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東京ガス、東京オリンピックでのFCバス稼働に貢献する「豊洲水素ステーション」開所式

カーボンニュートラルな都市ガスを使う日本初のオンサイト施設

2020年1月16日 開催

1月16日に開所した「豊洲水素ステーション」

 東京ガスは1月16日、東京都江東区豊洲に竣工した新しい水素ステーション「豊洲水素ステーション」の開所式・見学会を開催した。

 豊洲市場に隣接する豊洲水素ステーションは、東京ガスがJHyM(日本水素ステーションネットワーク合同会社)と共同で建設を進めた施設。日本国内で112か所目となり、東京ガスが運営する水素ステーションとしては練馬、浦和、千住に続き4か所目となる。

 敷地面積は約2000m 2 で2台のディスペンサーを備え、同時に2台のFCV(燃料電池車)に対して水素の供給が可能。広い敷地に加え、ピーク時には500Nm 3 /h以上の水素充填能力を備えており、タンク容量の大きなFCバス(燃料電池車バス)の大規模受け入れが可能。また、東京ガスが用意する「カーボンニュートラル」な都市ガスを原料として使い、敷地内で水素を製造する日本初の水素ステーションとなっている。

豊洲水素ステーションはFCバス(燃料電池車バス)の大規模受け入れが可能な日本初の水素ステーションとなる。営業時間は9時~19時で、1年に1回行なわれる定期点検、不定期の設備メンテナンスによる休業を除き、年中無休
82MPaの充填圧力に対応するトキコシステムソリューションズ製のディスペンサー2台を設置。同時に2台のFCバスの水素充填も可能で、充填時間は乗用車が約3分、FCバスが約10分。水素充填能力は300Nm3/h以上(ピーク時は500Nm3/h以上)で、1時間あたりFCバス4台に対して水素充填できる。水素の価格は1600円/kg
蓄圧器からディスペンサーまで水素を導く経路は、万が一にも水素漏れが起きた場合に水素が滞留して危険な状況にならないよう、グレーチングでカバーされる
水素の充填は現場に配置されたスタッフが行なうフルサービススタイルだが、将来的には経済性を高めるため、セルフサービス化も視野に入れている。ディスペンサーの上部に設置されているアームとフック付きのワイヤーは、セルフサービス化したときにノズルを手から落として破損しないよう備える設備
会場には対象となるFCVの代表として4台の車両を展示。写真は水素充填セレモニーにも使用されたトヨタ自動車のFCバス「SORA」
トヨタ「ミライ」
本田技研工業「クラリティ フューエル セル」
メルセデス・ベンツ「GLC F-CELL」

圧縮機は国内水素ステーションで初採用されるダイヤフラム式

 この日は、通常は入ることのできない水素ステーションの水素製造設備の見学会も行なわれ、その解説が行なわれた。

豊洲水素ステーションの水素製造設備。奥に見えているのは豊洲市場の建物

 豊洲水素ステーションのポイントとなる、カーボンニュートラルの都市ガスから水素を製造する水素製造装置には、三菱化工機製の「HPU」を採用。300Nm 3 /hの水素製造能力を持ち、少ない人数でもステーションが運用できるよう、需要の増減による水素残量に合わせて水素の製造量を100~300Nm 3 /hの範囲で自動調整できる。

 HPUで製造された0.6MPaの水素をFCVやFCバスでの充填に向け、4回の加圧を経て82MPaまで昇圧させる圧縮機には、日本国内の水素ステーションでの本格的な使用は初となるダイヤフラム式を採用。FCバスの受け入れを見据えている豊洲水素ステーションは水素の充填量もこれまでより多くなることが予想されており、ダイヤフラム式は国内の水素ステーションで一般的に使われているレシプロ式の圧縮機よりも構造がシンプルで、整備がしやすく耐久性の高さも期待できることから選ばれたという。

