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スズキ、2030年度に向けた成長戦略説明会 軽EVについて鈴木俊宏社長「100万円台に抑えなきゃいけないんじゃないかな」

2023年1月26日 開催

説明を行なったスズキ株式会社 代表取締役社長 鈴木俊宏氏

 スズキは1月26日、2030年度に向けた成長戦略説明会を開催した。そのなかで2030年度までの地域ごとのEV投入計画とパワートレイン比率を発表、国内のBEVは2023年度に軽商用BEVを投入し、2030年度まで6モデル、比率で20%が目標。あわせて投入車種のシルエットも公開された。

2030年度の世界でのBEV投入モデル数を発表

 説明を行なった代表取締役社長の鈴木俊宏氏は、これまでのスズキの歴史と、現在の世界での展開などを説明したあと、本日の主題でもあるカーボンニュートラルについて説明した。

スズキのこれまで
世界12カ国で四輪シェア1位

 まず、カーボンニュートラルの達成目標が日本と欧州が2050年、インドでは2070年とし、四輪車の製品計画を紹介した。

カーボンニュートラル達成目標
2020年の製品ライフサイクルを含む事業活動全体のCO2排出量

 日本国内では、2023年度の軽商用BEVの投入を皮切りに小型SUV軽自動車を投入予定で、2030年度までBEVを6モデル展開するとし、2030年のパワートレイン比率はBEVが20%、HEVが80%、鈴木氏は「軽自動車や小型車向けに新型ハイブリッドを開発し、バッテリーEVと合わせることで、お客さまに多くの選択肢を提供」とし、スライドでは6モデルのシルエットを提示した。

2030年度の国内製品展開、国内投入の6車種はアルト、ワゴンR、ハスラー、エブリイ、エスクード、スイフトのように見える

 欧州では、2024年度にBEVを初投入、2030年度までにBEVを5モデル、パワートレイン比率はBEVが80%、HEVが20%とした。「SUVセグメントなどに広げる」とし、公開されたシルエットではSUVが多く、ジムニーのように見える車種も含んでいる。「欧州各国の環境規制や、お客さまニーズに合わせて、柔軟に対応したいと考える」とし、規制などに応じて変更の可能性を匂わせた。

欧州の製品展開、シルエットではSUVが多くにジムニーのような車種も見える

 また、インドでは2024年度にBEVを初投入、2030年度までにBEVを6モデル、パワートレイン比率はBEVが15%、HEVが25%、従来ながらのエンジン車であるICEが60%とした。ただし、ICEはそのまま従来のエンジン車というわけでなく、CNG、バイオガス、エタノール配合燃料なども含まれ、「カーボンニュートラルに全方位で取り組む」と話し、内燃機関車も継続的に投入予定とした。

インドの製品展開

 続いて、二輪車については全世界共通の製品展開を発表。2024年度にBEVを初投入、2030年度に8モデル、パワートレイン比率はBEVが25%、ICEが75%とした。「長距離のツーリングやライディング自体を楽しむ趣味性の強い大型車はカーボンニュートラル燃料での対応を検討」とした。

全世界の二輪車の製品展開

 最後に船外機では、2024年度にBEVを初投入、2030年度に5モデル、パワートレイン比率はBEVが5%、ICEが95%とした。鈴木氏は「万一のトラブルが重大な事故につながりかねないことから、 4輪車や二輪車に比べて、より慎重な対応が必要」とし「海洋で使われる大型船外機については、カーボンニュートラル燃料での対応を検討」と述べた。また、あわせて環境問題に対する取り組みとして2010年より「スズキ・クリーンオーシャンプロジェクト」の取り組みを実施、水辺の清掃活動だけでなく、船外機に装着する海洋マイクロプラスチック回収装置で回収する活動も行っていることを付け加えた。

船外機の製品展開
「スズキ・クリーンオーシャンプロジェクト」の取り組み

 そして、電動化関連の投資は2023年度から2030年度にかけて2兆円を投資、そのうち電池関連は0.5兆円とし、東芝とデンソーとの合弁であるTDSG社でセルの生産を開始したことに触れ「各バッテリーEVに合った電池の使用検討や、電池性能の向上に取り組み、今後の市場や技術の動向を見定めながら、自社生産、外部調達の最適な電池の調達体制構築を目指す」とした。

