ニュース

西村直人のコロナ騒動で始まった2020年以降の自動運転社会を予測する

トヨタ、日産、ホンダの動向とともに、生活自体がどう変化するか考えた

コロナ騒動で始まった2020年以降の自動運転社会を予測する(写真は1月のCES 2020でトヨタが発表した東富士[静岡県裾野市]の実証都市「コネクティッド・シティ」のイメージ)

 新型コロナウイルスが世界に及ぼす禍は自動車業界にも影を落とす。ダイムラーやフォルクスワーゲン、ポルシェ、FCA、アストンマーティン、ベントレーなどが一部工場で生産を再開するなど明るいニュースがある一方で、部品供給が滞り気味であることを理由に、未だ稼働を停止する工場も多い。

 たとえば、トヨタ自動車の2020年3月の世界生産台数は前年同月比79.4%(64万973台)と大きく落ち込んだ。悪化の主な要因は海外での減産によるもので、同74.5%(36万1908台)。トヨタグループの日野自動車にいたっては、海外生産が同69.7%(2818台)にまで低下した。商用車は経済活動に直結する生産財だから、まともに影響を受けた格好だ。

 日産自動車も同じく悪化していて、国内生産は同71.1%(5万5233台)、海外生産は同58.6%(26万1975台)。ホンダも状況は同じで、国内生産が同90.3%(7万2696台)、海外生産は同50.8%(20万2692台)だ。

 1日も早い収束とその先の終息が望まれるコロナ禍。筆者は医療分野に詳しいわけではないので、それがいつ、どのようにして迎えられるのか想像すらできない。しかし、禍が過ぎ去った後、自動車業界に起こりうる事象、とりわけ専門分野である自動運転技術については交通コメンテーターとしての予測が成り立つ。本稿では、これまでCar Watchに寄稿してきたトヨタ、日産、ホンダ各社での既成事実をもとに、2020年以降の自動運転社会について考えてみたい。

2020年以降の自動運転社会におけるキーワード

 未来を予測する前にそもそもなぜ、自動運転技術が望まれるのか。過去にはステアリングから手を放すことがその主たる目的のように語られた時代もあったが、今は違う。目的が明確になった。生活を豊かにするために自動運転技術が求められている。

 具体的には、われわれの生活に不可欠な人や物の移動をより安全に、そして効率よく行ない、さらにはそれらの移動に必要なエネルギー消費を可能な限り抑えた社会を目指すための手段として自動運転技術が必要である、との解釈が今の主流だ。そしてコロナ禍以降は、この安全・安心という概念がこれまで以上に各所で求められてくるだろう。

 日常に目を向ければ、ここ3か月ほどはテレワークによる在宅勤務や、不要不急の外出自粛要請により人の移動が極端に制限されている。同時にゴールデンウィークを挟んだ前後1週間の道路は、平日を中心に渋滞箇所が減り、公共交通機関の利用率も下がった。分かりやすく人の移動が減ったのだ。

 一方、物の移動はどうか? 生活物資を運ぶ物流業界はここ数年、ドライバー不足や従事者の高齢化対応に追われてきたが、今回のコロナ禍で課題が増えた。外出自粛が重なり、いわゆるeコマース(PCやスマホなどによる電子商取引)によって宅配便の稼働率が大きく上がっているからだ。

 国土交通省の最新調査によると、個人向けの小口貨物(重量100kg未満)の取り扱いは年間131万件以上にのぼる。これは全宅配便件数の10.4%に当たるが、この個人向けの小口貨物がコロナ禍によりじわりじわりと数を伸ばしつつある。こうした現状を、宅配ドライバーはどう肌身で感じているのか、弊社の担当ドライバーに取材した。

「1日に取り扱う荷物の数は劇的に増えました。数が増えた分、荷役作業(荷物を積みおろすこと)は身体に堪えますし、休日明けなどは休憩時間を返上しても間に合わないことがあります。ただ、道路は昼夜問わず空いていて、渋滞による配達遅延が少なくなりました。さらに在宅率が高く再配達が減ったので、その分、配達効率は上がっているのかなと思います」と言う。

 環境への影響はどうか? たとえばNASA(アメリカ交通宇宙局)によると、2020年3月に観測されたアメリカ北東部の大気が2005年以降、もっともクリーンになった(二酸化窒素の濃度が低下した)との報告がなされている。

 日本ではこれから国による本格的な情報収集が行なわれるだろうが、移動制限が行なわれていた世界の各都市ではいずれも空が澄み渡り、空気もきれいになったという声が数多く聞かれる。

 人の移動や物の移動、それに伴う環境変化は、2020年以降の自動運転社会におけるキーワードだ。

 トヨタは2020年1月、人々の暮らしを支えるあらゆるモノやサービスがつながる「コネクティッド・シティ」プロジェクトの概要を発表した。「Woven City」と命名された実証都市では、自動運転、ロボティクス、人工知能などの要素技術を次世代型の高速通信網でつなげた、人中心の新しい生活環境を模索する試みがなされる。

 Woven City内を走行する自動運転車両は、SAEレベル5の技術を搭載したEV(電気自動車)。具体的には「e-Palette」などMaaS(Mobility as a Service)車両が中心で、「i-ROAD」をはじめとしたパーソナルモビリティや歩行者との共存を図るという。

 もっともWoven Cityは実証実験が目的。よって、実証都市内を走る車両がそのまま現状の交通社会に登場するわけではない。しかし、人々の生活を豊かにするためにどのような自動運転技術が発展すればいいのかを知る大きな手がかりになることから、世界中の自動車メーカーがその動向に注目。このように、トヨタの自動運転技術はWoven Cityが核になると予測する。

