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TGR WRTのラトバラ代表、WRC新型車両「ラリー1」の性能差について「マシンの性能差は僅差」

2022年1月26日 開催

TOYOTA GAZOO Racing World Rally Team チーム代表 ヤリ-マティ・ラトバラ氏

 WRC(FIA 世界ラリー選手権)の開幕戦、ラリー・モンテカルロがモナコ公国の首都 モンテカルロ周辺で、1月20日~1月23日(現地時間)に開催された。WRCは今年から新しい「ラリー1」と呼ばれる車両規定を導入されたことで、どのような勢力図になるかにも注目が集まったが、「フォード PUMA ラリー1」の19号車セバスチャン・ローブ/イザベル・ガルミッシュ組が優勝し、「GRヤリス ラリー1」の1号車セバスチャン・オジエ/ベンジャミン・ヴェイラス組が2位になり、フォードとTGR(TOYOTA GAZOO Racing)が1位と2位を分け合い、フォードとTGRががっぷり四つという形でシーズンが始まった形になる。

 そうしたTOYOTA GAZOO Racing World Rally Teamのチーム代表 ヤリ-マティ・ラトバラ氏が、日本の報道関係者との記者会見に応じてくれたので、その模様をお届けしていきたい。

TGR、フォードはそれぞれ得意不得意があるが互角、ヒュンダイが信頼性の問題を解決すれば三つどもえになると評価

──それではラトバラ代表から、ラリー・モンテカルロの総括を。

ラトバラ代表:優勝できなかったのは残念だったが、全体的には満足だった。われわれは勝てる、信頼性があるクルマをもっていることが重要だ。そしてドライバーも自信をもっている、それも重要だ。

──ラリーの序盤、ラリー1カーへのコメントが面白かった。フォードのドライバーは簡単にアタックできるしクルマに満足もしていると言っていた。TGRのドライバーは速く走れるがクルマには満足していないと言っていた。

ラトバラ代表:セバスチャン・ローブ選手は非常にいいスピードをみせていた。われわれのセバスチャン(オジエ選手)も徐々によくなってアタックをかけることができ、土曜日にはリードを奪うことができた。エルフィン(エバンス選手)はスタートの時点ではあまり満足ではなかったけど、最後の方はクルマに満足していた。テストしてセットアップをするけど、それが満足かはラリーをしてみないと分からない、最初ドライバーたちが不満そうだったのはそれだったのではないか。

──カッレ・ロバンペラは金曜日パフォーマンスがあまりよくなかったが。それはなぜか?

ラトバラ代表:最初モンテに来たときには、たしかにあまりよくなかったと思う。去年のクルマと比較してあまり満足していなかったということじゃないだろうか。彼は、最初の方は昨年との比較を重視して臨んでいたと思うが、今年のクルマは完全に去年と異なっている。テストの時にはアンダーステアがでたが、そう理解してそれなりに走らせていたのだろうが、最初のステージが終わってそうじゃないと理解できて、どうすれば新しいマシンになれるかということを考えていって、どんどん学んで性能を引き出せるようになったと考えている。

──今回デビューした GRヤリス ラリー1は、全体を通してスピードも信頼性もとてもポジティブだったように思う。この車両開発においては、エアロダイナミクスだったり、ドライバビリティであったり、信頼性であったり、各テーマがあると思うが、どのようなところに主眼を置いたのか?

ラトバラ代表:安全性、信頼性、ハイブリッドのソフトウエアという3つを重視した。それを理解した上でサスペンションなどにも取り組んでいった。

──カイゼン(改善)という言葉をトヨタではよく使われるが、スウェーデンに向けてどうカイゼンさせていくか?

ラトバラ代表:この初戦で信頼性が高いということは分かったし、ハイブリッドシステムにも問題がなかった。次戦のスウェーデンはスノーラリーになるので、トラクションの確保も大事になる。もっとサスペンションとか別の部分のセッティングにも集中していきたい。

──昨年ラトバラ代表にお話を伺ったときには、センターデフがなくなって、ドライビングスタイルがどちらかというとクルマを振り回すような北欧タイプのドライバーが速くなるんじゃないかというお話だった。しかし、今回のモンテカルロの結果を見ると、2人のセブのような比較的スムーズなドライビングのドライバーがトップを占めていた。このことはどういう分析をしているか?

ラトバラ代表:ラリーの種類の違いだ。グラベルラリーならアグレッシブなドライビングスタイルが適している。ターマックラリーに関しては、サーキットを走るようにレーシングラインをクリーンに走るスタイルのドライビングが要求される。今回のモンテカルロではターマックだったということが1つの要因になる。もう1つは、ローブ選手、オジエ選手にとってモンテカルロはホームラリーなので、彼らが得意にしているラリーであり、地の利のようなものがあったと考えている。

──GRヤリスだがかなり前下がりのレーキ角がついた車高になっている。これはフォーミュラカーのようにダウンフォースを増すための考え方なのか?

