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マツダ 技術説明会、「ロータリーエンジンをパワーソースとしたクルマをいつか作りたい。これはマツダに勤める全員の夢」と丸本社長
2018年10月3日 01:10
- 2018年10月2日 開催
マツダは10月2日、同日に発表した「電動化」と「コネクティビティ」に関する技術戦略の詳細を解説し、報道陣などからの質問に答える技術説明会を都内で開催した。
なお、発表内容の概要については関連記事の「マツダ、独自開発EVに新開発ロータリーエンジンレンジエクステンダー搭載。電動化とコネクティビティの技術戦略公表」を参照していただきたい。
説明会では最初に、マツダ 代表取締役社長 兼 CEO 丸本明氏が登壇。丸本氏は説明に先立ち、この夏に日本の各地で発生した自然災害で被害を受けた人に対するお見舞いの言葉を述べ、「平成30年7月豪雨」ではマツダの地元となる広島県でも大きな被害が発生。「マツダは地元企業として、従業員のボランティア派遣や車両の提供、被災されたお取引先さまへの物資・資材の提供など、復旧に向けた取り組みを行なってまいりました。まだ復旧は終わっていません。今後も地域の皆さまやお取引先さまと一体になり、復旧・復興に向けて支援を継続してまいります」と丸本氏は述べた。また、「完成検査の不適切な取り扱い」について、ステークスホルダーなどに対して心配をかけたことを謝罪。全社を挙げて再発防止に取り組むとしている。
本題となる説明では、2017年8月に発表した技術開発の長期ビジョン「サステイナブル“Zoom-Zoom”宣言2030」で、次世代ガソリンエンジン「SKYACTIV-X(スカイアクティブ・エックス)」と次世代車両構造「SKYACTIV-VEHICLE ARCHITECTURE」の2つを“具体的なアクション”として発表したことをあらためて紹介。さらに次世代デザインを示す「Mazda VISION COUPE」を東京モーターショー 2017で公開するなど、公開したロードマップに沿って開発を着実に進めているとアピール。一方で刻々と変化する自動車産業を取り巻く環境を注視して、戦略を柔軟に見直しながら進めていく方針であることも丸本氏は説明している。
自動車産業の環境変化の一例として、丸本氏は「CASE(Connected、Autonomous、Shared、Electric)」を取り上げ、この技術領域が日々進歩しているほか、自動車業界以外からの参入が相次いでいることを紹介しつつ、「新しい技術やサービスの普及は、より効率的で安全、かつ自由な移動を可能とし、自動車と社会に新たな価値をもたらす可能性があると期待しております」と歓迎する姿勢を見せた。
また、世界各国で変化する環境規制について説明し、日本でも先日、経済産業省が「自動車新時代戦略会議」の中間整理として、2050年のゴールを目指した長期計画が公表されたことを紹介。
「Well-to-Wheel(燃料採掘から車両走行まで)」という指標に基づき、「2050年までに世界最高水準の環境性能を実現し、1台あたりで排出する温室効果ガスを9割程度削減する」との目標実現のため、クルマの使い方のイノベーションを追究しつつエネルギー供給のゼロエミッション化にチャレンジしていくこの長期計画に対応して、マツダが目指していく「ありたい姿」、今後も提供していくマツダ独自の価値について解説した。
「エンジンの断熱効果を理想に近づける技術開発」が最終的なゴールと丸本社長
丸本氏は「私たちマツダは、お客さまと強い絆で結ばれたブランドになりたい」との方針を示し、そのためにはマツダならではの価値を追究し、それを極め続けていくことが最も大切なことであると説明。自動車産業は100年に1度の変革期にあるとされているが、「どのような時代においても『人の心をワクワクさせる』というクルマが本来持つ価値を信じ、走る歓びを追究し、カーライフをつうじてお客さまに人生の輝きを提供し続けることが、マツダとお客さまの絆をより強く、深くするのだと考えています」とコメントした。
具体的な取り組みとして、丸本氏は「地球環境への対応」「社会への対応」「人への対応」の3分野での今後について語った。
「地球環境への対応」では、この夏の記録的な猛暑や世界各地で起きている気候変動などの原因とも考えられている地球温暖化の対策として、CO2削減が最大の課題であるとの認識を述べ、マツダではクルマのライフサイクル全体でCO2削減を目指してWell-to-WheelでのCO2削減に取り組むとコメント。Well-to-WheelでのCO2削減で、2050年までに対2010年比で90%減という目標を掲げ、2030年時点で対2010年比半減を目指していくという。
また、Well-to-WheelでのCO2削減には、クルマが使用される地域ごとの事情に合わせて適正なパワーソースが必要であり、エネルギー事情や発電構成なども踏まえ、「適材適所の対応を可能とするマルチソリューションが必要」とした。外部機関でも2030年時点でクルマのパワーソースが内燃機関に電動化技術を搭載したものが主流であると分析されていることを紹介し、「マツダでは2030年に生産するすべてのクルマに電動化技術を搭載する」とコメント。構成比では内燃機関も搭載するHV(ハイブリッドカー)やPHEV(プラグインハイブリッドカー)が95%、電動駆動車(レンジエクステンダー搭載車を含む)が5%になるとの見通しを明らかにし、“理想の内燃機関”を追究していくマツダの戦略に変更はないと丸本氏は述べた。
すでに概要を発表しているSKYACTIV-Xは、マツダが追究している“理想の内燃機関”を実現していくロードマップで「2番目のステップ」と丸本氏は表現。さらに2030年までに「3番目のステップ」として、「エンジンの断熱効果を理想に近づける技術開発」を進め、最終的なゴールを目指すと語った。
