まるも亜希子の「寄り道日和」

ジャーナリスト5人が最新フィットRSで「Joy耐」参戦! 結末はいかに!?

モータージャーナリストで結成したレーシングチーム「TOKYO NEXT SPEED」は、ニューマシンを投入して2017年のリベンジに燃えていました(笑)。大幅なマイナーチェンジを受けた最新のホンダ「フィット RS」をベースとした「#29 TNS無限フィットRS」は、白とオレンジのカラーリングでちょっぴり爽やかに。ドライバーは左から島下泰久、橋本洋平、石井昌道、桂伸一、山田弘樹と、噛み合わないようでヤル時はやる!? なかなか愉快な5人。応援団もたくさん駆けつけてくれて楽しいチームになりました。(撮影:宮門秀行)

 夏の訪れを告げる年に1度の大イベント! それがツインリンクもてぎで開催18年目を迎えた「もてぎEnjoy耐久レース(通称Joy耐)」です。

 Joy耐は、モータースポーツへの敷居を低くして、誰でも気軽にリーズナブルに参加できるようにと、ルールや道具類の規定に独自の工夫を凝らしている7時間の参加型アマチュア耐久レース。その趣旨はたくさんの支持を集めて、多い年には130台を超えるエントリーがあるほどの盛り上がり。ファミリーや仕事仲間、学生さんなど、趣味や課外活動として手弁当でレースを楽しむ人たち、そしてリピーターが多いのもJoy耐の特徴です。

 私も初開催の2001年からずっと何らかの形で参加させてもらい、2009年以降はモータージャーナリスト仲間で結成したレーシングチーム、「TOKYO NEXT SPEED(TNS)」での参戦を続けています。チームの目的はもちろん、国内外のいろんなカテゴリーのレースを取材・体験しているジャーナリストとしての視点を軸に、自らJoy耐を体験することで感じるさまざまな魅力や課題、悲喜こもごもをレポートすること。

 日常ではなかなか分からない運転の未熟さを知り、クルマへの理解を深めたり、昨日より速く丁寧に走れるように努力したり、仲間たちと切磋琢磨しながら、悩んだり笑ったり、励まし合って助け合って同じゴールを目指す。そうしたモータースポーツならではの素晴らしい世界を伝えていくことで、「クルマってこんな楽しさもあるんだな」「今度は見に行ってみようかな、参加してみようかな」という人が増えたらいいなとの願いもあります。

 さて、6月30日予選、7月1日決勝で行なわれたJoy耐 2018。わがチームは2017年に大幅なマイナーチェンジが行なわれた、最新のホンダ「フィット RS」での参戦となりました。レース規則に合わせて「無限」による改造が施されたマシンで、運転席にはレカロのバケットシート、車内をぐるりと覆うロールバー、タイヤは横浜ゴムが誇るスポーツタイヤの「ADVAN A050」を装着。カラーリングもオリジナルでキメてみました。

 3年前に娘が生まれてから、私はドライバーを退いて「チーム代表」という名の雑用係(笑)。ドライバーはTNSのエースである橋本洋平、ボランチ的存在の石井昌道、島下泰久、山田弘樹、大ベテランの桂伸一と、個性豊かな5名が揃いました。

スタート前のグリッドウォークでは、娘も大張り切り。最近は大きなレースだと小さな子供はコースに入れてもらえないサーキットも多いのですが、Joy耐は「クルマに気を付けてくださいね~」と優しいオフィシャルに見守られ、こうした時間が楽しめるのもいいところです

 しかし、のっけから波乱の幕開け……。Joy耐は規則を満たしていれば国産車も輸入車も何でも参戦可能なんですが、マシンの排気量や重量、タイヤサイズなどで細かくクラス分けされていて、給油の際にピットに止まらなければいけない時間や、給油できるガソリンの量を決めて、全車が平等に競えるようになっています。

 フィットは参加台数が多いので「1.5cc」というクラスが設けられていて、2017年まではわがチームもマイチェン前のフィットでそのクラスで闘っていたんですが、マイチェン後のHonda SENSINGが搭載されている車両は、取り外した状態でも「1.5cc」クラスには参戦不可とのこと。んじゃどのクラスになるの? と迷走した結果、めちゃめちゃ速い「トレノ」や「ロードスター」のいる「クラス4」に入ってしまったんです。これにはチーム全員、どんより……。

 そして金曜日の練習走行では、ニューマシンのセッティングでまた迷走。2017年までとは乗り味が大きく変わっていたため、少しでも乗りやすく、かつタイムが出せるようなセッティングと、燃費も大きなカギとなる決勝に向けて、速さと燃費のバランスが出しやすいセッティングを試行錯誤。でも、個性豊かな5人ものドライバーがいると、1人が「これがいい」と言っても「オレはちょっと」と言う人もいて。あーだこーだとピットでみんなモヤモヤしていました(笑)。

