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TOYOTA GAZOO Racingの小林可夢偉選手 兼 TGR WECチーム代表と平川亮選手、WEC 2022年シーズンの意気込みを語る

小林可夢偉選手 兼 TGR WECチーム代表(左)と平川亮選手(右)

 FIA 世界耐久選手権(FIA WEC:World Endurance Championship、以下WEC)の2022年シーズンは、3月16日~3月18日(現地時間)の3日間に渡って行なわれる「セブリング・1000マイル」で開幕する予定になっている。LMH(Le Mans Hypercar)規定になって2年目となる今シーズンは、開幕戦は欠場することがすでに決定しているが、プジョーがLMH規定の車両をひっさげて参戦することが決まっており、トップカテゴリーのLMHクラスも大きく盛り上がりそうだ。

 また、2023年にはアメリカのIMSAと共同で策定されたLMDh(Le Mans Daytona h)と呼ばれる新しい規定の車両もトップカテゴリーに参戦することが可能になり、低コストで製造することが可能であることなどからポルシェ、アウディなどの新しいマニファクチャラーも参戦する予定になっており、さらに盛り上がることは必定だ。

 そうしたWECに2011年から11シーズンに渡って参戦を続けているのが、トヨタ自動車のワークスチームであるTGR(TOYOTA GAZOO Racing)WECチームだ。TGR WECチームは、「GR010 HYBRID」というLMH規定の車両を昨シーズンから投入し、見事にドライバー選手権を7号車 マイク・コンウェイ/小林可夢偉/ホセ・マリア・ロペス組が獲得し、マニファクチャラー選手権も獲得。そして8月に行なわれたル・マン24時間レースでもマイク・コンウェイ/小林可夢偉/ホセ・マリア・ロペス組が優勝するなどの結果を残している。

 そのTGR WECチームだが、今シーズンからチーム体制が大きく変更された。チャンピオントリオの7号車はそのまま継続だが、もう1台の8号車(中嶋一貴/セバスチャン・ブエミ/ブレンドン・ハートレー組)は中嶋一貴氏が昨シーズンをもって現役を引退し、TGR-E副会長へと就任したこともあり、今シーズンからSUPER GTやスーパーフォーミュラなどで活躍してきた平川亮選手が8号車のクルーとして加わっている。また、小林可夢偉選手はドライバー兼任のままTGR WECチームのチーム代表に就任するなど、新体制を組んでの今シーズンとなる。

 今回、TGR WECチームのキーパーソンとなる小林可夢偉選手/チーム代表と平川亮選手の2人がシーズン開幕前に報道関係者のインタビューに応じたので、その模様をお届けしていきたい。

豊田章男社長からのオーダーは「プロフェッショナルでファンが応援したくなる」チーム構築

小林可夢偉選手 兼 TGR WECチーム代表

――それでは冒頭に2人から今シーズンについて説明してほしい。

小林可夢偉選手:2022年シーズンに関してはすでにテストが始まっていて、2回目のテストは昨日終了した(筆者注:インタビューは2月18日に行なわれ、2回目のテストは2月17日に終わっている)。2021年まではドライバーとしての立場だけだったが、今年はチーム代表 兼 ドライバーになる。3回目のタイトル(小林選手は2021年シーズンと、2019-2020シーズンの2年連続でWECドライバーチャンピオンになっている)と2回目のル・マン24時間レース優勝を目指すが、それと同時にしっかり強いチームに変えていく。

 豊田章男社長からは「プロフェッショナルなチームで、かつファンの人から応援したいと思われるような親しみがもてるチームにしてほしい」とお願いされており、その2つを両立しながらやっていきたい。まだまだチーム代表としては初めてのシーズンだが、学ぶところはしっかり学んで強いチームにしていきたい。それにより2023年に強いライバルが参戦してきても、ライバルがいなかった間に強いチームを作ったのだと思われるようにしていきたい。

平川亮選手:GR010 HYBRIDには2021年もテストで乗ったし、今年はスペインのアラゴンとフランスのポールリカールでテスト走行してきたが、まだまだ学ぶことはたくさんある。クルマに100%慣れ切っていないという実感もあり、走る度に進化しているのが分かっているので、1か月後に開幕だが、自分としての準備はできつつあると感じている。ただ、テストでは1台でクルクル走っているだけで、トラフィックの処理などは経験していない。来月セブリングで開幕前に行なわれる公式テスト(公式プロローグ)でしっかり学習して少しでもチームに慣れていきたい。2022年シーズンは来年に向けてしっかり自分の役割を意識して少しでもチームに貢献していきたい。

――チーム体制も変わったが、チームの雰囲気などは?