東富士の実証都市「コネクティッド・シティ」は「Woven City」と命名され、将来的に約70.8万m2の範囲で街づくりを進めるべく、2021年初頭より着工する予定

 日産はどうか? 2019年7月に大幅変更が加えられた「スカイライン」には高度運転支援技術として「ProPILOT2.0」が搭載された。そしてこの先は、ProPILOT2.0をさらに進化させ、現状の高速道路や自動車専用道路などに限定した使用制限をなくし、一般道路(日産は郊外路と説明)でも高度運転支援技術が受けられるようにすると公表している。このことからも、日産の自動運転技術はProPILOTで培った高度運転技術を昇華させ、将来的には自律型の自動運転技術へとつなげていくと予測する。

2019年9月に大幅改良が行なわれた日産自動車「スカイライン」。ハイブリッドモデルは先進運転支援技術「プロパイロット 2.0」を採用し、「HDマップ」「360度センシング」「インテリジェントインターフェース」の新技術などで高速道路における同一車線内でのハンズオフ機能を実現している

 ホンダはどうか? 運転支援技術群である「Honda SENSING」の要素技術を用いてSAEレベル3をいち早く市販車へ導入すると予測する。現在、フラグシップの「レジェンド」から、商用車も用意する「N-VAN」に至るまでSAEレベル2の技術を実装するホンダだが、改正道路交通法の施行を受けてレベル3実装車を世に送り出してくるはずだ。

2018年2月にマイナーチェンジしたホンダのフラグシップモデル「レジェンド」では、安全運転支援システム「Honda SENSING」に機能を追加し、「トラフィックジャムアシスト(渋滞運転支援機能)」をホンダ車として初搭載。高速道路などの渋滞時、0km/h~約65km/hの速度域で前走車との車間を保ちながら自車の走行車線をキープするよう、アクセル、ブレーキ、ステアリングの操作をアシストする

 レベル3の実装はドライバーモニタリングシステムにはじまり、システムの冗長性を格段に高めることが求められる。よって、搭載可能車種は限定されるはずだ。さらに、レベル3では運転操作の権限をドライバーに戻す事象が発生する。よって、システムからの意思表示を短時間で確実にドライバーへと行なう必要もある。こうした人と機械の意思疎通には、橋渡しとなる新しいHMI(Human Machine Interface)不可欠だ。

 最近は、HMIの「I」をInteraction(対話)と定義することも多いが、いずれにしろこの先、新しいHMIの完成度がレベル3の評価軸になることは間違いない。ホンダはこれまで二輪、四輪、汎用、そしてロボットから飛行機まで、じつにたくさんの工業製品を世に送り出したきたメーカーであることから、大いに期待したい。

2020年以降の自動運転技術は、人とより密接な関係を築きながら普及が進む

2019年に公布され、2020年4月に施行された改正道路交通法の概要

 レベル3搭載車の販売に先立ち、国土交通省から指針が示された。それによると、レベル3以上を実装する車両を販売する際、その販売を行なうディーラーでは担当セールスマン/サービスマンなどが搭載技術についてユーザーに説明ができなければならないという。

 さらに法律では違う角度からレベル3を定義する。2019年に公布され、2020年4月に施行された改正道路交通法によって、レベル3を容認する文言として次の3点が明文化された。


①自動運行装置による走行も「運転」と定義
②自動運行装置を使う運転者の義務
③作動状態記録装置による記録を義務付け


 このうち、②がとくに重要で、先にホンダのHMIとして触れた部分だ。繰り返しになるが、ここでの義務とはシステムに定められた使用環境から外れる場合にドライバーが運転操作を引き継ぐこと。言い換えれば、ドライバーと機械(システム)が協調度合いを高めて運転操作にあたることが義務化されたわけだ。

 2020年はコロナ禍に始まった年だ。しかし、本来であれば2020年には東京2020オリンピック・パラリンピックがそれぞれ開催され、そして開催前の7月には、これまで開発が進められていた自動運転技術の大規模な実証実験がSIPと連動した形で行なわれるはずだった。しかし、すべては延期となった。

 ピーク時よりも減少したとはいえ、コロナ罹患者は未だに増え続け、命を落とされる方々が世界で後を絶たない。何はなくとも、禍の封じ込めを切に願う。一方で、積極的に採られている感染拡大防止策により人・物・環境という3つの側面に大きな変化が見られた。いずれも移動制限を受けて明らかになった事実であり、そのほとんどが経済活動においてはマイナス要素だ。しかし、これまで培ってきた技術が人を助ける事実も浮き彫りになった。その1つが自動運転技術の活用だ。

 中国やアメリカなどでは自動運転技術を搭載した無人MaaS車両による食べ物のデリバリーが行なわれていたり、住宅密集地や都市部において消毒薬の散布作業がそうした無人MaaS車両によって行なわれていたりする。さらに、その自律システムを応用したドローンによるタワーマンション高層階や離島へのデリバリー業務の実用化も急速に進む。このように、人を介さないことからソーシャルディスタンスの確保や感染拡大防止策に自動運転技術が貢献しているのだ。

 このことは自動運転技術が生活を豊かに、そして安心・安全な暮らしをもたらす分野への応用が期待できることの証明だ。時間は必要だが、自動運転技術がクルマ社会からわれわれの生活そのものへと浸透していくことは間違いない。また、欧州や北米の自動車メーカーにしても日本メーカーと同じくそれぞれが独自のアプローチで臨んでくることだろう。

 2020年以降の自動運転技術は、人とより密接な関係を築きながら普及が進む。これが筆者の予測だ。