試乗記

ジープのPHEV「ラングラー アンリミテッド ルビコン 4xe」試乗、ガソリン車との違いは?

ラングラーのプラグインハイブリッド「ラングラー アンリミテッド ルビコン 4xe」

PHEVは使い方でガソリンの消費が大きく変わる

 今、アメリカ車と言えばジープ「ラングラー」を連想するかもしれない。タフな米車の象徴だが、日本ではガソリンの2.0リッターターボのみが選べる。今回紹介するのはそのプラグインハイブリッド(PHEV)版「ラングラー アンリミテッド ルビコン 4xe(フォー・バイ・イー)」。オフロードのスペシャリストであるジープに電気はどうなんだと思うが、これも時代の趨勢。容量49.5Ah、総電力量15.46kWhのリチウムイオンバッテリを搭載して公式には電気だけで42km走れる。ちなみに充電方法が普通充電のみなのは他のほとんどのPHEV同様だ。バッテリは後席下のラダーフレームの間にスッポリ入っている。

 燃費の話をすると現代のアメリカ車は意外と燃費がいい。ラングラーはガソリン車で2030kg(RUBICON)、PHEVで2350kgの重量だが、WLTCモードではそれぞれ9.4km/L、8.6km/Lと表記される。重いPHEVは少しガソリン車に及ばないが、PHEVは使い方でガソリンの消費が大きく変わる。都市型ともいうべきか。しかしモーターの本領はむしろ悪路でこそ活かされる。モーターの緻密な駆動力制御が滑りやすいコースでイージードライブだったのは他のクロカンPHEVで経験した。

 ラングラー 4xeのパワートレーンはガソリン車と共通。直4の2.0リッターターボで出力は200kW(272PS)/400Nm。駆動用モーターの出力は107kW(145PS)/255Nmとあなどれない。8速のトルコンATに前後のデフロック、副変速機は2Hi-4Hi-4Lo-4AUTOを持ち、レバーで操作するタイプ。こんなところにもラングラーらしさがある。またスタビライザーを切り離す機能もあり、モーグルのような悪路ではサスペンションストロークが長くトラクションをかけやすくなる。

ラングラー 4xeのパワートレーンは直列4気筒DOHC 2.0リッターターボエンジン、2基の電気モーター(P1/P2)、350Vのリチウムイオンバッテリ、8速ATの構成。エンジンの最高出力は200kW(272PS)/5250rpm、最大トルクは400Nm(40.8kgfm)/3000rpm。駆動用モーターの役割を担うP2モーターの最高出力は107kW(145PS)、最大トルクは255Nm(26.0kgfm)で、WLTCモード燃費は8.6km/Lとなっている

 頑丈なラダーフレームに取り付けられるサスペンションは4輪コイルバネによる固定軸。クロスカントリー車の中でも珍しいが、タフで極悪路を主戦場とするラングラーならではの選択だ。

 ボディサイズは4870×1930×1855mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは3010mmの大型クロカン車だが、物理的な道幅さえ許せば視界のよいドラポジで取りまわしは予想より楽だ。最小回転半径はさすがに6.2mと大きく、内輪差もそれなりにある。しかしオフロードではタイヤ位置を確認しながらライントレースする必要から視界のよさは重要なポイントだ。ラングラーもそのように作られている。

 注意しなければならないのは、ボンネットラインよりフェンダーが張り出しているため実際の幅は広いことだ。しかしそれも最初だけで超スクエアなボディはすぐに四隅の感覚がつかめるようになる。

ラングラー 4xeのボディサイズは4870×1930×1855mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは3010mm。プラグインハイブリッドモデルの独自装備としてエンジンフード、ボディサイドのTRAIL RATEDバッヂのほか、リアエンブレムにブルーのアクセントカラーを採用した。バッテリの充電は家庭用200Vの普通充電に対応する。なお、すべての高電圧電子部品はシーリング加工や防水処理が施されており、渡河性能はガソリンエンジン車と同等の30インチ(76cm)を実現しているという

 ラングラーは車載工具でルーフや後部のボディパネルが外せ、ジープのルーツであるオープンエアの姿にすることもできる。そのために外せるパーツは軽量部材で作られ、部分ごとに取り外しが可能だ。取り外した後には頑丈なロールバーが残り、もしもの場合の安全の砦となっている。

 キャビンは脱着可能のルーフからも想像がつくように質実剛健。ディスプレイも情報が呼び出せ視認性と操作性に優れて分かりやすい。後席もフラットで厚みのあるシートは座りやすく、レッグルームも広い。ラゲッジルームの床下には充電ケーブルが収まり、ハイブリッド系のシステムもあるので床上だけの使用になるが、四角い荷室は何でも放り込めて使いやすい。

インテリアではブルーステッチをあしらうことで特別感を演出。デフロック機構は下に押すとリアのみが、上に上げるとフロント/リアがデフロックされ極悪路で威力を発揮する

 バックドアは下半分が横開きで開閉するが、全幅1930mmのバックドアだからかなりのスペースがないと全開にできない。視界上半分のガラスハッチは上ヒンジで開閉可能でここだけでも完結できるのはありがたい。

バックドアは下半分が横開きで開閉するとともに、ガラスハッチは上ヒンジで開閉可能

その実力はエンジンもかかった中速域の追い越し加速に現れる

 ドライブモードについて、通常はすべて2Hか4AUTO。いつもは内燃機関のうなる音とともにスタートするが、音もなく走り出すのは何か拍子抜けする。分かってはいるがタフなラングラーだとなおさらだ。

トルクの大きなモーターは力強く動き出し、しばらくはモーター駆動で走れる。近隣移動なら電気だけで可能。実効距離は約30kmというところ。

 エンジンが始動する前のEV走行では静かなのが当たり前だが、ラングラー 4xeではちょっと様相が異なる。スタッドレスタイヤを履いたロードノイズはそれほどでもないが、トランスファーのメカノイズはにぎやかだ。ラングラーらしいと思うが、BEVの静粛性を期待するとちょっと違う。

 電気のみでの加速力は郊外路での流れに乗るのは容易で予想以上にパワフルだ。高速域ではさすがにエンジンが始動して高速巡航の得意な内燃機関にバトンタッチし効率よく走らせる。ワイドレンジの8速ATは高速ではエンジン回転を抑えて走らせる。変速時に迷うのかギクシャクすることもあったがおおむね滑らかで安心した。それにパワーに余力がある。

 低速域でのモーター走行は静かな分、それほど迫力はない。必要にして十分と言ったところ。しかしその実力はエンジンもかかった中速域の追い越し加速に現れる。電動モーターのトルクの厚みと初動の早さで、ガソリンモデルより余裕の加速ができるのだ。少ないアクセルワークで力強く加速するところはこれまでにラングラーになかった迫力だ。

 走行モードは通常はHYBRIDモード、それに加えてEV走行が可能なELECTRICモード、バッテリの充電レベルを維持するe-SAVEモードがある。クロカン車だと同じPHEVでもいろいろな走り方を試せそうでおもしろい。ゴリゴリの内燃機車だと思っていたジープ ラングラーはシッカリと次世代への布石を打っていた。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:高橋 学