ニュース

高齢者同士が支え合う“新しい地域の足”「近助タクシー」という選択

福井県永平寺町が取り組む「地域のみんながうれしい交通網」

福井県吉田郡永平寺町が取り組む「近助タクシー」を取材した

 今回、Car Watchは地域交通の課題解決のため、新しい取り組みを行なっている自治体を取材する機会を得た。その自治体は、石川県 小松空港からクルマで約1時間ほど走った福井県吉田郡永平寺町だ。永平寺町は、福井県のシンボルでもあり鮎釣りなどで有名な九頭竜川に沿った広い地域。地名にもある永平寺は、古来より日本の禅修行の場として世界的に知られるお寺である。

 そんな永平寺町だが、この町も地方共通の問題である人口減少という悩みを抱えていた。町の中心部は住宅やビルが多いが、少し郊外に出ると田畑が目立ち、昔ながらの大きな家が多く建つ風景になる。建て増しを繰り返したような家を見ると「大家族で住んでいそう」と思うのだけど、実際は違った。子ども世代は就職や結婚を機に町の中心部や都市に引っ越してしまうことが多いそうで、大きな家でも住んでいるのは高齢者だけになっていることも多いというのだ。

 都市部では「人が減る」というとどこかの誰かが引っ越すことであり、とくに気にするものではないが、こういった地域での「人が減る」とは「一緒に暮らしていた家族が出ていく」ということなのだと気がつくと、家族の歴史を感じさせる大きな家がどこか寂しいものに見えた。

九頭竜川沿いに広がる永平寺町。町名にもある永平寺は世界的にも有名な禅の修行道場。九頭竜川より南は役場を含むにぎやかなエリア。中心部は鉄道や路線バスも通り便利で住みやすそうな環境だが、川の上流に行くと風景はのどかになる

小まわりの効くコミュニティバスでもカバーしきれない現状

 そんな永平寺町には鉄道と路線バスという交通の便があるが、現在は山あいの地区である鳴鹿山鹿地区と志比北地区は路線的にカバーできていない。そこで、この地区は町が走らせるコミュニティバスが住民の足となっているわけだが、通常のバス路線が通っていない理由は利用者が少ないからであるだけに、コミュニティバスも通勤、通学がある朝夕に利用者が集中し、そのほかの時間帯は誰も乗っていないままの運行になることが多い。とはいえ公共交通なので、利用者の少ない時間帯も運行しなければならないのだ。そのため運行経費は慢性的に大きく赤字となっていた。

 しかし、人口が減っているとは言え、昼間は地域のお年寄りの利用があってもおかしくないと思う。でもそれすら少ないということだったので、関係者に質問をしてみたところ自分の視野が狭かったのに気づかされた。

 路線バスより小柄な車体のコミュニティバスは、主要道路から集落があるエリアまで入ってきてくれるのだが、バスが停まるのは「停留所」のみだ。これは当然のことなのだけど、足腰の弱ったお年寄りからすると、自宅からそう離れていないバス停まで歩いていくことすら大変という。しかも買い物を終えて荷物が増える帰路ではさらに大変になる。

 加えて、乗り遅れないためには時刻表の時間より早くバス停にいなければならないわけだが、雨の日や暑い日、寒い日では到着を待つのも厳しいという。そんなことから、便利なはずのコミュニティバスもお年寄りにとっては利用しにくいものになっているとのこと。

 そういう状況が続くと、中には外出しなくなる方もいるが、若い世代でも身体を動かしていなければ肉体的にも気持ち的にも弱ってくるだけに、お年寄りではそれが顕著になりがちだ。つまり住民のニーズに合っていない地域交通の不便さは、住む人の身体と心の健康状態も左右する問題でもあったのだ。

自宅からバス停までの歩きがツラいということは、出先のバス停から目的地までの移動も大変ということ
永平寺町の道も平坦ではない。そのためタクシー利用が増える傾向になると言うが、バスより料金が高い。そのため健康管理の通院すら回数を減らすことにもなっているという

永平寺町が導入した集落の新しい足「近助タクシー」とは

 このような課題を解決するため永平寺町が導入したのが、トヨタ自動車が発売する乗降しやすさや3列シートへの乗り込みも容易にした多人数送迎車「エスクァイア ウェルジョイン」を使った「近助(きんじょ)タクシー」である。

