。まずは「RAYS ADVANCED MACHINING TECHNOLOGY(以下A.M.T.)」という技術だ。A.M.T.の解説はレイズエンジニアリングの伊藤氏が担当。伊藤氏によると、アルミホイールにおいてブランドなどを表す場合は、金型を用いて文字や記号などを入れたり、ステッカーやプレートを貼り付けたりしていくことが一般的であるという。

 しかし、金型を使った文字入れでは塗装をした際に文字が見えにくくなることがある。それに別の金型を用意する必要があるため、どうしてもホイールの価格が高くなる傾向になりやすいという。ではステッカーはというと、ブレーキディスクから伝わってくる熱で高温になるなど、どうしても剥がれや劣化が起こりやすく、対策としてステッカーの上からクリア塗装をしたこともあったが、それでも納得いく効果は得られなかったという。

 そこでレイズが取り入れたのがA.M.T.と呼ぶ技術。これはマシニングセンターという高性能な切削機械を用いてホイール天面に文字などを入れていく加工だが、最大の特徴は「ホイールの塗装を完了したあとで文字を掘る」ということ。こうすることで、アルミの素材感をデザインの一部として使えるようになるので、独特の質感を作ることができるのだ。

 また、A.M.T.では切削刃による「刃物目」をあえて残す仕上げにすることで、文字という細かい部分に凹凸の筋を連続させることを実現した。この加工部分は芸術的な彫刻のようでもあるし、日本庭園に見られる枯山水のようでもある。

伊藤氏によるA.M.T.の解説。従来はステッカーで表現していたロゴなどをホイール天面にマシニングセンターによる切削加工で入れていく技術だが、写真のように刃物目をあえて残すことで凹凸を連続させる彫刻的な加工とした

 さて、A.M.T.だがこの技術は前記したようにホイールの塗装を完了したあとに行なうものなので、削りのミスは一切許されないというシビアさがある。それに塗装後にまた削ることは工程(部署)の差し戻しになるので、量産品を作る現場的には非効率である。いいものは作りたい、だけど量産では手間や時間が掛かりすぎないことも重要な点になる。

 こうしたジレンマを解消するために、レイズエンジニアリングはA.M.T.を量産ペースで行なえる加工機材を独自で製作したと言う。伊藤氏からこの話を聞いたときは「そんなことが可能なのか?」と思ったが、なんとレイズエンジニアリングには社内に設備設計課という機材を自前で作るための部署まであった。そしてその部署で作られた自社製マシニングセンターにより、難易度の高い彫刻加工を量産品として通用する作業速度と品質で実現したのだ。

 また、伊藤氏は「レイズは鍛造から塗装までのすべての作業を自社工場で行なっている強みがあるので、工程を戻すという複雑な状況もこなせる社内体勢も整っている」と解説した。さらに製造現場の従業員について「自分の担当する行程の次に控える人に“いいもの”を渡すという気持ちをみんなが持っている」と紹介し、これを「優れた機材を使うこと以上にA.M.T.を完成させるのに重要なこと」とまとめた。

A.M.T.の技術が初めて商品化されたのは2012年に発売されたTE37SLリミテッドから。すでに8年の歴史がある表面処理技術だ。そしてこの技術を量産品に使うために専用のマシニングセンターも自社で開発した

クリアの塗り方にも独自のノウハウがあった

 自社製マシニングセンターを使用しての加工が終わると、ホイールは再び塗装部署に渡される。そして最後の仕上げとして有色もしくは無色のクリア塗装が行なわれるわけだが、彫刻加工によって作った凹凸をきれいに表現するためクリア層の厚みが一定になる塗装法も取り入れているので、文字や記号に光が当たった際にはその光の反射や屈折がクリア層にジャマされることなく、彫刻加工ならではの立体的な見え方になる。というところまでがA.M.T.の特許となっている。

