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【CEATEC JAPAN 2015】内閣府、コンチネンタル、NVIDIAが自動走行に関連するカンファレンスを実施
(2015/10/10 00:00)
- 2015年10月9日開催
ITとエレクトロニクスの展示会「CEATEC JAPAN 2015」(シーテック ジャパン 2015)が10月7日~10日に幕張メッセ(千葉県千葉市)で開催されている。会場では展示ホールでのさまざまな製品紹介などに加え、コンベンションホールで関連企業や政府機関などによるキーノートスピーチやカンファレンスを実施。10月9日には、「自動走行システムの世界の研究開発動向を探る」と題されたカンファレンスが開催された。
スピーカーとして登壇したのは、内閣府 大臣官房審議官で、科学技術・イノベーション担当の松本英三氏、コンチネンタル・オートモーティブ 執行役員 ダイレクター システム・技術統括担当の豊田啓治氏、NVIDIA シニア ソリューションアーキテクトの馬路徹氏の3人。会場となった国際会議場2階 コンベンションホールAは、自動運転に関する関心や期待が多いためか多くの参加者が集まり満席となっていた。
自動走行を含む新たな交通システムを実現し、事故や渋滞を抜本的に削減
まず最初に登壇したのは、内閣府の松本氏。松本氏ははじめに、安倍内閣で閣議決定を行って取り組んでいる「SIP」(戦略的イノベーション創造プログラム)について解説。これは内閣府の「総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)」が司令塔機能を発揮し、府省の枠や旧来の分野の枠を超えたマネジメントに主導的な役割を果たすことにより、科学技術のイノベーションを実現するために2014年度から創設したプログラム。
司令塔機能を強化するための3本の矢として、「政府全体の科学技術関係予算の戦略的策定」「SIP」「ImPACT」の3つを挙げた。このうちImPACTは、実現時には産業や社会のあり方に変革をもたらし、革新的な科学技術イノベーションを創出する挑戦的な研究開発の推進のこと。自動走行システムの研究開発については、SIPの課題として選出されたテーマの1つである「インフラ維持管理・更新・マネジメント技術」に含まれ、「自動走行を含む新たな交通システムを実現し、事故や渋滞を抜本的に削減、移動の利便性を飛躍的に向上させるもの」と解説している。
自動化レベルの定義と市場化目標時期については、すでに市場に出ている自動ブレーキなどの「安全運転支援システム」をレベル1とし、2017年以降の市場化を目標とした「準自動走行システム」のなかで「加速・操舵・制動のうち、複数の操作を同時にシステムが行う状態」をレベル2と設定。2020年代前半に市場化を目指す「加速・操舵・制動のすべてをシステムが行う状態」をレベル3としているが、レベル3であってもシステムから要請が出された場合にはドライバーが対応する必要がある。これはジュネーブ条約で「自動車はドライバーが運転するもの」と定められているためとのことだった。
自動走行システムに必要な技術として、クルマには人に代わって「認知」するためのセンサー、判断するための「制御:人工知能」、操作するための「アクチュエーター」、人と協調するためのHMI(Human Machine Interface)が不可欠であり、「高精細なデジタル地図」「ITS先読み情報」なども必要になることも松本氏は語っている。特に高精細なデジタル地図として「ダイナミックマップの構築」を挙げ、路肩に縁石があるかないかなども含めた「自動走行に向けた3次元の地形情報」や、障害物の回避時に必要となる「車線レベルのリンクデータ」、周辺車両の挙動や交通情報、そして周囲の人間の動きまでを含めた「動的情報の紐づけ」なども解説された。
「ダイナミックマップ」を試作するためのコンソーシアム結成も10月2日に発表(http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/20151002_723885.html)されており、参加7社による取り組みを今年度の実施項目としているが、2014年度にもすでに「静的高精度地図」の試作を行っており、その高精度位置測位検証の動画を上映。自動走行のためだけに利用すると大幅なコスト負担になることから、基盤となる地図データは「パーソナルナビゲーション」「防災・減災」「社会インフラの維持管理」などにも活用分野の拡大が必要とのこと。
前出のHMIについては、ドライバーとシステム間で運転権限の委譲が発生したときの仕様検討において、国際的な協調と標準化が日本車を輸出するために必要となる。また、車載センサーによる衝突回避などの「自律型システム」と、車車間、路車間、歩車間通信などのITSによる先読み情報を活用する「協調型システム」が相互に補完し合うためには、ITS先読み情報の位置精度向上が必要になるなど、実用化に向けた課題解決はまだ残されていると語った。
そのほかに、10月5日からフランスで開催されている「第22回 ITS世界会議 ボルドー2015」の案内や、10月27日から東京国際交流館で開催する「第2回 SIP-adus Workshop 2015」の概要、ミシガン大学の自動運転研究施設「M City」の実験動画も含めた紹介、そして実用化に向けた課題例の説明などもあり、とてもすべてを伝えきれないが、近い将来にはドライバーがステアリングを握らなくてもクルマが走りまわる日が来ることを実感させる講演となった。
トヨタ自動車の「Toyota Safety Sense C」のカメラもコンチネンタル製
