イベントレポート 東京オートサロン 2022
ホンダアクセスの「ヴェゼル e:HEV Modulo X コンセプト」を開発陣が解説 リアにも初めて空力デバイスを採用
2022年1月14日 09:00
- 2022年1月14日 公開
7車種目となるModulo Xはヴェゼル e:HEVがベース車両
ホンダアクセスは、1月14日~16日に幕張メッセ(千葉県千葉市)で開催されている東京オートサロン2022にて「ヴェゼル e:HEV Modulo X コンセプト」をホンダブース内に展示しているが、事前にメディア向け撮影会が行なわれたので、開発陣にこだわりやポイントを聞いてみた。
Modulo X(モデューロエックス)は、「意のままに操れる操縦性」「所有感を満たし、走行性能にも寄与するデザイン」「見て、触れて、乗って実感できる上質感」の要素を標準車に対して追加したホンダ純正のコンプリートカー。開発はホンダ車の純正アクセサリーを手掛けるなど、ホンダ車を知り尽くしているホンダアクセスのエンジニアによって行なわれている。第1弾は2013年に発売した「N-BOX」で、その後も「N-ONE」「ステップワゴン」「フリード」「S660」「ヴェゼル」「フィット e:HEV」と6車種でModulo Xを展開している。そして7車種目が「ヴェゼル e:HEV」のModulo Xである。
クルマの運転が好きな人のための「上質感」を高める
Modulo Xを紹介する際に必ず出てくるのが「上質感」という言葉だ。これは「高級感」と似たようなイメージだが、質感とは体感的、触覚的、視覚的に得られる印象のことなので高級感とは別のもの。そしてクルマにおいての質感とは、乗り味や操作性、そして視覚的なセンスがいいことを指すので、本稿ではModulo Xが持つこれらの部分に触れていきたい。
最初は空力について。Modulo Xを開発するホンダアクセスでは、走行中にクルマが受ける風の影響を独自の視点で分析し、クルマ作りに取り込んでいる。これを言葉で表現すると「風から逃れるのではなく、風を味方につける」というもので、ホンダアクセスではそれを「実効空力」と表現している。
ベースとなったヴェゼル e:HEVも十分に検討された空力性能を持っている。しかし、ヴェゼル e:HEV Modulo X コンセプトでは、それをさらに磨き上げることを行なっていた。空力性能というとコンピュータでの解析でカタチを考え、モデルを作って実験という流れを想像するが、ホンダアクセスでは立体造形を作るところから始めている。
手順としては標準車のヴェゼルのバンパーに、軽くて丈夫で加工しやすい樹脂系素材の「スタイロフォーム」を貼り付けて造形のベースを製作。その後、テストコースを実走行しながら、ハンドリング性能や直進安定性などの向上を追求していくのだが、このときバンパーに貼り付けたスタイロフォームを削ったり、新たにパテを盛ったりを繰り返していくことで形状を修正。こうした工程を納得するまで幾度も繰り返してエンジニアがイメージしている上質な走りへと近づけていくのだ。
なお、現場での造形変更に対して「それは製品で再現可能かどうか」を判断するために設計担当者も帯同して、その場で直接意見をいえる体制を整えたといい、その結果、設計者も現場の空気感を知ることができ、開発全体にこれまで以上に一体感が生まれたという。
現場主義で作り出す高次元の乗り味
Modulo Xも含めて空力の解説では「クルマの前から受ける風」についてが前提になることが多いのだが、クルマに乗る側からすると「走行中に受ける風は正面からだけとは限らないのでは?」と思ったりもする。例えば「横や斜めから風を受けたときには実効空力の効果が得られないのではないか?」という疑問である。その点をホンダアクセスのエンジニアに聞いてみたところ、Modulo Xが実走行の結果を重視して作っていく理由はまさにそこへの対応のためだったという。
