試乗レポート

マツダの新型SUV「MX-30」、ありふれたSUVでは満足できない人に必見の1台

フリースタイルドアの使い勝手は?

フリースタイルドアの使い勝手は?

「MX」という文字列を使うクルマにはマツダの特別な想いが詰まっているという。その時代のクルマの常識にとらわれることなく、新しい価値の想像に挑戦する商品……。振り返れば、一世風靡した初代「ロードスター」も海外ではMX-5を名乗っていた。新たに登場するこのMX-30は、ややマンネリ化しつつあるSUV界に風穴を開けることができるのか?

 実車を目の当たりにすると、たしかにこれまでの流れとは全く違う。CX系のフロントマスクとは違い、ややソフトに改められた顔つき、そしてテールに向けて丸みを帯びたデザインはやはり斬新だ。CX-30でもクーペっぽいと感じていたが、フリースタイルドアと名付けられた観音開きを採用することで、2ドアのような感覚が得られているところが何よりも特徴だろう。

 フロントドアを開いてみると、ほぼ真横まで開くから驚くばかり。数値を聞けば82度らしい。ここまで開く必要があるのか疑問だったが、例えば車椅子に乗られた方の単独乗降スペースが確保できるなどのメリットがあるという。観音開きであれば、運転席に座った後、車椅子をリアシートに放り込むことも可能らしい。まだ、その積載方法などは検討中らしいが、いずれにしても観音開きになるだけで、全く新しい価値が生まれていることは間違いない。

今回試乗したのは、10月8日に発売されたセンターオープン式のドア構造のフリースタイルドアを採用する新型コンパクトSUV「MX-30」。撮影車は創立100周年を記念する特別装備を採用した「MX-30 100周年特別記念車」(2WD)で、価格は315万7000円
MX-30のボディサイズは4395×1795×1550mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2655mmと、「CX-30」から10mm高い程度。100周年特別記念車では、ボディカラーに専用2トーンのセラミックメタリック/マローンルージュメタリックを採用
100周年特別記念車はホイールキャップ、オーナメントなどに創立100周年を記念するスペシャルロゴがあしらわれる
MX-30が搭載する直列4気筒DOHC 2.0リッター直噴「PE-VPH」型エンジンは最高出力115kW(156PS)/6000rpm、最大トルク199Nm(20.3kgfm)/4000rpmを発生。組み合わせる「MJ」型モーターの最高出力は5.1kW(6.9PS)/1800rpm、最大トルクは49Nm(5.0kgfm)100rpm。WLTCモード燃費は2WD車が15.6km/L、4WD車が15.1km/L

 一方、リアシートに座ろうとアプローチしてみると、足の出し入れがしやすいことに気づく。かつてマツダで観音開きを採用した「RX-8」では、前席シートベルトの下部のベルトアンカーが車体側に装着されており、そこに足を引っ掛けることがあった。だが、MX-30ではリアドアの中にボディのセンターピラーの機能を受け持つホットスタンプ材(1500Mpa級)のバーティカルレインを配置(側面衝突にも対応)することで、ベルトアンカーをドア側に取り付けることに成功。車体とドアの間にベルトが残らないようになったのだ。

 座れば身長175cmの筆者でもまずまずくつろげる空間が保たれている。そこから降りる際に頭をかがめながら斜め前に降りようとした際に、実は頭を観音開きのキャッチ部にぶつけた。やはりちょっと使いにくいか? だが、リアドアもほぼ直角に開くため、真横に足を出して降りるようにすると頭は見事にクリアしていく。クーペルックだからとかがんで乗り降りしなければと思ったのが大間違いだったというわけだ。これなら大柄な大人でも十分にこなせそうだ。ただ、前席の人がいなくなった時にリアから降りようとすると厄介。前席を畳み、フロントドアをまず開けてから、リアドアを開ける……。だが、考えようによってはリアに乗せた子供を、親の許可ナシには乗り降りさせられないようにできるというメリットもありそうだ。