小林可夢偉選手:BoP(Balance of Performance、性能調整のこと。WECではLMH、そして2023年から参加が認められるLMDhといった異なる規定の車両などの間で性能差を埋めるため、風洞や走行データなどを元に性能調整が行なわれる)も含めて、先のことを考えてシミュレーションしている。チーム体制や代表が代わっただけでなく、エンジニアの変更があり、新しいエンジニアが僕らのクルマにも来ている。これは先を見据えたエンジニアリングの強化で、これまでのエンジニアを含めて継続でやってきたが、新しい空気を入れるということだ。

 それによってフレッシュな空気が入ったので、メカニックとかも明るくなってきており、自分が代表になったからかどうかも分からないが、メカニックが前よりも話しかけてくれるようになった(笑)。

平川亮選手:新しい空気というと、自分も新しい空気なので、以前どうだったかは分からないが、新しい要素としてチームをよくできるように取り組んでいきたい。ただ、まだまだ自分の方が慣れないといけない感じだ。

小林可夢偉選手:平川選手はテストの間、ずっと椅子を作り直していた(笑)。

平川亮選手:シートはなかなか決まらなくて。1月に1回作ったのがダメで、今回のテスト前に作ったのもあまりよくなくて、そのあと夜の12時まで作り直して、それもうまくいかなくてまた3時間ぐらい直してようやくできた感じだった。シートを作ってくれるメカニックととても仲よくなれた。

――小林選手はチーム代表になってこれまでドライバーなら出なくてよかった会議に出るなど、増えた仕事はあるのか?

小林可夢偉選手:ミーティングは増えた。チーム代表としては今起きていることの判断どうこうよりも、3~4年先を見据えて、ルールに関してACO(仏西部自動車クラブ、ル・マン24時間の主催者。WECのルールなどもACOが決定している)との交渉や、そしてトヨタとしてどうやっていくのかなどを議論している。あるいは、車体とシステムは部門が違うけども、それを統合してみんながクルマを速くするためにどうするのかという体制を作ったりなどを考えていく必要がある。できるだけ現場の声を吸い上げて、それを実現できるようにまとめていくことが大事だと考えている。

――TGR-Eの中嶋一貴副会長ともやりとりをしているのか?

小林可夢偉選手:もちろんしている。中嶋一貴副代表はTGR-E側で何が行なわれているかを把握していて、豊田社長からの「こういうふうにしてほしい」という指示や長期的にWECにどう関わっていけばいいのかなどをやってくれている。

平川亮選手

――平川選手にテストを終えた感想は?

平川亮選手:チームは勝ちに向かって貪欲な気持ちだったり、レースを見据えたシミュレーションをやっていたりと、テストだけどレースの緊張感でテストをしていた。

――平川選手に。チームメイトのセバスチャン・ブエミ選手とブレンドン・ハートレー選手はどのような印象?

平川亮選手:2人とも勝ちに、そして速く走ることに貪欲だ。特にブエミさんはそれがにじみ出ている。2人は僕が経験ないのは分かっていて、いろいろ教えてくれる。というよりもむしろ、自分から聞きに言って教えてもらっている感じだ。

――今シーズンのサーキットで走行経験がないのは?

平川亮選手:セブリングだけだ。バーレーンはテストで走ったことはある。しっかりと準備していかないといけない、来週シミュレーターをやるので、不備がないようにしていかないといけない。可夢偉さんからはコースを覚えていけと言われている。ビデオとかを見てしっかり準備していきたい。

――小林選手は、セブリングで同時に開催されるIMSAのレースにも参加することになる。かなりヘビーな週末になりそうだが……

小林可夢偉選手:それはあまり深く考えずに、代表としてはチームを1つの方向に向いて挑めるようにするだけだ。WECのドライバーはセブリングの現場に行ってGR010を走らせるのが初めてになる、バンピーなトラックを走れるようなクルマ作りをプロローグでやっていければと思っている。

――8号車の3人の完成度は?

小林可夢偉選手:すでに戦うレベルにあると考えているが、8号車にはルーキーの平川選手がいるし、7号車はエンジニアがルーキーになっていて、開幕戦でやるべきことはたくさんある。平川選手に関しては、ル・マンまでにリズムをとれるようにと、セブ(ブエミ選手)とブレンドンにはそういうことを教えていってほしいといっている。それぞれやることは違うので、まだまだ僕らにとっては準備のタイミングとして捉えている。

――ポールリカールで走った車両では2021年とボディが少し変わっていたようだが?

小林可夢偉選手:カムフラージュ色になっているだけで、大きくは変わっていないはずだ。基本はホモロゲーション(LMHでは一度認定を受けたら車両に手を加えることが基本できない)で変えられないので。(チーム関係者から若干は変わっているらしいと報告を受けている、と言われ)えーそうなの? 細部はそうかもしれないが基本変わっていない。

――クルマとして進化しているところはあるか?

小林可夢偉選手:基本的には煮詰めをやっている段階だ。いろいろなことを想定してやっており、大きな変化はない。シーズンが始まるとBoPで押さえられることになるので、それでどれくらい性能が落ちるのかということも含めて、ドライバーが乗りやすく、BoPで押さえられても勝てるようなクルマ作りを目指している。LMP1の時のようにフィーリング的に大きな変化があるかと言われればそれはない。

平川亮選手:クルマの進化も少しはあるが、システムの最適化や、システムが問題を起こした時の対処方法などを探っている。常に進歩していると感じているが、ホモロゲーションで大きく変えることができないので部分最適化を行なっている。

――チーム代表兼任になったがチーム内の呼び方に変更があるか? ボスと呼ばれているのか?

小林可夢偉選手:それはない。可夢偉のままだ(笑)。