 なお、この工程でのクリア塗装はホイール全体に塗られるものでもあるが、レイズのホイールはA.M.T.部以外も造形の妙からの陰影の付き方や見え方にこだわっている箇所が多くあるので、クリア層の厚みを均一にする塗り方はA.M.T.部に限らず、ホイール全体において重要となる。そのためホイール用の塗装機材も自社独自のものを使用しているのだ。

A.M.T.によるロゴ入れの実例。光の当たり具合によって陰影がつくので独特の質感になっている
GT-Rニスモ用ホイールではリム部にNISMOのロゴがA.M.T.で彫られている
GT-R 50周年記念車用ホイールには50th Anniversaryの文字が彫られているが、この部分に彫刻ができるのもA.M.T.ならではのこと。なお、クリア塗装もレイズ独自の技術で塗られたもの
ロードスター30周年記念車用ホイールはZE30がベース。リム部に30th ANNIVERSARYの文字が彫られている

切削加工で広げる色の表現法「REDOT(特許番号 P6417131)」

 続いて紹介されたのが、こちらも特許技術の「REDOT(アール・イー・ドット)」で、これはベースの第1カラーの上にアクセントとなる第2カラーを載せたディスペンサーをNCプログラムに従って送り、速度と塗料吐出量の双方を制御しながら線や点を描くように描画で表現したいデザインを短時間で作り出すことができるものだ。

 似たようなことはマスキングして塗装すれば可能だろうが、REDOTであればホイールのサイズ違いごとに「デザインの入れ方を少し変えたい」という変更にも柔軟に対応できるのもメリットだ。

 なお、A.M.T.は鍛造した面に刃物を入れる加工であるが、ホイールの強度や耐久性に関して影響はないとのこと。そして現在はA.M.T.とREDOTの2つをあわせて作る新意匠ダブルカラー+彫刻により製法についても申請していて、こちらは特許査定済という段階にあるとのことだった。

特許技術の「REDOT(アール・イー・ドット)」のカラーリングとマシニング切削を組み合わせた技術を使ってラインを彫り込んだもの
VIAなどの記号も金型による押し出しではなくA.M.T.などのマシニング加工にて処理するとデザイン性が高まる
A.M.T.とREDOTを使用することでこれまでにないメカニカルなデザインが作り出せる。レイズにおけるホイールデザインの表現力はまだ高まるのだ

 以上がA.M.T.およびREDOTの技術の概要だが、レイズといえばホイールの強度解析や設計、それに鍛造用の金型製作技術のようにホイールの性能向上に結びつくことを一生懸命やるメーカーというイメージがあるだけに、あくまでもデザインの一部でしかないA.M.T.やREDOTについてはちょっとした意外さも感じた。そこでこの点について聞いてみたところ納得の回答をいただいた。

 前出のとおり、A.M.T.やREDOTは特殊な切削技術を要するので、量産ホイールに採用するために加工機材から自社で作っている。これはものづくりに取り組む真摯な姿勢を表すものであるし、技術力の高さを表現するにも十分すぎるもの。すなわちA.M.T.やREDOTを使って入れるブランド名などの文字や記号は、レイズの技術力の高さを目で見て分かるようにしたものであり、そこから軽さや剛性の高さなどホイールに盛り込まれている別の技術を意識して欲しいというわけなのだ。記事の前半、三根氏が語っていた「軽さや剛性は目で見て分かるものではないから別のかたちで表現する」ということなのだ。

1996年に登場したフル鍛造のF-ZERO。リムにある造形は金型によって作ったものだが、形状的に鍛造でどうやってこの造形を入れたのかが不思議に思うデザインだろう。実は1ピースに見えるがディスク面が別体の2ピース構造なのでこのデザインが実現した。当時から独創的な高度な技術を持つメーカーだったという一例

優れた意匠性を実現する「ハイブリッドマシニング(特許番号 P6708905)」

株式会社レイズの加藤照幸氏

 続いて紹介するのが「ハイブリッドマシニング」という特許技術だ。こちらはレイズの加藤氏が解説を担当した。

 さて、ハイブリッドマシニングは優れた意匠性を発揮するための機械加工を施した形状(デザイン)こと。つまりA.M.T.やREDOTとは違い、技術によって作り出した形状に掛かる特許となる。

