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クアルコムのSDV向け新SoC、メルセデス・ベンツやソニー・ホンダモビリティなどが採用に前向き Googleとの提携も
2024年10月24日 16:52
- 2024年10月22日(現地時間) 開催
Snapdragon Summitで自動車向けの新製品を発表
半導体メーカーのQualcomm(クアルコム)は、10月21日~23日(現地時間)に年次イベント「Snapdragon Summit」を米国ハワイ州マウイ島において開催している。
10月22日の午前(現地時間)に行なわれた自動車向けの会見では、新しいSDV(Software Defined Vehicle:ソフトウエアと汎用プロセッサでデジタル機能が実現される自動車)向けの新しいSoC「Snapdragon Cockpit Elite」「Snapdragon Ride Elite」の2製品が発表され、ドイツのメルセデス・ベンツや中国の理想汽車(Li Auto)などが採用する計画を明らかにしたほか、ソニー・ホンダモビリティ、BMW、ステランティス、ボルボなどが採用に前向きなコメントを明らかにしている。
また、Qualcommはこの会見の中で、Googleとの複数年パートナーシップ契約を結んだことを発表。Qualcommが提供するSDV向け半導体製品と、Googleが提供するAndroid Automotive OS、Googleが提供する生成AIソフトウエア、Google Cloudなどを組み合わせて、レファレンス環境として自動車メーカーやティアワンの部品メーカーなどに提供していくことで、生成AIを利用してより高度なユーザー体験を、短い開発期間で実現していく。
デジタルコクピット向けSoC「Snapdragon Cockpit Elite」など発表
現在Qualcommが開催しているSnapdragon Summitは、同社がスマートフォンやPC向けの新製品を発表するイベントとして活用されており、2024年は会期2日目が自動車関連の日として設定され、自動車産業で最も注目されているSDV向けとなるSoCとなるSnapdragon Cockpit Elite、Snapdragon Ride Eliteの2製品が発表された。
Snapdragon Cockpit Eliteはデジタルコクピット(IVIやデジタルメーターなど)向けとなり、Snapdragon Ride EliteはADAS/自動運転向け(最大レベル4)となる。Qualcommはこうした車載向け製品の総称として「Snapdragon Digital Chassis」という名称を定めて、通信モジュールやSoCなどを自動車メーカーやティアワンの部品メーカーに提供している。
Qualcomm CEO クリスチアーノ・アーモン氏は「世界中すべての自動車メーカーと取引をしているといっても過言ではない」と説明しており、同社によればほとんどの自動車メーカーと何らかの取引を行なっているのが現状だという。
Qualcomm Technologies 自動車・産業・クラウド事業本部 事業本部長 ナクル・デュガル氏は「今回発表した両製品は、それぞれのプロセッサの性能が向上しており、SDVやAIを活用した新しいユーザー体験を自動車ユーザーにもたらすものだ」と紹介。両製品ともCPU、GPU、NPUが強化されており、PC用に採用されていたカスタムCPU(半導体メーカーが自社でデザインを行なったCPUのこと)である「Oryon CPU」によりCPUは前世代と比較して3倍、新世代となったGPUも前世代と比較して3倍、そしてNPUに関しては前世代と比較して12倍と大きな性能向上が実現されていることを強調した。
また、それにより、Qualcommが推進しているAIの機能を活用して、自動車の中で生成AIを利用した新しいユーザー体験などを自動車メーカーが容易に提供できるようになるとした。
メルセデス・ベンツなどが採用。ソニー・ホンダモビリティは採用に前向き
今回の会見には、メルセデス・ベンツAG CSO(最高ソフトウエア責任者) マグナス・オストベルグ氏、中国のEVベンダーである理想汽車(Li Auto)調達購買戦略責任者 ゾウミン・ウー氏、同じく中国の自動車メーカー長城汽車(Great Wall Motor) CTO(最高技術責任者)がQualcommのOEMメーカーを代表してビデオ出演、ないしはステージに登壇した。この中で、メルセデス・ベンツと理想汽車の2社に関しては、今回発表されたSnapdragon Cockpit Eliteを採用する計画であることを明らかにしている。
