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ホンダF1 山本雅史MDに、F1前半戦の振り返りと後半戦について聞く 4基目のパワーユニット投入は「ホンダとレッドブルがよく話し合って決めていく」
2021年8月27日 06:10
8月27日~29日(現地時間)、スパ・フランコルシャン・サーキットで行なわれる第12戦ベルギーGPからF1の後半戦が開始される。前戦ハンガリーGPから約4週間になる長い夏休みを挟んでのグランプリは、F1が行なわれるサーキットの中でもオールドタイプのサーキットに該当する。
1周7kmで、丘を駆け上る直前にある谷底のオー・ルージュ、駆け上ったところにあるラディオンなどの名物コーナーがあり、ドライバーに好まれるチャレンジングなサーキットになっている。
2021年がF1参戦最終年になるホンダF1は、パワーユニットを供給しているレッドブル・レーシング・ホンダが11戦して6勝しており、ライバルとなるメルセデスに対して五分五分の戦いを繰り広げている。
ドライバー選手権でマックス・フェルスタッペン選手が2位、コンストラクターズ選手権でも2位につけており、悲願のタイトル獲得は十分射程内となっている。
そうしたホンダF1活動を統括する、ホンダF1 マネージングディレクター 山本雅史氏に、ベルギーGPを前に話しをうかがう機会を得た。後半戦へ向けてのホンダF1最新情報をお届けする。
レッドブル・ホンダとメルセデスが高いテンションでレースを繰り広げた前半戦
──前半戦を総括してどんな展開だったか?
山本氏:ご存じのようにホンダにとって今シーズンはラストイヤーなので、バーレーンの開幕前テストはレッドブルもアルファタウリもそこそこいい感触でいけたものの、実際やっぱり各チームが燃料の重さなどどういう条件でやっているのか分からないので、やはりまずは開幕バーレーンのレースを見ないと分からないですよねと考えていた。
開幕戦では、マックス・フェルスタッペン選手がレース終盤にメルセデスのルイス・ハミルトン選手をオーバーテイクしたが、トラックリミットを超えてしまったということで2つ先のコーナーでフェルスタッペン選手にハミルトン選手に譲れという無線を入れざるを得なかった。そこまでですでにタイヤをかなり使ってしまっていたので、再度オーバーテイクすることはできなかったが、今年はハミルトン選手といい戦いができると感じた。
第2戦のイモラでは、セルジオ・ペレス選手も予選が好調。スタートシーンでは、ハミルトン選手をペレス選手とフェルスタッペン選手が挟んで1コーナーにブレーキングしていくシーンがあった。あれを見た瞬間にこれは戦えるぞと思ったのが印象的だった。
そうした前半戦を戦って、11レースの内フェルスタッペン選手が落としたのは、最終的には9位に入って2ポイントを取れたハンガリーGPを入れて3レース。それらのレースを落とした原因は自責ではなく他責で、それ以外のレースではすべて勝つか表彰台という結果を残している。
前半戦を総括すると、今年のレッドブル・ホンダとメルセデスのルイス・ハミルトン選手はフィフティ・フィフティでいいレースができている。それを立証してくれたと感じている。
もちろん向こうも立ち止まっているわけではなく、イギリスGPでメルセデスがアップデートを入れてきて、少し強敵ぽくなってきている感も拭えない。レースはレッドブル・ホンダの総合パッケージとチーム全体の総合力が問われる戦いなので、後半戦も一戦一戦、いいレースをしていけばいい方向にいくのではないかと思っている。
──前半戦を見ていると、メルセデス側もいろいろ追い込まれているという印象がある。リアウィング問題など典型例だが、政治的な動きを見せたりしている。2014年にメルセデスの独走が始まってから、ここまでメルセデスがそうした動きを見せるというのはなく、いつも絶対王者として君臨していたことを考えると、レッドブル・ホンダの強さがそういう動きをさせているのだな、つまり非常によいレースをしているのだなと感じるが?
