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【SUPER GT開幕直前インタビュー】新型「NSX」発売年に初表彰台を目指す「Drago Modulo Honda Racing」道上監督に聞く

Drago Modulo Honda Racingが走らせる15号車 ドラゴ モデューロ NSX CONCEPT-GT

 SUPER GTの前身である全日本GT選手権の2000年のチャンピオンで、日本のトップドライバーの1人であった道上龍氏は、2014年に自らのチームである「DRAGO CORSE(ドラゴ コルセ)」を結成。スーパーフォーミュラへの参戦を開始し、今シーズンも小暮卓史選手を擁してスーパーフォーミュラに参戦を続けている。

 そして2015年のSUPER GT開幕戦から、ホンダ車向けの純正アクセサリー類を提供するホンダアクセスをスポンサーに、新チームとなる「Drago Modulo Honda Racing」として参戦している。今シーズンはドライバーとして新たに武藤英紀選手を迎え、昨年からの残留となるオリバー・ターベイ選手のコンビで戦っていくことになる。

 そんなDrago Modulo Honda Racingを率いる道上龍監督、さらに武藤英紀選手とオリバー・ターベイ選手にインタビューする機会を得たので、その模様をお伝えする。

ホンダのエースドライバーだった道上監督が作ったDrago Modulo Honda Racing

 Drago Modulo Honda Racingのチーム監督である道上監督は、多くのファンにとってはまだ“監督”としてよりも“選手”としての顔の方がなじみ深いだろう。道上監督は1994年の全日本F3 開幕戦のデビューレースでいきなり優勝して脚光を浴び、そこからスタードライバーとして順調にステップアップ。2000年には現在のSUPER GTの前身となる全日本GT選手権のチャンピオンに上り詰め、その後もホンダ陣営のエースドライバーとして活躍してきたことはよく知られている。

 その道上監督は、2014年に自分のチームを設立してまずスーパーフォーミュラに参戦。翌2015年からは「Modulo」ブランドでホンダ車向けの純正アクセサリー類を提供しているホンダアクセスをスポンサーとして獲得し、Drago Modulo Honda RacingとしてSUPER GTへの参戦を開始している。この2016年は2年目のシーズンということになる。

 道上監督は「昨年チームを立ち上げて一番苦労したことは、チームの体制作り。ドライバーだった時には、ただひたすら速く走ればよかったし、わがままも言いたい放題だったが、体制を作る側になればそうはいかない。昨年はこのチームを立ち上げると決まったのが遅く、それこそ年が明けてから、スタッフやメンテナンス体制などをバタバタと決めた部分が多く大変だった」と、チームを作るとなってからの苦労を語る。道上監督によれば、SUPER GTのDrago Modulo Honda Racingを作ると決めたのはかなりギリギリだったそうで、そこからスタッフを集めて、メンテナンス体制を決めてということを即断即決で決めていったのだという。

 そんななかで助けられたのは、スポンサーとなったホンダアクセスや「ATJ(オートテクニックジャパン)」といった存在だという。特にホンダアクセスは、チーム名と車名にModule(モデューロ)という同社のブランドが入っていることからも分かるようにメインスポンサーであり、助けられた部分は多いという。「ホンダアクセスさんは実にアットホームなスポンサーで、スポンサーというよりは“一緒にやってる”という存在。自分の愛車がアコードなんですが、そろそろクルマの匂いが気になるなとつぶやいたら空気清浄機を取り付けてくれたりと、普段の生活からもお世話になっています(笑)」とのことで、公私ともに一緒にやれている存在ということだ。実際、このインタビューの数日後に行なわれたホンダアクセスのイベントにも道上監督やドライバーの2人が登場しているなど、まさに公私ともに一丸になって取り組んでいると言っていい。

Drago Modulo Honda Racingの道上龍監督

 もう1社のATJはスポンサーとしてだけでなく、マシンのメンテナンスを委託しているパートナーでもある。道上監督によれば「ATJのメカニックさんはこれまで市販車しか触ったことがない方が多く、正直、昨年の最初の方はピット作業がほかのチームより何十秒もかかってしまったりという課題があったが、(第7戦の)オートポリスのころにはホンダ系の中で一番早かったと冗談が言えるぐらいにまでなるなど、お互いに成長しながらやってこれた」と、一緒に成長してきたことを強調する。そうしたスポンサーやパートナーの協力があればこそ、2年目の今年に勝負ができるようになりつつあると道上監督は強調した。

 2014年にチームを立ち上げるまではドライバーとしてレースに関わっていた道上監督だが、監督になって大変だったことは、やはり「お金の計算」だったという。「監督になってからは常にお金の計算をしている。このあいだ、スーパーフォーミュラでうちのチームの車両がもらい事故にあったのだが、すぐ頭に浮かんだのは『パーツ代が……』と(笑)。ただ、監督の仕事はドライバーが勝つためにやりやすい環境を整えてあげることであり、ドライバー出身でドライバーの気持ちが分かるからこそ、そこはしっかりやっていきたい」と語り、監督になっての新しいチャレンジに本当に苦労しているようすがうかがえた。

