インタビュー
マツダの新型SUV「MX-30」、1グレードでパッケージオプション制にした理由
マーケティング担当者の齊藤圭介氏に聞いた
2020年10月9日 10:00
- 2020年10月8日 発売
マツダから東京モーターショー2019で発表された「MX-30」がデビューした。そこでターゲットユーザーやポジショニングなどについて、マーケティング担当者のマツダ国内営業本部ブランド推進部主幹の齊藤圭介氏に話を聞いた。
MX-30はこれまでのマツダのユーザー層とは違った
──初めに、ご担当のお仕事の範囲を教えてください。
齊藤氏:国内のマーケティング担当で、スモール車種群の「MAZDA2」「MAZDA3」「CX-30」「MX-30」といったスモールプラットフォームと呼ばれる商品群を担当しています。全般的にターゲットユーザーの設定、マーケティング調査、その結果からのマーケティング戦略の策定、宣伝、価格設定。また商品の仕様として、装備体系、グレード体系などを推進しています。
──では早速、MX-30を日本市場に投入しようと決めたきっかけは何だったのですか。
齊藤氏:そもそもEV商品の企画があり、日本へ導入すること自体は決まっていました。その際に、マルチソリューションの考え方(内燃機関や電動化技術などパワーユニットの展開を適材適所で行なう)から、国内ではEVではなく内燃機関から導入することになりました。それを誰に販売していくのか、誰にポテンシャルがあるのかからスタートしたのです。
──そのターゲットとは誰なのでしょう。
齊藤氏:正直な話、最初から決まっていたわけではなく、立ち位置としてはCX-30とほとんど同じサイズですので、仮説を作るにあたって少し悩んでいたのです。そこで、クリニック調査、クルマを実際に見せてお客さま100人くらいにアンケートをとり、続いてMX-30を評価していただいた方を再度お呼びしてインタビュー調査を行ないました。クリニックでは欧州や日本の同セグメントのクロスオーバーやCX-30を置いています。それらの結果から、CX-30を好む方とMX-30を好む方がはっきり分かれたのです。それが1つの発見でした。MX-30を好む方は女性層の割合が40%~50%ほどあり、一方でCX-30は20%ほどでしたので、女性層に寄っていました。
また、年齢層はCX-30は30代~40代が多かったのに対し、MX-30は20代も含まれるという傾向もあったのです。そして、嗜好性としてデザインをはじめ装備、メカ的なことにこだわられる方はCX-30に、MX-30はデザインから入るところは同じなのですが、クルマに求めることに関して、走りや装備の充実さよりも雰囲気や世界観がメインで、そのクルマで何をするかをより重視していました。つまり、クルマとしての完成度を求めるのではなく、そのクルマを使って自分がどんな人生を送ることができるのか、体験ができるのかというところを重視していたのです。
──そこまで明確に分かれたのですね。
齊藤氏:いままでマツダのクルマに乗ってきた人は結構CX-30の方を好んでいました。これまでの魂動デザインのテイストの延長線上にありますし、ポジション的にも近いものがあるのでそちらを支持しがちです。一方、MX-30はどちらかというと、いままでマツダを選ばれてこなかったような方が結構多くて、「あ、こんなクルマがあるんだ」というイメージ。結果を集計してみると他銘柄に乗っている人が多かったのです。
──MX-30のコンセプトの1つに、魂動デザインの広がりにチャレンジするということがあります。その点ではぴったりなクルマなのですね。
齊藤氏:魂動デザインも色々な解釈をしています。得てしてCX-30までは生命感を感じるようなオーガニックな感じのデザインが主流ですが、それはあくまでも手段であって、魂動というのは“魂の塊感”を重視しています。それを違う視点から見てMX-30のような造形ができた。つまり特に趣旨替えをしているわけではなく、新しいアプローチなのです。そこが入り口として新しいお客さまに振り向いてもらえる1つのポイントになりました。
モノではなくコト
──ではそういったユーザーに対してどのようにアピールしていくのでしょうか。
齊藤氏:まずはいままでのように、クルマを中心とした生活を送ってきた方にアプローチするのではなく、どちらかというとクルマはまだ潜在的に頭の中にしかなく、あまりクルマには関心のない人がまさにターゲットとなるでしょう。こういうコロナ禍の状況なので、移動手段に対する考え方も変わってきています。公共交通機関よりも少しクローズドな空間で移動したいというニーズも出てきていますし、若い人の中でもそういうニーズは出てきています。
