インプレッション

スバル「XV」(2017年フルモデルチェンジ/公道試乗)

 スバルのクロスオーバーSUV「XV」。その悪路走破性は発売前試乗で、泥濘と化したスキー場を縦横無尽に走りまわり、その実力を存分に堪能した。タイヤも標準装備のタイヤで走り切ったことも驚きだ。スバルAWDの実力は高く、大抵の悪路は走れてしまうが、特に「X-MODE」を選択すると、微妙なスリップに対しても反応が早く走破力が一層高くなることも知ることができたし、最低地上高が200mmと高いこともスタックしない大きな要因だった。

 今回はオンロードでのドライブ。X-MODEの出番はないが、1.6リッター仕様とアイサイト ver.3の実力の一端を垣間見ることができた。

発売前の試乗で泥濘と化したスキー場を縦横無尽に走りまわった際に使用した「X-MODE」のスイッチ

どっしりとした安定感がある走り

 スバルグローバルプラットフォーム(SGP)は軽量、高剛性、ジオメトリーや重心、その自由度や衝突安全性の高い新世代プラットフォームで新型「インプレッサ」から始まったが、XVはその2車種目であるだけに熟成度が進んでいる。

今回試乗したスバル「XV」は「1.6i-L EyeSight」のクォーツブルー・パールと、「2.0i-L EyeSight」のピュアレッド。ボディサイズは4465×1800×1550mm(全長×全幅×全高)。ホイールベースは2670mmで最低地上高は200mm
XV 1.6i-L EyeSight。ベース車両の価格は224万6400円
225/60 R17タイヤと17インチアルミホイール(切削光輝)を装着
1.6i-L EyeSightのインテリア
メーター中央には全グレードでマルチインフォメーションディスプレイを採用
シフトパネルはシルバー加飾を採用
シフトまわりに電動パーキングブレーキとX-MODE、ヒルホールド機能のスイッチを配置
1.6i EyeSight以外のグレードに標準装備されるマルチファンクションディスプレイの表示例。ハンドル左側のINFOスイッチで表示を変えられる
2.0i-L EyeSight。ベース車両の価格は248万400円
2.0i-L EyeSightのタイヤサイズとアルミホイールは1.6i-L EyeSightと同じ。2.0i-S EyeSightではタイヤサイズが225/55 R18と18インチアルミホイール(切削光輝)となり、デザインも異なる
2.0i-L EyeSightのインテリア。メーカーオプションとして本革シート(オレンジステッチ、フロントシートヒーター付)を装着
オレンジステッチ付きの本革巻ステアリングホイール
シフトブーツ(オレンジステッチ)付きの本革巻セレクトレバーが標準装備され、シフトパネルはピアノブラック調加飾となる
シフトまわりにはフロントシートヒーターのスイッチが追加されている
最高出力85kW(115PS)/6200rpm、最大トルク148Nm(15.1kgm)/3600rpmを発生する水平対向4気筒DOHC 1.6リッターエンジン(左)と、最高出力113kW(154PS)/6000rpm、最大トルク196Nm(20.0kgm)/4000rpmを発生する水平対向4気筒DOHC 2.0リッターエンジン(右)。どちらもトランスミッションにCVT(リニアトロニック)を組み合わせる。駆動方式は全車4WDのみ

 まず乗り心地は低重心のフラット4エンジンの特徴を生かして、左右の揺れが少なく快適で、これは1.6リッターエンジン車も2.0リッターエンジン車も同様だ。サスペンションもそれに応じて腰のある設定で、路面の段差でもガツンとした突き上げがないのがとても好感を持てる。ただ、前後に揺さぶられる微小なピッチングを伴うことがあり、場面に応じて気になることがある。しかし、相対的にかなり上質な乗り心地だと思う。

 1.6リッターと2.0リッターの違いは当然ながら出力&トルクの差だ。1.6リッターは85kW(115PS)/148Nmなのに対して、2.0リッターは113kW(154PS)/196Nmと、28kW(39PS)/48Nmの違いがある。ボディ重量は2.0リッターで1420kgと1.6リッターと比べて10kgしか重くないので、動力性能は体感でも感じられる。

 市街地での使い勝手では、乗り心地も含めて1.6リッターエンジン車もほとんど違いは感じられず、リラックスして、かつ安心してドライブできる。また最小回転半径は小さくはないが、視界もよく操舵力も妥当なので取り回しはわるくない。ハンドルのロック・トゥ・ロックは2回転半で適度な早さだ。

