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ホンダ、水素社会の“走る電源”となる新型FCV「クラリティ フューエルセル」発表会

外部給電器「Power Exporter 9000」も118万円で同日発売

2016年3月10日 発売

766万円

 本田技研工業は3月10日、2015年10月に開催された「第44回東京モーターショー2015」の会場で世界初公開し、2016年3月からリース販売を開始すると予告していた新型FCV(燃料電池車)「クラリティ フューエル セル」を発売した。価格は766万円。この発売を受け、東京 青山にある本社1階で記者発表会を実施した。

 なお、主要諸元などクラリティ フューエル セルの詳細は、既報の関連記事を参照していただきたい。

新型FCV「クラリティ フューエル セル」(プレミアムブリリアントガーネット・メタリック)。ボディサイズは4915×1875×1480mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2750mm、車両重量は1890kg
「ホワイトオーキッド・パール」のクラリティ フューエル セル。ボディカラーは会場に用意されていた2色のほか、内装もブラックとなる「クリスタルブラック・パール」を含めた計3色

「この技術を活用してほかの車種にも展開したい」と八郷氏

本田技研工業株式会社 代表取締役社長 社長執行役員 八郷隆弘氏

 発表会では、まず本田技研工業 代表取締役社長 社長執行役員の八郷隆弘氏が登壇。FCVのクラリティ フューエル セルを新たに発売することになった理由について「私たちホンダは、創業以来『人々の役に立つ製品を技術で実現し、提供したい』という思いのもと、数々の製品をお届けしてきました。私たちの原点とも言える『スーパーカブ』『シビック』、さらに耕うん機や発電機もそんな思いから生まれた商品です。そして私たちは、環境への取り組みに対しても同じ思いを持っています。ホンダは地球規模での気候変動といった課題の解決策として、水素エネルギーにいち早く着目。水素エネルギーが人々の生活に役立つという信念を持って取り組んできました。水素はさまざまなエネルギー源から製造でき、輸送や貯蔵にも適しています。したがって、燃料電池車 FCVはガソリン車に置き換わるモビリティとして有望であり、気候変動に関わる課題にも答えることができると考えています」と語り、FCVはホンダが原点として持ち続けてきた思想に合致する製品であると説明。

 また、単純に4輪製品としてFCVを開発するだけでなく、水素社会の実現に向けてインフラ面でも取り組みを行なっており、「作る」「使う」「つながる」という3要素に分けて開発を実施。「作る」面では岩谷産業と共同で、2014年9月に世界初の「パッケージ型水素ステーション(SHS)」を埼玉県さいたま市の「さいたま市東部環境センター」に設置し、「使う」面では1980年代後半から燃料電池システムの開発をスタート。2002年に「FCX」が米国での認可を世界で初めて取得し、2008年の「FCXクラリティ」のリース販売開始などを経て同日にクラリティ フューエル セルをデビューさせるなど、「FCVのリーディングカンパニーであるとの自負を持っている」と八郷氏はコメントしている。

「つながる」面の施策では、FCVを“走る電源”として活用するために外部給電器の開発に取り組み、このクラリティ フューエル セルのリリースに合わせ、可搬型外部給電器「Power Exporter 9000」を同日から118万円で発売した。FCVから家庭や公共施設に電気を送ることで、エネルギーをつうじてクルマと人々の生活をつなげ、人々の役に立つことを目指すとしている。また、八郷氏は「明日で東日本大震災から5年の節目を迎えますが、このPower Exporter 9000により、災害に強い社会造りに貢献することもできると考えています」と語っている。

「クラリティ フューエル セルではFCスタックを含むパワートレーンの小型化で水素タンクのレイアウト自由度が増し、大人5人が広々とくつろげるキャビンスペース、ゼロエミッションビークルで世界トップクラスの約750kmという一充填走行距離を達成しました」と胸を張る八郷氏
八郷氏はホンダが「人々の役に立つ製品を技術で実現し、提供したい」という思いを創業以来持ち続けてきたと紹介
「ホンダが目指す姿は、町中にSHS(パッケージ型水素ステーション)やFCVが普及し、水素を身近に活用できる社会です」と語る八郷氏
株式会社本田技術研究所 四輪R&Dセンター 開発責任者 清水潔氏