山本氏:僕も現場にいってそう感じるシーンは多々ある。例えば、バルテリ・ボッタス選手がピットレーンでスピンしたりとか、これまでのメルセデスでは考えられないような動きも見せている。しかし、そういうギリギリ一杯で戦っているのは別にメルセデスだけでなく、我々レッドブル・ホンダもそうだ。それが今シーズンのおもしろさだと思っている。
そうした中で若干手前味噌気味ではあるが、客観的に見るとレッドブルには一戦一戦すべてを出し切ってレースをしようという姿勢を感じるし、レッドブル・ホンダが大きなミスをしたというレースはない思っている。そう考えても実によく戦っていると自己評価している。
質問の答えに戻ると、我々もそうだが彼らも余裕がないように見える。例えば、それを一番感じたのはモナコGPだ。ボッタス選手はいい位置からスタートしたのにそれを活かすことができずリタイアになり。ハミルトン選手はアルファタウリのピエール・ガスリー選手を抜けずに、上位には進出できなかった。
「モナコだから」とハミルトン選手は言っていたが、そうしたレースできっちり優勝して2台とも上位に入ってポイントが取れたのはレッドブル・ホンダとして去年よりは成長し、メルセデスと戦えるパッケージになってきたのだと感じている。
──テンションが高いレースが続き、第10戦イギリスGPの9コーナーでフェルスタッペン選手とハミルトン選手のクラッシュが発生する。あのクラッシュを見たときにハミルトン選手も相当追い込まれているのだなと個人的には感じた。
山本氏:シルバーストーンをセクター1、セクター2、セクター3に切り分けたときにセクター1の9コーナーまではメルセデスがちょっと有利だった。その後のコーナーではフェルスタッペン選手の方が速いというのはメルセデス側も理解していたと思う。ハミルトン選手にしてみれば、その9コーナーまでに仕掛けて前に出ないとまたスプリント予選みたいにマックスが軽く2,3秒引き離していくレースになってしまうだろうから、スタートからハミルトン選手が何か仕掛けてくるのではないかと我々の側は思っていた。
逆に言えば、我々としては9コーナーを越えれば後はフェルスタッペン選手がなんとかしてくれると思っていた。それに対して、ハミルトン選手はその逆のことを思っていただろうから、もうココしかないと思っていたのだろう。
ドライバー2人の真理を考えると、トップ争いしているのだからいけるときにいかないといけない、一か八かという感覚で譲らずにインにそのまま入っていってしまったのではないか僕は思う。結果的に同じシーンがルクレール選手とあるのだが、ルクレール選手のときは引いている。相手がフェラーリであれば、そこで引いても後で抜けると考えていたのではないかと思う。
そうしたところを含めて、正直なところちょっと厳しいなとは感じた。あのコーナーでは全開だから後ろから加速している方が絶対有利で、そこを突っ込んで来られるとそちら側にアドバンスがあるが、フェルスタッペン選手からはそれは死角で見えない。その意味ではちょっと残念な結果になってしまったバトルだったと思う。
──あのクラッシュを見たときに、本当のところどっちがわるいのかはドライバー自身にしか分からないし、スチュワードが決めた裁定がすべてだと思う。それは我々が言うべきことではないと思うが、あのハミルトン選手がそこまで追い込まれてるんだと感じた。2014年の今の規定になってから、ハミルトン選手がこれほど追い込まれるのは、2016年の終盤にニコ・ロズベルグ選手に負けて最終的にチャンピオンを獲られてしまったとき以来ではと思う。それをフェルスタッペン選手ができているのが今シーズンだと感じるが?
山本氏:まったく同感だ。メルセデスもチーム力は高いので、自分たちのどこにアドバンスがあって、前に出るにはどこでと考えているはず。その結論が9コーナーまでだったというのは同じだっただろう。1周回ってしまうともう抜けないと。その後はもうクルマ何台分か離れてしまうと抜くことは不可能になる。ハミルトン選手も7回のワールドチャンピオンを獲っている偉大なドライバーだから、当然そこは理解している。
その質問にお答えするとしたら、彼も本気になっている中で、どうやってレッドブル・ホンダが勝つか、みたいなことが今までよりも厳しい状況になっていると思う。
ホンダがモナコGPとインディ500を、トヨタがル・マン24時間レースをと、日本メーカーが世界三大レースを席巻
──今シーズン、ホンダF1にとって最も感動的なレースを1つ上げろと言われたら個人的にはモナコGPではないかと考えている。あのアイルトン・セナ選手の1992年の優勝から30年近く経過して、再びモナコGPをホンダのパワーユニットが制覇したのは感動的なレースだった。山本氏も「マックスにモナコGPを勝たせてあげたい」と以前のインタビューで語っていたが、現場ではどうだったか?
