試乗レポート

日産の新型バッテリEV「アリア」、ベーシックなB6 2WDの仕上がりをレポート

アリアのベーシックグレード「B6」(2WD)に乗った

グレード展開をおさらい

 車外からクルマを移動させることが可能なプロパイロットリモートパーキングを利用し、リビングからキムタクと共に出発する「アリア」……。あのTVCFを見てから一体どれくらいの月日が流れただろうか? ようやくそのクルマを一般公道で走らせる時がやってきた。目指したものは「クルマの未来を感じる新時代のフラグシップ」とのこと。膨らみ過ぎた期待がはじけないことを期待しつつ、いよいよアリアに乗り込むことに。

 今回試乗するのはアリアの中でも最もベーシックな「B6」(バッテリ容量66kWh)の2WD。最高出力160kW、最大トルク300Nm、航続可能距離は最大450kmとなるモデルで価格は539万円となる。補助金などを考えればエリアによっては400万円台前半も見えてくる、未来とはいえ現実味のあるグレードだ。

 その上にはさらに3つのグレードが存在する。B6の4WD仕様となる「B6 e-4ORCE limited」で最高出力250kW、最大トルク560Nm、航続可能距離は最大430kmで約720万円。そしてバッテリ容量91kWhの「B9 limited」(2WD)が最高出力178kW、最大トルク300Nm、航続可能距離は最大610kmで約740万円。B9の4WD仕様となる「B9 e-4ORCE limited」が最高出力290kW、最大トルク600Nm、航続可能距離は最大580kmで約790万円。

 ちなみに0-100km加速性能は下から順に7.5秒、7.6秒、5.4秒、5.1秒となる。ベースモデルでも十分といえば十分だが、それでもの足りなければ上があるという充実のラインアップだ。

アリア主要諸元

主要諸元(日本仕様)
モデルアリア B6アリア B9アリア B6アリア B9
駆動方式2WDe-4ORCE(4WD)
バッテリ総電力量66kWh91kWh66kWh91kWh
最高出力160kW178kW250kW290kW
最大トルク300Nm560Nm600Nm
0-100km加速(社内測定値)7.5秒7.6秒5.4秒5.1秒
最高速160km/h200km/h
航続距離(WLTCモードを前提とした社内測定値)最大450km最大610km最大430km最大580km
ボディサイズ(全長×全幅×全高)4,595×1,850×1,655mm
重量(モデル、装備により異なる)1,900kg-2,200kg
ホイールベース2,775mm
荷室容量466L408L
タイヤサイズ(フロント/リア)235/55R19、255/45R20(グレード別設定)

 現車を目の前にすると意外にもサイズはコンパクトに感じる。ミドルサイズのコンパクトな全長に、ラージクラス並の室内の広さというのがアピールポイントだ。なじみある「エクストレイル」と比較すると、全長は-95mmながら、室内長は+70mmでホイールベースも+70mmとなっている。全幅は+30mmの1850mmだが、ホイールベースが長くなっているにも関わらず最小回転半径は-0.2mの5.4mを達成しているという。EV専用プラットフォームにより、ステアリングの切れ角が増したことがその要因だ。カッコよく未来的でありながらも、使い勝手は損なわないところ、それがアリアのよさの1つといっていい。パーキングスペースでグイッとフル操舵してみたが、たしかにクルリと向きを変えることができたのだ。これは取りまわしがいいかもしれない。まあ、内輪差は大きいのでリアを引っ掛けないように注意が必要だと思われるが……。

ステルスグレー/ミッドナイトブラックの2トーンカラーを採用する「B6」(2WD)。ボディサイズは4595×1850×1655mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2775mm。価格は539万円。グリル部分はスモークがかったパネルでカバーされ、その中に日本の伝統的な組子パターンが立体的に表現されるデザインを採用。また、低く滑らかなルーフラインを採用するとともにフロントとリアを直線でつなぐウエストラインは建築物のような美しさを携え、どの角度から見ても美しさとエネルギーが宿っているかのような活力を表現したという
フロントフェンダー右側に普通充電の、左側に急速充電のポートが備わる。B6の充電時間について、バッテリ残量警告灯が点灯した時点から充電量80%まで50kWの急速充電器で約65分としている
足下は19インチアルミホイールにダンロップ「SP SPORT MAXX 050」(235/55R19)の組み合わせ
B6 2WDが搭載するAM67型モーターは最高出力160kW(218PS)/5950-1万3000rpm、最大トルク300Nm(30.6kgfm)/0-4392rpmを発生

 インテリアはラウンジをイメージしたという優雅な造り込みが感じられる。e-パワートレインの小型化や空調ユニットを前に出したおかげもあり、足下は広々で左右にウォークスルーも可能とするほどの空間が広がっている。サイドテーブルを思わせる電動コンソールは前後に150mmもの移動を可能とし、どんなドライバーが乗ったとしてもちょうどいい位置にアームレストをセットすることができ、かなりリラックスした空間だ。

 パワーONするとフラットな木目パネルから静電容量スイッチが浮かび上がり空調の調整が可能となるところも斬新。スイッチを押すと振動フィードバックするところも面白い。触り心地で何のスイッチかを把握できるが、確認しているうちにスイッチ操作が始まってしまうところはやや使いにくいと思えた。走行中は目視しながら押さなければ使いにくい。一方、コンソールに備わるドライブモードスイッチはくぼみもあり、グッと押し込んで初めて動くから使いやすい。全てがこうなればいいような気もしてくる。