 クラリティ フューエル セルの具体的な商品解説は、開発責任者(LPL)を務めた本田技術研究所 四輪R&Dセンターの清水潔氏が担当。清水氏は「CO2削減に貢献できる、FCVに代表されるクリーンカーは、普及しなければ意味がありません。エンジン車に置き換わって普及していくため、環境に優しいだけでなく、クルマとしての使い勝手のよさや魅力を持つことが必要だと考えました」と開発コンセプトを紹介。自身が2007年から4年半にわたって米国に駐在し、従来型となるFCXクラリティを納車したり、ユーザーにインタビューするなかで、「FCVでもクルマに対する要求には手加減がない」と痛感したと語る。

 FCXクラリティには「セダンは5人乗りであるべき」「装備が物足りない」「航続距離が短い」と実用面に対して多くの指摘が寄せられ、これをフィードバックして改善するため、燃料電池によるパワートレーンをエンジンと同じようにボンネットの下に収めることが必要であると考えたという。

 このために、まずはモーターを前方に90°回転させて高さを抑え、パワーコントロールユニットを小型化して一体化。空いたスペースにFCスタックを設定するため、1セルあたりの発電性能を1.5倍に高め、出力を維持しながらセルの数を30%削減。さらにセル構造を改良してセルを20%薄型化して、FCスタックを従来品から33%小型化することに成功した。このFCスタックにコンパクトな駆動用モーターなどを組み合わせることで燃料電池のパワートレーン全体をV型6気筒エンジン並みのスペースに集約。車両前方のボンネット下に収めて広いキャビンスペースを実現している。

 クルマとして重要な“走る魅力”では、FCVとしてトップクラスの最高出力となる130kW/4501-9028rpmを発生するモーターを搭載し、静かで力強い加速を披露し、エンジン車のミッドサイズセダン並みの加速性能を発揮するという。装備面では「先進のクリーンカーには先進の装備を」という考えから、「レジェンド」「オデッセイ ハイブリッド」などに続いて「歩行者事故低減ステアリング」機能を備える最新型の「ホンダ センシング」を標準装備した。

 最後に清水氏は「ホンダは自由な移動の喜びと、豊かで持続可能な社会の実現を目指し、今後もFCVの開発に取り組んでいきます」と締めくくった。

外観デザインのコンセプトは「BOLD&AERO」。先進的で美しいストリームラインを追究している
ボディ形状による基本的な空力性能に加え、タイヤやホイールハウスなどで発生する乱流を抑制するため、前後タイヤのエアカーテン、リアタイヤカバーを採用。4ドアセダンのリアドアにエアカーテン用のダクトを設定するのは世界初
キャビンスペースを最大限に活用できるよう、パワーユニット関連の装備を徹底して小型化。同時に世界トップクラスの750kmという一充填走行距離を実現し、FCスタックの出力密度も3.1kW/Lと世界トップクラスを誇る
インテリアのコンセプトは「Advanced Modern Lounge」。シンプルさと上質さを両立させ、いつまでも乗っていたくなるようなくつろぎの空間を目指しているという
乗っている人にもクリーンな室内環境を提供するための「トータルエアクオリティマネージメント」を採用
ボディフレームとサブフレームを組み合わせたストレート構造の新骨格プラットフォームにより、乗員はもちろん、パワートレーン、水素タンク、フロントシート下のリチウムイオンバッテリーなどを衝突などの衝撃から保護する
最新型のホンダ センシングでも先進性をアピール
クラリティ フューエル セルの主要諸元

 発表会の後半には質疑応答の時間が設けられ、このなかで今後の商品展開について問われた八郷氏は、「今回、ガソリン車と同等のパッケージができるようなパワートレーンを開発できたことで、既存のガソリン車にも適用できるスタート地点に立てたと考えております。これからクラリティ フューエル セルのリースを開始して、いろいろな人からご意見を伺いながら車種展開を考えていきたいと思っています。現時点で次の搭載車についてお話しできる段階にはありませんが、いろいろな可能性を検討して、できるだけ早くいろいろな車種に展開していきたいと考えて下ります」と語り、ほかの車種での展開について前向きな姿勢であることを明かした。