 この近助タクシーとは「交通空白地域において自家用車を使い住民の移動手段を確保することを目的とした取り組み」の名称で、永平寺町内でも高齢者が多い鳴鹿山鹿地区と志比北地区に住む方を利用対象にしている。近助タクシーは道路運送法第78条にある「自家用有償旅客運送」に該当するので、本来利用は有償になるのだが、現在は試走段階なので無料で運行している。

永平寺町が導入しているのが、トヨタ「エスクァイア」をベースに乗り降りのしやすさや3列シートへの乗り込みを容易にした多人数送迎車「ウェルジョイン」。定員は7名
ボディ両サイドに描かれるイラストは、近助タクシーが運行する地区にある志比北小学校の子どもたちが描いたもの
最初はトヨタの社内デザイナーが手がける予定だったが、デザイナーの「“地域のクルマ”という色を濃くするなら地域の方の作品を取り入れたほうがいい」という提案によりこのようになった。利用者からも評判がいいという
ウェルジョイン仕様の装備。2列目シートは右寄りの2座仕様に変更しているので、3列目への乗り込みが容易になっている
3列目へのアクセスのため手すりが要所に追加される。手すりの位置はとても考えられていて乗り降りの身体の動きに対して使いやすかった
左スライドドアを開けると自動で出てくるステップは、位置、幅、そして高さすべてちょうどいい感じ。実際の乗り降りでも足への負担が大幅に軽減されていることが感じられた
乗り降り用の手すりはほかにも装備される
前席は標準車と同じ
ウェルキャブ全般の責任者であるトヨタ自動車株式会社 CVカンパニーの中川茂氏。近助タクシーを語るに欠かせないキーマン

 さて、ここで取り上げておきたいのが永平寺町にウェルジョインを使った新たな地域交通の提案をしたトヨタ自動車 トータルソリューション室 地域モビリティG。

 そのグループを引っ張る中川茂氏はトヨタで福祉車両開発の責任者も務めており、仕事がら高齢者の事情や地方の交通状況などに接することが多かったので、常に「困りごとに対応できる自動車を作ることで、困っている人の問題を解決していきたい」との考えを持っていた。さらに「開発したクルマが世の中で活躍できる環境も作らなければいけない」とも思っていた。

 そんな気持ちから立ち上がったのが、ウェルジョインを使った「住民参加型の自家用有償旅客運送」という取り組みだった。これは既存の地域交通網ではカバーできない利用者のニーズに応える「新たな地域の足」という位置付けのもので、主な目的は過疎地で暮らす高齢者の買い物や通院などの生活支援。利用者の自宅前から目的地の入口前までというドア to ドアの運行が基本となっている。

 また、ウェルジョインの利用を通じて、単身で住む後期高齢者と地域の接点が増えるので、後期高齢者のセーフティネットになる役割も担うものである。

近助タクシーはトヨタと福井県すべてのトヨタ系列企業が応援している

地元振興会長自らステアリングを握る近助タクシー

 永平寺町の近助タクシーは町が運営していて、近助タクシーのドライバーになるには普通免許取得者であり、2年間停止のないことに加えて国が定める移動サービス運転車研修・市町村運営有償運送等運転者講習を受けることが条件。自薦もOKだが、永平寺町では交通問題がある地区の事情に詳しい志比北地区振興連絡協議会長の川崎直文氏が人材に声がけしていて集めていた。しかも人を探すだけでなく、ご自身もドライバーの資格を取得している。

志比北地区振興連絡協議会長の川崎直文氏。「元気な高齢者が支え手にまわろうじゃないか」という考えから、近助タクシーのドライバーは定年により仕事をリタイヤした町民男性に依頼していて、現在は川崎氏を含む12名が登録されている

 今回の取材では川崎氏、町役場担当者、そして近助タクシーのドライバーを務めている2名のお話を聞くことができたので、その内容を紹介していきたい。

 川崎氏は、「近助タクシーが走る志比北地区では“小さな拠点”という観点から“地域総合商社”という働きをしています。これは地域内の人やものの動きを盛り上げていくことを目的としたもので、それらの仕事を地域の人によって行なうものです。その活動の一部であるのが近助タクシーです。近助タクシーでは地域の方にドライバーを務めていただいていますが、単に運転するというだけではなく、近助タクシーを通じて地域がよりよくなるためのプランも考えてもらっています。これは地域総合商社としての新しい事業のアイデアだったり現状の改善点だったりしますが、とにかく行政に頼りっきりではなく、われわれの力で地域をよくしていくことを心がけてもらっています。そしてその意気込みを示すのがサービスの名前にもなった“近助”です。近くの人同士の助け合い事業なのです」と解説した。

