まるも亜希子の「寄り道日和」

今いちばん興味のあるマクラーレンに試乗してきました

ボルケーノ・イエローという鮮やかなボディカラーが目を惹く、アルトゥーラは機敏な走りが存分に楽しめるモデル。EV航続距離も最大33kmなので、近場の通勤くらいなら電気だけでいけそうですね

 ここのところ、F1GPでの躍進ぶりに注目しているマクラーレン。オランダGPでは、ノリス選手がキレッキレの走りでぶっちぎり優勝したのもすごかった! そんなマクラーレン・スピリッツが脈々と流れる市販モデルの中で、私が今いちばん興味を持っていたモデルに乗ることができました。

 それは、2021年に登場したハイパフォーマンス・ハイブリッドスポーツカーである「Artura(アルトゥーラ)」と、2024年に登場したばかりのハイパフォーマンス・ハイブリッド・コンバーチブルである「Artura Spider(アルトゥーラ・スパイダー)」です。

 試乗のスタート地点は東京都心のモダンな建物。その駐車場に置いてあるだけで、とんでもないオーラを感じます。久々に、「これを自分でドライブできるんだ!」というドキドキが全身を駆け巡りました。クーペ、スパイダーともにパワートレーンはV型6気筒 3.0リッターエンジン+駆動用モーター、普通充電に対応するPHEV。スパイダー登場に伴い、クーペのパワーやパフォーマンスも引き上げられてシステム最高出力は700PS、最大トルクは720Nmとなっています。

 スペックで驚くのはその軽さで、クーペは1300kg台、スパイダーは1400kg台というではないですか。フェラーリの量産PHEVであるSF90ストラダーレが1590kgなので、この差がどう乗り味に出てくるのか楽しみです。

 最初にドライブしたのはアルトゥーラのクーペモデル。ドアは既存モデル同様に上に開く「ディヘドラルドア」で、すっと身体にフィットするシートやドライバーを囲むような操作系の配置でのコクピット感がいいですね。メーター内にバッテリの残量を示すバーが表示されるのは、やはり新鮮。スマートフォンと連携して、センターコンソールのディスプレイにナビなどが表示されるようになっており、このあたりは日常での使い勝手も向上してくれるものとなっています。

 発進から低速ではドッシリとした接地感が強めですが、一般道から首都高に入り、速度が上がっていくにつれて機敏な挙動やボディの一体感がしっかりと感じられるように。合流などで強めにアクセルをひと踏みすれば、浮遊感を伴うような非日常の加速も味わうことができました。やっぱりこれは病みつきになる楽しさ。法定速度で走っているのに、レインボーブリッジに続く合流がサーキットのピットレーンだと妄想できそうなくらい、気持ちのいい走りなんです。乗り心地の方も、首都高の継ぎ目ではドスンとくるところもあるものの、そのほかはおおむねフラットで、これなら助手席の人も快適ではないかと思いました。

マクラーレン史上初のハイパフォーマンス・ハイブリッド・コンバーチブルであるアルトゥーラ・スパイダー。日本の街の風景にもすごく似合います。リトラクタブル・ハードトップはカーボンのほか、エレクトロミック・ガラスパネルも選択可能。そうするとボタン1つでキャビンを明るくしたり、最大99%の日光を遮るまで暗くすることもできるようになるのだそう

 続いてスパイダーに乗り換えます。外観はルーフを閉じていると完全なクーペのようにも見えますが、カーボンをふんだんに使った仕様となり、それだけでもガラリとレーシーな雰囲気に変わります。そしてボタン1つでリトラクタブル・ハードトップが格納されると、美しいオープンスタイルに。その時間、わずか11秒。今回、35度を超える猛暑日だったため、オープンのまま走ろうとしたものの数分で「こりゃ暑すぎて無理だわ」とひよった私は、さっさとボタンを押して閉めたのでした(笑)。50km/h以下で走行中なら開閉可能なので、急な雨などにも安心ですよね。

 走り出してみると、先ほどのクーペのように軽やかという感じよりも、ボディ全体がガッシリとしたカタマリとなりつつ、しなやかで上質なGT的な乗り味を強く感じました。乗り心地にもしっとり感が高まり、コーナリングなどでのバランスの良さに感心。シーンによって優雅なドライブも楽しめそうなところがいいですね。

手を握った時にできる空間と同じ形になっていて、とても握りやすいステアリングはマクラーレンならでは。目の前のメーターにはPHEVらしくバッテリの残量を示すバーもあって新鮮です

 クーペもスパイダーも、シャシーのセッティングとドライブモードのセッティングがスイッチで別々に選べるのが面白いところ。ドライブモードにはEモード、コンフォート、スポーツ、トラックの4つがあり、Eモードでは最大33kmのEV走行もできるんです。今回も、鋭いレスポンスによる加速が静寂の中で味わえる独特の走りを体感することができました。

 帰路は、次に試乗する人のためにバッテリを貯めてお返ししましょうということで、「トラックモード」で走ってきてくださいとのこと。そうすると、回生が最も多くとれるからなんですね。これまでのスーパーカーでトラックモードというと、サーキット走行の時に選択するくらいしか使わないイメージだったので、ちょっと不思議な感覚。帰路はバッテリ残量が42%の状態から走り出し、渋滞に巻き込まれたりしながら1時間15分ほど走って、最後は61%まで回復していました。トラックモードを賢く使えば、思ったよりも多くのシーンで電気の恩恵を受けられるのではないかと感じます。

 スパイダーの印象的なグリーンのボディカラーは、「トウキョウシアン」。そう、東京という名前がついているんです。日本の街を走るのにぴったりの要素が、今までのどのモデルよりもたくさん詰まっていると感じたアルトゥーラ/アルトゥーラ スパイダーでした。

センターに置かれるのは8インチのスクリーン。Apple Carplayでスマホをミラーリングでき、ワイヤレス充電も備わります。ADASも充実していて、カメラでは車両を俯瞰して鮮明に写してくれるので、いつでも障害物などの安全確認が可能です。駐車するのもラクでした
まるも亜希子

まるも亜希子/カーライフ・ジャーナリスト。 映画声優、自動車雑誌編集者を経て、2003年に独立。雑誌、ラジオ、TV、トークショーなどメディア出演のほか、エコ&安全運転インストラクターなども務める。海外モーターショー、ドライブ取材も多数。2004年、2005年にはサハラ砂漠ラリーに参戦、完走。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。2006年より日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。ジャーナリストで結成したレーシングチーム「TOKYO NEXT SPEED」代表として、耐久レースにも参戦。また、女性視点でクルマを楽しみ、クルマ社会を元気にする「クルマ業界女子部」を吉田由美さんと共同主宰。現在YouTube「クルマ業界女子部チャンネル」でさまざまなカーライフ情報を発信中。過去に乗り継いだ愛車はVWビートル、フィアット・124スパイダー、三菱自動車ギャランVR4、フォード・マスタング、ポルシェ・968、ホンダ・CR-Z、メルセデス・ベンツVクラスなど。現在はMINIクロスオーバー・クーパーSDとスズキ・ジムニー。