都市ガスから水素を製造する三菱化工機製の「HPU(水素製造装置)」。300Nm3/hの水素製造能力を持ち、需要の増減による水素残量に合わせ、水素の製造量を100~300Nm3/hの範囲で自動調整する
水素を圧縮する「圧縮機」は、日本国内の水素ステーションでの本格的な使用は初となるダイヤフラム式。低い位置にあるブルーに塗装された機械が圧縮機の本体
充填前の圧縮された水素を保管する「蓄圧器」。7本並ぶタンクの内、下段の3本が82MPaに対応。上段の4本は40MPaの対応品。このほか、40MPaのタンク9本が並ぶ予備も用意されている
水素製造設備内部にはさまざまなガスが行き交う配管が設置されている
豊洲水素ステーションの欧文ロゴ

FCバスに対する水素供給でオリンピックに貢献

開所式では記念のテープカットも行なわれた

 開所式では最初に、東京ガス 代表取締役副社長 穴水孝氏が主催者あいさつを実施。穴水副社長は「水素ステーションにつきましては、2003年に技術実証ステーションを建設して以来、普及と整備に取り組んでまいりました。本日ご列席いただきました皆さまと共に課題を乗り越え、お力添えをいただきましたことでこの豊洲水素ステーションの開所を迎えることができました。豊洲水素ステーションは日本水素ステーションネットワーク合同会社との共同事業でありますが、弊社としては練馬、浦和、千住に続く4か所目のフラグシップとなる水素エネルギーの供給拠点になります」。

「豊洲水素ステーションは環境性能の高いFCVに加え、公共交通機関であるFCバスの水素充填にも対応する大規模な都市ガスオンサイト方式の設備です。主要設備を2重化することによって運営におけるBCP(事業継続計画)対応力を高めております。また、圧縮機では日本の商用水素ステーションで初となる新方式を採用し、耐久性の高い蓄圧器、溶接可能な配管の採用などと合わせ、安全性と安定性を重視する最新技術を導入いたしました」。

東京ガス株式会社 代表取締役副社長 穴水孝氏

「もう1つの特長といたしまして、本ステーションで製造する水素の原料として全量に『カーボンニュートラル都市ガス』を用いていることが挙げられます。天然ガスは化石燃料の中でも最も環境負荷の低いエネルギーではございますが、当社は世界各地の環境保全プロジェクトで得られたCO2クレジット付きのLNGを導入し、都市ガスとして活用しております。そのカーボンニュートラル都市ガスを用いることで、水素の製造工程で発生するCO2をオフセットできるため、豊洲水素ステーションではCO2の発生量が極めて少ない水素エネルギーをお客さまに供給できます。世界的にも低炭素化、脱炭素化の取り組みが進む中で、政府や自治体は水素エネルギー利用のために数々の施策を推進されております。東京ガスも首都圏のエネルギー事業者として、数多くのお客さまのニーズにお応えするとともに、行政の皆さま、各業界の皆さまのご支援、ご指導を賜わりつつ、水素社会の実現に貢献していく所存です」とコメントした。

 このほかに穴水副社長は、開所式後に行なわれた囲み取材で豊洲水素ステーションを新設した理由について、この2020年に開催される東京オリンピック・パラリンピックで都内を走る予定のFCバスに水素を供給することで貢献し、需要も大きいFCバスに対応することで将来的な水素充填による事業拡大の足がかりにしていきたいと説明している。

経済産業省 資源エネルギー庁 省エネルギー・新エネルギー部 新エネルギー課長 水素・燃料電池戦略室長 白井俊行氏

 穴水副社長に続いて来賓のあいさつも行なわれた。経済産業省 資源エネルギー庁の白井俊行氏は「国としても水素の利用について、ロードマップを作って取り組んでおりまして、例えば2030年にはFCV80万台、FCバス1200台という目標を掲げて支援をさせていただいております。水素ステーションも中間目標の2020年に160か所、2030年には320か所の目標を掲げており、この達成に向けて着実に取り組んでいきたいと考えております。その意味でも、本日の豊洲水素ステーション開所は非常に喜ばしいことでございます」。

