インプレッション

アウディ「Q2」(公道試乗)

6月13日に新型「Q2」発売

 ♯(ハッシュタグ)記号に加えて“型破る”と、何とも意表をついたメッセージで「これまでのアウディ車とは違う」ということをアピールするブランニュー・モデルが、ここで紹介する「Q2」だ。

 実は、かねてから存在する“本流”のモデルとは異なって、新たな価値観を提案するモデルには奇数数字を与えるというのが、これまでのアウディ車ネーミングの不文律でもあった。だが、新たな市場を開拓するべく次々とニューモデルが投入されるこのブランドの現状では、「Q3の名前はすでに使われており、かと言って“Q1”では物足りない……」と、苦渋の決断(?)の末に現在の名称に決められたと、そんな話題も耳に届いてくる。

 コンパクトSUVを自称しつつ、実際には全幅が1900mmに達するなど、日本では到底コンパクトという形容詞は相応しいとは思えないモデルも存在する中で、全長は約4200mm、全幅も1800mmを下まわって、何とかそうした表現も受け入れる気になれるサイズの持ち主であることが、まずはQ2の1つの特徴。

 ちなみに全高も、日本固有のパレット式立体駐車場の多くが許容する、1550mmというハードルを下まわる。5.1mという最小回転半径も含めたさまざまなスペックからも、このモデルが日本市場に対する高い適性を備えていることは明白だ。

 一方で、人によっては戸惑いを感じそうなのが、欧州向けには用意されるアウディ得意のクワトロ(4WD)仕様が設定されず、日本仕様はすべてが2WD(FF)仕様とされている点。実は、欧州向けのクワトロ仕様はディーゼル・エンジンとの組み合わせに限定。現状ではガソリンエンジンとのマッチングが取れていないという事情があるという。

 Q2がこれまでのアウディ車とは一線を画したユーザー層を狙っていること。それはまず、既存のモデルたちとはスタンスを変えた、エクステリアの新しいデザインテイストからも明確だ。

 アウディ自らがアピールするそこでのキーワードは“ポリゴン”なるもの。英語で「多角形」という意のこのモチーフこそが、Q2ならではの見た目の個性を生み出す重要ポイントであるという。なるほど、それが最も象徴的に表現されているのが、ベルトライン下とアウターハンドルの間をまるで平たいナイフで削り取ったかのようなサイドビューでの面工作。クォーターピラー部に敢えてボディ色とは異なるブレードを採用するのも、「これまでのアウディとは違う」という思いをアピールする、ユニークなチャレンジだ。

6月13日発売の新型「Q2」(撮影車は280台限定の特別仕様車「Q2 1st edition」)のボディサイズは4205×1795×1520mm(全長×全幅×全高)、ホイールベース2595mm。全高を1530mmとすることで多くの立体駐車場にも順応する。価格は490万円
エクステリアではアウディモデルで初採用のポリゴン(多角形)をモチーフにしたデザインが与えられるとともに、8角形のシングルフレームグリルを高めに配置することでSUVらしさを表現。Cピラーにアイスシルバーまたはマットチタングレーのブレードを採用するのも外観上のポイントになる。Q2 1st editionはS lineバンパーやスポーツサスペンション、18インチアルミホイール(タイヤサイズ:215/50 R18)などをセットにした「S line パッケージ」を標準装備
LEDヘッドライトの点灯パターン

 一方のインテリアは、水平基調で中央上部にタブレット風のディスプレイを配したり、丸い空調吹き出し口を採用したりのダッシュボード、さらには大きなダイヤルの周囲にハードスイッチをレイアウトした、扱いやすいセンターコンソール上のマルチメディア・コントローラーなどから、アウディの一員という雰囲気が強く醸し出された仕上がり。

 そもそもアップライトな姿勢の前席以上に、高い座面上にかなり直立気味に座るレイアウトということもあり、後席足下には十分な空間が確保されている。前席下への足入れ性に優れると同時に、前方への見晴らしに優れるのもこの後席の特徴だ。

 フロアボードの高さを2段階で調整可能なラゲッジスペースは、そのボードを下方にセットすれば、特大のスーツケースを2段重ねで収納できそう。もちろん後席はアレンジ可能で、シートバックを前倒しすることでラゲッジスペースは大幅に拡大される。

