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MAZDA SPIRIT RACING、S耐富士24時間レースに初参戦 マシン自体の速さは実証するも完走を果たせず

2022年6月3日~5日 開催

スーパー耐久の富士24間レースにMAZDA SPIRIT RACINGが挑んだ

富士24時間レースMAZDA SPIRIT RACING参戦レポート

 国内開催では唯一の24時間レースとなる「スーパー耐久シリーズ 富士SUPER TEC 24時間レース」が6月4日~5日に富士スピードウェイで開催された。昨シーズンの最終戦にスポット参戦し、今季はシリーズ全戦にエントリーするMAZDA SPIRIT RACING。

 同チームは、自動車メーカーが車両開発のために参戦することができるST-Qクラスに参戦。スーパー耐久の主催者となるSTO(スーパー耐久機構)が認可したマシンが参戦できるST-Qクラスは、トヨタ自動車の「GR Corolla H2コンセプト」と「GR86 CNFコンセプト」の2台、スバルの「BRZ CNFコンセプト」、日産の2台の「Z Racingコンセプト」、ブレーキパーツメーカーのエンドレスの「AMG GT4」がエントリーしていて、マツダの「MAZDA2 Bio concept」を含めると7台のマシンが参戦している。

富士24時間レースでMAZDA2 Bio conceptのステアリングを握った6名のドライバー。左から関豊選手、寺川和紘選手、前田育男選手、加藤哲也選手、手塚祐弥選手、井尻薫選手

 通常のクラスは、排気量や駆動方式によって細かく別けられているのでマシン性能の差は少ないが、車両開発が目的となっているST-Qクラスはそれぞれのマシン性能差があり、単純な順位やラップタイムの競争というより、チームごとに独自の課題を設けて戦っている。

 MAZDA2 Bio conceptも年間を通してアップデートのロードマップが描かれていて、開幕戦よりも第2戦、第2戦よりも第3戦と大会を進めていくごとに車両各部の改良を施していく予定となっている。

 昨シーズンのスポット参戦時と開幕戦を比較してみると、タービンが変更され、それに合わせた制御系のセットアップによって出力向上を果たした。そして、第2戦の富士24時間レースの前に行なわれた公式テストでは、エンジンを1.5リッターから1.8リッターへ換装し、トランスミッションも純正からドグミッションへと変更。ウィークポイントとなっていたトランスミッションを強化することで、過酷な24時間レースへ備えた。

 1500cc以下のマシンで競われるST-5クラスには、以前からデミオやMAZDA2が参戦してきた。これらのマシンでもトランスミッションはウィークポイントとなっていて、レースの過酷な状況で使うとたびたびギヤの破損が発生した。MAZDA2 Bio conceptでもトランスミッションの強化は必須と考えられていて、今回のドグミッションへの変更がウィークポイントの解消になると期待された。

エンジンを1.8リッターへ換装して戦闘力がアップしたMAZDA2 Bio concept

 迎えた24時間レースの予選は6月3日に実施され、マツダのテストドライバーを務めているAドライバーの寺川和紘選手が2分5秒959、Bドライバーの井尻薫選手が2分4秒607をマーク。スーパー耐久の予選はA、Bドライバーの合算タイムが正式結果となるため、両者のタイムによってST-Qクラスの7台中5番手となった。開幕戦では同等の性能となっているST-5クラスのトップタイムから大きく離されていたが、今回はコースレコードをマークしたST-5クラスのロードスターの約1秒遅れと、かなりの進化をみせたことがタイムからも伺えた。パワートレーンを刷新したMAZDA2 Bio conceptだが、24時間の決勝レースを走り切ることが最大の目標ということで、耐久性を考慮してパワーはかなり抑えているという。