 その一方で、私と娘は3日間過ごすことになるピットのホスピタリティ向上のため、備品のセッティングに大わらわ。2017年はオモチャで遊んでいただけの娘も、3歳になってドリンクを氷水の中に入れて冷やしてくれたり、テーブルを拭いてくれたり、なかなか使える助手に成長して大助かり。でも、容赦なく照りつける日差しに、ピット内の温度計が一時は40℃にもなってしまい、猛暑との闘いでもありました。

 ただ、猛暑がこのJoy耐の恒例でもあるので、ツインリンクもてぎはコントロールタワー2階のお部屋を休憩室として解放していて、そこに子供が遊べるキッズスペースも用意してくれています。なので、私たちも2時間おきくらいに冷房の効いた休憩室に駆け込みクールダウン。土日は他のチームのファミリーもたくさん訪れて、そこで親同士でいろんな世間話をしたり、子供同士でブロック作りや鬼ごっこで盛り上がったりと、いろいろな交流ができたのも楽しかったなぁ。

毎年猛暑になるJoy耐では、コントロールタワー2階に誰でも利用できる休憩スペースがあり、その一角がキッズスペースになっています。お絵かきやブロックで遊びながらクールダウンもできて、本当に助かりました

 そして迎えた運命の予選。2名のドライバーがタイムアタックし、その記録の合算タイムでグリッドが決まるというのがJoy耐ならでは。参加台数が多いJoy耐は、ローリングスタートが2集団に分けて行なわれ、後半の集団、つまりグリッドが遅い方に入ってしまうと、それだけでトップから40秒くらい遅れてしまうのです。とにかくもうクラス順位は気にせず、総合で前半の集団に入ることを目指そうと気を取り直したわがTNSは、橋本、石井が予選アタックに挑みました。

 全員が緊張しながら見守る中、2人とも大きなミスなくタイムを出し、78台中総合32番手、クラス4番手。なかなかわるくない位置をゲットしてくれて、みんなようやくテンションが上昇してきたのでした。

 その夜は応援団もたくさん駆けつけてくれて、ツインリンクもてぎ「ハローウッズ」での楽しい楽しいBBQ前夜祭。これもわがチームの恒例で、たくさん飲んで食べながら語り合い、気持ちを1つにしていく。そんな時間が私にはかけがえのない宝物です。

ツインリンクもてぎ内のハローウッズで、決勝前夜のBBQ大会。飲み過ぎには注意ですが、お肉を焼きながら語り合えば、チームの結束も高まるというものです。グランピングエリアで盛り上っているチームもありましたよ

 そしていよいよ決勝レース当日。朝からよく晴れて、気温はあっという間に30℃オーバー。熱くて暑い闘いがスタートしました。Joy耐は7時間の間に最低5回のドライバー交代が義務付けられていて、わがチームの1番手は橋本。混乱必至のスタート1~2コーナーも無事に抜けて、その後も順調に順位を上げていきます。同じクラスのライバルたちは、もっと速いタイムでラップを重ねているのですが、燃費がわるいので1時間経過前から続々と給油に消えていき、わがフィット RSは押し上げられて、1回目の給油直前には9位に浮上!

決勝レース中の給油は、ピットではなくガソリンスタンドで順番に行なうのがJoy耐流。手押し区間はみんなでヒーヒー言いながらマシンを押すのですが、時間帯によっては給油するマシンで渋滞してしまうので、いかに空いているタイミングで給油に入るかも、チームの作戦のポイントになるのです

 しか~し、1.5ccの時は10分だった給油のストップ時間が今年は12分に増えてしまい、1回給油に入ると35位くらいまでダウン……。2番手桂がまたジワジワと15位くらいまで上げて、給油すると大きく落ちる、という一喜一憂の繰り返し。でも私たちには、ある誓いがありました。

 実は2017年、オフィシャルのサインボードを見逃して手痛いペナルティを受け、下位に沈んでしまうという残念な結果になってしまったのです。だから今年は絶対にノーペナルティで完走しようと、練習日から何度も確認をしながら臨んだのでした。

 猛暑で予想以上に体力を消耗し、頭がボーッとしてしまうドライバーも多いため、私と娘はピットで電動かき氷機をスタンバイ。応援に来てくれたサポーターのみんなの熱中症も心配なので、何度もかき氷タイムを作りました。まぁ、一番たくさん食べてたのは娘でしたが(笑)、1人の脱落者も出さずにすんだのは、原始的だけどかき氷効果もあったのかもしれないですね。子供用のプールに水をはって、サウナのあとの水風呂よろしく、走行を終えたドライバーが飛び込んでいるチームもありましたよ。

