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トヨタ 豊田章男社長、2017年度は「私たちの意志が本物かどうかが試される年」

2016年3月期の決算発表会を開催。営業利益は2兆8539億円

2016年5月11日 開催

2016年3月期の決算説明会を都内で開催

 トヨタ自動車は5月11日、2016年3月期の決算説明会を東京本社で開催し、トヨタ自動車 代表取締役社長 豊田章男氏、副社長 伊地知隆彦氏、取締役 専務役員 早川茂氏が出席して報道陣に報告を行なった。

 決算説明会の冒頭、豊田社長が決算概要について触れるとともに、今後の取り組みや展望などについて語ったので、以下に全文を記す。


トヨタ自動車株式会社 代表取締役社長 豊田章男氏

 2016年3月期の決算は、グループ一丸となった原価改善活動や、為替が円安方向で推移したことなどから、2兆8539億円の営業利益を確保することができました。これもひとえに、世界中でトヨタのクルマをご愛顧いただいたお客様のおかげと深く感謝申しあげます。また、販売店、仕入先をはじめとする多くの関係者の皆様のご尽力につきましても、厚く御礼申しあげます。株主の皆様への期末配当は、1株あたり110円とし、これにより、当期の1株あたり配当金は中間配当100円とあわせ、年間では210円となります。また、5000億円、もしくは1億株を上限とする自己株式の取得も新たに実施する計画です。株主の皆様に、トヨタの株を持っていてよかったと言っていただけるよう、持続的な企業価値の向上に努めるとともに、これからも安定的・継続的な還元を実施してまいります。

 今回の決算内容の説明に入る前に、改めて私の経営に対する考え方についてお話をさせていただきます。リーマンショック後の赤字転落、リコール問題、東日本大震災など多くの困難に直面する中で、私たちは持続的に成長できる会社となることを目指してまいりました。トヨタが持続的に成長していくために必要なことは何か。私自身は、もっといいクルマを持続的に生み出せる基盤づくり、人づくりであると考え、これらを最優先に取り組んでまいりました。台数や収益が「踊り場」にあっても、「上昇局面」にあっても、そこで一喜一憂するのではなく、あくまでも「もっといいクルマ」に近づいているか、現地現物で考え、判断し、実行することができる「人材」は育っているかを、自分たちの成長の「モノサシ」として、経営の舵取りをしてまいりました。

トヨタが示す3つの「意思」

 私は昨年の決算発表の場で、「意志ある踊り場」から「実行の段階に入った」「これからは意志ある投資を進めていく」と申し上げました。私たちの「意志」とは、次の3つです。1つはもっといいクルマづくりを着実に進められる会社になること。2つ目は未来への挑戦として、既存の自動車事業はもちろん、自動車事業の枠に収まらない領域にも、しっかり種をまいていくこと。3つ目はこれらのことを、リーマンショックのような事態が起こった時でも揺らぐことなく推進できる強靭な財務基盤を構築すること。私たちは、この3つの「意志」のもと、TNGAに代表される「もっといいクルマづくり」へのチャレンジ、メキシコ工場に代表される「もっといい工場づくり」へのチャレンジ、Toyota Research Institute(TRI)に代表される「新しい価値創造」へのチャレンジに積極的に取り組んでまいりました。また、財務面でも新しいチャレンジを支えるだけの力を蓄えてきたと考えております。

 しかし、私たちの取り組みはいずれも道半ばです。これまでは為替の追い風を受け、自分たちの実力以上に収益の拡大局面が続き、新たなことにチャレンジしやすい環境が整っておりましたが、今年に入り大きく「潮目は変わった」と認識しております。私はこの変化を、私たちの「意志あるチャレンジ」をさらに進める「オポチュニティ」にしたいと思っております。激しい変化にスピーディに対応するには、トヨタは大きくなりすぎました。

 まず、自分たちの仕事の進め方を変革することに着手いたしました。本年4月の組織改正では、「もっといいクルマづくり」の原点である「製品」を軸に、より自立した小さなカンパニーに思い切って分けることで、「もっといいクルマづくり」をもう一歩前に進めてまいります。先行事例となるのはレクサスです。今年1月のデトロイトモーターショーでLC500というモデルを発表しました。LC500のようなクーペはトヨタの1000万台の議論の中では絶対に生き残らないモデルだと思います。しかし、2012年6月にカンパニーの先駆けとしてレクサス・インターナショナルが立ち上がり、小回りの利く自由度の高い組織になったことが商品化に向けた原動力となりました。小さなカンパニーになることで、1000万台の議論の中では埋没してしまうクルマが生き残る可能性が生まれてくる。

 性能、デザイン、価格などお客様の価値観、使い方が多様化するなか、何が重要で何が重要でないかカンパニー単位で議論することで、お客様が望むクルマをよりスピーディにお届けしていきたいと考えております。今後、各カンパニーがレクサスのようなやり方をしていった時に、商品ラインアップが変わっていく、あるいはクルマの発想自体が大きく変化していくことも狙いの1つです。アライアンスによる仕事の変革にもチャレンジしてまいります。