山本氏:本当にうれしかった。やはりモナコGPはクルマの総合力はもちろんパッケージも高くないといけないし、ドライバーの技量が問われるコースだ。実は19年も、20年も勝ちたいという思いがすごくあったので、それがホンダ最終年に、フェルスタッペン選手がポールからではなかったがスタートからずっとトップを走りそのまま優勝してくれたというのは感無量だった。
実はコロナ禍でなかったら、レッドブルのクリスチャン(クリスチャン・ホーナー氏、レッドブル・レーシング チーム代表)と、レッドブルグループのモーターホームにあるプールに一緒に飛び込もうという話をしていた(以前、ホーナー氏はそこに表彰台を獲ったらスーパーマンの格好をして飛び込むという約束をしていて、実際に飛び込んだことがある)。
クリスチャンとはずっと、勝ったら僕も何かしたいねという話をしていて、それならプールだなって話をしていたが、もちろんこういうご時世なのでできなかったのは心残りだ……。しかし、フェルスタッペン選手が世界三大レースとされているレースの1つで表彰台の中央に立ってくれたのは本当にうれしかった。
──今年ホンダパワーユニットがモナコGPを、そしてホンダエンジンがインディアナポリス500マイルレースを、そして先週末はトヨタがル・マン24時間を制するなど、世界三大レースをいずれも日本メーカーがらみで優勝を得るという快挙が実現した。ホンダ社内でも盛り上がったのでは?
山本氏:もちろん大いに盛り上がっている。インディ500も佐藤琢磨選手が最後まで惜しいレースを繰り広げてくれていたし、ベテランのエリオ・カストロネベス選手が、ベテランの味を出して優勝したという意味でも本当にいいレースだった。2位を走っていたアレックス・パロウ選手は、ご存じのとおり2017年の全日本F3を、そして2019年には日本でスーパーフォーミュラを走っており、日本育ちのレーサーで、自分がモータースポーツ部長をやっていたときに話したことなどもあったので応援していた。アレックスも2年まであそこまでの走りができていてすごいが、カストロネベス選手はそうした勢いがあるパロウ選手を完全に押さえ込んで優勝してすごいと思った。
そしてル・マンではトヨタさんがパワーユニットだけでなくシャシーも自分でやられての優勝で、トータルでモータースポーツを盛り上げるという意味ですごいなと改めて感じた。また、小林可夢偉選手の初優勝も本当によかったと思う。心の底から両者にお祝いを申し上げたい。
──ハンガリーGPは不運としか言えない結果で、ポイントリーダーからは陥落して夏休みを迎えることになった。後半戦はどんなレースになっていくか?
山本氏:先ほども言ったように、前半11戦で言うと、フェルスタッペン選手には、タイヤバーストだったり、他車のクラッシュで巻き込まれたりしているレースが3戦あり、そこで失ったポイントが大きかった。
もちろんメルセデスがイギリスでアップデートが入ったりなどでまた状況も違ってきているが、フェルスタッペン選手にしっかりレースができる環境を、レッドブル・ホンダが毎戦、毎戦整えていくことができれば、きちんと最終戦までチャンピオン争いを持って行くことができると思う。
それぐらいメルセデスとレッドブル・ホンダは拮抗している状況だ。
──逆に言えば、仮にその3レースの不運がなければいまごろは大差だったと思うが……。
山本氏:レースにはタラレバはないということを承知でいうが、2戦目でハミルトン選手がフロントウィングを壊したときも赤旗でレースが止まるなど、ラッキーなことが何度かあった。
それに対してフェルスタッペン選手の方はアゼルバイジャンGPでトップを独走していたのにタイヤが壊れてリタイア、ハンガリーはもらい事故などもあるが、結果は結果で、結果として負けているのは事実だ。まずは今週末に行なわれるベルギーからの3連戦をきちんと戦って、その時点でのチャンピオンシップ争いがどうなっているかが後半戦の一つ目のポイントだと思う。
──イギリスでメルセデスがアップデートを入れたことも話題になった。後半戦に向けてレッドブル・ホンダ側もそうしたアップデートが入っていくのだろうか?