フロントドア82度、リアドア80度まで開くセンターオープン式のドア構造を採用したMX-30では、前席用シートベルトの下側をリアドアに取り付ける構造を採用しており、RX-8よりも乗り降りがしやすくなった
インテリアでは「開放感に包まれる」空間を最新の表現と技術で実現することを追求。100周年特別記念車ではフロントヘッドレスト、アドバンストキー、アドバンストキー化粧箱、レッドのフロアカーペット&フロアマットにも創立100周年のスペシャルロゴが入る。リアシートのクッション性もなかなかで、乗り心地がソフトだったところがマル
標準装備となるクロスシート(ブラック/グレー)の質感が高いのもMX-30の特徴の1つ。なお、MX-30のリアドアガラスは固定式となる

マイルドハイブリッドならではの世界観

 さて、そんなMX-30はどう走るのか? 2019年の東京モーターショーで発表されたMX-30はEV化が目玉だった。だが、今回試乗するのはe-SKYACTIV Gと名付けられたマイルドハイブリッドバージョン。平たく言ってみれば、SKYACTIV G 2.0にSKYACTIV Xが持っていたM Hybridを組み合わせたものといっていい。シャシーは「MAZDA 3」や「CX-30」と同じプラットフォームで、フリースタイルドアを採用するにあたり、主にドアまわりの強度をアップさせたという。

 走れば優雅さが際立つインテリアのイメージと同様、マイルドな乗り心地で、荒れた路面でも突き上げを感じるようなことが少なかったのが印象的。これまでのMAZDA 3やCX-30では主にフロントからのハーシュネスが気になっていたが、それがかなり緩和された感覚があった。ただ、ユルいわけじゃなく、その中に筆者の意図した通りに動くリニアさも備わっていた。エンジンはパワフルという感じではないが、必要十分にこれまたアクセルに対してリニアに吹け上がる感覚。アイドルストップからの復帰も素早く、スターターの嫌な音や振動もないため、マイルドハイブリッドならではの世界観が存在する。

 リアシートにも試乗してみたが、シートのクッション性もなかなかで、乗り心地がこれまたソフトだったところがマルだ。いい意味で肩の力が抜けた感覚は、これまでになかった流れといっていい。気になったポイントは、リアのロードノイズが頭上あたりに回り込んでくるところ。ドアまわりの強度が高まったためにそうした音が出てしまったらしいが、今後の改善のポイントとなるだろう。

 また、新たに投入したL字に動くATセレクターにマニュアルモードがなく、そこをすべてパドルで受け持つことにも違和感があった。一瞬はマニュアルになるが、その後はDレンジにすぐに復帰してしまう。これ、実はナビの設定画面でパドルを触ったらその後は完全マニュアルに移行(アップ側のパドルを引きっぱなしにするとDレンジに復帰)するようにできるらしいのだが……。それをいちいち設定し直すのは面倒。セレクターにMボタンを入れるか、Dレンジから横に倒せばマニュアルモードに移行するなどの改良がほしい。

MX-30ではパドルをたたくことでマニュアルでシフトアップ/ダウンが行なえるが、Dレンジにすぐに復帰する仕様。完全マニュアルに移行するようにもできるが、その設定はナビ画面で行なう必要がある

 こうして従来にはない感覚が色々とあったMX-30だが、買い方に対しても新たな挑戦がある。それはグレードという概念をほぼ取り払い、2WDか4WDかを選択した後に、欲しいものを欲しいだけ取り入れるパッケージをさまざまに取り揃えたのだ。上のグレードが欲しいが、コレはいらないということがクルマ選びには付き物だが、MX-30ではそんなことが少なくなったこともトピックの1つだろう。

 2021年には登場が約束されているEV仕様がMX-30の本命となるのだろうが、新たなる挑戦が凝縮されているこのM Hybrid仕様もわるくない。マンネリSUVでは満足できない方々は必見の1台だ。

橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。走りのクルマからエコカー、そしてチューニングカーやタイヤまでを幅広くインプレッションしている。レースは速さを争うものからエコラン大会まで好成績を収める。また、ドライビングレッスンのインストラクターなども行っている。現在の愛車はトヨタ86 RacingとNAロードスター、メルセデス・ベンツ Vクラス。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:安田 剛