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ホンダ、水素社会の“走る電源”となる新型FCV「クラリティ フューエルセル」発表会
外部給電器「Power Exporter 9000」も118万円で同日発売
(2016/3/10 23:34)
- 2016年3月10日 発売
- 766万円
本田技研工業は3月10日、2015年10月に開催された「第44回東京モーターショー2015」の会場で世界初公開し、2016年3月からリース販売を開始すると予告していた新型FCV(燃料電池車)「クラリティ フューエル セル」を発売した。価格は766万円。この発売を受け、東京 青山にある本社1階で記者発表会を実施した。
なお、主要諸元などクラリティ フューエル セルの詳細は、既報の関連記事を参照していただきたい。
「この技術を活用してほかの車種にも展開したい」と八郷氏
発表会では、まず本田技研工業 代表取締役社長 社長執行役員の八郷隆弘氏が登壇。FCVのクラリティ フューエル セルを新たに発売することになった理由について「私たちホンダは、創業以来『人々の役に立つ製品を技術で実現し、提供したい』という思いのもと、数々の製品をお届けしてきました。私たちの原点とも言える『スーパーカブ』『シビック』、さらに耕うん機や発電機もそんな思いから生まれた商品です。そして私たちは、環境への取り組みに対しても同じ思いを持っています。ホンダは地球規模での気候変動といった課題の解決策として、水素エネルギーにいち早く着目。水素エネルギーが人々の生活に役立つという信念を持って取り組んできました。水素はさまざまなエネルギー源から製造でき、輸送や貯蔵にも適しています。したがって、燃料電池車 FCVはガソリン車に置き換わるモビリティとして有望であり、気候変動に関わる課題にも答えることができると考えています」と語り、FCVはホンダが原点として持ち続けてきた思想に合致する製品であると説明。
また、単純に4輪製品としてFCVを開発するだけでなく、水素社会の実現に向けてインフラ面でも取り組みを行なっており、「作る」「使う」「つながる」という3要素に分けて開発を実施。「作る」面では岩谷産業と共同で、2014年9月に世界初の「パッケージ型水素ステーション(SHS)」を埼玉県さいたま市の「さいたま市東部環境センター」に設置し、「使う」面では1980年代後半から燃料電池システムの開発をスタート。2002年に「FCX」が米国での認可を世界で初めて取得し、2008年の「FCXクラリティ」のリース販売開始などを経て同日にクラリティ フューエル セルをデビューさせるなど、「FCVのリーディングカンパニーであるとの自負を持っている」と八郷氏はコメントしている。
「つながる」面の施策では、FCVを“走る電源”として活用するために外部給電器の開発に取り組み、このクラリティ フューエル セルのリリースに合わせ、可搬型外部給電器「Power Exporter 9000」を同日から118万円で発売した。FCVから家庭や公共施設に電気を送ることで、エネルギーをつうじてクルマと人々の生活をつなげ、人々の役に立つことを目指すとしている。また、八郷氏は「明日で東日本大震災から5年の節目を迎えますが、このPower Exporter 9000により、災害に強い社会造りに貢献することもできると考えています」と語っている。
クラリティ フューエル セルの具体的な商品解説は、開発責任者(LPL)を務めた本田技術研究所 四輪R&Dセンターの清水潔氏が担当。清水氏は「CO2削減に貢献できる、FCVに代表されるクリーンカーは、普及しなければ意味がありません。エンジン車に置き換わって普及していくため、環境に優しいだけでなく、クルマとしての使い勝手のよさや魅力を持つことが必要だと考えました」と開発コンセプトを紹介。自身が2007年から4年半にわたって米国に駐在し、従来型となるFCXクラリティを納車したり、ユーザーにインタビューするなかで、「FCVでもクルマに対する要求には手加減がない」と痛感したと語る。
FCXクラリティには「セダンは5人乗りであるべき」「装備が物足りない」「航続距離が短い」と実用面に対して多くの指摘が寄せられ、これをフィードバックして改善するため、燃料電池によるパワートレーンをエンジンと同じようにボンネットの下に収めることが必要であると考えたという。
このために、まずはモーターを前方に90°回転させて高さを抑え、パワーコントロールユニットを小型化して一体化。空いたスペースにFCスタックを設定するため、1セルあたりの発電性能を1.5倍に高め、出力を維持しながらセルの数を30%削減。さらにセル構造を改良してセルを20%薄型化して、FCスタックを従来品から33%小型化することに成功した。このFCスタックにコンパクトな駆動用モーターなどを組み合わせることで燃料電池のパワートレーン全体をV型6気筒エンジン並みのスペースに集約。車両前方のボンネット下に収めて広いキャビンスペースを実現している。
クルマとして重要な“走る魅力”では、FCVとしてトップクラスの最高出力となる130kW/4501-9028rpmを発生するモーターを搭載し、静かで力強い加速を披露し、エンジン車のミッドサイズセダン並みの加速性能を発揮するという。装備面では「先進のクリーンカーには先進の装備を」という考えから、「レジェンド」「オデッセイ ハイブリッド」などに続いて「歩行者事故低減ステアリング」機能を備える最新型の「ホンダ センシング」を標準装備した。
最後に清水氏は「ホンダは自由な移動の喜びと、豊かで持続可能な社会の実現を目指し、今後もFCVの開発に取り組んでいきます」と締めくくった。
発表会の後半には質疑応答の時間が設けられ、このなかで今後の商品展開について問われた八郷氏は、「今回、ガソリン車と同等のパッケージができるようなパワートレーンを開発できたことで、既存のガソリン車にも適用できるスタート地点に立てたと考えております。これからクラリティ フューエル セルのリースを開始して、いろいろな人からご意見を伺いながら車種展開を考えていきたいと思っています。現時点で次の搭載車についてお話しできる段階にはありませんが、いろいろな可能性を検討して、できるだけ早くいろいろな車種に展開していきたいと考えて下ります」と語り、ほかの車種での展開について前向きな姿勢であることを明かした。