屋外のテストコースでは、ストレートでは追い風でもコーナーを曲がれば横から風を受けるなど、周回していけばクルマはあらゆる向きから風を受けることになる。そうした状況のなかであっても目指す走りができるよう作っていくのがModulo Xなので、各空力パーツは全方位から風を受けることを前提に作られている。ただ、Modulo Xは空力だけを追求したクルマではない。空力だけでなくサスペンションのセットアップ、さらにはタイヤやホイールの性能まで含めて考えて作られているので、風の当たり方に左右されない(もちろん限度はある)性能となっているということだ。
ちなみに同じようなことをコンピュータなどのシミュレーションでできないのかを確認したところ、「こうした走りは机上の開発では追い込みきれない」とのこと。頼りになるのは現場のテストドライバーとエンジニアの知識、知恵、勘、そして技術だという。この会話のなかで自動運転の話が出たが、「自動運転では風や路面のうねりなどの『外乱』に対してシステム的な修正が困難な面もあるので、Modulo Xの実効空力の考え方、作り方は自動運転のクルマでも有効になる」との説明だった。
話を戻すと、こうして実効空力とそれに合わせた足まわりを持つModulo Xの乗り味は、クッションが効いた「乗り心地がいい」ではないし、走りがいいクルマ的な「締まった乗り味」でもない。低速域、高速域、そして峠道などでも不安、不快な揺れがなく、路面に沿うような安定感のある走りというもの。クルマで走ることが好きな人であれば、こうした乗り味が「心地よさそう」というイメージを持つと思うが、それこそModulo Xが追求した乗り味の面での「上質感」というわけだ。
シートも徹底的にこだわって開発
ヴェゼル標準車のフロントシートには、骨盤をしっかり支える新フレームを採用し、疲れにくく、快適さを実現する「ボディスタビライジングシート」が採用されている。このシートはModulo Xを作る基準でも十分に優れていたので変更はなし。ただし、これは構造変更(内部のスプリング変更など)もテストした結果「作り換えたり、別のものに交換する必要がない」という判断で、「変更なし」という表現ではあるものの、コスト増など商業的な意味合いでの「変更なし」とはまったく違う。
また、シートの表皮を変更しているが、これはデザイン面だけのことではない。標準車のヴェゼルもシートの座り心地は満足できるものだが、Modulo Xが目指すのは「上質感」なので、身体を締めつけたり、動きにくさ(衣服が引っかかる感じなど)がなく、それでいて一体感があり、クルマのしなやかなの動きがつかみ取れること。こうした特性を持たせるためにインテリアを担当するチームがこだわったのがこのシート表皮という。
ドライバーの身体の動きを抑えてサポート性を高めるなら「滑りにくい特性の表皮」にするのが一般的な考え方だが、そうしてしまうと普段の走行時に「動きにくさ」を感じることがある。そこでヴェゼル e:HEV Modulo X コンセプトのシート表皮は、乗降時に身体が触れたり、運転中に身体の動きが多い部分は「滑らせるための表皮」を使用。そして腰や腿の裏などホールドしたほうがいいところには「滑りにくい表皮」という使い分けを行なっている。
さらに、ヴェゼル標準車はシート座面の表皮にエンボス加工(凹凸)の入ったソフトウイーブという素材を使っているが、ヴェゼル e:HEV Modulo X コンセプトでは標準車のインテリアデザインを尊重し、雰囲気を変えすぎないために同じ素材にしつつもエンボス加工はなくしている。
これは同じ素材であっても表皮に凹凸がないことで「張りの強さや滑りにくさ」が増すので、その表皮を使うことでホールド感は開発チームの理想にピッタリになったとのこと。また、衣類の素材違いによる感覚の差も試しているがおおむね理想の座り心地になったという。Modulo Xの開発の話はどれも「濃い話」だが、この話を聞いたときは、あらためてこだわりの強さに驚いた。
このような作り込みが盛りこまれるヴェゼル e:HEV Modulo X コンセプト。東京オートサロンに行かれるのなら、ホンダブースに展示されているので、ぜひじっくりと見て欲しい。