山本氏:そこはクリスチャンはすごくオープンで紳士的で、最後までレッドブル・ホンダとしてはできる限りのアップデートをすると言っている。ホンダの最終年ということもあり確実にチャンピオンを獲りたいと。そういう気持ちをうれしく思っているし、ホンダとしても最大限の準備をして後半戦に臨みたい。
──イギリスGPにおけるフェルスタッペン選手とハミルトン選手とのクラッシュ、そしてハンガリーのペレス選手のもらい事故で、パワーユニットのマネジメントも難しくなっているが……。
山本氏:8月23日からシャットダウン(筆者注:F1は夏休みの間はオフィスを閉鎖して、関係者に強制的に夏休みを取らせるレギュレーションになっており、パワーユニットサプライヤーのホンダも同じ制約を受けることになる)が解除され、HRD Sakura(ホンダF1の国内での開発拠点)でハンガリーGPから戻ってきたパワーユニットなどに関するチェックも再開されている。
その結果はまだ分かっていないが、ハンガリーGPの予選後にクラックが見つかったフェルスタッペン選手の2基目(イギリスGPでハミルトン選手とクラッシュしたときに使っていたパワーユニット)がどれだけ使えるかなどについて調べていて、その結果をもってベルギーでチームと相談することになる。
──今後、今ある3基目とマイレージを詰んだ1基目で回していくのか、どこかでペナルティを覚悟で4基目を入れていくのか、そのあたりはどうなっていくのか?
山本氏:個人的には後者だ。ただし、そこはホンダのテクニカルチームとレッドブルがよく話し合って決めていくことになる。どこのサーキットで入れるかも大きな問題で、ハンガリーのような抜けないコースで入れるのは難しいし、あまりに遅くなると、効果が薄れてしまう。そういうことはHRD Sakura、現場のチームなども含めてよく検討していると思う。
──先週はF1日本GPが中止という残念な発表があった。先週末には鈴鹿サーキットを運営するモビリティランドの田中社長自らが会見を行なったが、山本氏の受け止めを教えていただきたい。
山本氏:モビリティランドの田中社長とも電話で話したが、一番はホンダF1最終年を鈴鹿で日本のファンのみなさまにお見せすることができないのは悔しい。これまでもお話ししてきたとおり、ホンダとしてはF1活動の集大成的にチャンピオンシップ争いをしている中で、ファンのみなさまからの熱い思いが我々にも届いている。
そして今年から角田裕毅選手という日本人ドライバーがいるなかで、レッドブル、アルファタウリのチームがしっかり鈴鹿でレースして、F1ファン、ホンダファン、そしてモータースポーツファンのみなさまに戦っている姿を見せたかった、それが正直な気持ちだ。
実はクリスチャンやフランツ(フランツ・トスト氏、アルファタウリF1チーム チーム代表)とは、鈴鹿で何かスペシャル的なことをやろうということを彼らも賛同してくれていたので、それができないのは悔しいし、残念というのが両方だ。
結局2年連続でやれないことになってしまい、まして今年は最後の年ということで我々も会社としてタイトルスポンサーを務める予定だった。会社としても最後の年の日本GPを盛り上げようとしてくれていただけに残念だ。
レースは安心して見ていられる角田選手、ハンガリーGP6位と上り基調で前半戦を終える
──今シーズンF1にデビューした角田裕毅選手だが、前半戦はアップダウンが大きなレースが続いたという印象だ。角田選手の前半戦に関して総括を。
山本氏:開幕戦では、それこそアロンソ選手、ライコネン選手、ベッテル選手といったワールドチャンピオンたちをオーバーテイクして、レースに強いドライバーとしての角田を見せることができたと思っている。彼は去年のF2のレースでも優勝したりと、バーレーンのコースを走り慣れているし、本人も好きだと言っていて開幕戦はうまくいったと思う。予選ではQ2で最後のランをミディアムで行ったがそれをソフトで行ってればQ3もなんて話もあったが、フランツは、ここまで走れるんだからドライバーで差をつけないで同じ条件でってことでガスリー選手と同じミディアムタイヤで行かせた。その判断は正しかったと思うが、結果として2回目のミディアムは経験豊富なガスリー選手ですら機能しなかったといってるぐらいで、ああいう結果になった。そうした中でもちゃんと決勝レースでは上手にまとめてポイントを獲得したのはよいレースをしたと思っている。