 監督と言えば、かつて日本のレースシーンで「ホンダの道上」「トヨタの脇坂」「ニッサンの本山」と呼ばれ、トップドライバーとして各メーカーを引っ張ってきた3人のうち、脇坂寿一氏も今シーズンから「LEXUS TEAM LEMANS WAKO'S」の監督に就任して話題を呼んでいる。

 現役時代から日本のレースシーンを引っ張ってきた3人(本山哲選手は今シーズンも現役だが)だけに、やはり意識しているのだろうかと道上監督に質問をしてみると、「日本のレース界のためにはいいことだと考えている。ただ、彼(脇坂監督)の場合はできあがっているチームに雇われている。僕の場合は1からチームを作ってきた」と、エールを送りつつもライバルとしての競争心を垣間見せてくれた。ファンとしては現役時代から熱い戦いを見せていた同年代の2人だけに、監督業になってからどのような“競争”を見せてくれるのか、そこにも注目していきたいところだ。

SUPER GTのタイヤ競争は非常に特殊、初年度は慣れるに大変だったとターベイ選手

 今シーズンのDrago Modulo Honda Racingの15号車 ドラゴ モデューロ NSX CONCEPT-GTを操るのは、武藤英紀選手、オリバー・ターベイ選手の2人になる。

Drago Modulo Honda Racingのオリバー・ターベイ選手(左)、武藤英紀選手(右)
武藤英紀選手

 武藤英紀選手はインディカー・シリーズにも参戦した経験を持つホンダ陣営のトップドライバーの1人。2008年からのインディカー・シリーズへの挑戦では、初年度に「ルーキー・オブ・ザ・イヤー」を獲得するなどの活躍を見せ、2010年までの3シーズンで2位表彰台、3位表彰台を1回づつ獲得するなどの活躍を見せた。2011年からは活動の拠点を日本に移し、SUPER GTなどに参戦を続けている。英語も堪能で、英国人のターベイ選手とは理想のコンビネーションと言える。

 武藤選手は「道上監督とは長年知ってる関係なので、チームにはすんなり溶け込めている」と語り、移籍したばかりのチームだが、すでになじんでいるとした。また、武藤選手に話題となっているNSX CONCEPT-GTのハイブリッドシステムを降ろしたことの影響について聞いてみると「確かに軽くなったので、ブレーキやコーナーリングでいいと感じることは少なくない。しかし、ストレートスピードなどネガティブな影響もあるし、重量配分の見直しなど去年までのデータがそのまま生かせない部分があるので簡単ではない。降ろしたから速いという単純なことではない」と説明してくれた。

オリバー・ターベイ選手

 オリバー・ターベイ選手はイギリス出身の29歳で、若手のイギリス人ドライバーにとっての登竜門となる「McLaren Autosport BRDC Award」を2006年に獲得。以降、欧州でキャリアを積み重ねてきた実力派のドライバーだ。2008年の英国F3で2位になっているほか、2014年のル・マン24時間レースのLMP2クラスで優勝しているなど、数々の実績を残している。

 そのターベイ選手は「昨年は新しいチーム、新しい環境で学習することが山ほどあった。しかし、今年は体制も強化され、昨年問題だったところが解消されつつあるし、僕も進化している」と、今年にかける意気込みを語ってくれた。日本のドライバーが欧州のレースに参加してもいきなり活躍できないのは環境やタイヤの違いが大きいと言われるが、同じことはその逆のパターンでも言える。つまり、欧州のドライバーが日本に来たときに、その環境やタイヤの違いに慣れるのは大きな苦労となっている。

 実際にターベイ選手も「日本に来て驚いたのはタイヤ。グリップがまったく違うし、開発がずっと続けられている」と、日本のSUPER GTのタイヤ開発のレベルに当初驚いたことを明かしている。今シーズンに関しては「2回目のシーズンになるのでチームはすでに理解できている。タイヤでもマシンでも多くの進化を見せており、今シーズンは結果を残していきたい」と述べ、2度目のシーズンはきちんと結果を出す1年にしたいと語ってくれた。

整備を受ける車両の横で並ぶオリバー・ターベイ選手(左)、道上龍監督(中央)、武藤英紀選手(右)

 最後に道上監督に今年の目標を聞いたところ「昨年はいけるかなと思うレースはあったが、天候だったりほかの要因だったりの影響で、結果として1回も表彰台はなかった。今年はそうした不確定要素に対して現場で臨機応変に対応していき、結果を出していきたい。とくに今年は(市販車の)新型NSXが発売される年になる。NSXのオーナーミーティングに参加していると、SUPER GTでNSXが上位に来ないので寂しいと言われることもあったが、今年はそんなNSXオーナーの方にも想いが届くような年にしたい」と、ホンダがNSXを発売する年になることを引き合いに出し、結果を残す年にしたいと意気込みを語ってくれた。

(笠原一輝/Photo:高橋 学)