インプレッション

日産「エクストレイル ハイブリッド」

FFベースで国内初導入となる1モーター2クラッチ式ハイブリッド

 現行「エクストレイル」に新たなるパワーユニットが加わった。これまで現行モデルが登場しながらもディーゼルエンジンを搭載した旧型が併売されていたため、次なるパワーユニットと聞けばやはりディーゼルだと思っていた人もいるかもしれないが、実は今度のモデルはハイブリッド。それも「フーガ」や「スカイライン」でお馴染みとなったインテリジェントデュアルクラッチコントロールシステムと呼ばれる1モーター2クラッチタイプを採用し、モーターだけでの走行も可能にしている。ただし、FFベースのクルマでこのシステムを搭載するのは国内として初(北米では「パスファインダー」がすでに搭載)。組み合わされるトランスミッションはCVTとなっていることも特徴的だ。

 これにより燃費は大幅に向上。ガソリンモデルが16.4km/L(4WDは16.0km/L)だったがハイブリッドモデルは20.6km/L(4WDは20.0km/L)を達成。エコカー減税により免税(100%減税)措置が適用される。とはいえ、エクストレイルといえばタフギアなわけで、最高出力がアップしたところも注目したいところ。ガソリン車が108kW(147PS)だったのに対し、ハイブリッドモデルはシステム合計で138kW(188PS)。エンジンのスペックは同様で、30kW(41PS)のモーターパワーが加わったというわけだ。

2列シート(5人乗り)車のみの設定となるエクストレイル ハイブリッド。ボディーサイズはガソリン車および駆動方式問わず4640×1820×1715mm(全長×全幅×全高)、ホイールベース2705mm。標準グレードとして「20X HYBRID“エマージェンシーブレーキ パッケージ”」のみを設定し、価格は2WD(FF)車が280万4760円、4WD車が301万1040円。このほかオーテックジャパンが扱う「20X HYBRID エクストリーマーX“エマージェンシーブレーキ パッケージ”」も用意される
エクストレイル ハイブリッドが搭載する直列4気筒DOHC 2.0リッター直噴「MR20DD」エンジン。最高出力は108kW(147PS)/6000rpm、最大トルクは207Nm(21.1kgm)/4400rpmを発生する。これに最高出力30kW(41PS)、最大トルク160Nm(16.3kgm)を発生する「RM31」モーターを組み合わせる。JC08モード燃費は2WD車が20.6km/L、4WD車が20.0km/L
エクストレイル ハイブリッドではガソリン車でオプション設定となる「LEDヘッドランプ(ハイ/ロ-ビーム、オートレベライザー付、フレンドリーライティング作動付、シグネチャーLEDポジションランプ付)」を標準装備
17インチアルミホイールにハイブリッド専用となるダンロップ(住友ゴム工業)の低転がり抵抗タイヤ「GRANDTREK ST30」を組み合わせる。ガソリン車はフロントのみスタビライザーを装備するが、ハイブリッドでは前後に装着
使用燃料は経済性に優れる無鉛レギュラーガソリン
フロントドア(写真左)とバックドア(写真右)に専用エンブレムを装着する

 そんなエクストレイル ハイブリッドを見てみると、外見上はこれといって変更点が見られない。エンブレムが違うくらいのもので、ハイブリッドだからと変に気張ってはいない。ただ、実際に中身を見てみると、ラゲッジスペースはほんのちょっとかさ上げされており、そこにバッテリーを搭載していることが理解できる。

 ちなみにラゲッジ下にはガソリン車と同様テンパータイヤが備えられている。これはエクストレイルの性格上、テンパータイヤを備えていたほうがよいという答え。悪路を走ってパンクした際、パンク修理キットでは力不足だという考えがこの造りになっている。これによりハイブリッド車では7名乗車仕様がラインアップされない。ただ、可能であればテンパータイヤを除いてバッテリーをそこに押し込み、7名乗車モデルもラインアップして欲しかったような気もする。7名乗車はエクストレイルのウリの1つなのだから……。