先ほどの凸凹した結果というのは、F1というのは本当に複雑で、ステアリングのダイヤルをコーナーごとに操作したりをしながら300km/h近い速度で競争しているカテゴリーだ。その中ではよくやってると思うし、ある条件が整ったときに、ガスリー選手と互角の結果を出すことができる、そういうことを評価している。
もちろん課題として、イモラのQ1やフランスのQ1でのクラッシュ、あるいはフリー走行でのクラッシュといったことは挙げられる。そうしたことは今後も彼が学んでいかないといけない課題ではある。大事なことは3日間そうしたことなく走りきって、日曜日に結果を出すことだ。
そのようなプロセスを経ていく中で、彼が学んでいけることは多いし、ガスリー選手というよいお手本も近くにある。本人だって金曜日などにクラッシュしてその後走れないなんてことになれば、メンタルも落ち込むし、そういうことをなくしていき、エンジニアとよいやりとりをして3日間まとめていくこと、それが今の彼の課題だ。
実際、それがうまく運んで決勝まで順調にいけば、決勝レースに関しては何も問題がないと常に彼には言っているところだ。
──その意味では前半戦最後のレースを自己最高の6位で終えてポイントを得たことは大きかったと思うが。
山本氏:ハンガリーでは本人も何が何でもポイントを獲ろうという姿勢で臨んでいたのは感じていた。スタートではウェットのインターミディエイトタイヤで、本人もあまり走っていない状況の中でスタートは慎重にいって、うまくインをキープしていたことが幸いして、スタートの混乱に巻き込まれずに順位を上げることに成功し、結果6位を得た。前半戦最後のレースを6位という最高位で終えたということは彼の後半戦につながる結果だったと思っている。
──レース後に話をしたか?
山本氏:実は彼はレッドブルのファクトリーで翌日にシミュレータに乗らないといけないということでレース日の夜のうちにイギリスへ移動しなければならず、日本に帰る我々とは別行動になったので、LINEでやりとりをした程度だ。
「よかったんじゃない」と送ったら、彼からはガッツポーズのスタンプが帰って来た(笑)。もちろんその後で電話でも話をしたが、後半戦もがんばりますという話をした。
──気持ちの切り替えは早いように見えるが?
山本氏:切り替えが早いことはF1ドライバーにとって必須の条件だ。というのも、F1には世界中のどんなレースよりも多くの関係者が関わっている。自分のクルマだけで40人もの人が動かしているという状況の中で、ドライバーにかかるプレッシャーや責任感は半端ない。何が何でもチームにポイントを持って帰らなければと考えるしかない状況だ。
その中で今年の3人のルーキーを考えれば、ミック・シューマッハ選手とニキータ・マゼピン選手は、チームの状況などもあり今年を学習の年と位置づけていることもあって、競争はチーム内でしかやっていない。
それに対して角田選手は、ガスリー選手というF1界でも非常に評価が高く、今ノリにノッているドライバーと常に比較されるという立場だ。レッドブルにしても、4人いるレギュラードライバーはマックス・フェルスタッペン選手、セルジオ・ペレス選手、ピエール・ガスリー選手ときて4人目が角田選手だ。その3人と直接に比較される立場だから、かなり緊張感ある立場だ。そんな中ではよくやっていると思う。
──シーズン途中でイギリスからアルファタウリのファクトリーがあるファエンツアに居を移したことも話題になった。
山本氏:当初は自分とフランツがファクトリー近くがよいんじゃないかという話をしていて、本人もイタリアはご飯がおいしいしその方がいいですね、みたいな話をしていたのだが、レッドブル側の意向でシミュレータに乗る機会も多いからイギリスがいいという話になった。しかし、モナコでもう一度その議論が復活して、今度はマルコさんも含めてイタリアがよいだろうということになった。
実は今年、カルロス・サインツ選手がイモラに住んでいると聞いている。それも別にすごい豪邸でも何でもなくて、それこそ社員寮ではないけど、そうした場所の一角に住んでいると。なぜかと言えば、それはフェラーリのファクトリーにすぐ行けるからだと。チームの関係者もメカニックも人間だから、やはり毎日会ってる人には情がわくというか、そういうのって万国共通だと思う。だから、角田選手にはトレーニングでも何でもとにかくファクトリーに顔を出しなさいと言っている。
