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サーキット走行中の車両から高精細・低遅延なオンボード映像伝送 NTTコミュニケーションズらローカル5Gを用いた実証実験公開
2025年3月12日 17:48
- 2025年3月11日 開催
NTTコミュニケーションズ(NTT Com)、アルプスアルパイン、双日テックイノベーションの3社は、サーキットコース全域での高品質な無線通信実現のため、モビリティリゾートもてぎにて実験環境を構築しているが、3月11日にローカル5Gにて高速移動するクルマからの映像を高精細・低遅延で配信できるオンボード映像伝送実験を公開した。
ローカル5Gで遅延や混雑のないデータ通信と、高速移動車向けの通信を実証実験
NTT Comとモータースポーツの関わりは、2021年からトヨタのレーシングチーム「ROOKIE Racing」とスポンサー、テクノロジーパートナー契約をし、レーシングフィールドでのICT活用に取り組んでいて、スーパー耐久でもレースカーのGPS位置情報等を収集し安全情報の提供や車両の監視、4K360度カメラによるレース観戦の実現に向けた実証実験を行なってきた。
サーキット場では多くの無線通信が活用されているが、一般向けにも提供されるLTEや5Gのモバイル通信では、来場者が多くなることで通信への影響があることから、今回のローカル5Gを採用する取り組みを行なうこととなったという。
「ローカル5G」とは、スマートフォンの高速通信の5G(第5世代)の通信技術を使うが、通信事業者が不特定多数に提供するのではなく、独自の無線ネットワークを、自分たち専用に自分たちで構築するもの。工場内の機械の制御といったデータが遅延なく届くことが求められる場面での活用が期待される通信方式。ただし、コストが高く、利用のための許認可なども必要になる。
通常スマートフォンはイベントなど人が集中する場所や時間帯は、データがスムーズに流れてこない現象がよく発生する。特にサーキットでの観客10万人規模のレースでは、スムーズにデータが流れない状況に陥りがちとなる。
そこで、ローカル5Gを使うことで、観客が多く詰めかけ、多くの人がレース中の様子を写真や動画でアップしているといった状況でも、レースカーとの通信は、遅延や混雑のない通信が可能になることが期待される。
NTT Com イノベーションセンター イノベーションセンター長の友近剛史氏は「ローカル5Gを構築することによって安定した無線通信を実現することは、レースだけでなく一般にイベントをやるところでも非常に有効だと思っている」とし、今回のように一般利用ではなく高速移動に特化したチューニングを施すことも「これはまさにローカル5Gでないとできない話」と特徴を強調した。
また、イノベーションセンターの中山章太氏は、ローカル5Gについて「スマホの通信とは異なる周波数帯を使っているので、人がたくさん増えても問題なく使えるというところが特徴」と説明。
良好な通信は、車載カメラの高精細映像の伝送ができるだけでなく、例えばQRコードを使った電子チケットの入場処理の高速化や、売店などで電子決済でモノを購入するようなときにも役立ち、スムースでトラブルのないサーキットの利用体験へとつながる。
そして、今回の実証実験ではローカル5Gで通信するだけでなく、高速で走行するレースカーからの映像データを伝送する取り組みとなる。これは、通常の方式ではレースカーの速度は人の移動よりも高速なため、電波を受信する基地局を乗り換える(ハンドオーバー)タイミングが高速移動に適しておらず、通信品質が劣化する可能性があることから。
中山氏は「ローカル5Gならではのチューニングできるところを活かした」とし、そこで、高速移動に合わせたハンドオーバーの各種パラメーターなどを調整して、高速で移動するレースカーから動画データをできるだけスムーズに受信できるようにしたのが今回の実証実験となる。
また、現在でも高画質でテレメトリーデータ付きの車載映像は中継映像でも採用されているが、NTTコミュニケーションズが狙うのはさらにその上、高音質な走行音といったものから、走行車内だからこそ感じられる「何か」をデータに変えて通信で伝えることの実現を目指している。
もてぎのレーシングコースに6つのアンテナを設置
実証実験ではハンドオーバーのパラメーターといったことを検証するが、アンテナの配置の検討も重要。そもそも山の中のサーキットの場合、観客席は地形を利用して設置され、コースが谷になることが通常配置。
そのうえ、もてぎのレーシングコースはオーバルコースをくぐる2か所のトンネルをはじめ、地面の高低差などで電波が届きにくい場所がある。そして最高速が出るダウンヒルストレートの先の90度コーナーは、レースの見どころでもあるがトンネル(セカンドアンダーブリッジ)もあるため電波状況はよいとは言えない。
そこで今回は、6つの基地局とアンテナを全長4.8kmのレーシングコースに設置。アンテナは電波伝搬シミュレーションを実施したうえで設置し、実際にコースを走行したのち想定どおりの結果が得られなかった場所については、アンテナの設置場所の再検討を行なった。
現在の設置場所の6か所のうち、ネットワークの中心となる「コア」は東コントロールタワーに置き、コース途中はコースマーシャルの待機するポストなどに設置している、そのうちアンテナ5か所は周囲360度をカバーする全方位アンテナだが、長さ762mのダウンヒルストレートのエンドの1か所だけは指向性アンテナを設置し、ブレーキング勝負を仕掛けるレースカーを狙っている。
一方、レースカー側にはアンテナ、無線通信機、カメラなどを搭載。ローカル5Gのアンテナ2基とGPSアンテナを搭載する。
実際の映像は、ほぼ途切れなく高画質で映る
今回、実験に使っているクルマはサーキットのセーフティーカー。アンテナを設置して、車内からの映像をコントロールルームで映した。
一般的なレース中継映像は、途切れない動画にするため数十秒のバッファ(余裕)を取っておくことが多い。バッファを設定しておけば、データ伝送速度にムラや途切れがあっても、流れる映像には影響しないようにできるからだ。
ところが、今回は低遅延時の実験のため、あえてバッファを少なくチューニングし、データの流れを見極めやすい実験仕様。そのため基地局を乗り換えるハンドオーバー時に一瞬の通信途切れがあれば、動画も一瞬止まるように調整されたものとなる。
第4コーナーを抜けて第5コーナーとファーストアンダーブリッジをくぐるあたりに何度か途切れによる映像停止が発生したが、ほかはほぼ途切れなし。これならダウンヒルストレートのブレーキ勝負からの立ち上がり、ビクトリーコーナーからホームストレートへの走行もしっかりと見届けられそうだ。
ただし、毎周回とも同じ場所で途切れが発生するのではなく、途切れの有無も含めて毎周同じにはならなかった。映像の遅延だが、今回はバッファを削ったチューニングではあるが、動画のエンコード/デコードやディスプレイ装置の遅延を含めて1~2秒のタイムラグで表示された。
ちなみに基地局のメイン分部となる「コア」と各基地局の間はサーキット側が設置した光ファイバーを借りて利用しているが、同時にコアと基地局の間を光ファイバーではなく、周波数が非常に高いミリ波の電波で接続する方法も実験している。
イノベーションセンター 担当課長の里和勇人氏によれば、ミリ波での伝送は、光ファイバーや銅線といった有線接続が難しい広大なサーキットでは有効な方法となるが、ミリ波は特に伝搬距離の長いサーキットでは、降雨降雪など天候による影響を大きく受けるため冬季の今回の公開では基地局間の通信には用いていないとのことだ。
なお、今回の実証実験は無線局免許期限もあり、一度は3月末で終了するが、今後も実験や検討を進めていくとしている。