近助タクシーは2019年11月1日から試走開始
拠点になっているのは永平寺生活改善センターという町の施設
支え合いの地域作りを大事に考える川崎氏。移動の支援、見守りの支援、そして交流の場も必要だと語った
近助タクシーの車内ではドライバーや利用者同士の会話が生まれる。そうした人とのつながりから多くの情報が入るので、利用者はもちろん利用されていない方を含めた見守りにもなる
近助タクシーは試走期間でデータを集め、本格運用時はより利用しやすいものにしていくという。将来的には貨客混載も検討している
永平寺町役場の担当者によると、空っぽのコミュニティバスが議会で問題になっているときにトヨタからウェルジョイン活用の提案がきたという。すでに実用している地域へ視察に行き、その効果を確認して導入を決めたという。今後はコミュニティバスの運用も再検討してどちらが効率のいい使い方なのか答えを探る
永平寺町ではお祭りなどがあると各家庭で「木葉ずし」を作るという。お米は地元で取れたもので酢飯。そこにマスが載り、永平寺町の各家庭で栽培している「あぶら桐」の葉っぱで包む。お昼にいただいたがとても美味しかった

地域の人にとって連絡しやすい、地元の郵便局が近助タクシーの予約窓口

近助タクシーの受付窓口を担当する浄法寺郵便局

 近助タクシーを利用するにはまず利用者登録した後、電話連絡をして予約するという仕組みだが、この部分も永平寺町ならではのユニークな取り組みがあった。

 当初、登録受付や予約の電話窓口は役場に設ける予定だったが、お年寄りの感覚では「配車をお願いする」ことへの遠慮もあるし、見知らぬ人に電話で依頼することも気が引ける。そこで白羽の矢が立ったのが、地域にある浄法寺郵便局だった。

 この郵便局は近助タクシーの拠点である生活改善センターから徒歩5分程度のところにあり、配達業務を受け持たず窓口のみの運営である。局長である吉川泰正氏はこの地域で育った方で、郵便局を通じて多くの住民と顔見知りであった。そんなところが受付になったおかげで、遠慮しがちなお年寄りも依頼しやすくなったのだろう。運用開始から予約は増えているという。

 なお、最近は郵便局も行政との協力体制が進んでいて、住民票の交付なども行なっているので吉川氏としては受付業務の話がきたときもその一環という認識だったという。ただ、近助タクシーの受付を始めてから、それまであまり郵便局の窓口の利用がなかった人とのつながりもできたので、郵便局としてのメリットもあると語ってくれた。

浄法寺郵便局長の吉川泰正氏。この地で育った地元の方なのでドライバーと同様、地域のことには詳しい

 予約の処理にはパイオニア製クラウド型運行管理サービス「ビーグルアシスト」という予約管理システムを試用している。近助タクシーの送迎では利用者の自宅まで行くが、運行自体は時刻表に則って行なわれる。また、目的地は利用頻度が高い複数の地点を「停留所」と定めているので、予約時に利用者名、時間、どこまで行くのかを聞き、それをシステムに入力すると近助タクシーのカーナビにその情報が送られる仕組みだ。ただ、予約状況に余裕があったり、ドライバーさんの厚意で時間などある程度の融通をすることがある。そんな柔軟性があるのも地域の人同士だからと言えよう。

 また、地元出身で地元の言葉で対応してくれる吉川氏が相手なので、話がしやすいということから予約以外の要望を受けることも多いという。これを「窓口が違う」と感じるかもしれないが、吉川氏は「それを聞くのも地域の郵便局だからできること」と、できるだけ聞くようにしていると言う。そして利用者の声などを川崎氏やドライバーの方に届けるため、定期的に意見交換もしているとのことだ。

