試乗レポート

ホンダ「フィット」と「ヴェゼル」「CR-V」の4WDは何が違う? 雪上で確かめた

ホンダ4WD車を用いた雪上試乗会が開かれた

 ステージは真冬の御嶽山、ロープウェーふもとにある一般道だ。といっても雪深いために通行止めとなっている。つまりクローズドされた雪の一般道で、この時期はラリーなどの練習にも使われているらしい。雪上試乗会といえばメーカーのテストコースなどが多いのだけれど、一般道というのは珍しく、クルマの実用的性能が分かるというもの。こんな場所、よく見付けたものだ! ホンダの皆さんに感謝と拍手を送りたい。

 ということでホンダの4WD試乗会なのである。本稿は前編と後編の2部構成です。今回は前編。前編は現行モデルを中心にインプレッションしようと思う。そして後編では今回試乗した開発中の車両とホンダアクセス(Modulo)のコンプリートモデルをインプレッションする。

ホンダ車(e:HEV)における四輪駆動の特徴

 フィット、ヴェゼル、CR-Vといったホンダ車(e:HEV)における四輪駆動車の特徴は、日産やトヨタのように最近のトレンドともいえる後輪の駆動にモーターを採用していないことである。つまりメカニカルにプロペラシャフトを通してダイレクトに後輪を駆動しているのだ。

 この点においては一般的な内燃機関モデルの四輪駆動車と同じだが、e:HEVに関してはその駆動を電気モーターが行なっているということが特徴的である。電気モーターはガソリンやディーゼルのような内燃機関に対して制御が細かく、スロットルレスポンスが早くダイレクトだ。4輪駆動システムは前後輪のスリップを検知して前後駆動配分や各輪への制御を行なうから、制御が細かく伝達の早い電気モーターはまさに打ってつけのパワーソースといえる。

 その意味では後輪にも電気モーターを採用した方が制御も細かく行なえるのだが、そのためには後輪軸上にモーターを装備するスペースや伝導させるためのハーネス、回生も行なうからモーターが発電した交流電流をバッテリに充電するために直流電流にするコンバーター、駆動電圧がフロントモーターと異なれば直流を交流に変換昇圧するインバーターが必要になる。つまりコストもスペースもわれわれが想像する以上に要することとなる。そのハードウェアの生産にCO2排出量もかさむわけだ。

 これを1モーターで前後輪を駆動すればリーズナブルでイージー、環境にも優しいとなる。また後輪もモーターで駆動する4WDの場合、多くはその搭載スペースの問題から大トルクは期待できず、主に発進時など低速域(40km/hぐらいまで)でのオンデマンド的制御の4WDである場合が多い。つまり中高速域での安定制御性能は落ちてしまうのだ。理由は簡単、パワーが足りないのだ。ただし日産は新型「ノート オーラ」で後輪モーターにも大トルクのものを採用してきている。ホンダも将来、この方向にシフトする可能性もあるだろう。

ビスカスカップリング式4WDとリアルタイムAWD

 さて、プロペラシャフトで前後輪を駆動する場合、テーマとなってくるのが4WDのセンターデフシステムだ。そこでまずフィットに試乗してみよう。フィットはクロスオーバーモデル「CROSSTAR」がラインアップされていて、少し車高が上がったそのエクステリアはかなりの人気モデル。筆者も個人的に大好きなモデルで、サスペンションにストローク感があり乗り心地もよく、室内静粛性も高い。

 フィットの4輪駆動システムはセンターデフにビスカスカップリングを採用している。このシステムはいわゆるオンデマンドで、駆動輪である前輪がスリップすると後輪との回転差によってケース内の高粘度のシリコンオイルとプレート間にせん断抵抗が発生し、後輪にトルクを伝達する。プレートはケース内に複数枚収められていて、高粘度シリコンによってクラッチの役目を果たしているのだ。つまりスリップなどによって前後輪に回転差が生じない限りFFの状態で走行する。FFの状態であれば機械抵抗も少なく好燃費。必要な時だけ4WDになるのだからフィットのようなファミリー向けコンパクトカーには打ってつけだ。

