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【SUPER GT開幕直前インタビュー】課題のタイヤ径を拡大し、空力への影響をカバーする新カウルを投入するSUBARU BRZ GT300

辰己英治総監督に2016年シーズンの展望を聞く

61号車 SUBARU BRZ R&D SPORT

 R&D SPORTは2009年からスバル車を利用してSUPER GTのGT300クラスに参戦しているレーシングチーム。当初はレガシィ B4、2012年からはBRZをベースモデルに車両を作成し、JAF-GT300車両として参戦している。今年もGT300クラスに「61号車 SUBARU BRZ R&D SPORT」で、井口卓人選手、山内英輝選手という若手2人のコンビで参戦する。

 その61号車 SUBARU BRZ R&D SPORTを総監督として率いるのが、STI(スバルテクニカインターナショナル)の辰己英治氏。今回は岡山国際サーキットで3月19日~20日の2日間にわたって行なわれた「ファン感謝デー&SUPER GT 2016公式テスト」(イベントの模様は別記事で掲載)の会場で、辰己氏から今シーズンへの見通しなどをうかがってきた。

昨シーズン不振の原因はワンサイズ小さなタイヤ選択

61号車 SUBARU BRZ R&D SPORTを総監督として率いるSTI(スバルテクニカインターナショナル)の辰己英治氏

 2015年シーズンのSUBARU BRZ GT300の成績は、多くのスバルファンにとって満足できるものではなかっただろう。シーズンを通じてハイライトとなったのは第5戦 鈴鹿戦での表彰台だけというのでは、物足りないというのも無理はない。

 その原因に関してチーム内ではすでに分析が済んでおり、今シーズンに向けた対策を行なって今回のテストに臨んでいるのだという。辰己氏によれば「昨年の苦戦の原因は、径の小さなタイヤを選んでしまった結果、同じ方向に曲がるコーナーが続くサーキット、例えば菅生の1、2コーナー、鈴鹿の1、2コーナーなどでアンダーが出てしまい速く走ることができなかった」とのこと。去年のシーズンインの前にチームからダンロップに対して依頼したタイヤサイズが、結局のところBRZに合っていなかったのだという。

 2015年にチームが選択したタイヤは幅300mm、直径680mmのサイズで、チャンピオンを獲得した10号車 GAINER TANAX GT-Rなどが採用していた幅330mm、直径710mmと比べてひと回り小さいものだったという。このため、エアボリュームがやや小さく、内圧とタイヤの表面温度が上がりすぎてグリップしなくなるという課題を抱えていたのだ。

2015年よりも1サイズアップしたダンロップタイヤをチョイス

「去年、ダンロップさんのタイヤはチャンピオンを獲って、タイヤとしてはなんの問題もないことが証明されている。それで結果を出せないのはクルマ側に問題があるということ。タイヤも自分たちの選択で小さいものを選んだ。なるべく空気抵抗を減らそうという狙いだったが、コーナーリングで勝負するBRZにとって小さいタイヤは致命傷だった」(辰己氏)と、その対応が課題だと分析。その対策として今シーズンは、タイヤサイズをGT-Rなどと同じ幅330、直径710mmに変更し、エアボリュームを増やすことを決めたのだ。

ドライバーは昨年同様の井口卓人選手(左)、山内英輝選手(右)という若手2人の体制となる

大きなタイヤの選択でフロントカウルを大きくしたが、Cd値は昨年よりも改善

 マシンの改良はそれだけではないという。辰己氏によれば「タイヤを大きくした結果、タイヤがフェンダーに収まらなくなったため、カウルを改良する必要に迫られた。通常、フェンダーを大きくすると前面投影面積が増えて、Cd値(空気抵抗係数)が悪化してしまうが、それをほぼ去年並みになるようにフェンダーやバンパーの造形を工夫している」とのこと。辰己氏によれば、CFD(流体解析)や実車風洞によってある程度の目星がついた新しいフロントカウルを、今回の岡山テストに投入したのだという。実際に走行している61号車を確認すると、フロントカウルに塗装されていない黒い新パーツと思われるフェンダーなどが装着されていることが確認できた。

タイヤサイズを大きくしたことでフェンダーを大きくする必要があり、フロントカウルを新設計した
ミラーを小型化したことでリアウイングに流れる空気が改善された

 辰己氏は「Cd値を悪化させないように設計したのだが、結果的に去年よりわずかによくなっており、かつダウンフォースが増えていい方向になっている。また、今シーズンはレギュレーションでミラーを小さくすることが可能になったのでミラーを小さくした結果、リアに流れる空気の流れの乱れが少なくなり、リアウイングにいい風があたるようになった。それによってリアウイングで発生するダウンフォースが増え、今シーズンはこれまでよりも(角度を)寝かせることが可能になっている」と解説。新カウルとミラーの小型化が空力的にいい影響があり、それによりパフォーマンスが改善するメリットがあったと説明している。

 こうした改良により、「昨シーズンにこの岡山テストに来たときはもう散々だったが、今年は十分上位に対抗できる結果が出せている。もちろん、ほかのチームがどれだけ本気で走っているか分からないだけに、実際の位置は開幕してみないと分からないが、ドライバーのフィードバックもよく、今年は勝負ができると考えている」(辰己氏)と、今シーズンに向けて手応えを感じていることを明かした。

 辰己氏によれば、今シーズンの目標としては「なんとしても勝たないといけない。まずは1勝を目指す」とし、鈴鹿や菅生など、これまでSUBARU BRZ GT300が得意としてきたサーキットはもちろんのこと、富士などでも貪欲に勝利を目指していきたいとした。

(笠原一輝/Photo:高橋 学)