また、顕在的にクルマの需要がない方であっても、時間や空間を自分らしく自然体でいられることを重視して、それを体験としてどう自分の人生を豊かにできるかを考えている方をターゲットにしています。いい方としては「クルマが出た、こんな機能がある」ということではなく、クルマがもたらす体験、モノではなくコトをしっかりと打ち出した上で、体験を価値として伝えていくという、これまで行なったことのないアプローチをしたいと思っています。
マツダはクルマだけではなく豊かな体験ができるメーカー
──その点ではCX-30もその方向性は持っているように思います。よりオフロード性能を求めるのであれば「CX-5」などがありますので、そこにCX-30を出したということは、よりライフスタイル寄りに楽しめるクルマというポジショニングかと思うのですが、それ以上にライフスタイル側に振るというのはかなり難しいようにも感じますがいかがですか。
齊藤氏:確かにマツダのクルマをいま選ばれている方の中には必ずしも、走りやクルマの性能だけを気に入って買っていただいているわけではなく、実際に乗っていただき、所有する中で、体験を重ねて「それがいい」と言っていただいている方は多いのです。われわれもそこはアピールをあまりしてこなかったのですが、そういう人が多いということは分かっています。
今回のアプローチは、クルマ以外の文脈から人々にアプローチするという、体験をポイントにしてクルマ“も”いいなと感じてもらうようにすることで、いま買っていただいているCX-30やCX-5も十分ケアできると思っています。このアプローチで入ってきた人を、さらに使い方によってCX-30やCX-5に売り分けていくという流れもできますので、マツダは実はクルマだけではなく豊かな体験ができるメーカーだというブランド戦略、新しいマツダらしさを打ち出すいい機会にもなると考えています。
ユーザーの体験を集めること
──近年のマツダは機能面においての訴求を強く出していましたが、近年はこのクルマに乗るとこんなことができるとか、こういうところに行くのにこのクルマだと素敵だとか、ライフスタイルシーンを想像させる方向性も少しずつ感じさせようとしています。その視点ではMX-30はピッタリですね。ただし、いままでマツダとして機能面を訴求し、「クルマは楽しい」としていたマーケティング戦略から、ライフスタイル側から「こんなことができるクルマは楽しい」という訴求をすることは、2つの方向性を持つことになります。それはすごくエネルギーのいるやり方ですが、ここについてはどのような考えで、どのように進めていくのでしょうか。
齊藤氏:1つはユーザーの体験を集めることを考えています。CX-30で最近行なっているライフスタイルをテーマにした取材会など、マツダとして行なうイベントも大切ですが、どうしても広がりが難しい。そこでやはりユーザーの体験をシェアすることによってお客さま自身の声でマツダやMX-30の体験を広げていくことが重要です。そこにメーカーとしてプラットフォームを作って、Webの中にそのような共有空間を作るなどの方法にチャレンジしていきたいのです。
──そうするとそこでユーザー同士でコミュニケーションもできるようになりますね。
齊藤氏:はい、お客さま同士で繋がることができるようなプラットフォームを作りたいと思っています。そこから、クルマを使ってできる豊かな生活の可能性や、ご自身の気づきにつながり、その喜びを共有しあうことによって、クルマっていいよね、マツダっていいよね、それらがある生活はいいよねというようなコミュニティを作りたいと思っています。
訴求方法を変えることでの住み分けも
──そのMX-30でのコミュニケーションですが、それはCX-30だとできないものですか。
齊藤氏:できるとは思います。ゆくゆくはブランド全体の取り組みとしてやっていきたいですね。
──そうするとCX-30とMX-30がより近くなってしまう可能性が出てきます。いまでこそライフスタイルなどでセパレートは可能かもしれませんが、最終的にはすごく住み分けは難しいようにも感じてしまいます。
齊藤氏:どちらかというと、商品性から醸し出されるクルマのキャラクターという視点では、MX-30の方がお客さまは多様性を求めるところがあります。このクルマを使ってクリエイティブに自分の生活を作り上げるような思考が強いということです。一方のCX-30は既存の使い方、既存の枠内でベストのものを選びたい。社会的な評価もある程度重視し、このクルマがあったらベストだ、安全だというものを選ぶのです。このように選ぶ人のキャラクターが違うので、棲み分けはできるでしょう。従って、それぞれ選ぶ方のキャラクターに応じて訴求の仕方も変えていきます。
