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トヨタが自動運転AI開発で頼ったALBERTとの業務資本提携記者説明会

ALBERTがビッグデータを解析、データサイエンティストの知見を提供

2018年5月17日 実施

株式会社ALBERT 代表取締役社長 松本壮志氏

 トヨタ自動車株式会社と株式会社ALBERT(アルベルト)の資本提携が5月15日に発表された。それを受け5月17日、トヨタ東京本社内でトヨタ自動車とALBERTの2社による記者説明会が開催された。

 説明会ではALBERT 代表取締役社長 松本壮志氏がALBERTの事業概要などについて紹介したほか、トヨタ自動車 自動運転・先進安全統括部 第2自動運転技術開発室 室長 平野洋之氏、ALBERT 執行役員 先進技術統括 安達章浩氏も加わって質疑応答が行なわれた。この中でトヨタ自動車の平野氏は「自動運転AIの開発工程は大きくいって3つある。データを集めてそれを解析し、DNN(Deep Neural Network)のようなAIのニューラルネットワークを構築し、最後にAIを自動車に載せていくという3つの行程だ。ALBERTに協力を仰いでいるのは最初の行程になるデータの解析になる。Preferred Networks(以下、PFN)には2番目のニューラルネットワークの構築に協力いただいている」と述べ、ALBERTがデータアナリティクスを、以前から資本提携を行なっているPFNがニューラルネットワークの構築を、そして車載のAI開発に関してはトヨタ自身がという形の開発体制になっていくと説明した。

トヨタ自動車株式会社 自動運転・先進安全統括部 第2自動運転技術開発室 室長 平野洋之氏

データアナリティクスを得意とするALBERTがトヨタのAI開発で業務提携

 記者説明会の前半は、ALBERT 代表取締役社長 松本壮志氏が、ALBERTの事業概要、そして今回とのトヨタ自動車との事業提携についての説明を行なった。

 松本氏は株式会社ハーツユナイテッドグループ COOなどIT業界でキャリアを積んだ経営者で、ALBERTには2017年8月に代表執行役員として加入し、2018年3月から現職についているという。「昨年加入したあと、ALBERTがどんな会社かを把握してきた。ALBERTは以前の強みはレコメンドエンジンなどマーケティング領域だったが、その後4つの重点産業に資本を投下するべく意志決定を行ない、上場以来利益を出したことがなかったが第1四半期で初めて黒字を出すことができた」と松本氏は説明し、従来はEC(電子商取引)向けのレコメンドエンジン(過去の履歴などから顧客にお勧めの商品などを紹介するサーバーのソフトウェア)を提供するという企業だったが、大きくAIに舵を切ることになり、それがトヨタ自動車との提携につながったのだと説明した。

ALBERTの事業概要

 松本氏によれば自身が着任して以降、事業戦略を大きく見直したという。松本氏は「事業の選択と収集で内部体制の変更、さらにはAI開発に向けた人材強化、顧客のニーズに合わせた重点産業へのフォーカス」と新しい事業戦略について説明し、特にその重点産業には自動車、製造業、通信・流通、金融という4つの分野を挙げ、その中でもトップにあげた自動車産業との提携の一環として、自動車産業のリーディングカンパニーであるトヨタ自動車との提携を決めたと説明した。

ALBERTの重点産業、スコープ

 松本氏によれば、すでにトヨタ自動車とは受託でビジネスを行なっており、その延長線上に今回の提携があるとのこと。松本氏は「提携の目的は一言で言えば、自動運転の実現。ALBERTが提供できるサービスは、ビッグデータ解析、データの高付加価値化、データサイエンティストの育成、AI人材の役務提供と4つあり、それを提供していく」と説明した。ALBERTは元々EC向けのレコメンドエンジンを事業の中心としていたことからも分かるように、ビッグデータの解析などに強みを持っており、そうした技術そのものや、同社が育成しているデータサイエンティスト(ビッグデータの解析を行なうエンジニアのこと)の育成などで協力していくとのことだった。

トヨタ自動車との提携の目的

 その具体的に役割について松本氏は「CANなどの車両から得られる膨大な情報を環境データを利用して、それを動画データと紐付けていくなど立体的なデータ分析を行なっていく。そうしたビッグデータの分析を、マシンラーニングを利用したAIで実現していく。そうした協業を加速して、より中長期的にやる必要があると考えて今回の提携になった」と述べ、ALBERTの役割は自動運転でAIの学習に欠かせないビッグデータの分析(データアナリティクス)の分野であり、それを中長期的にやっていくために、今回の資本提携という形になったと説明した。

ALBERTの役割

ALBERTとの提携はデータアナリティクスを、PFNとはニューラルネットワークの開発をという分担

 松本氏のプレゼンテーションの後に、トヨタ自動車 自動運転・先進安全統括部 第2自動運転技術開発室 室長 平野洋之氏、株式会社ALBERT 執行役員 先進技術統括 安達章浩氏も加わって、質疑応答が行なわれた。

──今回の提携の後にもほかの会社と提携はありうるのか? また、自動車分野ではトヨタのエクスクルーシブな契約なのか?