 ではその形状を説明しよう。写真のホイールには独自の意匠性を持たせるためにダイヤモンドカットと呼ばれる2次元面への加工と壁面への3次元面加工などが施されているが、こうした加工法の違いがあれど「連続した1つのデザイン」であるように仕上げることがハイブリッドマシニングの特徴である。

 この加工を用いることで2次元面と3次元面の境にはシャープなラインが生まれるのだが、実はホイールには製造時に多少の歪みが生じている(品質の基準があり、そこに収まるものだけが製品になる)ので、歪みがあるものでは斜め線の傾きがスポークごとに変わってくることもある。そのためハイブリッドマシニングでは加工時に専用のタッチセンサーなども用いて歪みがあった場合、適切に修正しているという。

ハイブリッドマシニングの解説。異なる加工面を連続した1つのデザインとすることがポイント
ハイブリッドマシニングを用いたデザイン面。スポークの正面部分は2次元面加工のダイヤモンドカットで、中心に近い壁面部はマシニングセンターによる加工だが、これらに連続性を持たせるようにエッジ部分の加工に独自の技術も盛り込んでいる

 最後にもう1つ、加藤氏が強調していたコメントを紹介しておこう。今回紹介されたA.M.T.は2012年から製品に採用され、特許としては2015年に公開されたものだが、なぜ今あらためて取り上げられたのかに関して不思議に思うところもあったが、これは後述するレイズの大規模イベントに関連することであるのがいちばんの理由だった。そしてもう1つの理由として、加藤氏は市場に出回っているコピー品、類似品を作る企業へのメッセージという意味も兼ねていると語った。

 レイズは創業以来、独自のアイデアと技術でアルミホイールの製造販売をしてきたメーカーで、市場においては常に高い人気を保っている。そして今回のA.M.T.やREDOT、ハイブリッドマシニングだけでなく、いつの時代も優れたアイデア、技術を生み出していて、それこそがレイズ従業員すべての誇りであるとのことだ。

 しかし、人気がある製品においてはどうしてもデザインや技術のコピー品、類似品が出てくるもの。レイズとしては自分たちの仲間が何年も苦労して作りあげたものを大事にしたい気持ちが非常に強く、そこで市場および業界にレイズの所有する技術や知的財産を改めて周知してもらうため今回の説明会を行なったとのこと。そして今後、これらのことを侵害する製品に対しては強い態度で臨むということも語られた。

最後に加藤氏からレイズが持つ技術や特許を侵害する製品についての厳しいコメントが語られたが、これは仲間が苦労して作りあげたものを大事したい気持ちからの発言だった

8月10日に「RAYS WORLD TOUR IN JAPAN」を開催

 レイズは例年、海外での販促活動として「RAYS WORLD TOUR」という製品展示会をアジア各国で開催している。2020年も同様に開催の予定だったが、新型コロナウイルスの影響が世界規模におよんでいることから、海外での開催を中止することになった。その代わりとして8月10日に富士スピードウェイを会場とした「RAYS WORLD TOUR IN JAPAN」を開催するという。

 このイベントでは新作展示、新製品装着のデモカー展示に加えてレイズ製のアルミホイールを履くSUPER GTマシン(GT500)の展示なども用意される予定だが、新型コロナウイルス感染拡大予防の観点から公開はマスメディアなどに限られ、販売業者を含む一般の観覧はできなくなっている。

 しかし、イベントの模様はYouTubeの「RAYSWHEELS Channel」とFacebookの「Home to Volk Racing」にてライブ配信が行なわれるので、この「RAYS WORLD TOUR IN JAPAN」に興味のある方は、ぜひライブ配信をご覧いただきたい。10時~14時までの開催予定となっていて、配信もその時間内で行なわれるとのことだ。

※撮影用にマスクを外しています