ラトバラ代表:ターマックラリーに関しては、コーナリングスピードが非常に重要なので、レーキ角をつけることが必要になってくる。しかしながら、グラベルやスノーラリーに関してはリアや側面のグリップも重要になってくるのでリアも下げていかないといけないと思う。

──今回のモンテカルロラリーを終えて、TGR、フォード、ヒュンダイという3マニファクチャラーの勢力図をどう見ているか?

ラトバラ代表:全般的に新しいラリー1カーがどれもよいパフォーマンスを見せることができたということはよいことだと考えているし、全般的にマシンの性能差は僅差だと考えている。現時点では、ヒュンダイは少し技術的なトラブルがでてしまっていたが、今後対策を進めていくと段々と解決していくだろう。

 フォードとトヨタを比較すると、われわれの方は滑りやすいようなコンディションでグリップレベルがちょっと低い時に強く、その逆にフォードは路面がスムーズで道幅が広いところで強いパフォーマンスを発揮できるのではないかと感じている。

トヨタ GRヤリス ラリー1
フォード プーマ ラリー1
ヒュンダイ i20 N ラリー1

2023年にローブ選手にオファーをする予定はないが「ラトバラ選手」にオファーしたいとラトバラ代表

──セバスチャン・ローブ選手が今回モンテカルロで勝ったけどどう思うか?

ラトバラ代表:ローブ選手のモンテカルロ優勝に関しては素晴らしいことだと思っている。彼はWRCで優勝した最年長のドライバーになったし、ラリー前には、いくら彼のように才能があるドライバーであっても年齢が問題になるのではないかと考えていて、正直トップ5ぐらいにはくるだろうと思っていたが、優勝ということでさすがだと思った。

 ローブ選手にせよ、オジエ選手にせよ、F1で言えばハミルトン選手やミハエル・シューマッハ氏のように、何かプラスを持っているドライバーではないかと思っており、そのローブ選手が優勝したということは競合チームであってもとても感動した。

──2023年にローブと契約する予定はあるか?(カジュアルな質問として)

ラトバラ代表:今の所ローブ選手にお願いする予定はないが、ラトバラという選手にオファーしたいと思っている(笑)。

──今回ハイブリッドになってブレーキングで回生を行なわないといけないため、ブレーキングなどに関しても違っていると思うがどのように違うのか?

ラトバラ代表:ブレーキに関してはハードなブレーキをするよりも、ブレーキの時間が一番エネルギー回生に役立つ。しかし、ブレーキを長くすることによってはタイムロスにつながってしまうので、それを最適化していくことが一番重要になる。ブレーキをより早く始めると、当然エネルギーの回生はより多く得ることができるのだから、タイムロスを最小限に食い止めてブレーキングを長く続けると言うことが一番重要になってくる。その間合い、どのポイントが一番最適なのかを自分たちが理解して、そのポイントでブレーキングをすることが一番重要になってくる。

──トヨタのドライバーないしは、他のチームのドライバーで新しいブレーキングにうまく合わせてきたドライバーは?

ラトバラ代表:セバスチャン・ローブ選手が最初にうまく合わせていた。そしてイベント中に一番インプルーブしていたのは、カッレ・ロパンベラ選手だ。

──勝田選手の評価、チームメイトと違うタイヤチョイスをしていたようだが……。

ラトバラ代表:全般的に言えば、勝田選手はいい仕事をしてくれていた。速さもあったし、ステージタイムでもとてもよいタイムを出してくれていた。しかし、ホンの少しだけ小さなミス(筆者注:土曜日の最後のステージで溝にはまってしまったこと)をしてしまったことで、それにより大きな代償を払わないといけなくなってしまったのがもったいなかった。

 勝田選手は雪の中でスタックしてしまったが、以前フランス人ドライバーのヨハン・ラッセルが同じところでスタックした時には3分で脱出できたのだが、勝田選手はそこで10分をロスしてしまった。しかし、そこから挽回して8位まで追い上げて、ポイントをとることができたというのはシリーズのスタートとしては非常によかったのではないか。

 タイヤの選択に関しては、確かにちょっとした違いはあったが、チームメイトと大きく違うということはなかった。その選択の違いがタイムロスにつながったりというのもなかったし、合理的な選択をしていたと思う。

──次戦はスウェーデンのスノーラリーになる、勝田選手への助言は?

ラトバラ代表:勝田選手は2018年の同ラリーで、クラス優勝をしたはずなので、彼はスウェーデンのラリーを好きだと思う。そのため、いい感じでイベントに臨んでいけるのではないかと考えている。モンテカルロよりはもっとプッシュすることができるだろうし、きちんとフィニッシュすることそれが大事だ。昨シーズンの序盤、彼は非常に好調で上位に入賞していた。それと同じように高いリスクを負わずに確実にフィニッシュすることを心がけてほしい。モンテカルロのようなパフォーマンスを見せることができれば、彼は確実にトップ6に入れると思う。