 メーターまわりは12.3インチ+12.3インチの統合型インターフェースディスプレイが備わっており、見やすさも操作のしやすさもなかなかの仕上がりに感じられた。「ハローニッサン」と声を発すれば対話型インターフェースが立ち上がり、車内のコントロールもアレクサを呼び出して自宅の家電だって操作できてしまう。これは慣れるとかなり使いやすい。

インテリアはモノとモノの間にある空間や、連続するコトとコトの間の時間を意味する日本語の「間(ま)」をキーワードにデザイン。フラットで広々したフロアを実現するとともに、従来では室内に配置されていた空調ユニットをモータールームに配置することで、CセグメントのボディサイズながらDセグメントレベルの広い室内空間を確保
アリアではハンズオフも可能な「プロパイロット2.0」仕様を用意し、ステアリング右側のスイッチで操作可能。日本、北米で設定されるプロパイロット2.0は「スカイライン」に搭載するものからさらに進化し、準天頂衛星システムなどからの高精度測位情報を受信し、自車位置をより高精度に把握することができるという
幅の広いセンターコンソールはドライバーのシートポジションに合わせて電動で前後に動かすことが可能
スエード/合皮コンビのシートを標準装備。後席はシートヒーターが備わるとともにUSB電源ソケット(Aタイプ1個、Cタイプ1個)も用意
地図やエンターテインメント情報など表示する12.3インチワイドディスプレイ。パーソナル・アシスタンス技術を搭載したことで空調やナビゲーションを音声で操作でき、「ハローニッサン」と呼びかけることでドライバーの操作をサポート。また、Amazonの音声サービス「Alexa」も搭載しており、音楽の再生や天気予報の確認、家族や友人との通話、スマートホームデバイスのコントロールなどを音声のみで操作できるようになっている
9.5インチのゴルフバッグ3セットを積めるラゲッジスペース。2WDは容量66Lの収納スペースも用意される

BEVならではの美点、そして課題

 走り出すとまず感心したのは圧倒的な静けさだった。BEVは当然ながらエンジン音がないためにロードノイズや風切り音、そしてモーターやインバーターの音が気になるのが一般的だが、アリアはかなりのレベルでそれらを抑え込んでいる。吸音タイヤに遮音カーペット&ガラス、さらにはモーター音まで巻線界磁式モーターで自在な磁力コントロールを可能とし、リーフに比べてかなり音を抑制したという。ラウンジのような快適さを目指しただけのことはあるという印象だ。

 動力性能自体は前述したスペックからも想像がつくだろうが、それほどインパクトのあるものではない。だが、逆に唐突な加速Gが出ることもなく、穏やかかつリニアに加速を続けることもあって、鈍重だとストレスを感じるようなこともない。一般的に使うのであればこれで十分ではないかと思えるレベルだ。エクストレイル比でねじり剛性を75%もアップしたという車体剛性のおかげもあり、運動性能もまたリニアな仕上がりで、一体感ある走りを楽しめる。

 フラットな路面におけるキビキビとした乗り味は、SUVであることを忘れそうなくらい。その仕上がりと、進化したプロパイロット2.0の組み合わせは高速巡行時における直進安定性を高めているように感じられた。進化したそれは、GPSだけでなく準天頂衛星みちびきも利用し、精度を高めたところがポイント。ルーフにシャークフィンが2つついていることがその証である。これまでGPSのみでは精度が10~15mだったものが、2種類の衛星を利用することで精度が50cmにまで縮まったというのだ。複雑な環境であってもピシッとブレずに真っ直ぐ突き進むハンズオフは、なかなか頼りがいのある仕上がりだった。

ルーフにシャークフィンが2つ備わる

 ただ、運動性能に寄り過ぎたせいか、車両重量がシリーズ中最軽量の約1900kgだったせいか、はたまた試乗車がまだ走行距離1000km未満だったせいか、ショックアブソーバーが高速で動く領域における突き上げや微振動がやや大きめに感じられた。高応答大径ダンパーのデュアルフローパスダンパーを採用したとあるが、しなやかさに欠け頭が揺さぶられるような感覚があったところは残念なポイントだ。もしや300kgほど重くなる上位モデルならこうはならないのか? タイヤのせいなのか? 本当のところは定かではないが、上位モデルを試乗した時にもう一度比べてみたいものだ。ラウンジを目指すのであれば、可変ダンパーの採用か、プレミアムタイヤの装着が必要かもしれない。

 事前情報が早すぎ、お預けを食らった感があったせいか? はたまた期待値が高過ぎたということもあるのだろうが、アリアにはもう少し見直してほしいポイントがあったことも事実。フラットな路面でプロパイロットを使い突き進む感覚は素晴らしいだけに、今後の発展に期待したい。

橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。2019年に「86/BRZ Race クラブマンEX」でシリーズチャンピオンを獲得するなどドライビング特化型なため、走りの評価はとにかく細かい。最近は先進運転支援システムの仕上がりにも興味を持っている。また、クルマ単体だけでなくタイヤにもうるさい一面を持ち、夏タイヤだけでなく、冬タイヤの乗り比べ経験も豊富。現在の愛車はスバル新型レヴォーグ(2020年11月納車)、メルセデスベンツVクラス、ユーノスロードスター。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:高橋 学