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アイシンのテストコースで、リアに2つのeAxleを装備した最新の電動化技術搭載車に試乗
eAxle併用の圧倒的な動力性能など「クルマが好きな人が楽しめる技術の登場」
2019年10月10日 08:00
自動車用の総合部品メーカーであるアイシン精機は、メディア向けに同社の最新技術が体験できる「アイシングループ新技術試乗会」を北海道豊頃地方のテストコース「豊頃試験場」で開催した。今回はそれらの新技術を紹介していく。
豊頃地方は北海道の南東に位置していて、冬期は気温が下がっても降雪量がそれほど多くないなど寒冷地における車両評価には適している。また、冬期だけでなく四季を通じてさまざまな状況で車両評価ができるところである。
試験場の総面積は748ヘクタールで、東京にある狛江市(639ヘクタール)がスッポリ入ってしまう広さ。その敷地内には1周7.9kmの総合試験路、2.2kmの平坦周回路、17kmのワインディング路があり、一部には世界各国の特徴的な舗装状況を再現した走行路も設けてある。そのほか、人工氷結路やダイナミックパッド、オフロード路も用意されている。
試乗の前にはアイシン精機の広報部 外山正之氏から当日の流れや注意点が説明されたあと、執行役員 技術開発本部長 江口勝彦氏がアイシングループの取り組んでいる「CASE」領域に向けた解説を行なった。なお、CASEとは「コネクティッド」「オートノマス(自動運転)」「シェアード/サービス」「エレクトリック」の頭文字を組み合わせた言葉であり「ケース」と読む。
江口氏によると、アイシングループはCASE領域への対応を急務としていて、今年の決算で公開した開発資源の数値でも、2018年度が全体の27%だったところ、2023年度には約半数、2030年度には8割まで拡大する予定になっているとのこと。それに応じて売り上げも同様に増加すると予想している。
そんなCASE対応技術の中で、今回大きく取り上げていたのが「動力の電動化」についてだ。江口氏によるとアイシングループでは2004年という早い段階で、フォード車に採用されたFF 2モーターHV(インバーター付き)を量産している。
そして2006年にはFR 2モーターHV、2011年にはFR 1モーターHV、2016年にはeAxle(イーアクスル:電動アクスル)をプリウスの4WDに搭載し、さらに2019年にはFF 1モーターHVを開発している。これらの電動化製品に使用しているモーターだが、2008年より自社で開発。低コスト、高品質な製品を多種開発し、累計約700万台の生産実績を持っている。
今後の電動化製品ラインアップではeAxleに、2モーターHVトランスミッション、それに1モーターHVトランスミッションやATなど、全方位での開発を推進していくという。
今回の試乗会ではCASE領域に関係する9台の試乗車が用意されていたが、そのうち4台に開発中の新技術が搭載されていたのでそれらを中心に紹介したい。残り5台はアイシンの技術を搭載した量産車だが、同社の製品の特徴を掴みやすくするため、制御の一部を変更した試験車となっていた。
FF車のリアにeAxleを追加!! 刺激的になったV60
最初に乗ったのは、1つ前のモデルとなるボルボ「V60」。2.0リッターターボのガソリンエンジンにアイシン製のFF用8速ATを搭載するクルマだが、試乗車はこのFF車のリアに電動アクスル「ハイパワーeAxle Type0」を搭載して4WD化したクルマ。エコメインではなくパワーアップのためのモーターの使い方を提案しているところから、筆者的には一番楽しみにしていたものだ。
パワーはエンジンが180kWでモーターが100kW、トルクはエンジンで350Nm、モーターが210Nmとなる。なお、リアの電動化に伴う重量増は340kgになる。
このクルマはエンジン+モーターで力強い加速力が得られるだけでなく、リアのモーターで走るEVモードにより低燃費も実現できるところがポイントで、試乗ではそれぞれのモードを短時間だが試すことができた。
