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デンソーとユーグレナ、微細藻類事業で共同発表会

2019年2月20日 開催

共同発表会でそれぞれの会社で生産している微細藻類の培養液を手にフォトセッションに立つ株式会社ユーグレナ 代表取締役社長 出雲充氏(左)と株式会社デンソー 専務役員 伊藤正彦氏(右)

 デンソーとユーグレナは2月20日、双方の微細藻類に関する知見を持ち寄り、さまざまな事業の実用化に向けて包括的に提携することで基本合意したと発表。同日に都内で共同発表会を行なった。

 両社は今回の包括的提携より、微細藻類に関する双方の技術を融合。地球環境の保護と人々の健康的な暮らしに貢献していくことを目的に、事業における提携を進めていくとしている。

 なお、包括的提携の項目は以下のとおり。

・バイオ燃料事業の開発
・微細藻類培養技術の研究開発
・藻類の食品・化粧品などへの利用
・微細藻類による物質生産

ユーグレナとデンソーで扱っている微細藻類の展示品。左側がユーグレナの微細藻類「ユーグレナ(和名:ミドリムシ)」で、右側がデンソーの微細藻類「コッコミクサ KJ(旧名:シュードコリシスチス)」
両社では現在、微細藻類の市販製品として、ユーグレナで健康食品や化粧品、デンソーで保湿クリームに利用している
株式会社デンソー 専務役員 伊藤正彦氏

 発表会では両社の登壇者からそれぞれの会社における微細藻類に対する取り組み、それぞれで扱っている微細藻類の特徴などについて解説を行なった。

 デンソー 専務役員 伊藤正彦氏は、デンソーの主力事業である自動車分野で培ってきた技術を非自動車分野に活用する取り組みを進めており、注力分野としているファクトリーオートメーションの「FAシステム」に加え、「農業分野」でも自動車事業の技術やノウハウなどを「食のサプライチェーン」に応用し、農業の工業化で社会の発展に貢献することを目指していると説明。

 2005年2月に発効した京都議定書でCO2の削減が大きな社会的課題になったことを受け、デンソーではさまざまな分野で取り組みを進めており、その1つとして藻類が持つオイル蓄積能力に着目。藻類は他の植物と比べて光合成の速度が速いなど高いポテンシャルを持つことなども発見され、京都大学と共同で「コッコミクサ KJ」という微細藻類の研究を進めていると伊藤氏はコメント。研究は2008年からスタートし、2010年からは工場で排出されるCO2を利用して、光合成でコッコミクサ KJを培養する実証試験を始め、さらにオイルと水の分離に工場の廃熱を使うなど、それまで排出されて終わっていたエネルギーを再生可能エネルギーとして利用する取り組みを行なわれているという。

デンソーの非自動車分野の注力分野は「FA」と「農業」の2分野
「社会環境の維持」という社会課題に貢献するため、藻の研究がスタートした
光合成による増殖が早く、オイル蓄積能力が高いコッコミクサ KJの研究に取り組んでいる

 2016年からは熊本県の廃校跡地での大規模な屋外培養を始めて生産量を拡大。2014年から保湿クリームの「モイーナ」(使用する微細藻類はボツリオコッカス)として市販を開始しているほか、2016年から4年連続でダカールラリーに参戦しているトヨタ車体チームの「ランドクルーザー」でコッコミクサ KJから抽出したアルコールを燃料の一部に使用していることも紹介された。

 伊藤氏はコッコミクサ KJの研究の現状も紹介し、中央大学との共同研究で遺伝子を改良し、オイル蓄積能力を1.7倍に高めたほか、デンソーが得意とするFAシステムを活用して屋外培養の生産安定化を実施。藻の濃度や水温、日射量を適切に制御することにより、2017年と比較して2018年は3倍の藻が生産できるようになっているという。

 また、伊藤氏は「藻は植物の原点のようなもの」と表現し、多数の有用な成分を持っていると解説。これまでにマウスを使った実験で、藻を摂取させたマウスはインフルエンザやノロ、ヘルペスといったウイルスに対する低抗力が2.5倍に高まり、腸管内でのノロウイルス増殖も抑制してウイルス量が先取していない場合と比較して70%少なくなるといった機能性成分を持っていることを示した。

 最後に伊藤氏は「このような取り組みの実績も出てまいりましたので、これをユーグレナさまとの包括的提携で具体的な事業に広げていきたいと考え、発表させていただきました」と語った。

デンソーの藻類研究は2008年からスタート
熊本県天草市の廃校跡地を利用し、大規模な屋外培養を実施中
遺伝子改良でコッコミクサ KJが持つオイル蓄積能力を高め、さらに屋外培養の安定化で生産量を3倍に向上
コッコミクサ KJは免疫力向上の高い効果を持っており、3月に開催される日本薬学会で発表予定