また、ソニーとホンダのジョイントベンチャーとしてSDVのEVを開発しているソニー・ホンダモビリティ 代表取締役 社長 兼 COO(最高執行責任者) 川西泉氏は「ソニー・ホンダモビリティは人々とモビリティの関係性を再定義することで、移動方法に革命を起こすことを目指している。QualcommのSapdragon Digital Chassissの実現に一役買ってくれると信じている」(原文は英語、翻訳筆者)というコメントを発表し、Snapdragon Summitの展示会場で動画が流されていた。
QualcommとGoogleが複数年にわたって協業。車載Androidと生成AIを車両に搭載する基礎部分を自動車メーカーに提供
また、今回Qualcommは、Snapdragon Cockpit EliteなどのSnapdragon Digital Chassisを利用して構築される生成AIプラットフォームの開発に関して、Googleとの共同開発を複数年にわたって行なうという契約を結んだと明らかにした。
Snapdragon Summitには、Google グローバル・オートモーティブ・パートナー担当部長 グレフェン・エフェシェン氏が登壇し、QualcommとGoogleの提携に関しての説明が行なわれた。
具体的には、Googleが用意する自動車向けのOS「Android Automotive OS(AAOS)」とクラウドサービス「Google Cloud」が提供する自動車向けのレファレンスデザインと、Snapdragon Digital Chassisの最適化を両社が共同で行なうというもの。自動車メーカーは競争領域(ユーザーインターフェースや生成AIの新しい使い方)の開発に注力し、非競争領域(OSや生成AIを実行するソフトウエア環境、クラウド、SoCなど)はGoogleとQualcommに任せることが可能になる。
これにより、自動車メーカーやティアワンの部品メーカーはGoogleが用意する生成AIの機能、例えば生成AIを利用した音声アシスタント機能、VR/ARのような没入感のあるナビゲーション機能、渋滞情報や空いている駐車場の情報といったドライバーが必要とする情報をリアルタイムにアップデートするという生成AIならではのユーザー体験を、より短い開発期間で投入することが可能になる。
Qualcommがスポンサーとして参画しているメルセデスF1。チーム代表ウルフ氏は「F1とハイテク事業は似ている」
このほか、Qualcommが行なった基調講演には、同社がスポンサーしているメルセデスF1チームのチーム代表であるトト・ウルフ氏が登壇し、F1とデジタル技術の関係などに関して説明した。
ウルフ氏はオーストリア出身で、若いころは自身もレーサーとして活躍した後、実業家に転進。一時期はウイリアムズF1チームの少数株主になることでF1との関わりを築いた。2013年にはメルセデスのモータースポーツのマネージング・ディレクターとなり、同時にメルセデスF1チームのCEO、その後はチーム代表 兼 CEOとしてメルセデスF1チームをけん引してきた。10月18日~20日にはオースティンのCOTAでアメリカGPが行なわれ、10月25日~27日にはメキシコ・シティでメキシコGPが行なわれる予定というレースウィークのまっただ中に、同じアメリカとはいえ時差が4時間もあるハワイに立ち寄ったかたちになる。
ウルフ氏は「F1とQualcommの半導体事業はビジネスのやり方が非常に似ている。どちらも科学であり、優秀なエンジニアが必要だということだ。扱うものが、Qualcommの方は情報通信、半導体チップであり、われわれはレーシングカーという違いでしかない。どちらもデータを扱っており、われわれのスピードも科学に基づいている。F1は常にモータースポーツの最高峰で、パワーユニット、ステアリング、ABS、トラクションコントロール、カーボンブレーキなどの技術が市販車にフィードバックされている。F1カーというプロトタイプカーで、限界を押し広げる技術開発をやっており、それはすべて科学的な取り組みだ」と述べ、Qualcommのような半導体を開発するハイテク企業と、メルセデスF1チームのようなF1チームの類似性を説明した。
ウルフ氏はF1でのAIの利活用について聞かれると、「現代のF1では、レギュレーションにより実際に車両を走らせてテストする時間は限られているため、シミュレーションを多用している。F1でのAIの活用は、エンジニアリングだけの話ではない。エンジニアはいつも、F1車両の弱点はステアリングホイールとエンジンの後ろにあるという。つまりそれは、温度によってうまく走れるときもあれば、そうではないときもあり、想定よりも早く壊れたり、壊れなかったり、理屈では割り切れず、モデル化を行なうのが難しい領域がたくさんあるということ。そこで、AIを活用することでそうした問題によりよい解決策がないか考えていけると思っている。また、現在は何十億ものセンサーを持つドライバーに運転してもらってよしあしを決めている分野が非常に多い。それをモデル化していくにはまだまだほど遠いが、そういった現在では数値化できないような領域をデータ化していくことで、AIの利活用が進んでいくのでは」と説明した。