ここで一番やりたいのは、今回のMX-30でマツダに振り向いていただけなかったお客さまを引っ張ってくることですから、それができればいいかなと思っています。
──そういった方々はいままでの商品群ではなぜ振り向いてもらえなかったのですか。
齊藤氏:そもそもクルマに対する考え方が少し違ったのだと思います。デザインや走りを念頭に考える人はマツダも選択肢に入ってくると思いますが、どうしても移動手段として必要だけど、何を買おうかなといったときにはブランドとして信頼できるところに向かいますので、そういった方はマツダを意識していないのかなと感じています。
──そこも含めてMX-30では取って行きたい。ブランドとして信頼でき、EVもあるし、世の中も考えているということですね。
齊藤氏:はい、ブランドへの信頼はすごく大事です。クルマだけをアピールするのではなく、マツダという広島の小さい会社ですが、こんなにこだわって作っている、色々なサプライヤーと協力していいものを作り上げようと努力していることなどをしっかりと伝えていくことが必要なのです。
いまのコロナ禍の状況では、ものを買う時にも安全なもの、確かなもの、品質が安定したものを求める傾向にあるでしょうから、その点ではわれわれはビハインドにあるかもしれません。そこを跳ね返していかないといけないという挑戦ですので、そこはやっていかないといけません。
オリジナルのMX-30を提供できるように
──現在担当されているクルマたちのポジショニングを教えてください。
齊藤氏:まずMAZDA2の位置付けは、“マイファーストマツダ”というコンセプトで、30代女性を中心とした方にクルマのある生活を選び取っていただくことをポイントとしています。また、旧デミオの基盤ユーザーは多いので、その方々の受け皿としてもしっかり育成させていきたいですね。
そしてMAZDA3は、クルマ好きのお客さま中心に運転する楽しさをしっかりと感じてもらう商品として、マーケットは小さいですが輸入車を含めたクルマに関心が高い人のためのセグメントのクルマです。CX-3は、パーソナルユースのシティSUVというポジショニング。これも女性が中心となりますが、街中でスタイリッシュにクルマを乗りたいという方に安全性と走りのよさを選んでもらえるようにしています。
CX-30はSUVという大きいマーケットの中で、マツダらしい王道をいくクルマとしてヤングファミリーを中心とした方に選んでもらえる商品。デザインもユーティリティもこだわってその両立を目指しています。そして今回のMX-30は、SUVのカテゴリーには入るのですが、色々なカテゴリーやセグメントに関係するクルマという、幅広い守備範囲があります。その中でも少し思考がクルマよりも体験を重視する方。自分らしくいられる、自然体でありたいと思う人を狙った商品として投入しています。
そのMX-30は機種体系を大きく変えています。従来は3つグレードがあるとすれば、松竹梅みたいな形にしていました。しかしMX-30のグレードは1つだけ。後はパッケージオプションを自由に選んでもらう、オリジナルチョイスという仕組みにしました。これは、クリニック調査から見えてきたMX-30を好まれるお客さまは、自身でものに対してアレンジをして自分なりにカスタマイズしたいとか、工夫したいという気持ちが強いことが分かったからです。そこで、クルマ選びもお仕着せのグレードではなく、自分でこれがいる、これはいらないという選択をしっかりした上で選んでいただきたいという思いから、そういった体系に変えました。
これは用品(オプション)もそうです。エクステリアを重視する人にとって外観は大事ですが、仮にインテリアにはそれほどこだわらないとすれば、エクステリアをしっかりと満足できるものにしたいですよね。その際はその思いに合うパッケージオプションにプラスして、ルーフにデカールを貼ったりできるものを選び、自分だけのMX-30を作ってもらえるようにしています。その結果、お客さまも満足するし、ビジネス的にも売上が上がるというWin-Winの関係で、ビジネスとお客さまの満足を作っていきたい。そこは今回アピールをしたいところです。
齊藤氏:また、いまはネットで何でもできてしまうという時代なので、ある程度Webでシミュレーションができるなど、色や外観を自由にカスタマイズしてシミュレートできる仕組みを始めます。そこで自宅にいながら自分が本当に好きなものをチョイスできるように、できるだけお客さまの手元で選んでいただけることをやっていきます。