郵便局に置かれた電話と端末で予約を管理する
情報は近助タクシーのモニターに表示される。なお、近助タクシーのナンバープレートの数字は利用者への告知を兼ねて電話番号の下4桁になっていた
近助タクシーには時刻表と停留所がある。予約時はこの2点を指定する。利用の2時間前まで受け付け可能となっている。なお、送迎は自宅まで行なってくれる

利用者から聞く「ありがとう」がなにより嬉しい。ドライバーに話を聞く

ドライバー代表としてお話を聞かせていただいたお2人。右が大谷進氏。左が伊東力雄氏

 続いて、近助タクシーのドライバーからも話を聞いた。対応していただいたのは大谷進氏と伊東力雄氏のお2人だ。まずはドライバーを始めるきっかけだ。伊東氏は近助タクシーが始まる前に、前出の川崎氏から「ドライバーになってくれないか」と依頼があったと言う。伊東氏は普段から地域のための活動をされている方だったが、志比北地区への貢献はなかったので引き受けることにした。仕事では大型トレーラーや重機を30年間操っていたので、運転には自信があったと言う。

 大谷氏も川崎氏から声がけされた方だった。以前は地元で消防車を運転していたというこちらも運転のプロであり、消防士という仕事がら、地域のどこに誰が住んでいるかについても精通していた。そしてリタイヤ後はとくに仕事をしていなかったが、声を掛けてもらい仕事の内容を聞いたところ、地元に貢献することに魅力を感じて引き受けた。また、自分が動くことで地域にいる若い人に対して何かの弾みになればいいかなと考えたことも引き受けた理由の1つ。

伊東力雄氏。役場の方から聞いた話でも地域で頼りにされる方とのこと
大谷氏はドライバーの後継者のことも考えていて、「自分が動くことで若い世代がこの仕事に興味を持ってもらえれば」と語っていた

 さて、お2人に普段の運転で体験していることを伺ってみたところ、印象に残ったのが車内での会話だ。内容はたわいない日常会話だが、そこには困りごとや身体の調子、地域の状況といった重要ことが含まれているので、大谷氏も伊東氏も車内の会話を大切にしているという。

 こうして他人のことを見守っているとちょっとした違いが気になることもあるようで、毎回外で待っている人がいつもの場所にいないときはとても気になるので、出てくるのを待つのではなく、異変がないかクルマを降りて家まで様子を見にいくこともあるようだ。こうした行動が命を助けることにもつながると思うと、近助タクシーの地域への貢献度は単なる移動手段にとどまらないことを改めて感じる。

 そんな利用者ファーストの運行をする近助タクシーだが、実際に乗せてもらって感じたのは運転の丁寧さ。交通ルールを守るのはもちろん、ステアリングの切り方やブレーキの掛けかたがスムーズだったのだ。この点について大谷氏に聞いてみたところ、高齢者を乗せているのでできるだけショックのないスムーズな運転を心がけているとのことだった。近助タクシーのドライバーは、国が定める移動サービス運転車研修・市町村運営有償運送等運転者講習を受けているが、技術面だけでなく思いやりの面もレベルが高いと感じられた。

国が定める移動サービス運転車研修・市町村運営有償運送等運転者講習を受けた証明書。近助タクシーのドライバーは全員これを取得する
ドライバーを務める方は高齢であっても運転経験豊富で、新たに講習も受けているので乗っていて安心感があった。こういう方の横に乗せてもらうと「運転は年齢ではなく、その人の心構え次第だ」とつくづく感じる
エスクァイアの使い勝手も聞いてみたところ、このサイズなら地域の入り組んだところまで入っていけるので扱いやすいとのこと
伊東氏は近助タクシーがこれからも続くために住民への周知をいま以上に進める必要があると語る
ご自身も高齢なので、体調不良のときは無理せずほかのドライバーに代わってもらうという。体調管理も冷静にしっかり行なっているのだ

 最後に近助タクシーのドライバーをやっていて嬉しかったことを伺ってみると、「近助タクシーを利用した人が降りるとき“本当にありがとう”と声を掛けてもらえること」と答えてくれた。運行開始したころには、外出に困っていた利用者から涙を流しながら感謝されたこともあったという。大谷氏も伊東氏も、そんな言葉を聞くたびに「ドライバーになってよかった」と心から思うと笑顔でコメントしてくれた。そして「この近助タクシーという仕組みがこれからも続くことを願っています」と語ってくれた。