電動化関連投資は2兆円

インドのカーボンニュートラルは牛糞の活用によって挑戦する

 続いて国内工場のカーボンニュートラルは2035年度が達成目標。湖西工場では塗装工場のCO2排出量を2016年度から2025年度にかけて30%削減するほか、グリーン電力、水素製造、水素活用などでカーボンニュートラル化を推進していく。浜松工場では、再生可能エネルギーへの転換などによって、当初の達成予定の2030年から2027年に3年前倒しするという。

国内工場のカーボンニュートラル目標は2035年度
湖西工場では塗装工場のCO2排出量を2016年度から2025年度にかけて30%削減
湖西工場のカーボンニュートラル化
浜松工場ではカーボンニュートラルを3年前倒し

 一方、インドでは市場全体の台数が倍増すると見込んでおり、工場で1台あたりのCO2削減をしても、CO2の総排出量の増加が避けられない見通しのため、牛糞を原料とするバイオガス燃料の製造と供給事業に進出、販売台数を増やしながらCO2削減へ挑戦する。

インドでは販売台数を増やしながらCO2排出量の削減へ挑戦する

 牛糞の活用はスズキ独自の取り組み。インド農村部に多い洛農廃棄物である牛糞を原料としてバイオガス燃料を作る。10頭の1日の牛糞はクルマ1台の1日の燃料にほぼ相当する。

牛糞の活用でインドに合ったカーボンニュートラルを目指す

 鈴木氏は「バイオガスを燃料とすればCO2は発生するが、大気中のCO2をリサイクルして製造するため カーボンニュートラルな燃料。CO2の28倍の温室効果を有するメタンの大気放出の抑制にも貢献でき、生成したのちの残渣からは有機肥料を製造することができる」と説明し、すでにインドなどで関係機関と覚書を締結するなど取り組みを進めているとした。

牛糞のバイオガス実証事業の歩み
牛糞のバイオガス実証事業の計画

スズキ独自の価値を手の届く価格で提供し続け、2030年度に7兆円の売上

 続いて、製品開発を進めていくうえでのリソースについて説明した。「独自の価値を持った商品を全事業において、 手の届く価格で提供し続けていきたい」としたうえで、横浜研究所、スズキR&Dインディア、マルチスズキが連携し、将来技術、先行技術、量産技術の領域を分担しながら対応し、スタートアップ、スズキ協力協同組合、 日本やインドの大学との産官学連携などを進める。

スズキ独自の価値
独自の価値を手の届く価格で
外部連携を進める
次世代クリーン燃料についての外部連携

 トヨタとの協力関係については「競争者であり続けながら協力関係を進化させ、持続的成長と自動車産業を取り巻くさまざまな課題克服を目指し、自動運転や車載用電池等をはじめとした先進技術開発、将来有望な新興国でのビジネス拡大、インドでのカーボンニュートラルに向けた取り組み、環境に配慮した循環型社会の形成に向けて協業で貢献していく」と述べた。

トヨタとの連携
スタートアップとの連携

 2023年度~2030年度の研究開発費、設備投資は、カーボンニュートラルの研究開発費に前述のとおり2兆円と、BEV工場の建設や再生可能エネルギー設備の設備投資に2.5兆円の合計4.5兆円。

2023年度~2030年度の研究開発費、設備投資
成長目標は2030年度の連結売上高が7兆円

 そして、それらの結果の成長目標は、2030年度の連結売上高として7兆円を目指すとした。

軽自動車のEVは「やっぱり100万円台に抑えなきゃいけないんじゃないかな」

 質疑応答では、軽自動車のBEVの価格帯について問われると「軽自動車に対してのお金を払ってくださるリミットっていうのは200万円というのがひとつの基準。売るということで言うと100万円台をなんとか達成できないかな……」と回答に詰まり、100万円台が難しい理由として電池の価格を挙げながらも「軽自動車という意味でのターゲットっていうのは、やっぱり100万円台に抑えなきゃいけないんじゃないかな」と、かなり悩みながら回答した。

 また、説明会の直前に報じられたトヨタの社長交代についてコメントを求められると、直前にニュースで知って驚いたとした上で「日本の自動車業界、産業界に対して熱い思いを持って発言されている方が突然、辞任されるということで、今後はどういう立場で関わられるかわかりませんが、われわれを指導していただくというようなことはお願いしたい。あわせて、いろいろな意見を発信することを続けていただきたいなと思う」と語った。

質疑応答に応える代表取締役社長の鈴木俊宏氏