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中嶋悟総監督がやってきた「神保町フリーミーティング #07 SUPER GT 64号車 Epson Modulo NSX-GT 鈴鹿1000km優勝!2017振り返りトークショー」
2017年12月30日 12:00
- 2017年12月11日 開催
会社帰りに気軽にクルマイベントを楽しめるCar Watch名物企画の「神保町フリーミーティング」。7回目となる今回は最後の鈴鹿1000kmを制したSUPER GT 64号車「Epson Modulo NSX-GT」を走らせるNAKAJIMA RACINGから総監督の中嶋悟氏、レーシングドライバーの松浦孝亮選手、チーフエンジニアの杉崎公俊氏、プロジェクトコーディネーターの平野亮氏、アシスタントマネージャーの富澤冴子氏が登場。
この豪華メンバーによる「SUPER GT 64号車 Epson Modulo NSX-GT 鈴鹿1000km優勝! 2017振り返りトークショー」が開催された。
本編のスタート前、本年度「Epson Modulo NSX-GT」にModulo製ホイールを供給してきたホンダアクセスから広報担当の石井裕氏が登壇。来場者に開会の挨拶を行なった。
石井氏は「ホンダアクセスはカーナビゲーションやドライブレコーダーや用品などホンダ車用の純正部品を作っている会社です。そしてEpson Modulo NSX-GTというネーミングの中のModulo(モデューロ)は私どものアルミホイールやエアロパーツ、サスペンションのブランド名です。世間的にサスペンションを交換すると乗り味が硬くなるような印象を持たれていますが、Moduloはそうではなくて、しなやかであり曲がるときにはしっかり踏ん張って、高速道路では真っ直ぐ安定して走れる、そういった味つけをしているサスペンションに仕上げています。さて今期のSUPER GTではNAKAJIMA RACINGさんのクルマに我々が作ったModuloホイールを履いて参戦していただきましたが、なんと鈴鹿1000kmレースでは優勝といううれしい結果を残してくれました。このトークショーでは優勝についてなど、いろいろと語ってもらって皆さんとの時間を楽しく過ごしていきたいと思います」と語った。
さて、ここからが神保町フリーミーティング本番。まずはSUPER GT第1戦の感想をうかがった。
最初にマイクを取った中嶋総監督は「今年の第1戦はスロットルの異常でホンダ全車が止まってしまうということがありましたね。そんなことから今年の開幕は大変だったという印象です」とひと言。
さらに松浦選手からも「次々とホンダ車が止まっていくんですよね。最初はARTAの野尻選手がフォーメーションラップで止まったと記憶しているのですが、ここは去年まで自分がいたチームだったのでかわいそうだなと思いつつもライバルでもあるのでまた違った感情もありました。その後、ホンダ勢がドンドン止まり始めるというあってはならない状況となりました。ボクらのチームはホンダ陣営では最後まで走っていたのですがやはり止まってしまいました。メカニックの頑張りのおかげで再スタートはできたのですが、勝負という面ではまるで話にならず、開幕戦ではあったけど“うちは開幕できていない”という感じでした」と異常事態だったレースを振り返った。
ここで中嶋総監督から「たしかあと1か2周、周回数が足らなくなるとダメだったんですが(リタイア扱いになる)、修復中に杉崎くんが残りのレース時間や周回数を計算して“まだ大丈夫”とか“いまなら間に合う”とみんなに声がけしてくれてましてね。この頑張りを含めて今年は全戦で完走することできました。そこは誇れるところです」というひと言があった。
冷静な対応でピンチ脱出に貢献したチーフエンジニアの杉崎氏からは「NSXはシーズンオフのテストから走行を重ねたのですが思うような結果を出せないまま開幕を迎えたのでどうなることかと思っていました。まあ、いろいろなトラブルに見舞われましたが、そんな状況でも予選ではよいパフォーマンスを見せてくれましたし、レースでもなんとか完走できたのでこの先に進化できるという感触は掴めました」と語られた。
つぎはプロジェクトコーディネーターの平野氏に開幕戦の印象を語ってもらった。平野氏からは「開幕のトラブルは複雑な部品を変えることになっていたのですが、メカニックの迅速で的確な作業をしてくれたので、しっかり直して時間内にコースへ送り出すことができました。このときはメカニックの今年の結束力の強さを感じました」と、チーム内各部署の橋渡しを行なうプロジェクトコーディネーターとしての視点での感想を語ってくれた。
続けてアシスタントマネージャーの富澤氏にアシスタントしての立場からの感想をうかがった。富澤氏は少し考えたあと「レースの進行について言えることはないんですけど、今年の開幕戦は新しいドライバーさんが来ていたし、スポンサーも新たにホンダアクセスさんがついてくれたなど変化があったので、裏方の部分でいろいろバタバタする場面もありました」と観客やTVなどで見えない部分でも開幕戦らしい忙しさがあったとのことだった。