クラリティ フューエル セルの完成を受け、このシステムを活用してほかの車種での展開も検討したいと語る八郷氏
本田技研工業株式会社 専務執行役員 日本本部長 峯川尚氏は、初年度の日本国内におけるクラリティ フューエル セルの販売台数を200台と想定しているとコメント。また、個人向けの販売については、当面はリースで知見を積み重ねていき、1年強から1年半をめどに個人販売に切り替えていきたいと語った
車両価格を今後どのように引き下げていくのかと質問され、「FCVはまだまだコストダウンをしていかなければいけないと考えています。ご存じのように米国ゼネラルモーターズと2020年に向けて共同開発を行なっており、このターゲットに向けて技術だけでなく、どう作り、どんな数でいくのかも含め、ホンダ単独の技術的なところだけではコストは大きくは下がらないのでそういったやり方も含めてコストダウンを達成していきたい」と回答した本田技研工業株式会社 執行役員 三部敏宏氏
「MCF4」型のモーターは最高出力130kW(177PS)/4501-9028rpm、最大トルク300Nm(30.6kgm)/0-3500rpmを発生。駆動方式は2WD(FF)
フロア下はフラットな構造になっている
前輪/後輪の前に走行風を取り込んで乱流の発生を抑えるエアカーテンを設定
タイヤはブリヂストン製の「エコピア EP160」を装着。タイヤサイズは前後とも235/45 R18 94W
独立したトランクには9.5型ゴルフバッグを3個積載可能
助手席側のリアフェンダー部分に水素の充填口を設置。充填口のとなりに水素が漏れ出していないかチェックする水素センサーを配置する。樹脂製のカバーは外したあとに固定する場所がない
助手席側には、発電した電気を出力するチャデモ規格の外部給電ポートを用意。充電には非対応となる
クラリティ フューエル セルのカットモデル
走行用モーターとパワーコントロールユニットを一体化したモジュールの上に、FCスタックとFC昇圧コンバーターを設置
フロントシートの下に、ブレーキング時に回生発電した電気などを蓄えるリチウムイオンバッテリーをレイアウト
アルミライナー製の水素タンクは、トランク側が117L、リアシート下が24Lの容量で、系141Lの水素を搭載可能
ボディフレームとサブフレームを組み合わせるストレート構造の新骨格プラットフォーム
新旧FCスタックの比較展示。33%小型化してボンネット下に収めた
新型FCスタックで使われているセル構造の解説
水平基調のオーソドックスなインパネデザイン。先進性のアピールよりも日常的な親和性を重視している。「デジタルグラフィックメーター」はエンジン回転数のかわりに、発電量をメーター中央に表示するボールのサイズを替えて表現する
レジェンドと同様の「エレクトリックギアセレクター」を採用。レジェンドでDレンジのボタン後方に設置されていた「SPORT」ボタンは廃止されている
シート表皮はメイン部分に本革、サイド部分にプライムスムースを使い分けるコンビネーションタイプ。リアシートは3人掛けで乗車定員は5人。リアシート中央には格納式のアームレストを用意する。内装色は「プラチナムグレー」(写真)と「ブラック」の2種類
ハイデッキタイプのトランクとなっており、後方視界を補うためトランクに小窓を設定している
クラリティ フューエル セルと同時発売された可搬型外部給電器のPower Exporter 9000も展示
屋外スペースには、クラリティ フューエル セルとPower Exporter 9000の給電能力をアピールする簡易的な救難スペースを用意。医療機器やパソコンが稼働し、無線機やスマートフォンが充電されているほか、冷たい風で冷えた身体を温めてくれるヒーターも設置されていた
ヒーターは2つとも1000Wで稼働。これだけ使っても余裕たっぷりで、このセットがあと2つまかなえる給電能力を持っているという
Power Exporter 9000は出力端子として100V端子6個、200V端子1個を設定。定格出力は9.0kVA
Power Exporter 9000の主要諸元
世界で初めてチャデモ規格の「V2L protocol DC Version 2.1」認証を取得。「とても嬉しかったので、認定証のレプリカを作って展示している」と誇らしげに解説された
2002年に「FCX-V4」から進化して登場したFCX
2008年に登場した4人乗りセダンのFCVであるFCXクラリティ

(編集部:佐久間 秀)