V60の試乗では2.2kmの平坦路を2周、最初はエンジンだけの加速を試す。テストコースは道幅が広いので視覚的な加速感は乏しいが、それでも180kW(244PS)あれば車重が約340kg重くなっていても加速Gはしっかり体感できる。8速ATはギヤのつながりが小気味いいのでアクセルを踏み込んだ時の面白さを感じられる味つけだ。
エンジンだけの走行を試した後は、エンジン+モーターを同時に動かすモードでの走行。エンジンのFFに加えてリアのeAxleを作動させるので4WDとなるわけだ。
ストレートでいったん停止してそこからアクセルをいっぱいに踏み込むと、まずはトルクの立ち上がりが早いモーターがグンと背中を押すような加速を作る。この瞬間はFR車っぽい感覚だがエンジン回転が上がってきてトルクやパワーが出てくるとよりパワフルに。だけど挙動が乱れたり、不安になるようなことはない安定した加速感だった。
車速の伸びはエンジンだけの時とは別モノの力強さがあり、制限速度として指定された100km/hまですぐに到達してしまう。そこでいったんブレーキを踏んで車速とエンジン回転を落とした状態からアクセルをワイドに開けたり、そっと開けたりしてみたが、どの踏み方をしてもまずモーターが押してくれるので加速のもたつきはない。それだけに「どこを走っても速い」感じで、走りが好きという人ならこのクルマの特性は気に入るのではないだろうか。
ただ、今回の試乗車ではモーターの出力特性に扱いにくさも感じた。具体的にはアクセルをゆっくり踏んだ時のフィーリングが少しピーキーで「ソロッ」と加速したい時などに予想以上の動き出しになる面もあった。聞いてみるとその点はエンジニアも把握していて、「モーターを出力調整して解決していく」ということだった。
EVの熱を最適に保つ熱マネジメントシステム
電動化されたクルマではエンジン車のような冷却機能は不要と思われるかもしれないが、バッテリーやインバーター、それにモーターも使用していれば発熱をする。そしてそれぞれで機能するのに「最適な温度域」があるので、電動化されたクルマでも熱の管理は必要なのだ。
続いて試乗車として用意されたプリウスPHVには、この電動に関わる部位の温度を最適に保つためのヒートマネジメントシステムが搭載されたもの。
写真はないが、車内には各装置の配置と装置ごとの温度、そして冷却のための冷却水水路の流れを示すモニターが付けられていた。ちなみにバッテリーは高温で使っていると経年劣化で電池容量が減ってくるので、40℃くらいに抑えるのが理想とのこと。また、反対に温度が低いと電池内部の抵抗が大きくなるので電池内で出力を消費してしまい、電費がわるいという状態になる。とはいえ40℃に保つには大気導入式の空冷では難しいので、水冷やエアコンの冷気で冷やす方式を採用していると言う。
アイシンでは温度調整機能付きのバッテリーフレームを開発しているので、そちらでも冷却の手段はいろいろと考えられている。そこでは水冷用の電動ウォーターポンプの技術も開発しているし、使う電力に対してどれくらい効率的に動くかという部分や、冷却用の空気の引き込みと熱を奪ったあとの空気の排出についても研究しているとのことだ。
後輪2モーターを独立制御で緊急回避も安心
次の試乗車はリアに2つのeAxleを装備したレクサス ISで、モーターは左右別々で特性を制御できるようにしている。
このクルマで体験させてもらえるのはリア両輪の回転が同調している時と、左右に回転差を与えることによるトルクベクタリングを使用した際の運動性の違い。それにリアトルクベクタリングによるレーンキープ性能の体感だ。
最初は比較用のノーマル車両に乗り、設定された障害物を回避する走りを行なう。コースはコーンを並べてシケイン状に設定してあり、通過速度は約35km/hと指定される。低速のように思えるが、コースが狭く急に切り返すのでステアリング操作はそれなりに忙しい。また、ステアリングを持ち替えないギリギリの蛇角まで切る必要があった。