このほかに丸本氏は、EV(電気自動車)ならではの利点とマツダしか持たない独自の技術を最大限利用してユーザーに選んでもらえる「走る歓びを体現したEV」として、独自の内燃機関である「ロータリーエンジン」をレンジエクステンダーとして搭載したEVを商品化すると紹介した。
ロータリーエンジンをパワーソースとしたクルマをいつか作りたい。これはマツダに勤める全員の夢
さらに丸本氏は経営面からの視点で、これまでに説明してきた電動化、コネクティビティのほか、自動運転、プラグインハイブリッド、内燃機関のさらなる進化などをサステイナブル“Zoom-Zoom”宣言2030に基づき進めているが、一方で多岐に渡る技術開発とビジネス効率を両立させていくことが重要な経営課題になるとコメント。今後はモデルベース開発を従来のシステム統合制御からクルマ全体に拡大、強化していくとした。
また、他社との協調領域、外部委託なども進めることで、自動車メーカーに求められるマルチソリューションに対応しつつ、ビジネス効率もマツダの企業規模で実現していくとの方針について語り、この方針に基づいた「次世代商品」の第1弾を9月末から生産開始。11月下旬に開催される「ロサンゼルス オートショー」でお披露目すると予告した。
このほかに丸本氏は、質疑応答の中で出た「ロータリーエンジンを以前のような直接の駆動力として使うものは開発しているのか」との質問に対し、「これは以前の社長(小飼雅道氏)も言っていますが、ロータリーエンジンをパワーソースとしたクルマをいつか作りたい。これはマツダに勤める全員の夢です。それが実現できる経営環境に持っていくのが私の仕事、任務だと思っています。いつの日か実現できるようがんばっていきたいと思います」と回答している。
“マツダらしいバッテリーEV”を実現するためにGVCを活用
具体的な技術解説は、マツダ 代表取締役副社長執行役員で、社長補佐、北米事業、研究開発・MDI統括などを担当する藤原清志氏が実施。
藤原氏は「マツダらしい独自の特徴を持ったバッテリーEV」「マツダらしいコネクティビティ」について紹介し、バッテリーEVについては「2020年をめどにマツダが独自開発するEV」を市場投入。さらにEV基盤技術を共同開発しているEV C.A.Spiritで進めている基盤技術も同じく2020年ごろをめどに開発を進めているが、この基盤技術を活用したEVの商品化について「現時点で決めたものはございません」としている。これにより、今回の説明会で取り上げるのは、マツダ独自開発のバッテリーEVに関する内容となっている。
マツダのバッテリーEVでは「走る歓び」「地球・人にやさしい技術」「社会貢献できる技術」の3点をコンセプトに開発を実施。「走る歓び」では他のマツダ車でも注力している「日常的な走行から自分の意図どおりに走り、曲がり、止まることができるクルマ。その手応えを気持ちよく感じることができ、ずっと運転していたくなる」といったもので、「ハイパワーで最高速を競うといったものではなく、0-100km/hの加速タイムを競うものでもなく、なにげない日常で感じる走る歓びを提供したいと考えています」と解説。そのためにバッテリーEVに導入する技術の1つとして、マツダ独自の「GVC(G-ベクタリング コントロール)」を紹介した。
内燃機関を搭載する既存モデルで採用するGVCでは、アクセルペダルを踏み込んだ時にエンジントルクの発生をわずかに抑えることでブレーキ力を発生。これによって車両の挙動を制御している。これをEVでは、アクセルOFF時にモーターで発生する回生ブレーキを利用。アクセルのON/OFF両方で車両挙動の制御が可能になり、例えば下り坂でアクセルペダルをOFFにしている状態でも、GVCによる車両挙動の制御をシームレスで緻密に行なえると藤原氏は説明した。
また、バッテリーEVを運転する時の不安点では「電欠」が大きなポイントになると藤原氏は語り、1回の充電で走行できる距離が足りていても、充電設備を探す不安、充電時間がかかる不安は残り、「航続距離がいくらあればそんな不安が解消できるのか、その答えは私には分かりません」とコメント。電欠の不安を解消する技術として、仮に電気が足りなくなるような場合でも、既存のエネルギーインフラであるガソリンスタンドで給油することで走り続けられるようになる、内燃機関で発電するレンジエクステンダーがユーザーの不安を解消できると紹介した。
同日発表した「ロータリーエンジンレンジエクステンダー」では、モーターとコンパクトに一体化可能でスペース効率に優れ、振動や騒音が低いといったメリットを持っていると解説され、さらにサイズの小さいロータリーエンジンはレンジエクステンダーに止まらず、共通の車両パッケージでHVやPHEVに展開させていくことも可能だとした。
これに加えて、CO2削減に向けて将来的に燃料の多様化が想定されているが、ロータリーエンジンはガソリン以外にもCNG(圧縮天然ガス)やLPG(液化天然ガス)、水素など多彩な燃料に対応できる特性を備えており、これを活用することで、直近でも発生しているような大規模な自然災害時にロータリーエンジンレンジエクステンダーを搭載するバッテリーEVで被災地まで走り、入手や運搬が比較的容易なLPGボンベを燃料として発電する「緊急給電モビリティ」で災害支援を行なう新たな社会貢献が可能になると藤原氏はアピールした。
このマツダ独自のロータリーエンジンレンジエクステンダーを搭載したバッテリーEVを「2019年には皆さまにご使用いただけるよう、鋭意開発を進めております」という。
「マツダらしいコネクティビティ」では、「スマートフォンに代表されるデジタル化で日常に入り込んだ便利な生活を、クルマの車内でも安全に活用できる自動車関係者が共通して求める価値」「マツダのクルマ作りの哲学である『人間中心』の考え方で、クルマと共にある豊かなカーライフを提供し、お客さまの心と体を元気にする価値」の2点を実現していく。