まるも亜希子の「寄り道日和」

心に残るビシャビシャのパンケーキとミントティー

母の日に幸せなひと時をくれた「Eggs'n Things」のパンケーキはてんこ盛りのクリームがお約束。甘さ控えめで軽い食感なのでペロリといけちゃいます。魚介や肉系のランチ、ディナーメニューもあるから男性にもオススメですよ

 今年に入って一番の感動! 3歳になった娘から、初めて母の日のプレゼントをもらったんです。4月から幼稚園に通うようになって、日々いろんな刺激を受けているなぁと感じる娘ですが、そのプレゼントも幼稚園で一生懸命描いてくれた姿が目に浮かぶよう。私の顔らしきもの、という抽象的な絵ではあるものの、私と離れている場所で、私のことを想って描いてくれた……。それだけでもう、胸いっぱい。これは一生の宝物にしたいと思います。

 そんな母の日当日は、夫が珍しく「今日はママの好きなものを食べに行こう!」と言ってくれたので、なんだか無性に食べたくて仕方なかったパンケーキをリクエスト。ここのところ、慣れない早起きやお弁当作り、父兄行事などをこなすのに頑張りすぎて疲れてたのかしら!? いつもは長い行列ができているお台場の「Eggs'n Things」に行くと、奇跡的に空いている時間帯ですぐ入店。ハワイアンな雰囲気を楽しみました。

 パンケーキって、私にとっては見ているだけで幸せな気持ちになって、ひと口頬張るとなんだかホッコリ。自然と笑顔にしてくれる食べものなんですよね。そんなことを考えていたら、ふいに遠い記憶が蘇ってきたんです。命がけの壮絶な闘いを強いられる中、不安と緊張を抱えながら毎朝食べていたのもパンケーキだったということを。

2004年、女性だけが参加できるサハラ砂漠ラリー「ラリー・アイシャ・デ・ガゼル」(通称ガゼルラリー)の第15回大会に、史上初の日本人ペアチームとして参戦。マシンは3.5リッターディーゼルターボの日産自動車「パトロール(日本名サファリ)」で、この砂丘越えが最も過酷でした。ガゼルラリーは今も毎年開催されています

 それは2004年のちょうど今ごろでした。サハラ砂漠を約2500km、8日間かけて走り抜くという女性だけが参加できる国際ラリーに、日本からたった1人で乗り込むという、身の程知らずな挑戦をしていたのです。競技中は全てフランス語が公用語でほとんど理解できず、日中の車内は60℃以上にもなる暑さ、目を開けていられないほどの砂、無線も携帯電話も通じない心細さ。そして想像を絶する砂漠ドライビングの難しさ。その全てに、心も身体もボロボロになっていくばかり。

後席を取り外した車内にエアタンクを積み、路面の変化に合わせて細かくタイヤ空気圧を変えて走っていました。砂地にひざまずいて作業しているのは私……。首にぐるぐる巻きにしているストールは、砂よけと強い陽射し対策です

 毎日、体にムチ打ってテントから起き出し、朝7時に野営地をスタートしたら、次の野営地にゴールできるのは夜10時をまわることもしばしば。その間はろくに食べ物も口にできず、帰ったら帰ったでマシンのダメージを直したり、その日のレポートを書いたりとやることが山積み。これじゃ最終日まで持たないゾと、パートナーと約束したのが「朝ごはんだけはしっかり食べよう」ということでした。

広大な砂漠に立てられた、この小さなフラッグがチェックポイント。砂漠の先住民たちが応援に来てくれることもあって、とくに小さな子供たちがキラキラした瞳でマシンや私たちを見ていたのが忘れられません

 写真が手元にないのが残念なんですが、野営地にはモロッコ人の陽気なシェフがいて、日本人は珍しいからすぐに顔を覚えてくれました。毎朝、「ボンジュー、アキコ! 今日もいっぱい食べて元気出せよ~」みたいなことを言いながら、ニカッと笑いかけてくれるんです。定番メニューは、ビシャビシャに浸るくらいのメープルシロップがかかったパンケーキ、油多めのオムレツ、ポットから葉っぱがボウボウにはみ出してるワイルドなミントティー。それを、どこからともなく寄ってくる無数のハエと格闘しながら、時計とにらめっこで流し込んでいたのを思い出します。

砂丘越えでマシンに大きなダメージを負い、とうとう動けなくなってしまったのがサハラ砂漠の遺跡の中。人っ子一人いないと思いきや、この数十分後にはどこからともなく現れた先住民たちに囲まれることに

 あのときは、生きるのに必死で「食べなきゃ」という義務感ばかり強くて、ちゃんと味わう余裕もなかったパンケーキ。なのに今、あの味が無性に恋しくて恋しくて、ミントティーの香りとともに私の頭の中を占領しています。

 きっとあの陽気なシェフは、私の不安や心細さを見抜いていたんでしょうね。だからいつも「元気出せよ」とか「もっと食べろ」なんて言いながら、パンケーキを何枚も何枚も焼いてくれたんじゃないかなと、今ごろになって思います。

 モロッコ滞在中はタジンとかクスクスとか、もっとメジャーで美味しい料理もいっぱい食べたはず。それなのに、なぜか一番心に残っているのはビシャビシャのパンケーキとミントティーという……。やっぱり、なにかに打ち込んで頑張っているときに食べるパンケーキは、心に沁みるものなんでしょうか。

 5月はいろんな疲れが出やすい時期だと言いますよね。男性のみなさま、パートナーが「なんか疲れてそうだな」なんて感じたら、今度のドライブではパンケーキ屋さんへ寄り道するのもいいかもしれませんよ♪

心に残るパンケーキを毎朝食べていた野営地はこんな様子。大きな白いテントの中は絨毯が敷いてあって、意外に快適な食事や団欒スペースになっています。簡易トイレやシャワーもあり、私たちはその周りに自分のテントを立てて寝袋で眠る日々でした

まるも亜希子

まるも亜希子/カーライフ・ジャーナリスト。 映画声優、自動車雑誌編集者を経て、2003年に独立。雑誌、ラジオ、TV、トークショーなどメディア出演のほか、モータースポーツ参戦や安全運転インストラクターなども務める。海外モーターショー、ドライブ取材も多数。2004年、2005年にはサハラ砂漠ラリーに参戦、完走。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。17~18年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。女性のパワーでクルマ社会を元気にする「ピンク・ホイール・プロジェクト(PWP)」代表。ジャーナリストで結成したレーシングチーム「TOKYO NEXT SPEED」代表として、耐久レースにも参戦している。過去に乗り継いだ愛車はVWビートル、フィアット・124スパイダー、三菱自動車ギャランVR4、フォード・マスタング、ポルシェ・968など。ブログ「運転席deナマトーク!」やFacebookでもカーライフ情報を発信中。