 例えばトヨタが苦手とする小型車の開発では、自前主義にとらわれず、ダイハツなどもっといいクルマづくりの思いを共有する仲間と手をたずさえ、競争力を高める取り組みを始めました。86を一緒に作ったスバルや、マツダ、BMWとのアライアンスではクルマづくりの技術、情熱、スピード感だけでなく、リソーセスやお金の使い方も含め、トヨタが見習うべき多くの学びがあり、彼らにできてトヨタにできないのはなぜか、考えるきっかけを与えてくれました。ライバルとの協業が、自分たちの仕事の進め方を変革するための刺激となり、新しい組織体制に踏み出す上での大きなきっかけとなりました。こうしたこともアライアンスの成果であると考えております。単なる資本提携や共同開発に留まらず、もっといいクルマづくりや、人材育成への気づきを得られるよい機会として、自分たちの競争力やお金の使い方を客観的に見つめ直し、やり方を変えていきたいと考えております。

 今起こっている潮目の変化は、収益環境の変化だけではありません。モビリティそのものが大きな転換点に差し掛かっていることも事実です。こうした大きな変化をとらえ、従来の自動車事業から生まれない新しい価値を創り出す取り組みも積極的に進めてまいります。今年1月に設立したTRIもそうした取り組みの1つです。私は、TRIはトヨタ自動車の前身である豊田自動織機の中に豊田喜一郎が作った「自動車部」のような存在だと思っております。創業期、自動織機から自動車へのパラダイムシフトに挑戦したトヨタが、もう一度大きくモデルチェンジするきっかけをTRIとともに創り出していく。自動運転やロボットは近場の課題ではありますが、人工知能技術は自動車以外の産業基盤にとっても要素技術として大変重要なものであり、クルマの枠を超えて社会に貢献できる新しい価値を創り出していけると思っております。既存の自動車事業の外で、どれだけ自由に挑戦できるか、CEOであるギル・プラット氏や、彼の下に集ったメンバーが勇気を持って取り組んでいけるようサポートしていきたいと考えております。

 最後になりますが、今期に対する私の思いをひと言で申し上げれば、「私たちの意志が本物かどうかが試される年」ということに尽きると思います。今年に入り潮目は変化しておりますが、このようなことが起こり得るという想定の下で、これまで真の競争力強化や強靭な財務基盤の構築に取り組んでまいりました。ことが起きてから対応するのではなく、どのような状況にあっても3つの「意志」をブラさず変化に立ち向かう、乗り越えていく。それこそが今、私たちがやらなくてはいけないことだと考えております。持続的成長に向けては、これまでのセオリーはこれからのセオリーにはなりません。道なき道を切り開くという「意志」を持ち、クルマづくり、ヒトづくり、未来への挑戦を続けてまいります。皆さんの変わらぬご理解、ご支援をお願い致します。ありがとうございました。

2016年3月期の営業利益は前期比1034億円増の2兆8539億円

トヨタ自動車株式会社 副社長 伊地知隆彦氏

 2016年3月期の決算内容についての説明は伊地知副社長から行なわれた。

 2016年3月期は、連結決算で売上高は28兆4031億円(前期比1兆1685億円増)、営業利益は2兆8539億円(同1034億円増)、当期純利益は2兆3126億円(同1393億円増)。営業利益の増減要因としては原価改善の努力、為替変動の影響などの増益要因が、販売台数減少の影響や研究開発費など諸経費の増加を上回った形となっている。

2016年3月期の連結販売台数
連結決算要約
連結営業利益 増減要因

 地域別に営業利益を見ると、日本国内ではシエンタ、プリウスといった新型車が販売台数をけん引した一方、軽自動車市場の低迷が影響して前期から9万5000台下回る205万9000台となった。しかし、営業利益については研究開発費などの増加があったものの、為替変動の影響などにより前期から1026億円増の1兆6767億円とした。

 北米は好調な市場環境を背景に、RAV4、レクサス NXといったSUVが販売台数を伸ばしたことで販売台数は前期から12万4000台増となる283万9000台を記録。営業利益は5056億円(前期比322億円減)となっており、これはドル高による輸出採算の悪化などが主な要因としている。

 欧州では西欧で堅調な販売を示したものの、原油安、ルーブル安で市場が低迷したロシアでの販売台数減などにより、前期を1万5000台下回る84万4000台となった。営業利益は為替変動の影響や販売台数減少などがあったものの、営業利益では価格改定といった営業面での努力、原価改善の努力などにより前期を上回る757億円となった。

 また、アジアにおいては競争が激化したタイ、インドネシアを中心に販売台数が減少。これにより全体では前期比14万4000台減少の134万5000台となる一方で、価格改定などの営業面の努力、現地通貨安による輸出採算の改善、原価改善の努力などにより前期比214億円の増益となる4550億円を記録している。

所在地別営業利益:日本
所在地別営業利益:北米
所在地別営業利益:欧州
所在地別営業利益:アジア
所在地別営業利益:中南米・オセアニア・アフリカ・中近東

 2017年3月期の見通しについては、連結販売台数では2016年3月期から21万9000台増となる890万台を見込む。すでに発売しているプリウス、パッソに加え、今後市場へ投入する新型SUVのC-HRなど新車による増加を見込む日本、140カ国以上の市場に導入することを前提に開発されたIMV(Innovative International Multi-purpose Vehicle)の販売が本格化するアジア、西欧での堅調な販売が続く欧州での販売増を見込んだものとなっている。

 連結決算の見通しでは、米ドルの為替レート105円(ユーロ120円)を前提に、売上高26兆5000億円、営業利益1兆7000億円、当期純利益1兆5000億円を見込んでいることが発表されている。

2017年3月期の連結販売台数(見通し)
連結決算要約(見通し)
連結営業利益 増減要因(見通し)
研究開発費・設備投資・減価償却費(見通し)
台数見通し(参考)
販売台数について(参考)

(編集部:小林 隆)