インテリアカラーはガソリン車同様にブラックで統一
本革巻きステアリングは標準装備。ステアリングにはオーディオ、カーナビ、ハンズフリーフォン、クルーズコントロールの操作スイッチが備わる(NissanConnectナビゲーションシステムとのセットオプション)
メーターまわり。左にタコメーター、右にスピードメーターをレイアウトし、その間にハイブリッドシステムのエネルギーの流れなどを表示する「アドバンスドドライブアシストディスプレイ」を配置
トランスミッションはCVTでステップ変速制御を採用
4WD車は前後トルク配分を100:0から約50:50に切り替え可能な「ALL MODE 4×4-i」を搭載。雪道の急坂などで走破性を高める「LOCKモード」、前後輪の駆動を自動的に配分する「AUTOモード」、常時前輪駆動で走行する「2WDモード」を自由に切り替えられる
ガソリン車でも用意される「NissanConnectナビゲーションシステム」では、ハイブリッド搭載モデルのみスマートフォン連携機能を採用。スマホアプリをカーナビの画面に表示できるほか、位置情報をカーナビの目的地に設定できるなど利便性を向上させている
エクストレイル ハイブリッドも防水シートを標準装備
アドバンスドドライブアシストディスプレイ(5インチカラーディスプレイ)の表示例。水温計、燃費、航続可能距離といった情報に加え、エンジン走行中、モーター走行中、エンジン走行+モーター走行中、回生ブレーキでの充電中など、ハイブリッドシステムのエネルギーの流れが確認できる
エクストレイル ハイブリッドのラゲッジスペース。フロア下にコンパクトなリチウムイオンバッテリーを搭載する関係から約40mmほど底上げされる形状になっているものの、後席を倒さない状態でのラゲッジ容量はガソリン車の445L(3列シート車)~550L(2列シート車)に対して430Lと、遜色ないスペースを確保する
フロア下にテンパータイヤを備え、その奥にリチウムイオンバッテリーを搭載。テンパータイヤのすぐ上に位置するスチール製のバーはリチウムイオンバッテリーを保護するためのものだが、車体の左右を連結することから剛性アップに寄与しているという

 それ以外にも興味深かったのは、ボディー下部の両サイドに空力を考えたカバーが備えられていたことだ。床面をフラットにして少しでも燃費を稼ぎたい、ガソリンモデルではなかった貪欲なまでの燃費に対する姿勢がそこで見て取れるのだ。これにより最低地上高はカタログ上ではガソリン車に対して10mmダウンするが、これで悪路走破性が失われるほどのものではないだろう。

ボディー下部に空力パーツを装着する関係から、最低地上高はガソリン車から-10mmの195mmとなっている

重厚感溢れる走り

 その実力を試すためテストコースで走ってみると、走り出しからスムーズな加速を見せてくれた。まずはモーターで動き出し、その後エンジンが始動してグッと前へと出るその感覚はなかなか。低速域ではエンジンが始動しないため、当然ながら静粛性もかなり高い。そして何より感心したのが、その一連の動作がかなり滑らかだったことだ。1モーター2クラッチとCVTのマッチングはかなり良好。アクセルオフにすれば速度域が高くてもエンジンがすぐにストップし、燃費をとことん稼いでいる。モード燃費の走行状況では4分の3をモーターで走行するというから、どれだけ長くエンジンがストップしているのかがご理解いただけるだろう。ただ、減速時にブレーキのフィーリングがスポンジーだったことはやや残念なところ。このあたりはガソリンモデルのほうが自然だ。

 しかし、燃費のよさだけを追いかけていない一面があることも事実。いざアクセルを踏み込めば力強い加速を見せてくれる。かつてエクストレイルはガソリンモデルにターボを組み合わせたグレードが存在していたが、エクストレイル ハイブリッドの加速はアノ俊敏さを思い出すほど。ガソリンモデルでパワーフィールに物足りなさを感じていた人にも、このハイブリッドはオススメできる仕上がりだ。

 ハイブリッドシステムを搭載するため、およそ130kg重たくなったところもあるが、それは決してネガになっていないようにも感じる。S字カーブのようなところを駆け抜ける時にガソリン車のキビキビとした感覚のほうが魅力的であることは事実だが、対してハイブリッドはドッシリとした乗り味を手に入れたとも受け取れる。それが上質な感覚となり、乗り心地もわるくない。むしろ重厚感溢れる走りとなり、車格が引き上げられたようにも受け取れるのだ。

 新たなるパワーユニットを手にしたことで、より一層充実のラインアップになったエクストレイル。なんでディーゼルじゃなかったの? とお嘆きの方々もいるかもしれないが、そこにはきちんとした回答が備わっていることは間違いない。環境性能と力強さをきちんと両立したことを、皆さんも一度試乗して体感してみては?

Photo:安田 剛

Photo:高橋 学

橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。走りのクルマからエコカー、そしてチューニングカーやタイヤまでを幅広くインプレッションしている。レースは速さを争うものからエコラン大会まで好成績を収める。また、ドライビングレッスンのインストラクターなども行っている。現在の愛車は18年落ちの日産R32スカイラインGT-R Vスペックとトヨタ86 Racing。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。