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西村直人の「第12回 オートモーティブ ワールド」レポート。最先端の自動運転技術を紹介

全6分野の中から「第3回自動運転EXPO」「第8回コネクティッド・カーEXPO」を取材

2020年1月15日~17日 開催

東京ビッグサイトで行なわれた「第12回 オートモーティブ ワールド」

 1月15日~17日にかけて「第12回 オートモーティブ ワールド」が東京ビッグサイト(東京都江東区有明)を中心に開催された。オートモーティブワールドとは自動車関連の各分野における集合イベントで、この数年は1000社以上が出展し、来場者数も3万7000人以上を数える。

 第12回目の今回は、「第10回クルマの軽量化技術展」「第6回自動車部品&加工EXPO」「第8回コネクティッド・カーEXPO」「第3回自動運転EXPO」「第12回カーエレクトロニクス技術展」「第11回EV・HEV駆動システム技術展」の全6分野にわたるイベントが開催された。そのうち、東京ビッグサイトの南ホールで開催された「第3回自動運転EXPO」と「第8回コネクティッド・カーEXPO」の取材を行なった。

 筆者は1995年から先進安全技術や自動運転技術の執筆活動を行なっており、Car Watchの運営会社であるインプレスからも拙著である「2020年、人工知能は車を運転するのか ~自動運転の現在・過去・未来~」を上梓させていただいた。

 この拙著の取材は2016年秋から冬にかけて最終工程を行ない、発売が2017年2月末だから、すでに情報としては3年少々前のものだ。しかし、そこでは各自動車メーカーやサプライヤー企業に従事されている技術者の方々に対して、「2020年以降に実現可能な技術とは何か?」というテーマでインタビューを行なった。よって、今、現実に起きていることや社会実装されていることの多くは、文中にご登場いただいた技術者の声と大方で重なっている。

 執筆時点で主催者による来場者数の発表はないが、会期最終日の来場者はとても多く、ブースの出展技術に近づくにもひと苦労なほど。今や“自動運転”や“コネクテッド”という言葉は毎日のように見聞きするが、ここ東京ビッグサイトでも最先端の情報を取得しようと業界関係者の目は輝く。

東京ビッグサイトには多くの来場者が訪れた

各ブースを紹介

 数あるブースの中から最初に訪れたのは、SAE レベル4の技術開発を行なう「AutoX」。米国カリフォルニア州サンノゼに本拠地を置き、3Dディープラーニングを用いた自動運転技術を開発している。

 彼らによれば、現在、光学式カメラを使ったマルチセンサー主体の自動運転システムを開発中で、人による運転操作のいらないAIドライバーがセールスポイントなのだという。同時に、AIドライバーの運転によるロボタクシーや、配送サービスであるロボデリバリー(荷物の受け取りには人が介在)などの実用化に向けた開発も行なっている。

頭上には60cmほどの突起物としてカメラセンサーが装着される。検出性能は非常に高いとのことだが、実用化となると突起物に何らかの軽い接触があっただけでも機能がシャットダウンしてしまうため、バックアップセンサーの装着も考慮しなければならないだろう

 オートモーティブワールドが対面型のBtoBスタイルをとっているため、自動運転の要となる各種センサーを出展する企業が多かった。その1つが「LIVOX」で、今回は検知範囲280m/500m、精度2cmを誇る自動車搭載用LiDARセンサー「Tele-15」を出展。一般的な反復リニア走査パターンではなく非反復走査パターンを採用し、高い精度を実現したことが特徴だ。

急激に安価になっているLiDARだが、車載用となるとさらなる長距離と信頼性が求められる。また、複数のLiDARを組み合わせた場合や、他のセンサーと検出情報を融合させた場合の検証もこれからさらに進められていく

 東陽テクニカは、1月14日に「マレリ」(旧カルソニックカンセイ)と自動運転開発分野のうちLiDARセンサーの共同開発を行なうと発表したばかりの「XenomatiX」のLiDARセンサーモジュールを出展。センシング部分に可動部分と回転機構を持たないことから壊れにくくて設置場所の自由度が高いという同製品の利点を活かし、この先は自動車のヘッドライトに内蔵することを計画しているという。「センサー精度そのものは十分な値」(東陽テクニカの担当者談)とのことで、排熱性や耐久信頼性を確認しながら普及へとコマを進めていくようだ。

ハロゲンからHID、そしてLEDとヘッドライトは明るく長寿命化したが、そのユニット内にLiDARが入るとなると発光体の熱がネックになっていく。ただ、近い将来、小型化されたLiDARの一部はヘッドライトユニットに入っていくようだ

「Velodyne Lidar」の製品を取り扱う「アルゴ」からは、開発中で市販予定品である「近接特化型LiDAR」が出展された。近接とあるように、測定距離は10cm~30mとセンサー周囲の検出に特化したLiDARで、FOV(視野角)は水平方向180度/垂直方向180度。市販予定品なのでサイズの変更があるかもしれないとのことだが、本体はφ900mm×高さ100mmと小さい。ブースではトヨタ自動車「C-HR」の車両側方に各2個、計4個の近接特化型LiDARを装着。このC-HRでは、前後に長距離LiDARを加えた合計6個のLiDARで360度センシングを行なっていた。

大きな筐体でセンサーをぐるぐる回していた時代が懐かしく思えてくる。この先は、車両の内部へのビルトインが課題になっていくようだ。ただ、その場合でも一般的に車載用LiDARの耐久信頼性はまだ不足している面もあるとのことで、性能面ではミリ波レーダーや光学式カメラにひけをとらないものの、課題は残る