──日本のファンは彼が今年だけでなく、来年以降もF1に残り、それどころか再来年も、そしてその先10年以上レギュラードライバーとして活躍してほしいと望んでいると思う。
山本氏:自分もそうなってほしいと心から望んでいる。速さという意味では僕もヘルムート・マルコ氏(レッドブルのアドバイザー、レッドブル陣営のドライバーはマルコ氏の意見が大きく反映されているとされている)も疑問を持っていない。FIA-F3を1年、そしてFIA-F2を1年やっただけで、トントン拍子にF1に昇格した。
もちろん環境がそうさせた部分はあるが、F2で3位になってきっちり当初の目標だったスーパーライセンスを獲得するという課題をクリアしてやり遂げたということが彼の強さの証明だ。
ホンダとしてはこれまで全員の育成ドライバーに同じチャンスを与えてきて、誰一人特別待遇をしてこなかった。しかし、その中で角田選手が一人結果を出してスーパーライセンスも獲得して結果を出してくれた。それがすべてだと自分は考えている。
──次の世代として、FIA-F3に参加している岩佐歩夢選手もこの間のハンガリーでのレース1で初優勝した。
山本氏:角田選手もイエンツァーという決して有力ではないチームF3で1勝して、F2に上がって有力チームに所属することで結果を出した。与えられた環境の中で、ちゃんと結果を出していくことが若いドライバーにとっては重要になる。
実際、今年の彼の所属チームは、昨年までの結果に比べると決して有力なチームではなく、マルコ氏も自分も結構怒っているぐらいだが、大事なことはその中でも結果を出すことだ。その意味で岩佐選手は非常におもしろいと思っているし、期待しているドライバーだ。
余談だが、今シーズンが始まる日にF3はホンダの育成で誰が乗るのですか?という話になったときに岩佐選手だという話をしたら「そうですか、よかったですね、でも僕よりも遅いと思います!」って角田選手は言っていた(笑)。でもドライバーというのはそういう姿勢でいてくれることが大事で、常に自分が一番だと思っていなければ上は目指せないからだ。
モータースポーツ活動と自動車マーケティングの連携、1つの答えとなる「Honda e:TECHNOLOGY」ロゴ
──シーズン途中から「Honda e:TECHNOLOGY」というロゴが入るようになった。シーズンの途中でロゴの変更というのは珍しいと思うが?
山本氏:実はシーズンオフに日本にいるときにもそういう議論はしていた。新しい取り組みを行なうにははやりシーズンオフが適しているからだが、両チームと折り合いをつけるタイミングを逃してしまって開幕を迎えることになった。
しかし、弊社の社長が三部(三部敏宏氏、本田技研工業株式会社 代表取締役社長)に変わったタイミングで、電動化の話をとても強調していて、これからの電動化を象徴するブランドとして「Honda e:TECHNOLOGY」を、社長の情報発信と連動していくべきなのではないかということで、両チームと調整を始めた。
ただ、そうして言葉にすると簡単にできるように聞こえるかもしれないが、車体側のカラーリングの変更はペイントになっていて、塗り直しになる。それも2台やればいいというだけでなく、スペアパーツも含めてやらないといけない。
現場に行ってる自分としてはそういうチーム側の負荷を理解しているので、当初は言いだしにくかったが、まずクリスチャンに言ってみると二つ返事で「やろう、(新しいロゴの)データくれる?」と言ってくれた。そしてフランツにも話をしてみたら、当然彼は慎重な性格でチームの利益も考えないといけないので、少し考えて「レッドブルはなんて言ってたの?」と聞いてきたのでやってくれると言ってたよと言うと、「じゃあうちもやろう」と言ってくれて、両チームともにフランスGPからロゴを変更してくれた。両チームには感謝しかないというのが正直な感想だ。
自動車メーカーとしてモータースポーツをやっている以上、それをどのようにマーケティング的に、そしてブランド的に活用していくのかが重要なテーマだ。シーズン途中での変更は異例ではあるが、ホンダF1の最終年にそうしたメッセージを出せるようになったことはよかったと思っている。
──ホンダがF1で勝つのを見てホンダ車を買ったというユーザーが増えなければ、何のためにF1活動をやっているのかということになりかねないということか?