大きな試練となった開幕を乗り越えた「Epson Modulo NSX-GT」は第2戦富士スピードウェイでは13位、第3戦オートポリスは12位、第4戦スポーツランド菅生は8位、第5戦富士スピードウェイは12位という結果を残し、いよいよ鈴鹿1000kmを迎えた。
鈴鹿1000kmといえば歴史のあるレースでホンダ陣営としてもぜひ勝ちたいサーキット。そこでそんなレースを前にチームとしてなにか準備をしたのか? という問いを中嶋総監督へうかがったところ「自分としてはシーズンが始まる前におおざっぱですが1年を通しての計画を立てるわけですね。今年はGT500のチームの中で我々だけがダンロップタイヤを使用していましたので、タイヤの開発の進み具合なども含めて1年のうちどのへんにピークが来るかを考えたのです。予定ではタイヤのアップデートを第4戦のスポーツランド菅生で行ないそこで表彰台へ上がると考えていたのですが、その前までのレースがどん底で(笑)、松浦選手もなんでこんなチームに来てしまったんだろうと後悔をしているような感じでした(笑)。そんなことから菅生ではタイヤの開発が間に合わなかったし、クルマもトラブルが出て練習走行を走れなかったりと色んなことが起こってしまいましたので計画どころではない状態です。その次が富士スピードウェイでしたが、我々のクルマとは相性がよくないのでここは無理せず、その後に控える鈴鹿に向けて“何かいいことあればいいな”という感じですこしずつ準備を進めていました。そしたらうまくいっちゃいましたね。みんながやってくれました」と語った。
その話を笑顔で聞いていた松浦選手は「名古屋出身でレースに関しては鈴鹿で育った自分として鈴鹿1000kmはどうしても勝ちたいレースでした。でも、そこまでの状況から考えると……そこで欲をかかず平常心でサーキット入りしました。ところが予選が始まってみると流れが大きく変わったのです」と気になる発言。
杉崎氏からも「鈴鹿のレースは1000kmという長い距離を走るので予選も重要ですが、速いペースで1000kmを走りピットワークもミスなくこなせることも大事です。そういったことを含めてクルマのセットアップはタイヤを持たせることに気を使って進めていました。その作戦があたったというかタイヤのパフォーマンスが路面のコンディションにドンピシャであってくれて、松浦選手もすごくいい走りをみせて予選4位という順位を獲得してくれました。そしてレースでもドライバー、メカニックともノーミスでこなしてくれて、結果はなんと優勝。さすがに優勝には驚きもありましたが、ミスなく進行することは当初から狙っていたことなので、このレースの内容はまさに狙いどおりと言っていいものでした」と語った。
さらに鈴鹿の話は続く。松浦選手からは「最初のスティントはバゲット(ペアを組むベルトラン・バゲット選手)でしたが、最初のピットインは3位でピットに戻ってきたんです。そこで“あれ? いつもと違うな(笑)”と感じたのですが、自分が乗っても3位でまたバゲットに渡すことができました。いつものGTでは300kmくらいの距離でレースは終わるので“この時点でチェッカーなら表彰台なのに!なんで1000kmもあるんだ~”と思いました」と冗談も交えてレースの模様を語ってくれた。
そして「レースではドライバー交代しながら走るので、自分が走り終わったあとは着替えや休憩の時間を取ったり、つぎのスティントの準備なんかもします。このときはレース状況を映しているモニターは見ないんですが、支度が終わったあとモニターを見るとその時点でボクらのチームがトップでした。これを見たときから“優勝”ということをリアルに感じてきました」とのこと。
こういう話の流れになると中嶋総監督にも優勝を意識したタイミングをうかがいたくなる。そこで質問してみると「レースはずっと上位3台の中にいたのでこのまま問題が起きなければ表彰台はあるなということは思っていましたけど、優勝が気になり出したのは第5スティントです。後が離れていく展開になったので“これは……”という感じでしたね」とのこと。
チーム全体の動きを見ている平野氏はどうだったかというと「後続を引き離し始めた第5スティントのあと、もう一度ピットストップがあったのですが、そのとき相手チームのピットスケジュールを分析したら最後の給油時間がうちよりも短いのではないか? という推測になりました。そこでエンジニアと相談してもっとも効果的にピット作業を行なえるタイミングを再考。メカニック全員とは“頑張ろうぜ”と言葉を交わしクルマを待ちました。その甲斐あって非常に速くピットアウトさせることができました。ボクとしてはその時点で確信ではありませんが決まったなという思いが浮かびました」とのこと。
