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アルピーヌF1、ルノーの歴史を引き継いだ英仏連合チームで奮闘中 日本グランプリ開催中のピットを見学してきた
2024年4月9日 12:44
- 2024年4月5日〜7日 開催
2024年はル・マン24時間にも挑戦するアルピーヌのモータースポーツ活動
「2024 FIA F1世界選手権シリーズ MSC CRUISES 日本グランプリレース」が4月5日~4月7日の3日間にわたり三重県鈴鹿市の鈴鹿サーキットにおいて開催された。このF1には、現在4つの自動車メーカーがパワーユニットサプライヤーとして参加しているほか、うち3つのメーカーはワークスチームを擁してコンストラクターとしても参戦している。その3つが、アルピーヌ、フェラーリ、そしてメルセデスだ。
その1つの「アルピーヌF1」は、フランス自動車メーカー「ルノー」のスポーツカーブランドで、2021年シーズンからF1に参戦。現在は、「ルノーF1チーム」から、ルノーのワークスチームのブランドを「アルピーヌ」に変更して参戦している形となる。
アルピーヌとルノーを一体にして考えると、そのF1参戦の歴史は実に1970年代にさかのぼる。ルノーは1977年にコンストラクターとして、そしてエンジンサプライヤーとしてF1への参戦を始めた。当時のF1は3リッターの自然吸気エンジンが一般的だったのだが、ルノーは1.5リッター V6ターボを武器に参戦し、そのルノーが導入したターボエンジンは瞬く間にF1界のスタンダードになった。ルノーは1983年にアラン・プロスト氏が惜しくもチャンピオンを逃すなど結果は出したが、チャンピオンには手が届かないまま、ワークスチームは1985年に、エンジンサプライヤーとしては1986年に一時徹底を決定した。
そのルノーがF1にエンジンサプライヤーとして復帰したのは、F1のエンジンルールが自然吸気エンジンのみに変更された1989年。1992年にはウイリアムズ・ルノーとしてチャンピオンを獲得すると、ドライバータイトル(1992年のナイジェル・マンセル氏、1993年のプロスト氏、1995年のミハエル・シューマッハー氏、1996年のデイモン・ヒル氏、1997年のジャック・ビルヌーブ氏)、コンストラクタータイトル(1992年~1994年までのウイリアムズ、1995年のベネトン、1996年と1997年のウイリアムズ)のタイトル獲得に貢献した。そしてその両タイトルを獲得した1997年に再び一時撤退することになった(実際には、関連会社のメカクローム経由でウイリアムズやベネトンに有償でエンジン供給を続けていた)。
そして2002年からは、2000年に買収を発表したベネトンF1チームを「ルノーF1チーム」としてワークスチーム体制を復活させた。この当時のルノーF1チームは、スポンサーが日本たばこ(のブランドであるマイルドセブン)やNTTドコモのiモードになっており、日本との関わりが強いチームになっていた。2005年と2006年にはフェルナンド・アロンソ選手がドライバー選手権を、チームがコンストラクター選手権のタイトルを獲得し、2年連続でダブルタイトルを獲得した。
2009年の末にルノーはコンストラクターとしての参戦を終了することを発表し、チームは投資会社へ売却された。ただし、レッドブルなどへのエンジン供給は続けられ、レッドブル・ルノーは2010年~2013年の4年間、ドライバーはセバスチャン・ベッテル選手、コンストラクターはレッドブルがタイトルを獲得する大活躍を見せた。
そのルノーがF1にコンストラクターとして復帰したのが2016年。この年の前年にルノーはその後「ロータス」と名称が変更されていたかつてのワークスチームを買い戻し、ルノーF1チームとして参戦することを発表していたのだ。その後2020年までこの体制が続けられたが、2021年からはチーム名称をルノーのスポーツカーブランドであるアルピーヌの名前を冠した「アルピーヌF1チーム」へと改称して今に至っている(パワーユニットの名称はルノーのままで、車両名としてはアルピーヌ・ルノー)。
これはルノーの戦略の一環として、モータースポーツ活動はすべてアルピーヌブランドに集約するというものがあり、F1のワークスチームもアルピーヌへと変更されたのだ。なお、WEC(世界耐久選手権)にもアルピーヌは参戦しており、2024年からLMDhの規定に準拠した車両(アルピーヌA424)を擁して、ル・マン24時間などWECに参戦している。
アルピーヌF1は英仏混合チームで、今シーズンは新型シャシで将来に備える
アルピーヌF1チームは、今シーズンも2023年同様の10号車 ピエール・ガスリー選手、31号車 エステバン・オコン選手の2台体制で参加している。ガスリー選手は2020年のイタリアGPで、オコン選手は2021年のハンガリーGPで優勝経験があり、いずれもフランス出身のドライバー。
シャシは、イギリスのエンストンにあるアルピーヌF1のファクトリーで開発、製造され、パワーユニットはフランスのヴィリー=シャティヨンで開発、製造される。この英仏をまたがった体制は、エンストンがアルピーヌF1、そしてルノーF1チームの源流となるベネトンF1チーム(そしてその前身のトールマン)のファクトリーだったためで、他のF1チームと同じようにシャシは英国で、という体制が維持され、パワーユニットはルノーがエンジン供給などに利用してきたファクトリーがヴィリー=シャティヨンにあり、そこが継続して利用されているためだ。アルピーヌ自体はフランスのメーカーだが、F1チームは英仏混合チームというのが面白いところだ。
そのアルピーヌF1の今シーズンだが、今は産みの苦しみを味わっているところだ。アルピーヌF1は2023年はコンストラクター選手権で6位と、2022年の4位から順位を下げる結果になっている。そこでその状況を変えるべく、今シーズンはシャシを前年型の延長線上にある新型ではなく、ガラッとデザインを変えることに。その結果、現在苦戦に陥っており、今回の日本GP予選でも、オコン選手が予選Q2に進んで15位、ガスリー選手はQ1落ちの17位となっており、シャシが持つポテンシャルを発揮できていない状況だ。
そうした中でも両ドライバーはしっかりとレースに向き合っている。アルピーヌF1の両ドライバーはレコノサンスラップ(グリッドにつくウォームアップラップのこと)を終えると、チームのガレージに戻ってきてレースエンジニアとずっと真剣に話し込んでいた。こうした苦境の中でもデータを解析し、少しでもシャシやパワーユニットをよくしていきたいという両ドライバーの意気込みが感じられた。
チームもその想いは同様だ。レースウィークエンドのピットウォークでは、チームのメカニックたちが何度もタイヤ交換の練習を繰り返す姿を確認できた。F1におけるタイヤ交換は、コース上で1000分の1秒を争っている中で、コース上では取り返すのが大変な数秒という時間を簡単に失いかねない競争上重要な要素になっている。このため、メカニックはピットストップ練習を始める前に柔軟体操を行ない、体をほぐしてからピットストップの練習を何度も行なっていた。
レース中はドライバーが頑張っているのをピットから応援することになるが、ピットストップ時はメカニックの腕の見せ所で、チーム一丸となってドライバーをバックアップする体制にあることを確認できた。
日本GPの決勝レースではオコン選手が15位、ガスリー選手が16位という結果に終わったアルピーヌF1だが、今シーズンのF1は全24戦が予定されており、まだ序盤の4戦が終わっただけの段階だ。4月19日~21日には上海で5年ぶりとなる中国GPが予定されており、そこから12月6日~8日のアブダビでの最終戦まで残り20戦が予定されている。この残りのシーズンで、アルピーヌF1の巻き返しに期待したいところだ。