松本氏:今回の提携の後にどういう産業という質問と理解しているが、4つの重点産業に、資源投下というお話をさせていただいた。今後も4つの産業を中心に、提携などのお話があれば検討していきたい。我々は今回の提携は、完全にエクスクルーシブな契約ではないと理解している。

──トヨタ側はなぜALBERTと提携したのか? AI以外のジャンルでビジネスもあり得るのか?

平野氏:ALBERTと提携する以前から業務委託という形で仕事をしてきた。自動運転にAIは必要不可欠、データを分析するような工程で、残念ながら弊社内部では現時点で高い技術を持っておらず、リソースもない。それではと見たときに、業務委託をお願いしているALBERTが高い技術力を持っていた。AIをやる上で、データアナリティクスは重要だと考えている。今のところはAIを利用した自動運転を実現するデータ分析で活躍していただきたいと考えているが、今後AIは産業全体に重要になってくると思うので、その時には別の展開があるかもしれない。

──ALBERTの従業員数について、すべては自動運転向けか?

松本氏:データサイエンティストが100名、バックオフィス20名の約120名だ。データサイエンティストの内訳に関しては、どの分野に何人ということを言える状況ではないが、今後自動運転向けのニーズが必要になると考えているので、自動車の知識をもった人材採用に既に踏み切っている。それもこの提携の一環だ。

──今回の提携により実現される技術をADASなどに適用する可能性はあるか?

平野氏:トヨタは自動運転はすべての人に安全安心を、すべての人に移動の自由をというスローガンを掲げさせていただいており、それを実現するための手段。そのAIで自動運転を実現することは、近い将来にADASに適用できる技術も沢山出てくる。それをADASに使える可能性はある。

 弊社では2020年にSAEのレベル2を実現することを見据えており、そうした自動運転の開発では、OTAで機能をアップデートしていくという作り方に変えており、アップデートをしながらレベル3に引き上げるということも検討している。

──いつまでにどういう結果を出すのか? なぜ出資か?

平野氏:具体的にはAIを利用して進化させていく。2020年にレベル2というお話をさせていただいたが、AIで進化させていきながら、いずれかの段階でクルマに搭載されていくことになる。また、日本の産業全体の中で、AIが注目されており、ALBERTはその1社。業務委託の中で今はできているが、将来的に自動車業界の他社との資本提携があれば、弊社との連携は難しくなる。そうした将来を見据えると出資が最適だと考えた。

──トヨタのAI開発の中でALBERTの果たす役割を教えてほしい。

平野氏:AIの開発工程は大きくいって3つある。データを集めてそれを解析し、DNNのようなAIのニューラルネットワークを構築し、最後にAIを自動車に載せていくという3つの行程だ。ALBERTに協力を仰いでいるのは最初の行程になるデータの解析になる。例えば画像認識をやる場合には、これまではアルゴリズムを構築して処理していた。その場合には作った人間以上のことはできないが、AIはそれを越えていくことができる。

──出資を検討した時期はいつか? またすでに(AI分野で)資本提携を行なっているPFNとの関係は?

平野氏:出資の議論をした時期はお話できない。PFNは先ほどお話ししたAIの3つの行程のうち、DNNなどの実装をお願いしている。

──AI自動運転分野での協業は今後も必要になっていくのか?

平野氏:AIの技術は幅広いが、今の時点ではAI関連で具体的に資本提携を考えているところはない。しかし、AIは他の分野においても重要になっていく、外に面白い技術があれば、どんどんやっていくことになるのではないか。

──データアナリティクスを自動車に活かすにはどのような点が重要になるか?

