試乗インプレッション

2019 ワークスチューニンググループ合同試乗会(TRD編)

開発中の新構造ショックアブソーバーに注目

試乗は3.0リッター6気筒ターボと2.0リッター4気筒ターボの2台のスープラ

 ワークスチューニンググループの合同試乗会が、ツインリンクもてぎの北コースで行なわれ「TRD(トヨタ)」「STI(スバル)」「NISMO(日産)」「無限(ホンダ)」の4メーカーが、腕によりをかけたハイパフォーマンスカーを持ち寄ってくれた。とはいえ、もちろんナンバー付きなので、レーシングカーのような“マシン”ではなく、いわゆる「クルマ」である。そして今回、私はTRDとSTIの「クルマ」を試乗してきた。


ワインディングで乗り味をチェック

 TRDの試乗車は話題のスープラで、エアロパーツを装着しタイヤホイールを変更したSZ-Rと、サスペンションキットとパフォーマンスダンパーを追加したRZの2機種である。両方ともサーキットに映えるイエローで迫力がある。試乗コースはツインリンクもてぎの外周路で行ない、市街地を模した感覚で各部をチェックした。

 もともとスープラは空力を大切にして造詣されており、レースでもすぐに使えるよう、効果的な位置にエアインテークやアウトレットを配置しており、パーツを外せば即実戦で使えるようになっている。TRDではさらにフロント、サイド、リアにレーシーなエアロパーツを設定し、トランクスポイラーで空気の流れをキレイに整流することを目指している。材質はすべて軽量で頑丈なカーボンだ。バネ下を軽量化するためにホイールは19インチの鍛造で、タイヤはミシュラン パイロット スポーツ 4Sを履く。ちなみにサイズはフロント255/35ZR19、リア275/35ZR19となる。

 まず2.0リッター4気筒ターボのSZ-Rで外周路を走る。前後重量配分で僅かにフロントが軽くなっているSZ-Rだが、相変わらずシャープ。速度を上げなくても適度で心地よい緊張感を生む。エアロパーツの効果は低速から現れており、微小なハンドル操作でも心持ちスッキリ感が増している。高速レンジではさらに高い効果を発揮するのは想像に難くない。

GRフロントスポイラー:32万円
GRサイドドアガーニッシュ:37万円、GRサイドスカート:35万円
GRリヤサイドスポイラー:16万円
GRトランクスポイラー:20万円
カーボンナンバーフレーム(フロントのみ装着可):1万8000円

画期的な新構造サスペンションTRAS

 3.0リッター6気筒ターボのRZに装着されていたのは、ヤマハが開発した試作品の新構造ショックアブソーバー「TRAS」と、車体の微振動を吸収するタワーバー状のパフォーマンスダンパーが装着されている。かってヤマハは4輪のショックアブソーバーのオイルラインを左右でつなぐ「REAS」と、対角線でつなぐ「X-REAS」を開発して大きな話題となった。これまでのチューニングの方向が変わって面白い機構で、アウディも一部車種に採用したと記憶する。トヨタでは80スープラRZとSZ-Rに「REAS」が、ハイラックスサーフやクラウンアスリートVXに「X-REAS」が採用されていた。REASは機構が複雑でコストも掛かったので量産には向かなかったが、今でも思い出に残るシステムだ。

 TRASは左右前後の油圧ラインを結ばないためシンプルになるが、ダンパー構造は頑張っている。こちらはダンパー内ダンパーを設けることで乗り心地と接地性を上げるのが目的だ。通常の単筒ガスはガス反発が強く初期の作動をマイルドに抑えるのは限界がある。TRASでは反発方向の力を副ロッドを設けてマイナス反力を発生させることで低くすることができる。

新構造ショックアブソーバーTRAS:試作品
TRASと単筒式S/Aの構造比較図
ホイールサイズは、フロント19×9.0J(インセット+32)、リア19×10.0J(インセット+40)。価格は64万円(1台分)
パフォーマンスダンパー:試作品

 早速外周路をドライブすると、タウンスピードでの乗り心地やちょっとしたハンドル操作で確認する。乗り心地が一番分かりやすいと思うが、荒れた路面ではゴツゴツ感が逆に感じられた。硬いというよりもサスがよく動いて路面への微小な追従性が上がっている感じで、ゴツゴツ感はワイドタイヤの影響が大きそうだ。まだ試作品で減衰力のチューニングはこれからとのことで、TRASはセッティングの幅がありそうで完成形が興味深い。

 一方、コーナリングでは初期の動きが滑らかだ。前後にサスタワーを結ぶように設けられたパフォーマンスダンパーの効果もあって余分なボディの動きが抑えられて、転舵時に素直に反応する。構造上ダンパー内のオイル量が減るのでダンパーが激しく動く場面が続くとキャビテーションを起こす可能性があるが、このあたりは用途によってサブタンクを設けるなどの対応で賄うことになる。また、ストロークをどのように確保するか、あるいは減衰力をどのモデルに合わせて設定するかなど、市販までにはまだチューニングは必要だと思うが、スポーツにもコンフォートにも応用できそうなTRASは面白い存在。さらに発展に大いに期待である。

プリウスとRAV4のデモカーも展示されていた

TRD“Field Monster(フィールド・モンスター)”と名付けられたRAV4。スープラとは走るステージは異なるが、TRDのエッセンスが盛り込まれ、山から海まで元気に走れる1台だ
ボディ4か所に貼り付けることで、帯電を取り除き、車両本来の性能を引き出すというGRディスチャージテープ。価格5000円(1枚1500円)

【お詫びと訂正】記事初出時、REASの表記に誤りがありました。お詫びして訂正させていただきます。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/16~17年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:堤晋一