 井尻薫選手は、「出力を抑えていることもありパワー感は以前の1.5リッターと変わらないイメージです。ただ、高回転域でのトルクが太く燃費には有利です。ドグミッションについてはシフトチェンジがスムーズになり、純正ミッションに対してタイム的にも稼ぐことができそうです。24時間レースは何千回とシフトチェンジするので、積み重ねればアドバンテージになります」と、アップデートされたMAZDA2 Bio conceptの印象を語っていた。

24時間レースのスタートを待つMAZDA2 Bio conceptとチームスタッフ達

 決勝レースは4日の15時にスタートを切り、56台のマシンが24時間後のゴールを目指した。スタートドライバーは寺川選手が務め1スティント約90分の走行を終えると、MAZDA SPIRIT RACINGの代表を務める前田育男選手にバトンをつないだ。前田選手も順調にラップを重ね33周を走行するとST-5クラスのトップと同等の順位までアップし、今戦に助っ人参加したカーグラフィック代表の加藤哲也選手がMAZDA2 Bio conceptへ乗り込んだ。加藤選手も周回を重ねていくが、スティントの途中でST-Zクラスのマシンと接触があり緊急のピットイン。マシンの修復に多少の時間がかかり順位を落とすことになった。

レース序盤はST-5クラスのトップとも同等のラップで周回し、開幕戦よりも戦闘力を上げた姿をみせた

 だがレースは20時間ほど残っていることもあり、順位的にも挽回することは可能。マシンの修復後は井尻選手、関選手と順調にバトンをつないでいたが、22時頃にMAZDA2 Bio conceptが力なく進む様子が映像に映された。原因はミッショントラブルで、強化してきたトランスミッションだったが走行開始から7時間ほどで破損してしまったのだ。広島マツダから派遣されているメカニックは、冷静に予備のトランスミッションへ交換する準備を整え、ピット内の限られたスペースでミッション交換を行なった。

レース開始から7時間が経過しミッションブローが発生。広島マツダのメカニックが賢明な作業で修復させた

 1時間半ほどの作業時間で新しいトランスミッションに載せ替えられたMAZDA2 Bio conceptは、再びレースに復帰。夜半前にサーキットに戻ると快調にラップを重ね、関選手、手塚選手、寺川選手が担当スティントを消化していく。明け方になると再びトランスミッションに問題を抱えてしまうが、メカニックの懸命な処置とドライバーの負荷をかけない操作によってレースを継続していった。マシンは手負いの状態となったがチーム全員が一丸となりチェッカーを目指す。

富士24時間ならではの夜間走行。手負いの状態となったがドライバーが労りながら走行を続けた

 しかし、残り1時間ほどのところでMAZDA2 Bio conceptがクラッシュしたという連絡が入る。フロントセクションが大破していて自力での走行も不可能だったため、レッカー車によってピットまで運ばれてきた。チェッカーまでの残り時間は1時間ということで修復を諦め、ここでMAZDA SPIRIT RACINGの24時間レースは幕を閉じた。

ラウンドを重ねるごとにチームワークは良くなり、ピット作業もミスなくこなしていく
クラッシュによって残り1時間で残念ながらリタイヤとなった

 残り1時間でのリタイヤという残酷な結果となったが、前田育男代表は「23時間でレースが終わってしまい非常に残念でした。今回のレースに向けてさまざまなシミュレーションを行ない、マシンのアップデートも含めて多くの対策を施してきました。ただ結果をみるとマシンや体制、戦略ともに足りないことが分かりました。マシン自体の速さがあることは実証できましたが、12時間、20時間と走らせていくと想定できない問題が発生しました。モータースポーツは人を育てるという意味を本当に実感できたレースでした。ラウンドを重ねるごとにチームワークは強固となり、24時間を戦いさらにまとまったと思います。この経験を活かし、次戦以降も戦っていきます」と、レース直後だったが富士24時間を振り返った。

チーム代表兼ドライバーの前田育男選手

 シリーズ最長の24時間レースを終えたスーパー耐久だが、まだシーズンの序盤を終えたばかり。次回の第3戦はスポーツランドSUGOが舞台で、7月9日~10日に開催される。