山本氏:そのとおりだ。まだF1専任になる前のモータースポーツ部長の時代にF1の効果とは何かという質問をいただくことがあった。当たり前だが、F1活動をしていてもお金を生み出すわけではないのだから。
今年のイギリスGPの話になるが、パドックにお客さまを招待できるようになり、その枠を2つ確保することができた。私はその枠を、イギリスのホンダディーラーのトップ2人を招待することに使ったのだが、そのときにディーラーのトップの方が「5月、6月、7月はクルマが売れて売れて……。それはあなたたちがF1でがんばっているからだ」と言っていただけた。もちろん半分はお世辞だとは思うが、ちょうどそのころはレッドブル・ホンダが5連勝していて、そうしたことがよい方に影響していた側面はあるだろう。イギリスGPそのものは残念な結果になってしまったが、実際現場でクルマを売っていただいている方にそう言っていただけたのは本当にうれしかった。
実際、他社の例で言ってもメルセデスはブランドを上手に使っており、F1カーに使われていたロゴがその翌年のAMGの車両に使われていたりしている。我々ももっとそうした側面には目を向けていかなければいけないと考えている。
F1に参戦する意味は、技術者の育成など会社として大きく飛躍できる部分はもちろんあるのだが、それと同時にそうしたマーケティング的な側面も重要だと考えている。自動車メーカーがモータースポーツに参戦する大きな意味だと考えている。
──今シーズン後半戦に向けてを教えてほしい。
山本氏:先ほども申し上げたとおり、前半戦はメルセデスのルイス・ハミルトン選手とレッドブル・ホンダのマックス・フェルスタッペン選手が本当にフィフティ・フィフティで拮抗しているレースを展開してきた。そんな中でチャンピオン争いはこの二人に絞られているので、後半戦もしっかり戦っていくことが重要で、両チームの総合力が試される。
現状まで後半戦のスケジュールは決まっていないが、ステファノ・ドメニカリ氏(F1 CEO)はしっかりスケジュールを組むとおっしゃっているので、メキシコ、ブラジルなどのではレッドブル・ホンダが優位なレースができると思うので、なんとか開催してもらってレースがしたい。
ただ、その意味では両陣営とも条件は同じなので、メルセデスと常に戦える状態を整えてやりきることが後半の結果を最大化すると思っている。引き続き日本のF1ファンのみなさまには、そんなホンダF1の集大成を楽しんでいただき、応援していただければと思っている。
ドライバーランキング(F1第11戦ハンガリーGP終了後)
順位 | ドライバー | 国 | 車両 | ポイント |
---|---|---|---|---|
1 | ルイス・ハミルトン | GBR | メルセデス | 195 |
2 | マックス・フェルスタッペン | NED | レッドブル・レーシング・ホンダ | 187 |
3 | ランド・ノリス | GBR | マクラーレン・メルセデス | 113 |
4 | バルテリ・ボッタス | FIN | メルセデス | 108 |
5 | セルジオ・ペレス | MEX | レッドブル・レーシング・ホンダ | 104 |
6 | カルロス・サインツ | ESP | フェラーリ | 83 |
7 | シャルル・ルクレール | MON | フェラーリ | 80 |
8 | ピエール・ガスリー | FRA | アルファタウリ・ホンダ | 50 |
9 | ダニエル・リカルド | AUS | マクラーレン・メルセデス | 50 |
10 | エステバン・オコン | FRA | アルピーヌ・ルノー | 39 |
11 | フェルナンド・アロンソ | ESP | アルピーヌ・ルノー | 38 |
12 | セバスチャン・ベッテル | GER | アストンマーティン・メルセデス | 30 |
13 | 角田裕毅 | JPN | アルファタウリ・ホンダ | 18 |
14 | ランス・ストロール | CAN | アストンマーティン・メルセデス | 18 |
15 | ニコラス・ラティフィ | CAN | ウイリアムズ・メルセデス | 6 |
16 | ジョージ・ラッセル | GBR | ウイリアムズ・メルセデス | 4 |
17 | キミ・ライコネン | FIN | アルファロメオ・レーシング・フェラーリ | 2 |
18 | アントニオ・ジョビナッツィ | ITA | アルファロメオ・レーシング・フェラーリ | 1 |
19 | ミック・シューマッハ | GER | ハース・フェラーリ | 0 |
20 | ニキータ・マゼピン | RAF | ハース・フェラーリ | 0 |