まるも亜希子の「寄り道日和」
心に残るビシャビシャのパンケーキとミントティー
2018年5月24日 00:00
今年に入って一番の感動! 3歳になった娘から、初めて母の日のプレゼントをもらったんです。4月から幼稚園に通うようになって、日々いろんな刺激を受けているなぁと感じる娘ですが、そのプレゼントも幼稚園で一生懸命描いてくれた姿が目に浮かぶよう。私の顔らしきもの、という抽象的な絵ではあるものの、私と離れている場所で、私のことを想って描いてくれた……。それだけでもう、胸いっぱい。これは一生の宝物にしたいと思います。
そんな母の日当日は、夫が珍しく「今日はママの好きなものを食べに行こう!」と言ってくれたので、なんだか無性に食べたくて仕方なかったパンケーキをリクエスト。ここのところ、慣れない早起きやお弁当作り、父兄行事などをこなすのに頑張りすぎて疲れてたのかしら!? いつもは長い行列ができているお台場の「Eggs'n Things」に行くと、奇跡的に空いている時間帯ですぐ入店。ハワイアンな雰囲気を楽しみました。
パンケーキって、私にとっては見ているだけで幸せな気持ちになって、ひと口頬張るとなんだかホッコリ。自然と笑顔にしてくれる食べものなんですよね。そんなことを考えていたら、ふいに遠い記憶が蘇ってきたんです。命がけの壮絶な闘いを強いられる中、不安と緊張を抱えながら毎朝食べていたのもパンケーキだったということを。
それは2004年のちょうど今ごろでした。サハラ砂漠を約2500km、8日間かけて走り抜くという女性だけが参加できる国際ラリーに、日本からたった1人で乗り込むという、身の程知らずな挑戦をしていたのです。競技中は全てフランス語が公用語でほとんど理解できず、日中の車内は60℃以上にもなる暑さ、目を開けていられないほどの砂、無線も携帯電話も通じない心細さ。そして想像を絶する砂漠ドライビングの難しさ。その全てに、心も身体もボロボロになっていくばかり。
毎日、体にムチ打ってテントから起き出し、朝7時に野営地をスタートしたら、次の野営地にゴールできるのは夜10時をまわることもしばしば。その間はろくに食べ物も口にできず、帰ったら帰ったでマシンのダメージを直したり、その日のレポートを書いたりとやることが山積み。これじゃ最終日まで持たないゾと、パートナーと約束したのが「朝ごはんだけはしっかり食べよう」ということでした。
写真が手元にないのが残念なんですが、野営地にはモロッコ人の陽気なシェフがいて、日本人は珍しいからすぐに顔を覚えてくれました。毎朝、「ボンジュー、アキコ! 今日もいっぱい食べて元気出せよ~」みたいなことを言いながら、ニカッと笑いかけてくれるんです。定番メニューは、ビシャビシャに浸るくらいのメープルシロップがかかったパンケーキ、油多めのオムレツ、ポットから葉っぱがボウボウにはみ出してるワイルドなミントティー。それを、どこからともなく寄ってくる無数のハエと格闘しながら、時計とにらめっこで流し込んでいたのを思い出します。
あのときは、生きるのに必死で「食べなきゃ」という義務感ばかり強くて、ちゃんと味わう余裕もなかったパンケーキ。なのに今、あの味が無性に恋しくて恋しくて、ミントティーの香りとともに私の頭の中を占領しています。
きっとあの陽気なシェフは、私の不安や心細さを見抜いていたんでしょうね。だからいつも「元気出せよ」とか「もっと食べろ」なんて言いながら、パンケーキを何枚も何枚も焼いてくれたんじゃないかなと、今ごろになって思います。
モロッコ滞在中はタジンとかクスクスとか、もっとメジャーで美味しい料理もいっぱい食べたはず。それなのに、なぜか一番心に残っているのはビシャビシャのパンケーキとミントティーという……。やっぱり、なにかに打ち込んで頑張っているときに食べるパンケーキは、心に沁みるものなんでしょうか。
5月はいろんな疲れが出やすい時期だと言いますよね。男性のみなさま、パートナーが「なんか疲れてそうだな」なんて感じたら、今度のドライブではパンケーキ屋さんへ寄り道するのもいいかもしれませんよ♪