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「アオレコ」やドライバモニタリングなど、ケンウッドの次世代ドライブレコーダー技術を最高技術責任者 園田剛男氏に聞く
2020年2月12日 00:00
現在クルマのオプション用品として非常に売れているのが、ドライブレコーダーになる。新しい分野の製品となるが、JEITA(電子情報技術産業協会)調べによると2016年度が約146万台、2018年度が約367万台、2019年度は3四半期で約371万台と昨年度をすでに超えており、今年度は約500万台に達しようという勢いだ。しかもこの数字は、JEITA調べの13社の数字であり、輸入製品などを考えると、さらに大きな数字となっているのは間違いない。
ドラレコ市場は、一時期、単に記録できるだけという低価格な輸入ドラレコが多くを占めた時期もあったが、信号機のフリッカー対応、フルHD対応、夜間対応など各種ニーズの高まりから高機能なドラレコが増えている。また、事故を確実に記録するという信頼性重視の製品特性もあり、多機能でありながら高機能・高品質な製品が求められている。
そのニーズに対応する代表的なメーカーが、前後撮影対応2カメラドライブレコーダー「リアレコ」など多数の高品質ドラレコをラインアップするJVCケンウッドになる。本記事では、JVCケンウッド取締役 執行役員 最高技術責任者の園田剛男氏に、同社の今後のドライブレコーダー戦略などを聞いた。
2030年の未来を見据えたビジョンで開発
園田氏は、JVCケンウッドの考える2030年ごろを見通した世界は「技術の進歩により創造がすべて実現する未来」だという。そのために、5つの技術を重点テクノロジとし、同社のコアテクノロジである「映像」「音響」「無線技術」と組み合わせることで、人と時間と未来を創造していく。
ドライブレコーダー事業では、通信型プラットフォームの開発に取り組んでいくという。単なるドラレコから「つながる」ことで考えるドラレコへと進化。車両システムとしてはもとより、ボティに取り付けるボディカメラ、小型監視カメラなどのカメラを中心とした新しい事業を拡大していく。これらの新規事業では、複数台のカメラによりスポーツのプレイ分析なども行なえるという。これにより、トレーニング方法のアドバイスなどができたりするため、アマチュアだけでなく、プロスポーツでの需要も見据えていく。
また、ボディカメラ分野では、ボディカメラとGPSユニットを装着することで、画像とGPS、3Dマップ情報をもとに危険を察知できるため目が不自由な人へスピーカーで案内。安心して外出できる世界を作ることが可能になる。映像だけでなく、空気感も共有できるデバイスなども開発し、人と時間と空間をつなぐのが、少し遠い未来のビジョンだという。
園田氏は、そのためにJVCケンウッドでは「デジタルトランスフォーメーションを含めて技術開発を進めていく」と語る。映像、音響、通信、AI、地理情報、人体情報、これらの情報をエッジとクラウドでつなぎ、新しいサービスを創造していく。
ただ、そうはいっても急拡大するドラレコ市場に向け、強力な製品を投入。その製品を元にプラットフォーム展開を行ない、ほかのビジネスにつなげていくとのことだ。
そのために最も注力しているのが、“つながる”ということ。今後、現在のLTE通信網は5G通信網へと置き換わり、より大容量の映像を低遅延で送信することが可能になる。この時代の変わり目を大きなビジネスチャンスとして捉えている。とくに5G通信になると通信セルが小さくなり、「ずっとつながり続ける技術」「即座につながる技術」「サブ6だけでなくミリ波に対応する技術」が大切になると語った。
4GLTEから5G通信への移行期に当たる現在は、5G通信の基地局、そして5G端末が大きなビジネスになるとみられている。「JVCケンウッドとしては、もの作り屋として5G端末がターゲットになっていく。ポートフォリオとして5Gサーバー事業などもあるが、それは我々単独では難しい。プレイヤーがいくつか必要かなと思っている。そのプレイヤーと組んだときに、新たなアプリケーション、新たなサービスをどう作るかという仕掛け作りを我々はやりたいと思っている」(園田氏)と語り、まずは得意分野である通信機能をもった端末から手がけていく。
この通信機能を持つドライブレコーダーはすでに商品化しており、損害保険会社のMS&ADインシュアランスへ提供。すでに実際に利用されているとのことだ。