スタート地点に戻り、今度はリア2モーターEVユニットに改造されたISに乗り換える。アクセルをゆっくり踏んでスタートさせると、リアから「ヒューン」というモーター音が聞こえてくるのがカッコいい。そして先ほどと同様にコースへ飛び込みステアリングを右に左に切るが、リアのトルクベクタリングが有効に効いているようで、ノーマル車の時よりも明らかに操作が楽。ステアリングの蛇角も少なく済むため、狭いコースをタイトに「キュッキュ」と曲がれる。さらにコース内で多少アクセルワークが使えるくらい操作に余裕もあるなど、ノーマル車とはハッキリとした違いを体感できた。ありきたりの表現だが「運転が上手くなった」感じだ。
続けて直線路に出て、リアのトルクベクタリングによるレーンキープ機能の体験だ。通常のレーンキープ機能は電動パワーステアリングを制御して行なうのでステアリングが勝手に切れるような動きになっていたのだが、リア左右輪の駆動力に差をつけるトルクベクタリングは、一種のリアステアのような効果がある。そのためあえて車線を逸脱するようにわずかに斜めに走ると、ステアリングは動かないのにスルスルと走行位置が修正される。一般的なレーンキープ機能と違ってステアリング操作に介入される違和感はなく、その感じはとても自然で車体の安定感も高いように思えた。
また、通常の直進状態でリアのトルクベクタリングのON/OFF状態の乗り比べもできたが、ONにした時の直進性の高さや安定感は、FR車のリアデフに効きのいいLSDを組んだ時の感覚にも似ていた。
最後は急激なレーンチェンジ体験だ。コースの端から端を蛇行するように左右にクルマを振ってみるが、ここでトルクベクタリングをONにすると、ステアリングの蛇角が抑えられるのでステアリングの戻しに遅れが出ない。そのためいわゆる「おつり」が起きないのでふらつきが出ず、連続した蛇行状態でも安定感が高かった。ここは最初の回避運転の時と同じ感覚だ。
バスやトラックに対応する変速機構付きeAxle
開発車両試乗の最後は、変速機構付きeAxleの体験だ。この機構は小型のバス、トラック、ピックアップトラックなど車重のあるクルマを想定して開発を進めているもので、こうしたクルマには高い駆動力が必要だが、高速走行時の静粛性や燃費性能も求められるので、そこを両立させるためにギヤを2速化している。
変速機構はマニュアルトランスミッションの機構をベースとしていて、電動アクチュエーターでシフトフォークを動かして変速する仕組みだ。この機構は動作がシンプルなので、シフト操作を電動化しても電費がいいのも特徴だ。
ただ1速、2速のシフトの際にはMTのシフト操作と同じく一瞬加速Gが抜ける瞬間があるが、電動車においてその「間」は違和感がある。そこでリアにもeAxleを搭載することで、変即時にリアモーターに補助的な加速をさせて、その「間」を感じさせないようにしているのが、用意されていたトヨタのC-HRベースの試乗車だった。
このeAxleでは90km/hでシフトアップをする設定と聞いていたので、まずは静止状態から90km/hまで加速。この時はリアのeAxleは作動していないのでFFだ。
そしてシフトチェンジする速度域に達したが、シフトショックは感じられなかった。ギヤが変わったことは搭載されているモニターに表示されるが、ドライバーが自分で判断できるのは車速の伸びの違いで「あ、変わったのか」と気が付くくらいスムーズなものだった。
では、シフトダウンはどうだろう。ブレーキを掛けて車速を50km/hくらいまで落とすと1速へのシフトダウンするということでブレーキを踏んでみるが、ここでもアシストがあるためシフトショックは感じられなかった。
以上が開発段階の製品を搭載した試乗車のレポートだ。そのほかの量産モデルの試乗は後述するが、今回の試乗会では「電動化と言えばエコ」、という考えとはひと味違った電動化が体験できたことは大変有意義であった。開発中のモデルはいずれも、これから先の電動化が進むであろう未来のクルマ社会に「クルマが好きな人が楽しめる技術の登場」を感じさせるものでもあった。