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ボッシュ、コネクテッドカー時代に向けた車載コンピュータとFOTAのビジョンを説明

未来の自動車は車載コンピュータ搭載で、オンラインアップデート可に

2017年1月18日 開催

ボッシュが製造している、複数のECUを束ねたゲートウェイ「セントラルゲートウェイ」

 世界最大の自動車部品メーカーであるRobert Bosch GmbHの日本法人のボッシュは1月18日、東京ビッグサイト(東京都江東区有明)で開催されている「第9回 オートモーティブワールド」(会期:1月18日~20日)の会場で記者説明会を開催。今後、IVIの高機能化や自動運転の採用といった将来を見据えて、より高度な車載コンピュータが搭載される時代に向けた取り組みを説明した。

 ボッシュによれば、「セントラルゲートウェイ」と呼ばれる複数のECUを束ねるゲートウェイ製品が2016年に登場しており、2019年にはそれがインターネット常時接続機能を持つ「コネクテッドゲートウェイ」に進化。さらに2022年以降には「ビークルコンピューター」とボッシュが呼んでいる車載コンピュータが登場する見通しだという。そして、スマートフォンなどと同じように基本ソフトウェアなどをネットワークを通じてアップデートする「FOTA(Firmware update Over The Air)」と呼ばれる仕組みが同時に導入されていくことになるとボッシュでは説明している。

FOTAは今年末から導入を開始。2022年にはビークルコンピュータを提供

ボッシュ株式会社 オートモーティブエレクトロニクス事業部長 石塚秀樹氏

 説明会でボッシュ オートモーティブエレクトロニクス事業部長の石塚秀樹氏は「“ムーアの法則”に支えられる進化が早い半導体の搭載や通信速度の向上などにより、自動車の電気化、自動化、ネットワーク化が急速に進んでいる。ボッシュも2021年に『ハイウェイパイロット』の量産を計画しているが、弊社独自の調査では、2025年までドライバーが運転のために使っていた時間が、年間100時間を別のことに使えるようになり、コネクテッドカーの市場規模は年率25%という高い成長率が期待されている」と述べ、半導体を利用する電気化、自動化、さらにはインターネットへの常時接続機能などが自動車に急速に搭載されることで、いわゆるコネクテッドカーと呼ばれるインターネットに常時接続されている車両が今後年率25%で増えていくだろうという見通しを明らかにした。

 石塚氏は「現在の自動車には70~100程度のECUが搭載されており、CANなどの車内ネットワークで接続されている。自動運転ではそれらが相互に接続されてデータのやりとりを行なう必要があり、そうなるとデータ量が増大して『データの渋滞』とでも言うべき、帯域幅が足りない事態が発生する。現在のシステムではパワートレーンやIVIなどがドメインごとに接続されているが、自動運転などを実現していくにはそれぞれのドメイン(領域)を越えた通信が必要になり、それらを束ねるセントラルゲートウェイを設けて制御するという仕組みが必要になる」と述べ、まずは現在、クルマの各部分ごとにドメインで分割されているECUが、セントラルゲートウェイでまとめられていっている状況だと説明した。

セントラルゲートウェイ
ボッシュが紹介したセントラルゲートウェイの実例。右側が日本メーカー向け、左側が米国メーカー向けのものだという
セントラルゲートウェイの説明
FOTAの解説

 このセントラルゲートウェイというのはクルマにとってのルーターのような存在で、各ドメインを束ねる目的と、インターネットにアクセスするときに車内の各部分からのアクセスを束ねてインターネットにデータを流す役割を果たしている。このため、悪意のあるハッカーからの侵入検知などのサイバーセキュリティ対策、さらには無線機能を利用したソフトウェアのアップデートなどの機能を備えている。それが、ボッシュがFOTAと呼んでいるリモートからのアップデート機能になる。

 現状では、クルマのコンピュータのファームウェア(IT機器で言うところのOS)のアップデートは、ディーラーなどメーカー公認の整備工場に入ったときに、特別な機器(実際にはPCなどを利用していることが多い)を利用して行なわれることが多い。しかし、すでに民生機器(例えばスマホやPCなど)では「OTAアップデート」と呼ばれる、OSやファームウェアをアップデートするデータをインターネット経由で提供し、自動ないしはユーザーが自分で行なうアップデート方式が主流になっている。これにより、機器ベンダはサポートコストを圧縮できるし、セキュリティホールと呼ばれるセキュリティ上のソフトウェアの問題が見つかった場合も迅速に対応できる。また、ユーザーは常に最新のOSや最新機能を利用できるというメリットがある。

 石塚氏によれば「FOTAを利用すると、モバイル端末がそうであるように、新しいユーザー体験をユーザーに提供したり、セキュリティ上の問題が起きても迅速に対策できる。また、ディーラーでの特別な用具も必要なくなるし、ユーザーのブランドロイヤリティの熟成にも繋がると考えている」とのことで、ボッシュが考えているFOTAもこれと同じような考え方だという。

ボッシュが考える車載コンピュータの進化

 さらに石塚氏は、ボッシュが考えている車載コンピュータの進化は3段階になっていると説明した。現在は第1世代にあたるセントラルゲートウェイで、複数のECUを束ねる状態。現状としてはインターネットには常時接続されていない。これはすでに市場への出荷が開始されており、今回の説明会でもその具体例が展示された。

 そして次の第2世代となるのがコネクテッドゲートウェイと呼ばれる状態で、コネクテッドゲートウェイをルーターにしてインターネットに常時接続する状態になる。各ECUは分野ごとに「ドメインコントローラ」と呼ばれるハブを介してまとめられており、車内のネットワークなどもCANから車載イーサネットなどに変更された状態を想定しているという。石塚氏は2019年ごろからの普及を想定していると解説。