一時は40℃を記録した暑いピット内では、ガーガーとかき氷を作ってリフレッシュ。こうした猛暑対策も、チームごとに色々と工夫していました

 そんなこんなで橋本2回目、山田、島下、最後は石井と繋ぎ、ペナルティで大きく順位を落とすライバルも出る中、忍び足ですこ~しずつ上位に迫りつつあったわがチーム。気がつけば、残り10分の時点でクラス4のトップを1周差で猛追! 「いけ~、追いついてくれ~ッ」とみんながピットで祈っていました。

 でも、相手はラップタイムが10秒以上速いマシン。残り2分、1分……。もはやこれまでか、と思ったその時。なんと相手がピットインしてきてマシンを止めたではないですか! えっ? ええ~ッ?

 そうです、速いクルマは燃費がわるい。残りの燃料がギリギリだったのか、ピットでマシンを止めてチェッカーが出るのを待ち、再び走り出してピットレーン出口でチェッカーを受けた相手チーム。わがチームは最後まで走り抜いてコース上でフィニッシュ~! これは果たして、どっちが上?? ヤキモキしながら結果を待っていると……。「クラス4の優勝は、#29 TNS無限フィットRS~!」とのアナウンス! その瞬間、長い長い7時間の果てにラスト1周で起こったドラマに、ドッと喜びが爆発した私たちでした。

 総合での順位は25位で、これも予想以上だったけれど、クラス優勝は本当に全く期待していなかった嬉しい誤算。正直なところ勝因は、今でもなんだかよく分かっていません(笑)。でも、フィットという偉大なコンパクトカーが、速さと燃費のバランスがよく、練習すればするほど操る楽しさが増して、ドライバーを高揚させてくれるクルマであることは、今回あらためて実感できました。フィットにはダンロップタイヤが優勢と言われる中で、素晴らしいパフォーマンスを発揮してくれた横浜ゴム「ADVAN A050」もしかり。そして何より、ドライバー全員がマシンと体調をいたわりながら、しっかりと自分の役割を果たしてくれたこと。これがいい結果につながったことは確かだと思います。

 また、安全な給油のためにエンジンを止めて「手押し」する区間があるJoy耐では、猛暑の中でマシンを押してくれるサポーターたちの頑張りも欠かせないもの。今回はメカニックさんの他に5人の応援団が駆けつけてくれて、一生懸命押してくれた姿にも勇気づけられました。

厳しい闘いだと思っていた7時間も、終わってみればまさかのクラス優勝! 久々のシャンパンファイトは、娘も混ぜてもらって大興奮でした

 誰か1人が欠けてもこの結果はなかった今年のJoy耐。一夜明けて再び感謝の気持ちでいっぱいになっているところです。いろんなトラブルがあってくじけそうになった日もあったけど、やっぱり仲間たちと一緒にゴールを目指すのは楽しい! 7時間の闘いを終えて静けさを取り戻したツインリンクもてぎに、あちこちのピットから笑い声が響いていたのが何よりの証拠ですね。来年はぜひ、皆さんもJoy耐を観に来ませんか? そしてできれば今から準備をして、参戦してみませんか? わがチームへの挑戦状もドシドシお待ちしております(笑)。

現行フィットがデビューした年からフィットでの参戦を続けているわがチーム。最新モデルは決勝のラップタイムが2分30秒前後と、ノウハウが熟成されていたマイチェン前のフィットよりは劣るものの、ボディの剛性感がガッシリとアップし、うまく走れば燃費も稼げるようで速さと燃費のバランスのよさで他の速いマシンをジリジリと追い上げてくれました(撮影:宮門秀行)

まるも亜希子

まるも亜希子/カーライフ・ジャーナリスト。 映画声優、自動車雑誌編集者を経て、2003年に独立。雑誌、ラジオ、TV、トークショーなどメディア出演のほか、モータースポーツ参戦や安全運転インストラクターなども務める。海外モーターショー、ドライブ取材も多数。2004年、2005年にはサハラ砂漠ラリーに参戦、完走。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。17~18年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。女性のパワーでクルマ社会を元気にする「ピンク・ホイール・プロジェクト(PWP)」代表。ジャーナリストで結成したレーシングチーム「TOKYO NEXT SPEED」代表として、耐久レースにも参戦している。過去に乗り継いだ愛車はVWビートル、フィアット・124スパイダー、三菱自動車ギャランVR4、フォード・マスタング、ポルシェ・968など。ブログ「運転席deナマトーク!」やFacebookでもカーライフ情報を発信中。