 実際の走行では軽量コンパクトであること、さらにサスペンションのストロークが十分にあるので思いのほか早い速度でコースを走った。ただタイトコーナーへの進入、ブレーキングからアクセルOFFでのターンインでは、ほぼFFの状態なのでアンダーステア傾向でステアリングの切り角も大きくなる。操舵角が大きいからアクセルを踏み込んで4WDになって初めて前後の駆動配分がバランスするので(前輪の駆動負担が減る)、前輪がよりグリップし安定したコーナリングが楽しめる。そのためターンインだけしっかり速度を落とす必要があった。ただこれはスポーツレベルの走行をした場合で、一般的なドライブでは駆動源がモーターであるが故の制御の細かさだ。実際、トルク伝達率を上げると燃費が悪化するので、ちょうどよい伝達率を実現するにはモータードライブであることが貢献している。

 これに対し、ヴェゼルに採用される「リアルタイムAWD」は電子制御のリアデフを採用し、ブレーキベクタリングによるアジャイルハンドリングアシストと協調して高いハンドリング性能を実現している。従来の4WDよりもセンサー類を増やしてアンダーステア、オーバーステア挙動をより正確に把握し、フィードバック制御を併用することでより正確な駆動配分を行なっているとのことだ。

 活字にするとなんだか分かったような分からないような制御だが、走ってみるとフィットのそれとは明らかに違った。大きく異なるのはターンインだ。アクセルOFFでも少ない舵角でアンダーステア傾向も感じずスルスルとコーナーにターンインする。これは4WDの前後輪駆動制御もしかりだが、各輪個別に制動をかけて曲がりやすくするアジャイルハンドリングアシストによる効果が大きい。

 このよく曲がり込む感は、今回のような滑りやすい雪道でもかなりの速度域まで感じる。予想以上によく曲がるのだ。そしてそこからアクセルONで前後に駆動がかかっても内燃機関のような段付きの繋がり感が全くない。何事もなかったかのようにステアリングを切り込んだままよく曲がり込み、ステアリングを戻しながらコーナーを脱出し加速してゆく。アクセルを踏み過ぎれば若干リアがスライドしてスポーツするが、制御の細かいトラクションコントロールによってすぐに元のさやに納まる印象。とにかくヴェゼルのリアルタイムAWDは不安なくよく曲がる。

 同じシステムのCR-Vにも試乗したが、同じようによく曲がる。ただCR-Vのエンジンは2.0リッターなのでモーターパワーにも余裕があり、走りそのものが力強いのと、車重とサスペンションのストローク感がラグジュアリーな乗り味だ。そこで感じるのはヴェゼルの1.5リッターはAWDに関してもう少しトルクに余裕がほしいと感じた。

 今回の試乗ではコンディション的にもかなりの積雪の中、いじめるようにアクセルを踏み込んでもよく曲がることが分かった。ホンダが掲げる「自由な移動の喜び」、今まで行けなかったところに行き、世界に新しい気分を、というコンセプトをよく実感できたと思う。

高知県出身・大阪育ち。INDY500やニュル24時間など海外レースの経験が豊富で、SUPER GTでは100戦以上の出場経験者に与えられるグレーデットドライバー。この経験を生かしスポーツカーからEVまで幅広い知識を元に、ドライビングに至るまで分かりやすい文章表現を目指している。現在67歳だが自身が提唱する「スローエイジング」によってドライビングとメカニズムへの分析能力は進化し続けている。高齢になっても運転を続けるための「安全運転寿命を延ばすレッスン」(小学館)の著書がある。日本カーオブザイヤー/ワールドカーオブザイヤー選考委員。レースカードライバー。BOSCH認定CDRアナリスト。僧侶

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