 そして、さらに進化した第3世代となるのがボッシュがビークルコンピューターと呼んでいる車載コンピュータだ。この状況ではドメインコントローラやECUがコンピュータ内部に取り込まれて、そこにいくつかの外部ECUが接続される状態だという。これにより、ドメインコントローラやECUを従来よりも減らすことができるので、ワイヤーハーネスが15~20%削減されることを想定している。ワイヤーハーネスは銅線なので、車両にとっての重量物を削減でき、軽量化に繋がる。

ビークルコンピューターとほかの機器の性能比較

 石塚氏は「ビークルコンピュータに期待される処理能力は、ノートPCの処理能力に匹敵するものだと考えている。そうした民生品であるPC並の性能を、自動車の信頼性や稼働温度保証で入れていかなければならない。そこはチャレンジになる。現在、ボッシュは年間で2000万個以上を出荷するセントラルゲートウェイのリーダーで、FOTAも今年の終わりから来年の前半にかけて出荷していく」と述べ、近い将来のビークルコンピュータの時代に向けて、今後も製品の拡充を行なっていきたいとした。

石塚氏のプレゼンテーションで使われたそのほかの資料

自社でビークルコンピュータ向けのSoCや通信チップなどを設計・製造する予定はない

Robert Bosch GmbH オートモーティブ エレクトロニクス事業部 事業部長 クラウス・メーダー氏

 石塚氏の説明後、Robert Bosch GmbH オートモーティブ エレクトロニクス事業部 事業部長のクラウス・メーダー氏による質疑応答が行なわれた。

――クラウドのソリューションに関してはどのように提供されていくのか?

メーダー氏:クラウドに関しては昨年に行なった弊社のプライベートカンファレンスで、30%は弊社内部で、30%は外部から、30%は協力会社からという方針を明らかにした。弊社では「ボッシュIoTクラウド」というクラウドソリューションを提供していくし、自動車メーカーが望めばそれをお使いいただくこともできる。自動車メーカーが自前で用意いただいて、それを利用することも可能だ。自動車メーカーが望めばAPIの形で提供することもできるし、ソフトウェアスィートの形でも提供できる。

――ビークルコンピュータが故障したときのフェールセーフはどうなると考えているのか?

メーダー氏:フェールセーフは非常に重要であり、ややこしくなっていてはならない。「ASIL D」などの標準を満たしている必要がある。我々が検討しているのは「ゾーンECU」という考え方で、セントラルユニットになるビークルコンピュータが仮に落ちたとしても、ゾーンECUそれぞれが基本的な機能を提供していくという仕組みだ。それにより冗長性が担保されており、自動車の走行そのものには影響がないような仕組みを考えている。例えばセントラルユニットが落ちても、ゾーンECUがそれにとって変わって、アンチロックブレーキのシステムを提供するという形になる。

ゾーンECUの仕組み

――それではECUは減らないのではないだろうか?

メーダー氏:我々が考えているのはゾーンECUであって、バーチャルドメインという形でセントラルユニットが制御していくが、ゾーンECUには基本的な機能だけを残して、それはなにかあったときにセントラルユニットにとって変わる仕組みだ。したがって、今よりECUの数は減っていくが、ゲートウェイは増えていく。そういう形になっていくと思う。

――FOTAは今後一般的になっていくのだろうか?

メーダー氏:次の数年でFOTAの普及率を100%にしたいというメーカーもあるぐらい、多くのメーカーが前向きに検討している。これは我々の予想よりも早い進化だ。そのように早まっている理由としては、自動車産業の大きな変革が影響している。4~5年前までは自動車産業は“古い産業”だと考えられていた。しかし、今では自動化、コネクテッドなどが大きな話題で、IT化が重要な進化点になっている。

 そしてユーザーは、モバイル機器と同じように自動車のIVIや機能などがアップデートしてほしいと思っており、EV化や自動化などもそれを後押ししている。重要なことは1つだけのノウハウではなく、複数のノウハウの組み合わせだと考えている。ソフトウェア、エレクトロニクス、サイバーセキュリティ、クラウドサービス、HMI……。そうした複合的な技術を自動車に統合していくことが大事で、ボッシュはそれを自動車メーカーに提供できると考えている。

 ユーザーが望んでいるのは、迅速で、簡単で、セキュアなアップデートだと思う。例えば、カーナビのアップデートが目的地まであと1kmというところで行なわれては困ってしまう。クルマの状況などに応じて正しくアップデートできるような環境が必要になるだろう。

――FOTAを導入することでコストアップに繋がると思うが、それをユーザーは許容すると思うか?

メーダー氏:シンプルに、それはそうだと断言したい。ディーラーに行って作業してもらう時間をコストと考えるのであれば、ユーザーはコストを許容すると考えている。

――現在のSoCは、ARMなどからIPライセンスを買ってきて比較的簡単に構成できるため、参入が相次いでいます。現在ボッシュは外部から調達していると思いますが、ビークルコンピュータに向けてそれを自社で開発する計画はあるのか? また、5Gについてはどうか?

メーダー氏:ボッシュはMEMSセンサーではグローバルでNo.1のサプライヤーとして半導体を製造している。しかし、コンピューティングのプロセッサは、世界でも少ない企業しか作れていないのが現状だ。今はCMOSベースの製品を自社で製造する予定はない。5Gに関しても非常に重要な技術だと考えているが、そこも引き続き外部からの調達になるだろうと考えている。