次いで登壇したのはコンチネンタル・オートモーティブの豊田氏。コンチネンタルといえばタイヤメーカーというイメージを持つ人も多いと思うが、実際には2014年の事業概要でタイヤは全体の28%であり、自動運転の実現に関与する「シャーシ&セーフティー」「パワートレイン」「インテリア」の各部門を合わせると61%であるといった会社概要の解説が行われ、交通事故を限りなくゼロに近づける「VISION ZERO」という同社のスローガンも紹介された。
コンチネンタルでは、内閣府の「認知」「制御:人工知能」「アクチュエーター」という区分を、「Sense」「Plan」「Act」の3領域に分けて解説。Senseにおけるカメラやレーダーといったさまざまなセンサー類に加え、Actにおいては現行車両のブレーキ構成例、フロントブレーキと電動パーキングブレーキをシステムが操作する「冗長ブレーキ構成例」などを図解によって分かりやすく説明。また、現在の運転支援システムや部分的自動化ではドライバーが常に監視することが必要であり、ブレーキやステアリングに失陥が生じた場合はドライバーのバックアップが必要となるが、先々の条件付きの高度、または完全自動化に進化したときには、監視の必要はもちろん、失陥時にもシステムがバックアップする必要性を解説した。
また、自動運転に対する世界のドライバーの第一印象というアンケート結果を表示。中国では圧倒的に歓迎されており、日本やアメリカでも半数以上が好印象を持っていると説明し、ドイツ本国での自動運転時の映像はもちろん、東北自動車道や東名高速道路に加え、日本国内の一般道で実施した自動運転の動画を上映して会場内の関心を集めた。これに加えて、トヨタ自動車の衝突回避支援パッケージ「Toyota Safety Sense C」に、小型車のミラーベースに組み込み可能なCMOSカメラとレーザーレーダーを、単体のコンパクトユニットに統合した同社の「センサーモジュールMFL」が採用されていると紹介している。
1TFLOPS車載プロセッサ1個で実現する車載AI及び低速度自動運転
3人目にNVIDIAの馬路氏が登壇。「自動走行システム・アーキテクチャ及びDRIVE PX/CXによる各機能の実装」「地図モジュール、AIモジュール、走行環境センシング用DRIVE PX」「HMIモジュール用DRIVE/CX」の3点について解説。馬路氏は「自動走行システム・アーキテクチャは、走行環境センシング、地図モジュール、人工知能モジュール、各種制御モジュール、HMIモジュールから構成され、主要な機能を『DRIVE PX』と『DRIVE CX』、CUDAによる超並列計算、ディープラーニング(深層学習トレーニング)、コンピューター・ビジョンとHMIフレームワークで実現できる」と語った。
まずはDRIVE PXについて詳細を説明。DRIVE PXはNVIDIA Tegra X1プロセッサをベースとするプラットフォームで、最新の高機能運転支援システム(ADAS)を可能とするもの。10GBのDRAMメモリを搭載し、サラウンドコンピュータビジョン(CV)技術、ディープラーニングなどを一体化したものであるが、DRIVE PXは2個のTegra X1プロセッサで構成されているので、2.3テラフロップスという初期のスーパーコンピューターレベルの性能を持っているそうだ。すでに実際の走行シーン映像における車両認識で、一般の乗用車とトラックを区別したり、緊急車両の認識、駐車中のクルマと側道から合流してくるクルマを見分けている動画を披露した。また、GPUの採用によって2012年以降は誤認識が飛躍的に減っていることを示すグラフもスライドに含まれており、これからさらに進化することが期待できるとした。
車両の前後左右にカメラを設置し、自車を上部から見たような映像を高いディテールでリアルタイムに表示し、さらに周囲の映像から本物のような照明効果を備えたバーチャルカーをレンダリングした動画も公開。さらにDRIVE PXが膨大な処理能力を発揮して、リアルタイムで近くにある物体の3Dマップを作成。自己位置推定により駐車スペースに入るデモ映像も流れ、NVIDIAが持つ高いグラフィックテクノロジーに会場内のあちこちから驚嘆の声が漏れた。
このDRIVE PXはデュアルTegra X1モバイルスーパーチップで駆動することで、非常に優れたパフォーマンスを実現している。Tegra X1 の1テラフロップの処理能力やエネルギー効率のよいGPU、クアッドコアARM v8 CPU、専用のオーディオ、ビデオ、画像プロセッサなどが含まれ、カメラ処理では1.3ギガピクセル/秒のスループットを実現できるので、最大60fpsのフレームレートで車体に装着された12個の2メガピクセルのカメラを十分に操作できる。つまり、コストを惜しまなければ周囲にあるほぼすべての物体を感知できることになる。
また、運転支援のための3Dナビゲーションや情報表示、質感の高い高解像度のデジタル機器クラスター、自然音声処理、画像処理などを実現するDRIVE CXについても解説。Tegra X1により、自然言語認識や高性能で高品質なグラフィックス・インターフェイスを実現できると語っていたが、DRIVE Designでは「Material Definition Language」(MDL)によって物理的素材をリアルな映像として再現しており、クルマの車内に設置されたメーターパネル表示とは思えない美しいグラフィックを披露。スーパーコンピューターの世界でも高度な処理を行うテクノロジーを、クルマの自動運転に応用しているのは素晴らしいことであると感じた。
内閣府の松本氏のプレゼンテーションにもあったが、国内の自動車メーカーだけでなく、各省庁はもちろん、海外のIT企業も含めて自動運転の実用化を目指す技術競争をしているが、メーカーや国によってまったく違うものになってしまったら自動運転は使い勝手がよくない技術になってしまう。自動走行システムの実現に向けた諸課題を、欧・米・アジアパシフィック地域の政府、学会、企業の専門家で直接議論する会議「第2回 SIP-adus Workshop 2015」の進展に期待したい。