アオレコや全周が映るドラレコを開発中
園田氏は、さらに今後のドラレコのプロトタイプの解説を行なってくれた。ただ、これらのプロトタイプについては、まだ開発中のため写真掲載などはできず、解説のみをお届けしていく。
園田氏が説明してくれたのがドライバモニタリングに使える映像解析技術について。現在JVCケンウッドではヒューマンモニタリング機能として、人の視線やまばたきの回数などを映像から解析できる技術をものにしており、これを生化学とつなげてさまざまなアプリケーションの実装を勧めている。例えば、ドライバーの視線が一定程度外れたら警告を出すことができるほか、まばたきのタイミングや量によって疲れも分かる。それによるワーニングも可能とのこと。
もちろんこれはドライバーの認識だけではなく、車内すべてを認識することで赤ちゃんの置き去り対策などもでき、安全な車内環境の構築に寄与していく。
2番目に園田氏が紹介したのが「アオレコ」という提案。これは名前からも想像できるようにあおり運転に対応したもの。具体的には前後左右の4ストリームの映像を記録でき、その中にあおり運転と思われるものが映っていたばあい、その映像をアーカイブしていく。あおり運転をされていることは意外と分からない部分でもあり、事故につながっていく可能性もあることから、映像解析を行なうことでしっかりとした記録を残していく。現在のドラレコの売れ行きが加速した要因として、あおり運転による事故の報道などがあり、そうしたユーザーニーズに対応したものとなる。
また、同じようにクルマの周囲を撮影する提案として、死角のないドラレコも開発中だ。これは特殊な魚眼レンズを持つカメラをクルマの周囲に配置することで、自車の周囲に近づいたクルマを必ず記録しようというもの。駐車時にクルマの周囲が見えるサラウンドカメラなどは実用化されているが、上からクルマの近くだけを見るのではなく、視点を下げることでより遠い距離にあるクルマを記録していく。ドライバー視点で、周囲のクルマがすべて記録できるようにというものだ。
同様に、記録する映像品質の向上も図っていく。単に解像度を上げるのではなく、映像を記録可能なダイナミックレンジや映像の美しさを独自技術によって向上。もともと映像の美しさで定評のある同社製品のよさをさらに伸ばしていく基礎技術は開発を終えているという。これらの技術により、例えば暗めのトンネル内と明るいトンネル外の風景をいずれも記録できるようになるほか、夜間のLEDサインなどのハレーション現象も抑制できる。具体的にどのようなロジックで解析・記録しているか教えてはいただけなかったが、映像をリアルタイムに分析することでダイナミックレンジをエリアごとに変更するなどはしているのだろう。その美しい映像は、解像度が上がったような印象を受けるほどだった。
さらに園田氏が試作製品として見せてくれたのが、同社の技術を用いたHUD(ヘッドアップディスプレイ)。これはJVCケンウッドとしてHUDを出していくものではなく、現在のHUDの欠点を改善できるものだという。現在の市販車に採用しているHUDでは、フロント合わせガラスの中間膜にHUD用の反射膜を挟み込んでいるが、同社の技術ではこの反射膜を特殊なものにすることで3次曲面ガラスでも美しいHUD映像を見ることができるという。この3次曲面ガラスとすることで、自動車のデザイン自由度が向上。多くの車種でHUDの採用が可能になっていく。また、同社の技術を活かした問題解決型のソリューション事業も行なっており、HUDの改善相談にも対応。一部技術だけの提供にも応じているとのことだ。
市場投入が楽しみなJVCケンウッドの将来製品
園田氏から技術や製品を紹介されて思ったのが、高度な技術を組み込みながら分かりやすい製品作りを心がけていること。例えば「アオレコ」だが、4ストリームの映像を処理するという高機能パッケージでありながら、それを表に出さずユーザー目線での提案を行なっている。車内の映像を解析し、それを分かりやすく出力可能なドライバモニタリングシステムにしても、今後自動運転車にはドライバモニタリングが義務づけられていることを考えると、その高い技術力は大きな武器になると思われる。
いずれも高品質・高機能でありながら、使いやすく・分かりやすくするというJVCケンウッドの製品作りが感じられた部分だ。急速に伸びているドラレコ市場にJVCケンウッドの将来製品が投入されることで、ドラレコ選びがさらに楽しくなるのは間違いない。早期の投入を期待したいところだ。