 しかし、発進する際のトルクが2.0リッターに比較すると小さいので、アクセルの踏み込み量は大きくなりがち。その際のタイムラグが一瞬感じられるため、スタートのスムーズさは2.0リッター仕様に分がある。また、減速時にCVTのホールドするタイミングも2.0リッターエンジン車は自然で、フットブレーキとの併用で減速コントロールがしやすい違いがある。

 さらに登坂や荷重が大きい時には2.0リッターの余裕に比べると、「もう少し……」と感じてしまうのはちょっと贅沢か。また、エンジン回転数が1500rpmぐらいの低速からの加速では、時折CVTが僅かにためらうような癖を見せるのも違いだろうか。

 もっとも、1.6リッターエンジン車の別の個体では発進、減速ともスムーズだったので、単なる走り込みの差かもしれない。

 さて、横浜ゴムのブルーアース(225/60 R17)を履いた両仕様とも、舗装のドライ、ウェットを問わず優れたプラットフォーム、サスペンションともマッチングはよくハンドリングはしっとりとして、ライントレース性に優れている。場面によって微妙に修正するシーンもあるが、どっしりした安定感は頼もしく、静粛性の高い室内と相まって疲労が少ないのはうれしい。

各種装備で静的・動的な安全に配慮

 そして、どちらも安全などの装備に差が付けられておらず、スバルの良心を感じる。

 アイサイト ver.3の全車速追従機能付クルーズコントロールは前走車への追従が自然で、速度の増減に応じて車間も適当に取ってくれる。検知状況も分かりやすいようにメーター内とセンターディスプレイの両方で確認できる。

 ちなみに、折からの豪雨の際でもアイサイトは高い追従性を見せる。ドライバーが危険を感じるほど視界がわるくなると追従を停止するが、人の感覚にマッチして自然な設定だ。

全車速追従機能付クルーズコントロールの設定中はマルチファンクションディスプレイが専用表示に変わる

 全車速追従機能付クルーズコントロールは交通量が多いときほどドライバーの負担を減らしてくれるが、渋滞中に前走車が再スタートした場合はアクセルを踏むことで再び追従を開始する。ただし、2分以上停止する場合は電動パーキングによる保持に切り替わる。また、前走車が発進してウッカリ気づかないときがあるが、そんなときでもピッと音で知らせてくれるのは意外とうれしい機能だ。

 このほかにも、高速道路などでレーンをはみ出しそうになる場合には、ステアリングをアシストしてレーン中央に戻そうとする。このアシストは強くはなくじゃまにならない程度だ。

アイサイトのフロントカメラ
全車速追従機能付クルーズコントロールを設定すると、メーター中央のマルチインフォメーションディスプレイのアイコン表示がグリーンに変わり、前走車や車線を認識するとディスプレイに表示される。停車時など制御を行なっていないときのアイコンはホワイトの表示

 また、前方向の誤発進抑制制御ではカメラで壁などを検知した場合、エンジン出力を絞る。急激な後退操作をするとカメラ検知ではないが同様に出力を絞る。前後共にかなりの確率で誤発進を防げるに違いない。

 アイサイトは歩行者検知もできるが、車両速度が速いと対応できない場合があるので、過信してはいけない。しかし、歩行者保護には歩行者の頭部を保護するエアバッグを全車に標準装備する。エアバッグはこの歩行者保護用のほかにも後席用のサイドエアバッグも含めて車内に7つ備えており、SGPの効果もあって乗員の保護には力を注いでいる。

 視界についても触れておこう。死角を減らすことは安全運転にとって非常に重要だ。XVはAピラーの位置と三角窓の効果的な配置で斜め前方も優れた視界を確保しており、明るいキャビンが広がることもあり、リラックスしたドライブができる。

 また、メーカーオプションだが、後側方から接近する車両を検知するインジケーターがドアミラーカバーの内側に点灯、警告音も出すので非常に分かりやすい。ウインカーインジケーターはドアミラーのカバー外側で小さく点滅するので、これとの差別化も明快だ。

 このインジケーターを使って駐車場からバックで出ようとする場合なども音でも知らせてくれるので、サービスエリアなどでは便利だ。

 このように動的な安全、静的な安全ともにスバルは最新の技術が注がれており、ちょっとそこまでからロングドライブまでXVはよいクルマだった。XVは正真正銘のクロスオーバーだが、日常性も非常に高く、オールマイティなジョーカーだと思った。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/16~17年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:安田 剛