試乗インプレッション
2019 ワークスチューニンググループ合同試乗会(TRD編)
開発中の新構造ショックアブソーバーに注目
2019年12月12日 08:00
ワークスチューニンググループの合同試乗会が、ツインリンクもてぎの北コースで行なわれ「TRD(トヨタ)」「STI(スバル)」「NISMO(日産)」「無限(ホンダ)」の4メーカーが、腕によりをかけたハイパフォーマンスカーを持ち寄ってくれた。とはいえ、もちろんナンバー付きなので、レーシングカーのような“マシン”ではなく、いわゆる「クルマ」である。そして今回、私はTRDとSTIの「クルマ」を試乗してきた。
ワインディングで乗り味をチェック
TRDの試乗車は話題のスープラで、エアロパーツを装着しタイヤホイールを変更したSZ-Rと、サスペンションキットとパフォーマンスダンパーを追加したRZの2機種である。両方ともサーキットに映えるイエローで迫力がある。試乗コースはツインリンクもてぎの外周路で行ない、市街地を模した感覚で各部をチェックした。
もともとスープラは空力を大切にして造詣されており、レースでもすぐに使えるよう、効果的な位置にエアインテークやアウトレットを配置しており、パーツを外せば即実戦で使えるようになっている。TRDではさらにフロント、サイド、リアにレーシーなエアロパーツを設定し、トランクスポイラーで空気の流れをキレイに整流することを目指している。材質はすべて軽量で頑丈なカーボンだ。バネ下を軽量化するためにホイールは19インチの鍛造で、タイヤはミシュラン パイロット スポーツ 4Sを履く。ちなみにサイズはフロント255/35ZR19、リア275/35ZR19となる。
まず2.0リッター4気筒ターボのSZ-Rで外周路を走る。前後重量配分で僅かにフロントが軽くなっているSZ-Rだが、相変わらずシャープ。速度を上げなくても適度で心地よい緊張感を生む。エアロパーツの効果は低速から現れており、微小なハンドル操作でも心持ちスッキリ感が増している。高速レンジではさらに高い効果を発揮するのは想像に難くない。
画期的な新構造サスペンションTRAS
3.0リッター6気筒ターボのRZに装着されていたのは、ヤマハが開発した試作品の新構造ショックアブソーバー「TRAS」と、車体の微振動を吸収するタワーバー状のパフォーマンスダンパーが装着されている。かってヤマハは4輪のショックアブソーバーのオイルラインを左右でつなぐ「REAS」と、対角線でつなぐ「X-REAS」を開発して大きな話題となった。これまでのチューニングの方向が変わって面白い機構で、アウディも一部車種に採用したと記憶する。トヨタでは80スープラRZとSZ-Rに「REAS」が、ハイラックスサーフやクラウンアスリートVXに「X-REAS」が採用されていた。REASは機構が複雑でコストも掛かったので量産には向かなかったが、今でも思い出に残るシステムだ。
TRASは左右前後の油圧ラインを結ばないためシンプルになるが、ダンパー構造は頑張っている。こちらはダンパー内ダンパーを設けることで乗り心地と接地性を上げるのが目的だ。通常の単筒ガスはガス反発が強く初期の作動をマイルドに抑えるのは限界がある。TRASでは反発方向の力を副ロッドを設けてマイナス反力を発生させることで低くすることができる。
早速外周路をドライブすると、タウンスピードでの乗り心地やちょっとしたハンドル操作で確認する。乗り心地が一番分かりやすいと思うが、荒れた路面ではゴツゴツ感が逆に感じられた。硬いというよりもサスがよく動いて路面への微小な追従性が上がっている感じで、ゴツゴツ感はワイドタイヤの影響が大きそうだ。まだ試作品で減衰力のチューニングはこれからとのことで、TRASはセッティングの幅がありそうで完成形が興味深い。
一方、コーナリングでは初期の動きが滑らかだ。前後にサスタワーを結ぶように設けられたパフォーマンスダンパーの効果もあって余分なボディの動きが抑えられて、転舵時に素直に反応する。構造上ダンパー内のオイル量が減るのでダンパーが激しく動く場面が続くとキャビテーションを起こす可能性があるが、このあたりは用途によってサブタンクを設けるなどの対応で賄うことになる。また、ストロークをどのように確保するか、あるいは減衰力をどのモデルに合わせて設定するかなど、市販までにはまだチューニングは必要だと思うが、スポーツにもコンフォートにも応用できそうなTRASは面白い存在。さらに発展に大いに期待である。