大谷氏の運行に同行してみた。利用者が乗車しやすいよう転回させてステップのある左側を家の側に付けるのに思いやりを感じた
乗車時はクルマから降りて乗り込みをサポートする
着席とシートベルト着用を確認後、ドアを閉めて出発
安全運転で次の利用者の自宅へ向かう。1人暮らしのお年寄りにとっては便利であると同時に、人と話ができる楽しい時間でもあった
次の利用者の自宅前はクルマが入れなかったのでそばで待つ
乗り込み補助を行なう。荷物を持っていたのでシートベルトがしにくかったが、そこもサポートする
最初の目的地であるスーパーマーケットに到着。時刻表で運行しているので、帰りも利用する場合は帰りの予約も入れる必要がある
今度は病院に到着。病院は終わりの時間が分かりにくいので帰りはタクシー利用が多いと言うが、病院によっては近助タクシーを利用していることを予め知っているところもあり、診察の終了時間を調整してくれるところもあるという
運行を終えた近助タクシーは生活改善センターへ戻る

便利なだけではない。友人も増えるのが近助タクシー

利用者代表としてお話を聞かせていただいたのが今川冨美子さん(右)と荒井とみゑさん(左)

 では、最後に近助タクシーの利用者の声をお届けしたい。対応いただいたのは今川冨美子さんと荒井とみゑさんのお2人だ。

 今川さんのご自宅前はコミュティバスの通り道だがバス停からは少し離れていた。筆者の印象としては遠くはない距離だったが、今川さんは足腰が弱くなっているため、外を歩くときは杖を使用していたのだ。それゆえに、今川さんからは「若い人には近い距離でも私にとっては遠いんです」と言う言葉が出た。

 そんなとき、役場から知らされたのが自宅前まで来てくれる近助タクシーの運行開始だった。今川さんは「一番に登録したい」というほど運行を歓迎したという。そんなことから近助タクシーの常連になった今川さん。主に老人センターへの行き帰りで利用しているというが、便利になっただけではなく、ドライバーさんやほかの利用者との会話も楽しみになったという。

 また、近助タクシーが通るまでは違う地区の人との接点が薄かったのだが、相乗りで同じ目的地に行くようになったことから、違う地区の方と仲よくなれたとのことだった。これは役場の想定を超えた効果で、そう語る今川さんの笑顔から近助タクシーはとても幸せな効果も生んでいると感じた。

今川冨美子さん。バス停までそう遠くないが、足腰が弱ってしまったので歩くと3回は休んでいたという。近助タクシーは自宅前まで来てくれることが一番ありがたいと語っていた

 続いて荒井さんは習い事や買い物、通院などで近助タクシーを利用しているとのこと。自宅から目的地まで利用するが、用事の終わり時間が読めないので帰りはコミュニティバスを利用することが多いという。もちろん帰りも近助タクシーに乗れればそれが一番なのだが、便数がそれほど多くないのでそこは仕方ないという。ただ、それでも近助タクシーには感謝していて「もっと多くの人に知ってもらって、これからも続けてもらえれば」と語ってくれた。

 そんな荒井さんに近助タクシーへの要望を伺ったところ、便数を増やしてほしいのと、週に1日でもいいので福井駅の方まで行く便を出してくれたらうれしいとのことだった。

荒井さんは週に2回くらいのペースで近助タクシーを利用。そのうち1回はパソコンクラブに通うのに使用しているという
お2人とも「運転手さんやこのクルマには満足している」とのこと。足腰が弱っている今川さんは「掴まるところがたくさんあるのが特にいいです」と語った
老人センターでも近助タクシーは話題になるとのこと。利用したことがない人もまだ多いようだが、そんなときは「1回乗ってみたらいい」とアドバイスしているという

 以上が永平寺町が行なっている「近助タクシー」の概要だ。今回の取材では大勢の方から話を伺ったが、皆さんそれぞれの立場で近助タクシーを大切に考えていることが印象的だった。また、単に人を運ぶだけでなく、地域の人と人との結びつきを強化することにもひと役買っている部分にも「住民参加型の自家用有償旅客運送」という取り組みの意義を強く感じた。

 また、トヨタではウェルジョインを使用した新しい地域交通の提案をこれからも続けていくとのことだが、ぜひ多くの自治体で採用されてほしいものである。