 そんなこんなで、要は「大人4人が楽に長時間を乗れて、ラゲッジスペースも十分広い」というのが、このモデルのパッケージング。実際、そのキャビン空間は「Q3とほとんど同等」であるという。

Q2 1st editionのインテリア。バーチャル・コックピットやフラットボトムのレザーステアリング、オートマチック・テールゲートなどを特別装備するとともに、S line パッケージの装着によりS line ロゴが入るクロスとレザーのコンビネーションシート、ステンレススチールフットペダルなどを装着

 最高出力150PSを発生する1.4リッターの4気筒と、同じく116PSを発生する1.0リッターの3気筒という2タイプのターボ付き直噴ガソリンエンジンが、ともに7速DCTと組み合わされて搭載されるのが日本仕様のQ2。

 今回テストドライブすることができたのは前者。専用ボディキットやスポーツサスペンション、18インチ・シューズなどから成る“Sラインパッケージ”や、昨今のアウディがイチ押しとする“バーチャル・コックピット”やオートマチック・テールゲート、ナビゲーション・パッケージなどを標準装着した、全国限定280台で販売される「1st edition」だ。

直列4気筒DOHC 1.4リッター直噴ターボエンジンは最高出力110kW(150PS)/5000-6000rpm、最大トルク250Nm(25.5kgm)/1500-3500rpmを発生。燃費効率を改善するシリンダー休止システム(COD)を採用する

軽快かつなかなか俊敏な加速感

 軽快かつなかなか俊敏な加速感は、前述のようにこのモデルが後輪に駆動系を持たない2WD仕様で、実際にその車両重量も1.3t台の前半と、比較的軽量であることの影響も大きいはず。テスト車両の用意が間に合わず、未試乗ではあるものの、「これならばよりベーシックな1.0リッターモデルでも動力性能に不満はなさそう」と、そんな予想がついた。

 特筆すべきは静粛性の高さで、特にロードノイズの小ささが印象的。ちなみに、100km/hクルージング時のエンジン回転数は2000rpmほど。発進加速中も常にかなり早めのタイミングでアップシフトが繰り返され、こうしてクルージング時のエンジン回転数も抑えられるのは、アクセルペダルを踏み加えれば、電光石火のダウンシフトで瞬時に駆動力の上乗せが可能となる、多段DCTを採用することならではの強みでもあるはずだ。

 フロント/ストラット、リア/トーションビームと、このクラスの2WDモデルとしてはごくオーソドックスでベーシックな形式が、このモデルのサスペンションシステム。実際、そのフットワークのテイストも、「このクラスのごく標準的な仕上がり」というのが第一印象。大きな不満はない一方で、ことさらにプレミアムな乗り味という感触でもないと、率直なところそんな雰囲気の持ち主だ。

 整備の行き届いた路面をクルージングしている限り、基本的なフラット感は高く快適。一方で、路面の凹凸に対してはタイヤ・トレッド面の当たり感がやや硬いし、さらに荒れた路面に差し掛かるとちょっとばかりヒョコヒョコとした動きが目立つようになってくるのは、やや惜しいポイントだ。

 今回、オフロード走行は経験していないものの、きつい登り勾配中でのヘアピンコーナーからの立ち上がり挙動などから推測すると、低ミュー路でのトラクション能力には不満を抱く人も現れる可能性はありそう。

 最低地上高は180mmとそれなりに大きく確保されているものの、「SUVであれば踏破能力が高くて当然」と考える人や雪国のユーザーには、やはり4WD仕様が待ち遠しいと感じられそうだ。

 そうは言っても、前述した駐車時のハードルの低さや、街乗りシーンでの取り回し性の高さなどから、普段乗りの相棒としても推奨に値しそうなのがこのモデル。場合によってはベストセラーモデルである「A3」のマーケットすら侵食しそうな、“いま”という時代を感じられる1台だ。

河村康彦

自動車専門誌編集部員を“中退”後、1985年からフリーランス活動をスタート。面白そうな自動車ネタを追っ掛けて東奔西走の日々は、ブログにて(気が向いたときに)随時公開中。現在の愛車は2013年8月末納車の981型ケイマンSに、2002年式のオリジナル型が“旧車増税”に至ったのを機に入れ替えを決断した、2009年式中古スマート……。

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Photo:高橋 学