NAKAJIMA RACINGは2年前からタイヤ交換をもっと速くするためにはどうすればいいかを模索していたという。そこで2017シーズンはメカニックの人にジムへ通ってもらいタイヤ&ホイールを素早く脱着できるよう筋力アップを行なったという。その人的な能力向上にプラスして大きな効果を発揮したのがModuloのホイールだ。
平野氏から「交換時はホイールのスポークを握って脱着の動作を行ないますが、Moduloホイールはスポークが放射状にキレイに並んでいるので素早い動作に対して扱いやすさがあります。さらにホイール正面のディスク面をフラットにしたデザインなのでセンターホールが奥まっていません。この形状だとロックナットがはめやすくなるのでここも作業時間短縮に貢献してくれています。つまり我々が目指してきた勝つためのタイヤ交換作業に対して、理想的と言える形状を持つのがModuloホイールだと思います。実際どうかわかりませんが、意識の中では我々はSUPER GTのチーム中で作業がいちばん早いと思ってます。そうした意識を持って望んだ鈴鹿1000kmでの優勝に貢献できたことはメカニックの自信向上にもつながりました」という解説があった。
さて、鈴鹿1000kmの優勝はNAKAJIMA RACINGとして10年ぶりの勝利となった。そんな大きな出来事があっただけにチームの雰囲気もさぞかし変わったろうということで、チームの状況を最もよく見ている富澤氏に優勝時の模様はどうだったのかを聞いてみた。
富澤氏からは「10年間ずっと応援してくれていたお客さんが泣いて喜んでくれたりしました。そういうことがあると余計によかったと思うところがあります。それにメカニックは毎回の作業が終わるごとに作業中のビデオを見て自ら反省点を探していて、次の作業の完成度を上げることを頑張っていたので、そんなことが報われたこともみんなですごく喜んでいました」とのことだ。
今回のトークではドライバーの活躍よりもメカニックの作業を取り上げる発言が多かった。このへんはレース記事やTV放送ではなかなか取り上げられることではないだけにもっと聞いてみたいところでもある。そこで杉崎氏にメカニック的な目線から鈴鹿1000km優勝のポイントを聞いてみた。
「1番大きいのはタイヤのパフォーマンスがしっかり発揮できたことだと思います。そしてピット回数が多いなかでもメカニックのミスがなかったこと、二人のドライバーが最後まで完璧に走ってくれたことではないでしょうか。どんな速いクルマ、ドライバーであっても、どんなにいいタイヤであっても、どれかが欠けたり誰かがミスをしたら勝利はなくなくなります。鈴鹿のレースでは我々が持っているものすべてをベストな状態で出すことができたことが最大のポイントではないでしょうか」というコメント。つまり誰がすごかったとか、ここがよかったではなく、チームが最高の仕事をした結果であるということだった。
真夏の鈴鹿、暑いタイと戦ってきて次はめっきり気温も下がった秋のもてぎで開催された2017年の最終戦。ここで「Epson Modulo NSX-GT」には大きな変化があった。それがカラーリングの変更である。これはエプソンが新たに発売を開始した時計のプロモーションのためだった。このカラーリング変更の話を聞いた中嶋総監督は「青と白の塗り分けが当社として35年間続けていたことなので、自分としては複雑な思いでした」という。
松浦選手は「すごく注目浴びましたしカッコいいとも思ったのですが、まわりからは“走っているとよくわからない”とも言われていました。SUPER GTではGT300とGT500が混走しているので300から見たときに見つけやすいクルマのほうが譲ってくれやすいのですが、黒っぽいとそうはいかず、実際レース後に300のドライバーから“見えにくかった”と言われてしまいました」とのこと。
さらに中嶋総監督からは「色の見本を見せてもらったときみんながいいというんだよね。でも、ボクはホントにいいのかな~という思いがありました。たしかに止まっているときは素晴らしくいいのだけど、走っていると見えにくいというか、いままではサーキットのどこを走っていてもエプソンの色がバシッと見えていたけど、最終戦の色だと見分けが付かないんですよ」という。こういった発言から中嶋総監督の青と白のEpsonカラーへの思い入れの強さが伝わった。
さて、ここで中嶋総監督が次の仕事のために一足先に退席することになったので、最後に今シーズンをまとめを中嶋総監督と松浦選手にうかがってみた。最初に答えてくれたのは中嶋総監督で「ドタバタから始まりましたが、シーズン真ん中以降からはまあまあ順調に終われたのかなという印象です。だから来年はもっと強いぞ、と言っておきたいですね」とのこと。
続いて松浦選手からは「今年はダンロップタイヤの開発が大きな仕事でしたが、やはり1台体制でやっていくのは非常に難しく、そのなかで自分がいままで経験してきたことも生かし、自分の感覚を信じてダンロップの開発者と作業をしてきました。それが結果につながったことはとてもやりがいを感じることでした。そして来年に向けての開発も予定しているのでそれがいい方向で定まれば競争力のあるタイヤが作れると思っています」というコメントだった。