バイオ燃料を2025年までに25万t/年生産し、単価を100円/Lに引き下げる

株式会社ユーグレナ 代表取締役社長 出雲充氏

 ユーグレナ 代表取締役社長 出雲充氏は、2005年12月に“東大発のベンチャー企業”としてユーグレナがスタートし、社名にも使っている微細藻類の「ユーグレナ(和名:ミドリムシ)」を屋外大量培養を行なってヘルスケア事業の健康食品などを製造・販売。2018年11月には日本初のバイオジェット・ディーゼル燃料 製造実証プラントを神奈川県横浜市に竣工し、2020年までにバイオジェット燃料による日本初の有償フライト、バイオディーゼルによる車両の走行を実現し、日本を「バイオ燃料先進国」にすることを目指して活動を続けているといった自社のアウトラインについて紹介。

 すでにヘルスケア事業が実際の営業として進められている一方で、エネルギー・環境事業のバイオ燃料は、ヘルスケア事業のような生産スケールでは成り立たず、ユーグレナの創業時に実現した飛躍的な生産量の増加を、さらに100倍、1000倍と拡大する必要があると出雲氏は語り、バイオ燃料をしっかりとした事業として成立させるため、同じように微細藻類の研究に取り組みつつ、工場のマネージメントやスケールアップなどについて日本トップクラスの技術を持つデンソーと包括的提携を行なうことにしたと述べた。

社名でもあるユーグレナを健康食品などに利用しているほか、2020年のバイオジェット燃料による有償フライトを目指す
「GREEN OIL JAPAN(グリーンオイルジャパン)」の名称で日本をバイオ燃料先進国にすることを目指している
ユーグレナのさらなる利用拡大に向け、デンソーと包括的提携を実施

 ユーグレナとデンソーで合意した今回の提携では、「微細藻類のバイオ燃料としてのバリューチェーン構築」「培養技術の開発」「微細藻類の食品利用でのバリューチェーン構築」「先端技術研究」といった4つの大きな目的があることを出雲氏は説明し、各目的について解説を実施。

「微細藻類のバイオ燃料としてのバリューチェーン構築」では、ユーグレナ単独では安定的に大量の培養が難しい微細藻類を、デンソーの持つユーグレナと異なる条件で生産されるコッコミクサ KJや世界的サプライヤーである企業規模により拡大。また、それぞれの得意分野が異なる点について出雲氏は語り、生物である微細藻類の培養では天候や気温などの影響を受ける。この部分を解消するため、ユーグレナでは「農学的知見」から品種改良によって幅広い環境下で培養可能にしていくことを目指すが、一方でデンソーは「工学的知見」で環境そのものを最適化。条件を保ちやすい工場で培養を行ない収穫量を拡大していることを指摘し、この「よりよい品種を生み出す力」と「最適な環境を大規模に再現する力」を掛け合わせることで、バリューチェーンを一気に飛躍させることが可能になるとアピールした。

 また、生産スケールについても「今回の提携で一番重要な点」と説明し、ユーグレナの創業時には、それまで大学などの研究室で100g/年程度だった生産量を一挙に100t/年以上に引き上げたことで大量培養とし、健康食品については事業化を実現しているが、エネルギー産業で利用するためにはさらに生産スケールをステップアップする必要があると出雲氏は説明。

 日本国内で使用されているバイオ燃料の総量は83万t/年で、これから事業化に向けては1万t~10万t/年の生産量を実現する必要があると出雲氏は述べ、そのためにデンソーのFAシステムを活用し、2025年までに25万t/年に高めていくとの数値目標を示した。また、この生産スケール拡大により、燃料単価も現在の1万円/Lから100円/Lに引き下げるチャレンジを続けていくとした。

 なお、ユーグレナが取り組んでいるクルマ向けのバイオディーゼル燃料は「石油から作られる軽油とまったく同じ品質」としており、すでに販売されているディーゼル車でそのまま利用できることも大きなメリットと出雲氏はアピールしている。

バイオ燃料の原料となる微細藻類の培養で、ユーグレナの「農学的知見」とデンソーの「工学的知見」を掛け合わせ、バリューチェーンを一気に飛躍させる
バイオ燃料を産業として確立するため、原材料の多様化と安定供給が不可欠になる
微細藻類の食品利用では、すでに健康食品の販売を行なっているユーグレナの知見でコッコミクサ KJを使ったバリューチェーンを構築する
ユーグレナが持つ微細藻類に有用物質を生産させる代謝解析技術、デンソーが持つ遺伝子組み換え技術を相互利用し、新たに付加価値の高い製品開発につなげていくことを目指している

 最後に出雲氏は、ベンチャー企業であるユーグレナが得意分野とする「ゼロを1にする」開発力と、大企業であるデンソーの持つエンジニアリング力とスケールアップ技術はこれからバイオ燃料などの実現に向けて必須の組み合わせであり、デンソーとの包括的提携でSDGs(持続可能な開発目標)にある「新産業創出」におけるエネルギー分野での国内最高の成功事例にするまで努力し続けていきたいと意気込みを語った。