「FLIR」は赤外線カメラを出展。60Hzに対応したVGA方式の車載用で、現時点、世界最小かつもっとも低価格な赤外線カメラと謳われている。自動運転技術のセンサーは、この先ミリ波レーダー/光学式カメラ/LiDARの3タイプが主流になっていくと言われているが、夜間や逆光時の補正センサーとして赤外線カメラの需要も残る。赤外線暗視装置とも言われる赤外線カメラは、たとえばGM「キャデラック・ドゥビル DHS」が1999年から搭載していた「ナイトビジョン」が有名で、現在に至るまで搭載車は意外にも多い。

 出展社スタッフによると、「消防隊による消火現場でも高い精度を発揮している当社の熱源探知技術は、ミリ波/カメラ/LiDARが不得意とする場面で威力を発揮するため、自動車メーカーに対して積極的にアピールしたい」という。また、VGA方式では解像度が低いように思われるが、「検知には十分な値」(前出スタッフ)とのことで、この先はさらに小型化を進め、既存のADASセンサーに内蔵できるよう作動温度の低下を開発目標にするという。

赤外線カメラは、一部に暗視スコープなど防衛用としての開発されたことで技術レベルが向上した経緯があると言われているが、車載用となると赤外線カメラの弱点である一定間隔でのシャッターによる残像リセットをなくすことが求められていた。FLIRでは残像リセットをプログラムで処理することに成功し、世界最小サイズを実現した

 MaaS(Mobility as a Service)領域でも自動運転技術の開発は進む。小難しい数字や記号ばかりが並ぶ理系色の強いブースの中にあって異彩を放っていたのが、「OTSL」が事業化を進める“和室型物販MaaSシステム”だ。

 ご覧のように、京間4畳ほどの和室に電動台車を取り付け、それに自動運転技術とスマートフォン経由のコネクテッド技術を組み合わせた。紹介動画では単に和室が走っているのでコントのようにしか見えないのだが、よくよく考えればこれこそODD(Operational Design Domain)と呼ばれる運行設計領域の観点からもっとも早く実用化できそうなMaaSであると実感。「広い公園などで休憩したい時にスマートフォンから呼び出すだけで“和室”が自分のもとに自動走行して現れます」とOTSL担当者談。また、「公園や広大な遊園地、空港などではテロ対策としてゴミ箱が撤去されることも多いので、“和室”ではなく“ゴミ箱”を搭載しながら走りまわることで利用者のニーズに応えたいと思います」と笑みをこぼす。まさしく移動体としてのサービス、これぞMaaSだ!

思わず笑ってしまったほど場違いな和室だなと思ったのもつかの間。最先端のものばかりに気をとられていたが、本来はこうした誰もが便利に使えるところにこそ自動化の技術をどんどん採り入れるべきなのかもしれない

 これ以外にも会場では、衝突被害軽減ブレーキの簡易型として既存のブレーキペダルにモーターとチェーンによる可動部を設け、衝突の危険性が高まった際にペダルそのものをモーターの力で引っ張り制動力を生み出す技術や、360度カメラシステムの難点であるカメラ境界線同士のつなぎ目を画像処理技術でほぼ解消する技術などが出展されていた。

ペダルのアームをモーターで引っ張り上げる簡易型。韓国では50台のバスとタクシーに装着して実証実験を行なっているという。ミリ波レーダーと光学式カメラを用いてTTC(衝突予測時間)の2秒前に警告、1.6秒前に弱いブレーキ(アームを少し引っ張る)、1秒前に強いブレーキ(アームを力いっぱい引っ張る)ことで機能させる
商用車にも採用が進む360度カメラシステム。日本では消防車やはしご車、宅配トラックなどへの導入が盛ん。これまで画像の継ぎ目はどうしても処理が難しく、それが使い勝手を下げていた。近年は画像処理技術の発達によって、ほぼシームレスに周囲の確認が行なえるようになった。夜間の視認性も飛躍的にアップしたという

 また、VR技術を取り入れたドライビングシミュレーター(DS)の世界は今やクルマだけでなく、電車、船舶、飛行機、ヘリコプター、除雪車などにどんどん応用されている。中でも除雪車のDSは、除雪が必須の自治体からの強い要望で開発された。これまで除雪車ドライバーの育成は、降雪時に除雪作業との並行が主流であり、それ故、除雪/育成の両方に時間がかかっていた。それがDS導入によって、雪の降らないオフシーズンにも育成ができるとあって喜ばれているそうだ。

DSそのものは古くから存在しているが、あらゆる運転状況を正確に計測できるようになってきたのはここ25年ほど。安全運転診断ができたり、危険予知運転訓練ができたりするほど、今のDSは計測精度が向上。今回は展示がなかったが、溶接や塗装の世界でも職業訓練用としてVRを使ったシミュレーターが存在する

 最先端の自動運転技術はどれも華やかだ。よって日々の取材ではどうしてもそちらに目を奪われてしまうが、社会実装となれば、今回概要を紹介した要素技術の昇華が先に訪れ、その後、実車が完成していくわけで、こうした原点取材は定期的に行なっていくべきだと改めて実感した。

車内HMIで大切なタッチパネル。これはすでに実用化されているタッチパネルの内部(担当者の説明からBMW向けと推察)。タッチセンサー部分の薄型フィルム化によって、すでに木材を使ったタッチパネルも実用化されている
この6角形の面にはカメラとともに96個のマイクが装着されている。これにより音の流れと大きさを可視化することが可能。球体も同じ機能でさらに立体的に可視化するなど高い精度を出すこともできる
こうした世界も5年程前は非常に高価だったが、今では小さなカメラをセンサーに使うだけで機能するまでプログラムが進化した。一方、上下左右に前後と揺れが続く走行中の車内でジェスジャーコントロールを思い通りに行なうのは今でも難しい

【お詫びと訂正】記事初出時、東陽テクニカブースの一部表記に誤りがありました。お詫びして訂正させていただきます。