中嶋総監督が退席したあとは松浦選手、杉崎氏、平野氏、富澤氏によってトークショーは引き継がれた。ここで会場から鈴鹿1000kmレースのときの後半について質問があった。TVなどを見ていると後続に追い上げられているように見えたがそのときの状況はどうだったかという内容だ。ところが松浦選手からは「追い上げられているように見えたかもしれないですが、実際はそうではなかったんですよ。後のニスモに対して約20秒前を自分が走っていたのですが、レース中はGT300の集団に追いつくことがあります。これを抜けるのにタイムロスするのでそのとき後ろとの差が縮まったようにみえるのですが、2周後にニスモが同じ集団に引っかかるので差は元に戻るんです。ちなみに残り15周くらいになってからは後ろとのギャップを見ながらクルージングしていましたよ。このとき注意していたのは薄暗くなっているのでイエローフラッグなどを見落とさないことです。それをやってしまうとその時点ですべて台無しになってしまいますからとくに注意をして走っていました」とのことだった。
2017年のSUPER GTでは「Epson Modulo NSX-GT」の鈴鹿勝利を含めてホンダ勢の優勝は2勝のみという結果だった。このことについて松浦選手からは「速いクルマ、速いタイヤ、速いチームメイトなどなどいろいろなものがタイミングよく重ならないと勝てないものなんです。自分たちがどんなに上手くやっても、なにかがほんのちょっとだけ上まわったチームがあればそこが勝つのがレースです。つまりそれだけSUPER GTで勝つということは難しいことと思いますね」とのこと。
ここで速いチームメイトという言葉が出たので、ペアを組むベルトラン・バゲット選手の印象を聞いてみた。
松浦選手は「バゲット、いいですね」と切り出し「日本語がだいぶ分かってきたのでタクシーに乗っても運転手さんと日本語で会話しています」とのこと。ただ、ピットでは松浦選手も英語ができ、杉崎氏もダンロップのエンジニアも英語が堪能なのでチーム内では英語で会話をしているとのこと。
セットアップの好みに関しては松浦選手いわく「ちょっと違うんですが、自分のなかでの妥協点がどのへんにおけばいいかわかってきましたね」とのこと。その妥協点とは「バゲットがすごくいいというセットアップをボクが乗ると少しアンダーと感じ、ボクが調子いいというとバゲットはリアのグリップが足りないといいます。なのでバゲットのコメントを聞いて、どうすればいいかをイメージしたクルマにしてます」ということだ。
ここで生放送を見ている方から総監督の印象について質問があった。松浦選手はNAKAJIMA RACINGに来る前はARTAに所属していたが、こちらのチーム代表は中嶋総監督と同じく元F1ドライバーの鈴木亜久里氏なのでまずは両監督の印象を聞いてみた。すると「亜久里さんのところには19年間居たこともあり、息子のように接してくれていました。ただそのぶん厳しいことは厳しくてけっこうキツイ言い方で怒られることもありました。タイムが出ない、勝てないときは8割くらいドライバーのせいにもされていた気がします。でも、鈴鹿で優勝したとき真っ先に電話をくれたのは亜久里さんだったんです。チームを離れてもちゃんと気に掛けていてくれたんです。これはうれしかったですよ。そして中嶋総監督ですがクルマの調子が今ひとつと申告すると、親身になってなにがおかしいんだろうなと考えてくれます」とのこと。
平野氏からは「この職に就いてから監督にはいろいろと注意されることが多いです。だけど監督は例えば作業でミスをしたメカニックが居ても直接叱るようなことはしません。なにかあったときは統括している私に言います。そして私からメカニックへ改善点などを話すという感じです。もし、ここで監督が直接メカニックを叱ってしまえば言われた側はきっと萎縮してしてしまうでしょう。それがあとの仕事にも影響すると思います。だから必ずワンクッション入れてくれるのです。まあ、言われる私はキツイ部分もありますが、チーム全体のことを考えてのことなので気にはなりません。むしろすごい人だと思っています」という話が聞けた。
続けて杉崎氏からは「F1まで乗った方なのでクルマのこと、セッティングのこと、本当に詳しいですね。ふつうは監督という立場の人がセッティングに関して意見することはないのですが、中嶋総監督はドライバーの視点から見た意見を言ってくれるのです。それが2人のドライバーの要求しているものにつながっていたりと、ヒントになることは多いです。なのでボクの印象もすごい人だな、という感じです」とのことだ。
このあとも会場やニコニコ生放送からの質問に応える感じでトークは進行したが、そのへんはニコニコ生放送、YouTubeのCar Watchチャンネルでご覧ください。記事では最後にCar Watchが打ち合わせなしで用意した「今年の漢字を書いて下さい」というムチャぶり!?を紹介して締めとさせていただきたい。
提供:株式会社ホンダアクセス