「燃料電池の利活用は国内外で感心が高まっており、昨年来、燃料電池についてエポックメイキングなイベントも続いております。例を挙げますと、2019年12月に世界初の「液化水素運搬船」が神戸で進水しております。今年に入りましては、まもなく再生可能エネルギーを活用した水素の製造装置を、福島県の浪江町での竣工を予定しております。これは規模としても世界最大になります。なにより今年は『オリンピックイヤー』になります。オリンピックの際に数多くのFCVやFCバスが東京を走ると聞いておりまして、わが国がトップを走っている燃料電池技術についてPRする絶好の機会になると考えておりますし、この豊洲水素ステーションも日本の水素技術を世界に発信する一翼を担っていただけると確信しております」と語った。

江東区 環境清掃部長 林英彦氏

 江東区 環境清掃部長 林英彦氏は、「江東区では“世界に誇れる水彩都市・江東”ということで、いよいよ本年開催される東京オリンピック・パラリンピックに向け、区民、事業者、区が一体となって水と緑豊かな街・江東を目指していろいろな事業に取り組んでいるところでございます。地球温暖化対策でもいくつかの事業に取り組んでおりまして、若洲の風力発電をはじめ、マイクロ水力発電、区立の中学校全校で清掃工場で発電した電力を導入するといった形で再生可能エネルギーの活用に努めております」。

「水素エネルギーにつきましては、環境負荷の低減、エネルギー供給の多様化などさまざまな観点で重要な意義を持っていると考えており、庁有車としてFCVの導入を図っております。豊洲水素ステーションはカーボンニュートラルな都市ガスを使っているということで、環境負荷を低減し、脱炭素社会をリードする施設になるとお聞きしております。FCバスを大規模に受け入れる日本初のステーションとも聞いております。また、災害時の水素供給が可能であることは、区としては大変心強いインフラになると思っているところです」。

「江東区としては潮見、有明、新砂に続く4番目の水素ステーションになります。都バスをはじめとした本区で運行する多くのバスが、環境に優しい公共交通手段としていち早く実現されることを期待しております」と述べた。

東京都 環境局長 吉村憲彦氏

 東京都 環境局長 吉村憲彦氏は「今日は本当に寒いですが、今年は全体としては暖冬となっていて、昨年の夏は厳しい暑さで、これまでに経験したことのない水害に見舞われました。これは気候変動の影響と言うことで、こうした影響が身近な生活にも影響してきているところでございます。東京都では気候危機に立ち向かい、都民の皆さまの生命と財産を守るため、“ゼロエミッション東京”の実現を目指すこととしております。そして昨年末にゼロエミッション東京戦略を公表させていただきました。この中で『目指すべき2050年の姿』として、水素を脱炭素社会の柱にすることを掲げております。水素は利用の段階でCO2を排出しないことに加え、エネルギーを長時間、かつ大量に蓄えることができるため、再生可能エネルギー電力の大量導入時の調整力や、熱エネルギーの脱炭素化に向けた重要な鍵になると位置付け、水素エネルギーの普及を強力に促進しているところです」。

「その水素エネルギーの普及に欠かすことのできないインフラである水素ステーションの整備についても、2020年に150か所を目標に引き続き取り組みを進めております。都内で15か所目となる豊洲水素ステーションは、先ほどからのご紹介でもありますように、FCバスの大規模受け入れが可能な日本初のステーションになります。現在、都営バスでは15台、民間バスで2台のFCバスが都内を走行していますが、東京都では東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会までに、FCバスを都営バスで最大70台の導入を目指しております。この豊洲水素ステーションの開所により、FCバスの導入にも弾みがつくと考えております」。

「ゼロエミッション東京の実現を目指す東京都といたしましても、企業の皆さまの脱炭素化に向けた積極的な取り組みは大変心強く、こうした創意工夫の今後の広がりを期待しているところです。脱炭素社会、水素社会の実現には企業の皆さまによる技術やノウハウを生かした積極的な取り組みが不可欠です。東京都といたしましても企業の皆さまの取り組みを後押してまいりたいと思っておりますので、引き続きご尽力いただければ幸いでございます」とした。

開所式の最後にはFCバスへの水素充填セレモニーも行なわれた
穴水副社長と白井氏がディスペンサーのノズルをSORAに設置。今回は式典参加者が多数いるため、実際の水素充填は行なわれなかった