安達氏:特に自動車だから、自動車でないからという捉え方をしていない。データというのは、画像や音声などの非構造化データ、数値などの構造化データという違いはあるが、データサイエンティストはどちらも上手く扱うことができる。が、例えば優先順位付けなどに技術があり、それを弊社のデータサイエンティストからトヨタ様に提供していく形となる。

株式会社ALBERT 執行役員 先進技術統括 安達章浩氏

──これまでのALBERTはECサイト向けのサービスという印象で、自動車というと大分違う分野というイメージがあるが……。

安達氏:自動車から得られるデータも、ECサイトから得られるデータも、データサイエンティストにとっては同じデータだ。ただ自動車からは画像や音声というやや複雑なデータが来るという違いでしかない。弊社は創業当時から大学と産学協同で画像解析の研究を進めており、ディープラーニングを利用したサービスはおそらくAI系のベンチャーの中ではかなり早い2013年の段階で商用サービスを提供している。そうしたことを長年続けてきた結果、トヨタさんに貢献できるレベルになってきていると自負している。

──AI開発における競合他社と比較したトヨタの立ち位置を教えてほしい。

平野氏:AIの競争領域では他社も日進月歩で進化している。このため他社と比べて最新の状況は分からないというのが正直なところ。ただし、今後のことを考えていくと、世の中でできていることはみなAIでやれるようになると考えられるので、AIがより重要になってくる。そしてそれを開発するためにはデータを集めていくことが大事で、それができていないと競合他社に大きく遅れてしまう。

──データサイエンティストには、クルマの知識が必要か?

平野氏:ケースバイケースだ。ALBERT様にお願いするのは、例えば画像認識に適用することを想定すると、何億枚、何兆枚と(画像が)あるなかのレアなシーンのデータを探してくることだ。例として挙げるなら、高速道路で二輪車が死角から現われて横切るとかいう、そんなにめったにないシーンを探してこないといけない。見つけることができるが、それをAIに食べさせると学習できる。そういうシナリオを自動車メーカーが提案し、ALBERT様にはそのソリューションの提供をお願いする、そういう形になる。

 ただし、自動運転の3つの要素、認知、判断、操作のうち、操作に関しては自動車の知識が必要になる、そうしたところは自動車の知識が不可欠になる。

──データサイエンティストの育成には時間がかかるのか?

安達氏:文系出身の方がなるのは大変難しいというぐらい大変だ。理系の方でも、例えばディープラーニングの新しい研究成果を活かそうとすると、先行論文がどこにあるのかということを直感的に分かるような能力が必要になる。また、プログラムを自分でコーディングする能力も必要になるし、お客様の課題を理解する能力も必要だ。これらの3つの能力をすでに持っている人材に教育プログラムを受けていただいて最短で6カ月はかかると思う。

松本氏:補足すると一流のデータサイエンティストになるのに文系が絶対ダメという訳ではない。弊社のデータサイエンティストの中にも文系出身の方も多くいる。

──今回の資本提携のインパクトは?

平野氏:自社だけでできるなら、業務委託もしていない。自分たちのリソースではやっていけないという危機感の中で、やっているので。

松本氏:採用強化に大きな影響がある。トヨタ自動車に認められたということのレバレッジを利用して人材採用を行なっていきたい。今後はマネージャーも必要になると考えており、そこをインパクトとして期待している。

──今回の提携ではトヨタが集めたデータをALBERTが活用するということか?また、同じように業務提携しているPFNなども含めてツールに関しては(PFNの開発するディープラーニングフレームワークである)Chainerに共通化するのか? また、できたAIはトヨタが検証していくのか?

平野氏:その答えの本質はデータの持ち主が誰かということだ。今回の提携でAIの開発を行なう場合には、弊社が集めるデータにアクセスしてもらわなければ意味がない。ツールに関しては、PFNが提供しているChainerだけでなく、協力いただくベンダーによりツールが違うと非効率になるので、当然考えていかないといけない。

 現状ではAIのネットワークはブラックボックスになっており、何の検証もなしに信じるのは難しい。現状ではそれをホワイトボックス化することは誰もできておらず、今後も研究しないといけないし、今の時点ではAIの検証は重要だと考えている。大まかに言えば半分のデータで学習して、残り半分で検証を行なう、それが現状だ。

──成果物の取り扱いについてはどうなるのか?

平野氏:現時点では、ビジネスモデルに関していろんなケースがあるので、今のところまだ洗い出せていない。まだ回答はもっていない。

──AIの優位性、顧客のメリットに関してどう考えているか?

平野氏:繰り返しになるが、弊社の自動運転はすべてのお客様に安全安心、自由な移動をスローガンにしている。従来のソフトウェアの開発手法では人間が考えられる限りのアルゴリズムになってしまい、想定外には対処できない。それで世界中のお客様に安全なシステムを提供できるかと言えば、それは無理が来ると考えている。このため、AIが不可欠で、お客様にメリットをAIを通じて提供していけると考えている。